二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
18 / 64
白銀と元婚約者

17.開発区域

しおりを挟む
 
 ケビンたちオニール伯爵家と交流する日まで一週間を切った。
 両親にはケビンと婚約はしたくないとはっきりと意思を伝えてあり、了承を得ている。ひとまず気は楽であるが、正直死に戻り前のこともあるので顔を合わせるのは微妙だ。

 ――子供の時は遊んでいたし……

 まあ、なるようにしかならないので、その辺のことはまたその時に考えればいい。
 それよりも今は目の前のことだ。

 ベアティと一緒に囚われていた猫獣人の少年、ヒューたち一家がそろって子爵領に住むことになった。
 これまで住んでいた場所は住める状態ではなく、ランドール子爵家が統治するこの地なら信用できると判断したとのことだった。

 ロートニクス王国は獣人に厳しいが、ここならすぐに他国へ逃げやすいというのもあるらしい。
 その辺りまで考えてこの子爵領に住むことを決めたのなら、何も言うまい。

 子爵領こちらとしても、労働力はありがたい。
 なにせ無駄に広い領地なのですることも多く、やる気がある人は大歓迎だ。

 そういうわけで、私はインドラとベアティを連れて彼らに会うためにやってきた。
 足を運んでいる場所は、移民、特に獣人が多くなってきたため、急ピッチで開発が進んでいる区域だ。着手しだした当初は危ないからと両親から許可が出なかったのだが、ようやく降りた。

「ヒュー、久しぶりね!」
「エレナ様! ご無沙汰しております。あの時は本当にありがとうございます。ベアティもすっかり元気になったようでよかったよ」
「ああ。心配してくれてありがとう。おかげさまでよくしてもらっているし、エレナ様には助けてもらった恩を最大限に返していく予定だ」
「そうか。こっちに来て、エレナ様に拾ってもらったと聞いてとても安心した。もし行く場所がなければ、家族を説得しようと思っていたから」

 とても優しい少年だ。
 洞窟でも皆を守ろうとしていたし、責任感がある子なのだろう。
 よかったなぁとベアティの背中を叩く元気なヒューの姿に、じんわりと涙が溜まる。

「エレナ様、息子を助けていただきありがとうございます」
「正直、見つからないと諦めかけていました。ここに住むにあたって、当主様に便宜も図っていただき感謝しております」

 ヒューの両親がそろって頭を下げる。
 子供の誘拐監禁も同じ人間がしたことなのに、子供を抱きしめ泣きながら私たちに対して感謝の意を示す。
 正直複雑だとは思うけれど、私としても人族というくくりではなく、個人を見てもらえて嬉しい。
 この家族が無事再会できて本当によかった。

「ヒューが無事でご両親と再会できてよかったです。私たちの領地でこのようなことが起こり申し訳ありませんでした。今は徹底しておりますが、もし何か異変を感じましたらすぐに教えてください」
「もちろん、何かあったらいち早くエレナ様に報告する! 俺たちもここで過ごすからには少しでも恩返ししたい。な、父ちゃん、母ちゃん」

 ヒューが任せとけと、にかっと笑う。
 警戒心が解けると、とっつきやすいいい少年である。安心できる両親のそばというのも大きいだろう。

「ああ。恩には恩で返さないとな! それがエレナ様たちのためになるのでしたら、同胞のためでもありますし常に目を光らせておきます」
「ええ。仲間内でもしっかり見ておきます。奥様ネットワークはバカにできませんからね」

 力いっぱい頷いてくれる二人に、私は頭を下げた。
 同じ獣人だからこそ気づけることはきっとある。
 闇奴隷商をこの地から退けたが、またどのような形で問題が降りかかるかはわからない。この件に関して、気を抜くつもりはなかった。
 頼もしい伝手ができたと表情を緩め、そこで私はベアティとヒューへと視線を向けた。

「あと、二人ともそんな気張らないでね。私は私たちに関わった人たちが幸せに過ごしてくれたらそれでいいから」

 死に戻り前での事件から、特にヒューたちには人生を謳歌してもらいたいと思っている。
 その場所をここに選んでもらえたのは誇らしいし、私たち子爵家が領地を追い出されるようなことにならないよう、これからも対策はしていくつもりだ。

 それからヒューの両親がこの辺りの家を建て整備するのを主導してくれているというので、息子であるヒューに案内してもらう。
 建築途中の建物が多く、まだ不完全な状態だ。だが、全容が見え完成し人が定着すれば賑わっていくだろうことが想像できだいぶ形になっている。

「整備も含めここまで変わっているとは思わなかったわ」

 すっかり様変わりした一帯に目を白黒させていると、ヒューは若干胸を張った。

「獣人は人族のようにスキルは授からないけれど、もともと身体能力は高いし種族特有の能力もあるからそこはうまく活用している。同じ目標を持つとこれくらいあっという間だ」
「そっか。すごいねぇ」
「えへへっ。体力いるし疲れるけど、皆で作り上げていくのは楽しいんだ」

 褒めると、細く長いしっぽが嬉しそうに私の身体に触れてくる。
 その様子に目を細め、私たちはヒューの案内のもと開発区域を見て回った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」 セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。 少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。 ※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。 さくさく進みます。

処理中です...