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それぞれの幸せと愛の形
しおりを挟む感動の再会の余韻に浸り続けることはもちろん出来ず、僕たちは次の日、第二騎士団に連れられて王宮に登城した。
王宮周辺の警備で来たことはあるものの、中に入るのも王に謁見するのも初めてだったため、僕はひどく緊張しながら謁見の間で玉座に座る王に最高敬礼の姿勢を取った。
玉座の隣には、一昨日まで杏の宮で一緒に食事をしたり乗馬したり弓矢を教えてもらっていた彼とは別人のような、厳かな雰囲気を滲ませたカーティス様が立っている。
僕はちらりとカーティス様の方を見て目が合うと、表情は変えないものの慈愛のこもった眼差しで僕たちを見つめていることに気付き、また涙腺がゆるんでしまいそうになるのを必死に堪えた。
「楽にしたまえ」
僕とウォーレンが挨拶口上をのべると、ビリンガム王は深い響きを持った威圧感のある声で言う。僕たちは顔を上げ、敬礼の姿勢はそのままにして玉座を見上げた。
「ウォーレン・コーク。そなたが王太子と騎士団長の愚かな企てによって数日ではあるがアーバント伯爵家に監禁されていたことは、間違いないな?」
「間違いございません。カーティス第三王子と第二騎士団のみなさまにお助け頂き、深謝の意を表します」
「カーティスは国の王子として当たり前のことをしたまで。しかしその意は受け止めよう。だが、我が息子であり王太子の愚行にはそれ相応の罰をもってそなたへの謝意を示さねばならん。何か望みはあるか?」
「ビリンガム王のお気遣い、痛み入ります。しかし私は王太子へ罰を下せるような立場ではございませぬゆえ、ビリンガム王の采配、またはカーティス王子の御希望に沿うよう願わしく存じます」
一国の王を前に堂々と言いきるウォーレンに、僕は内心だけで感嘆のため息をこぼす。
「よかろう。同じくそなたをはめた第一騎士団長を務めていた者は任務遂行のためとはいえ、そのやり方は非道であったと判断し、すでにその立場を解雇しておる。よって、穴があいたその地位に、ウォーレン・コークを指名し、第一騎士団長の任に命ずる」
「ウォーレン・コーク、第一騎士団長の任をしかと承りました」
「そなたが最もふさわしい。今回の件に関わっていたとされる騎士団員の調査及び選別もそなたに任せよう。そして、ロナ・バイアット。そなたには第一騎士団副団長の任を命ずる。ウォーレンの補佐として支え、王族、王宮を守る第一騎士団の立て直しに尽力したまえ」
「ロナ・バイアット、第一騎士団副団長の任をしかと承りました」
まさか自分がそんな大層な立場を任せられるとは微塵も思っていなかったため、内心動揺していたが、それを表に出さないようウォーレンを見習ってハキハキと返事を返した。
この正式な場で同性愛について言及することは出来ないから直接言葉にしないものの、もしかしたらカーティス様から僕とウォーレンの関係を聞き、その上での判断なのかもしれない。
「王太子は王太子の立場を破棄し、元騎士団長、アーバント伯爵家については熟考のうえ後日沙汰を下す。新しい王太子の発表も時を同じくして言い渡すが、そのときの警備も新団長と新副団長率いる第一騎士団に任せる。その立場に甘えず真摯に己の役目を果たすことを期待しておる」
「期待に沿えるよう、尽力して参ります」
「カーティス、彼らに何か伝えたいことはあるか。もしくは場所を移して彼らと話し合うがよかろう」
「父上、ぜひその通りにして頂けると幸いです。彼らと話す場を御借りしてもよろしいですか」
「よかろう。第二騎士団は今回の第三王子暗殺計画、騎士団員監禁救出作戦においてカーティスと共に功績をあげた。公爵家にそのむねを伝え、臨時報酬を王宮から出すとしよう」
「ビリンガム王のご厚情に深謝申し上げます」
「これにて本日の謁見の間を閉ざす。ウォーレン・コークとロナ・バイアットはカーティスと共に行き、第二騎士団は本来の持ち場に戻るように」
そう言い渡し、玉座から立ち上がったビリンガム王に謁見の間にいたすべての人間が頭を垂れる。それは王が謁見の間から退室するまで続いた。
ビリンガム王の気配がなくなると、心なしか厳かな空気がゆるみ酸素も多くなった気がする。僕とウォーレンはカーティス様に呼ばれ、彼の後をついて行った。
***
通された部屋は、王宮内のカーティス様に与えられているという部屋。ほとんど足を踏み入れることがないからか、最低限の家具だけでもの寂しい雰囲気が漂っていた。
執事や使用人をすべて外に出し、室内に三人だけになるとカーティス様は悪戯が成功したような笑顔を向けて口を開いた。
「ロナ、驚いたか?俺に任せろって言っただろ?」
「ティス…」
「おいおい、そんな泣きそうな顔をするなよ。断腸の思いで決断したのに揺らぎそうになるだろ」
「でも…ティスはラディス国に行きたがっていたのに王太子になろうとしてるって…僕のために自分を犠牲にしてやりたくないことをするつもりなんじゃないかって…」
「それは違うぞ。確かに俺はラディス国に戻ろうと思っていた。でもそれはロナが隣にいなければ意味がない。俺はこれからもロナがこの国で生きていくなら、この国をさらに良くしたい。ロナが愛する人と幸せに生きていけるような、暗殺や裏切りなんて起きやしない良い国を俺の手でつくりたいんだ。あり得ないとされていた同性婚を可能にすることも、俺の力で出来るかもしれないしな」
あまりに深く大きい彼の想いにやはり涙腺がゆるみ、目のふちにじわじわと涙がたまっていく。瞬きをしたら今すぐにでも溢れ落ちそうで、上を向くことで必死に耐える。ここで泣くのは、彼に失礼だと思ったから。
「…うん!ティスなら絶対にいい王様になれる。国民からも臣下からもみんなから愛される素敵な王様に。僕はそんなカーティス王とこの国をしっかり守れる騎士団をウォーレンと共につくっていくよ」
「あぁ、そうしてくれ。ウォーレン、王族の諍いに二人の恋路を悪用され巻き込んでしまってすまなかった。最初からロナの気持ちはウォーレンにずっと向いていた。敗けは認めていないが、お前に何かあったらロナが悲しむ。俺はお前に敗けたんじゃない。身を引いてやったんだ。ロナの幸せのためにな。それをゆめゆめ忘れるな」
「カーティス王子、このたびは深い恩情に心から感謝申し上げます。ロナのことは私が責任をもって幸せにします。あなたが将来王として君臨する、このビリンガム王国で」
「少しでも泣かせたらロナを奪いにいくからな、覚悟しておけよ」
「…その時は剣を向けることをお許しください」
「ウォーレン!」
「ハハッ!そのくらいの気概がなくては、ロナは任せられないよな」
不敬なウォーレンの言葉もからっとした明るさで吹き飛ばすカーティス様は、小麦色にやけた手をウォーレンに向かって差し出す。それをしっかりと、僕の恋人は握り返した。
「ロナを頼む。必ず幸せにしてくれ」
「言われずとも、必ず」
堅い握手を結んだ二人の姿を、僕は一生忘れることはないだろう。形は違えど深く大きな愛を持つ、騎士と王子の姿を。
「ロナ」
「…ティス、って呼ぶのもこれで最後にしたほうがいいのかな」
「それは最後にするなよ!俺たちは立場が変われど、正式な場でなければいつまでもロナ、ティスと呼び合える仲でいたい」
「うん、ティスが許してくれるならもちろん」
「ロナ、俺の初恋であり最愛。どうか幸せになってくれ。いつまでも幸せで、笑顔でいてくれ。お前の幸せが、俺の幸せだ」
「……ありがとう。世界一かっこいい王様になったティスの将来を楽しみにしてる。これからも友人としてよろしくね」
「俺が最高の王になる姿を、しっかりと見ておけよ」
僕とカーティス様も、いろんな感情を含んだ握手を交わす。はちみつ色の瞳が、煌めく太陽のような熱さと静かに見守る月のような静けさをもって、僕を見つめる。
僕は言葉にならないほどの、伝えきれないほどの感謝を漆黒の瞳に浮かべて彼を見つめ返した。
それは、隣で不機嫌そうに顔をしかめるウォーレンから手を離されるまで、続いた。可愛い嫉妬を隠しもしない彼に、僕とカーティス様は同時に笑い声をあげたのだった。最後に、ウォーレンへカーティス様から、特大の爆弾が落とされるまで。
「お前が他の女にキスしたから、俺もロナの唇を三倍分奪ってやった。お前がロナを泣かせるたび、俺はあの唇の柔らかさを堪能してやるからな」
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