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プロローグ
しおりを挟む誰しも、一度や二度は聞かれたことがあるだろう。
「好きなタイプは?」
知り合ったばかりの人間と仲を深める取っ掛かりとして。友人と他愛もない話の一部として。
そしてそのたびに一番多く答えられているのは、間違いなくこれだろう。
「優しい人」
誰だって、意地悪な人より優しい人が好きに決まっている。
あたたかな春の陽だまりのような優しさ。お菓子のように包みくるめた優しさ。油のように滑りのよい優しさ。不器用の中にほんの少し頭をもたげている優しさ。
どんな種類の優しさであっても、優しくないよりは優しいと感じる人を、誰もが好む。人の心は優しさに単純に出来ているから。
そんなありふれた単純の枠に当たり前のように入っている俺も、誰に聞いても「優しい人」と言われる彼に恋をしてしまった。
彼に恋をしてから早3年。恋をしたばかりの頃は、毎日が楽しかった。
彼を見かけるだけで、彼とすれ違うだけで胸が高鳴った。試験で悪い点数を取って落ち込んでいても、友人だと思っていた奴に陰口を言われていたと知って悲しんでいたときも、彼の姿を目にするだけで気分が高揚した。
きっかけはほんの些細なこと。ほんの些細な、優しさをもらったこと。
ずれていたネクタイをそっと直すだけのような、髪の毛についたゴミをそっと取り除くだけのような、忘れた消しゴムをさりげなく貸してくれるだけのような。
ほんの些細な、けれど明確にあたたかさを感じる優しさに、俺はころころころりん、恋に落ちた。
俺が好きになった彼は、その優しさをあちらこちらで存分に、けれど決して傲らずに振り撒いていた。
彼に誰かが優しくしてもらったと耳にするたび、彼の優しさを褒め称える会話を耳にするたび、内心で大きく強く頷いて同意していた。
こんなにも俺の好きな人は素敵な人なのだと、自分が褒められている以上に嬉しかった。
でも、いつからだろう。それが、"嬉しい"から"苦しい"に変わり始めたのは。
彼の優しさを、好きになった。確かに顔も体格も申し分ないくらい、優しさがなくても一目惚れをする人が続出するくらい素敵な人だけれど、俺は彼の外側ではなく、内側を好きになった。
間違いなく彼の優しさに心惹かれ、どんどん虜になっていったのに。いつからか、そんな彼の優しさを"憎らしい"と思うようになってしまった。
優しい彼を好きになったのに、彼の優しさに負の感情が纏わりついてくるようになってしまった。
なぜだろうと何度も自問自答して、俺はようやく気付いたのだ。
彼は、誰にでも優しい。道端に転がる石ころのような俺にでさえ優しいのだから、俺以外の誰にでも等しく優しい。俺に優しいのなら、踏み潰しても気付かない蟻一匹にすら優しさを向けられる人だ。
俺は、"誰にでも優しい彼"に恋をしたはずなのに、いつの間にか、"誰にも優しくしないで"と思うようになっていた。
もしもまた「好きなタイプは?」と聞かれたら、今の俺は間違いなくこう答えるだろう。
「"俺にだけ"優しい人」
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