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初恋との出会い
しおりを挟むここは、ベレズフォード王立学園。300年の歴史を誇る、誰しもが憧れる由緒正しき学園。
16歳から22歳までの貴族や商人家、平民や農民などさまざまな身分の子息令嬢が、それぞれなりたい職業に就くため学ぶ学園である。
16歳から18歳までの3年間は国の基礎となる法律や歴史、税金の仕組みや他国周りのことなどを全員等しく叩き込まれる。19歳から22歳の4年間は、それぞれが進むべく専門職の学科に分かれる。
公爵家や伯爵家など将来、領地をおさめる立場にある者は貴族科、王族や貴族の領地を守る騎士を目指す騎士科、王族や貴族の侍従や侍女を目指す家令科、学者や教師を目指す法学科、医師や薬剤師、調剤師を目指す医学科、聖職者や修道士を目指す神学科の計6学科へと分かれて学ぶ。
優秀であれば貴族でなくとも入学ができ、どんな身分の人間でも学ぶことが許されるこの学園は、平民や農民の出自でも地位の高い役職につけるとして誰もが挑戦する狭き門だった。
俺、ロラン・フォードは服飾雑貨商を営む商人家の三男だ。父が数年前に流行り病で亡くなったため、実家は年の離れた長兄と次兄が継いでいる。
三男の俺は好きなことをして生きろと兄たちに言われたため、運試しでベレズフォード学園の試験を受けてみたらまさかの合格。平凡で何の取り柄もない俺だが、勉強だけしてきた甲斐があったというものだ。
王都の隣街に住んでいたが合格と共に上京し、学園の寮に移り住むことになった。
寮の同室の友人やクラスメイトたちとはなかなか上手くやっていけている。濃いグレー色のきのこ頭、カワウソのような顔が癒されるともっぱら愛玩動物扱いを受けているが、兄二人の扱い方と比べたら何てことじゃない。
学園に入学して半年が絶った頃、俺は運命の出会いを果たした。
7学年分の生徒数を抱えている学園は、山奥の膨大な土地の中にそびえ立っている。
赤褐色の急勾配な切妻屋根に赤レンガでつくられた外壁の大きな長方形の建物が7つある。右に3棟、左に3棟並び、その中間に一際大きな赤レンガの建物が、左右の3棟が横ならば縦にした状態で存在感を放っている。左右の6棟は3階建てだが、真ん中の棟は5階建てである。
棟と棟の間には、精巧な模様を描く小道や花壇があり、中央の棟の前には大きな水たまり、噴水がきらめいている。
左右対称に造られたのかと思いきや、右側に固まって建つ白い建物の一団が、その美的バランスを崩していた。
連なる三角屋根の白い建物たちは生徒たちの寮である。寮は10階建ての建物が3棟あり、5階より上の部屋を割り当てられた生徒たちは毎日水平線を拝みながら目覚めることが出来る。
そんなふうに形成された棟と寮、そして庭をまるで絵を飾る額縁のように石壁がぐるりと取り囲んでいた。
その日、俺は入学後はじめての寝坊をかました。1年生のほとんどは寮の最低階に住んでいるため、動く密室の箱に乗っている時間が省けるとはいえ、寮から1年の教室までは結構な時間を要する。
普段は授業開始の15分前には朝食を終えられるように食堂に向かうため寮を出るのだが、起きて時計を見たら授業開始の3分前だった。全速力で走ったとしても遅刻は免れない時間である。
それでも人間、頑張れば思ってもみない動きをみせるもので、俺は顔を洗ったまま手を拭かず、濡れたその手で寝癖を撫で付け、早業のごとく着替えをすまし、鞄をひったくるようにして持つと起きて1分以内に部屋を出ることが出来た。
俺が寝たのとは違う隣のベッドはもちろん空っぽで、何で起こしてくれなかったんだと同室者を恨む余裕もないまま、今このときだけは短距離走の陸上選手になったつもりでスタートダッシュを切った。
寮の木製で出来た二枚扉を勢いよく開くと秋の心地いい日差しと鈴虫の声音、少しつんとした風が押し寄せてくる。
それらを一心に振り払いながら、自慢のきのこ頭が崩れるのも構わず、がむしゃらに走った。
その途中で授業開始の鐘が鳴っていることにすら気付かないほど、その日を人生で一番早く走れた記念日にしたいほど、俺はとにかく走って走って、走った。
棟と棟の間の小道を走り1年の教室が詰まった、並ぶ棟の右側、最北の棟の二枚扉を開こうとした直前で、段差につまずいた俺はそのまま体当たりする勢いで二枚扉の中に肩から突っ込む。
体勢が思いっきり崩れ、視界がゆっくりと流れていく。自分の激しい息遣いを耳の奥で聞きながら転ぶのを覚悟した、そのとき。
「…大丈夫かい?」
水面にたらされた一滴の雫のように凛とした声に耳を包まれながら、俺の体もあたたかな温もりに包まれていた。
覚悟した衝撃はやってこず、かわりに甘さの中にほんの少し刺激のあるいい香りに受け止められる。
一瞬、何が起こったのか脳が処理しきれず思考も体も硬直した俺はもう一度耳元で「大丈夫?」と囁かれ、心臓がひとつ、しかし大きな大きな波をうった。
はるか彼方に連れていかれそうになっていた思考がその声にハッと引き戻されると、安定感のあるしっかりとした腕に抱き締められていることを自覚する。
そして恐る恐る顔を上げると、目の前には拝みたくなるほどのご尊顔が優しい眼差しで俺を見下ろしていた。
左目の下には涙黒子、とろんと垂れ気味の目尻、ミルクチョコレート色の瞳。それに相まってマロンクリーム色の髪は襟足まであり、なんとも美味しそうである。色白だが血色のいい肌は艶やかで派手な色味ではないのに、眩しくて目蓋を閉じてしまいそうになるほど輝いて見えた。
「はわぁ…」
「え?本当に大丈夫かい?」
思わずというように漏れ出てしまった感嘆のため息を吐き、声にならない言葉をぱくぱくと動かすだけの俺を見下ろした彼は、いよいよ本気で俺の頭を心配し始めた。
これが俺の初恋となる、フィリオン・ポーマントと間抜けな俺の出会いである。
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