1 / 102
プロローグ
しおりを挟む誰しも、一度や二度は聞かれたことがあるだろう。
「好きなタイプは?」
知り合ったばかりの人間と仲を深める取っ掛かりとして。友人と他愛もない話の一部として。
そしてそのたびに一番多く答えられているのは、間違いなくこれだろう。
「優しい人」
誰だって、意地悪な人より優しい人が好きに決まっている。
あたたかな春の陽だまりのような優しさ。お菓子のように包みくるめた優しさ。油のように滑りのよい優しさ。不器用の中にほんの少し頭をもたげている優しさ。
どんな種類の優しさであっても、優しくないよりは優しいと感じる人を、誰もが好む。人の心は優しさに単純に出来ているから。
そんなありふれた単純の枠に当たり前のように入っている俺も、誰に聞いても「優しい人」と言われる彼に恋をしてしまった。
彼に恋をしてから早3年。恋をしたばかりの頃は、毎日が楽しかった。
彼を見かけるだけで、彼とすれ違うだけで胸が高鳴った。試験で悪い点数を取って落ち込んでいても、友人だと思っていた奴に陰口を言われていたと知って悲しんでいたときも、彼の姿を目にするだけで気分が高揚した。
きっかけはほんの些細なこと。ほんの些細な、優しさをもらったこと。
ずれていたネクタイをそっと直すだけのような、髪の毛についたゴミをそっと取り除くだけのような、忘れた消しゴムをさりげなく貸してくれるだけのような。
ほんの些細な、けれど明確にあたたかさを感じる優しさに、俺はころころころりん、恋に落ちた。
俺が好きになった彼は、その優しさをあちらこちらで存分に、けれど決して傲らずに振り撒いていた。
彼に誰かが優しくしてもらったと耳にするたび、彼の優しさを褒め称える会話を耳にするたび、内心で大きく強く頷いて同意していた。
こんなにも俺の好きな人は素敵な人なのだと、自分が褒められている以上に嬉しかった。
でも、いつからだろう。それが、"嬉しい"から"苦しい"に変わり始めたのは。
彼の優しさを、好きになった。確かに顔も体格も申し分ないくらい、優しさがなくても一目惚れをする人が続出するくらい素敵な人だけれど、俺は彼の外側ではなく、内側を好きになった。
間違いなく彼の優しさに心惹かれ、どんどん虜になっていったのに。いつからか、そんな彼の優しさを"憎らしい"と思うようになってしまった。
優しい彼を好きになったのに、彼の優しさに負の感情が纏わりついてくるようになってしまった。
なぜだろうと何度も自問自答して、俺はようやく気付いたのだ。
彼は、誰にでも優しい。道端に転がる石ころのような俺にでさえ優しいのだから、俺以外の誰にでも等しく優しい。俺に優しいのなら、踏み潰しても気付かない蟻一匹にすら優しさを向けられる人だ。
俺は、"誰にでも優しい彼"に恋をしたはずなのに、いつの間にか、"誰にも優しくしないで"と思うようになっていた。
もしもまた「好きなタイプは?」と聞かれたら、今の俺は間違いなくこう答えるだろう。
「"俺にだけ"優しい人」
224
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
君に捧げる紅の衣
高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。
でも、その婚姻はまやかしだった。
辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。
ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。
「辰を解放してあげなければ……」
しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】恋人から試し行動され続けるけど僕の愛は揺らがない。
u
BL
元タイトル『恋人から試し行動され続けるのがそろそろ辛い。』から結末が予定と大きく変わりましたのでタイトルを変更させて頂きます。
ビリンガム王国騎士団に所属しているロナ・バイアットとウォーレン・コークは、騎士学校時代に寮の同室をきっかけに恋人同士となり2年半が経つ。
ロナは騎士団にはあまり向かない小柄な体型だったがウォーレンと同じ職場にいたくてひたすら努力していた。
大好きなウォーレンと恋人同士になれて幸せな日々かと思いきや、ロナはウォーレンからたびたび試し行動のようなものをされていた。
飲み会に行ったりロナの前でご令嬢と親しげに話していたり…そのたびに指摘すると「嫌なら別れる?」と聞かれる。毎回「愛してるから別れないよ」と答えていたロナ。しかし試し行動をされるたびに何かが確実にすり減っていく。
そこへ留学していたという幼少時代の学友でありビリンガム王国第三王子のカーティス・ビリンガムが帰国し、ロナの現状を知ると……。
完結しました!ありがとうございました!
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる