二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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白銀と元婚約者

22.売り込み

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 シリルは肩を落としたが、諦めきれないと必死の形相で訴えてくる。

「なんなら、エレナ様の奴隷になっても」
「そういうのはいらないわ。二度と言わないで」

 身を売るような発言に、なんのために今の活動をしているのかと思うと情けなくなる。すっと表情が自分でも消えていくのがわかった。
 それを見てさすがにマズイと思ったシリルは、大きな瞳に見る見る涙を溜めた。

「ご、ごめんなさい」

 私は無言でシリルを見つめる。
 焦るのはわかるし、出会って間もないので互いに信用する材料も少ないため、そういった提案をしたくなったのだろう。
 それでも、彼が家族と離れる理由になった原因を考えるとそれだけは言ってほしくなかった。

「さっきの言葉は本当に聞きたくなかった」
「すみません。本心ではないです」

 安易な発言だったとシリルもわかったようで、私はふぅっと息を吐いた。

「もう二度と言わないで。逃がしてくれたご両親も悲しむわ」
「……そうですね」

 ずぅんと落ち込んだシリルは、今度こそわかったのかぎゅっと唇を噛み締めた。
 小さな身でできることを考えているのだろうけれど、そういったことがすぐに選択肢に入るのは悲しすぎる。
 私は考えを伝えるべく言葉を重ねた。

「奴隷の中に、生計が立てられず借金奴隷として自ら売る人たちはいる。買う側も労働力が必要だからで、奴隷だと裏切らないし、奴隷のほうも条件を最初に提示するから契約するときは双方利点があることも私も知っているわ」

 正規に扱われている奴隷は、重い犯罪奴隷でなければ人権は保障されている。そのため、貧しい人たちが自ら身を落とすこともある。
 本当はそういう制度自体なくなればいいのだけれど、それで助かる命も確かにある。社会が成り立っている部分もあるので、一概に奴隷イコール悪ではない。

 だけど、好んでそういった環境に身を落とす人なんていないのだ。
 さらに涙を溜めてこっちを見るシリルに続ける。

「シリルが焦っていることもわかるけれど、仕事を与えると言っているのだから、わざわざ身を落とす必要はないでしょう? それともそうしないと私たちを信じられない?」
「違います。エレナ様が僕を信じられないかと」
「どうして?」

 訊ねても口を噛み締め黙ったままなので、「シリル」と名を呼び手招きする。
 シリルはおずおずとやってきたが、視線を彷徨わせて落ち着かない様子だ。

「シリル、理由を話して」

 促すと、ゆっくりと口を開く。

「エレナ様の物を盗もうとしたし、最初に汚いことばたくさん投げつけて可愛くないのを知っているから。それに僕がここにいられるのは、ベアティたちを信用しているからって。僕自身が信用されているわけではない」
「ああ~、でも、シリルも私たちを信用しているわけではないでしょう? 信用できるって、互いにあのような出会いでしかもたった数日で言い切れるほうが怖くない?」

 確かに言ったし、信用する時間が足りないのでそのあたりはどうも言えない。

「そうだけど。正直、ベアティが羨ましい」

 本当に正直だ。

「ベアティは半年いるから。それに彼も努力して今の居場所を確保し、周囲からの信頼を得ている」
「わかっています。わかってはいるんです」

 シリルはそこでベアティを見た。
 それから私へと視線を向ける。深い青色の瞳を涙に濡らしながら、一心に私へと訴える。

「でも、どうしても比べてしまって焦るんです。僕、常に綺麗な状態で綺麗な服を着せてもらって、たくさんの人にこんなに優しくされるのは初めてで。女の子に勘違いされ変な人に狙われやすいけど、この目立つ髪を見ても誰も目の色を変えずここの人たちは綺麗だねって褒めるだけで。これらはエレナ様のおかげなんです」

 本当によく見ている。
 最悪の場合、可愛がってもらえるところに自分を売り込もうと思っていたと言っていたので、シリルは自分の容姿が人からどう見られるかわかっている。

「うーん。それはわりと普通のことだよ。シリルを苦しめるような悪いことをする人間もいるのも現実だけど、大半の人はシリルの髪は綺麗で可愛いなって感想だけだと思う。そこに私はあまり関係ないんじゃないかな」
「違う。エレナ様が僕を許してくれたから、拾ってくれたから、周囲の人たちも最初から不審な目で見ないし優しい」

 シリルにはそう見えるのか。

「だから、僕も信用を勝ち取りたいなって。そのために成果を上げる場が欲しいんです」
「……」
「すぐに信用してほしいなんて言いません。とにかく、役に立つと証明したい」

 揺るぎない眼差しとともに告げられる。
 シリルの意思は強く、主張を変える気がないようだ。

 ――売り込みがすごい。

 明日に元婚約者が来るのにそれだけに集中できない新たな課題が出てきたなと、窓へと視線を向けた。
 窓の前に飾られた花瓶には、私の瞳と一緒で綺麗だとベアティが摘んできてくれた水色の花が穏やかな風に揺れていた。

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