二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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赤と青の遊戯

30.二人の主張

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「エレナ様に喜んでもらうことが俺の生きがいなんだ。俺から働く喜びを取らないで」

 ベアティが少し身を屈めると、私が掴んだ手を握り直し指を絡めてくる。
 心なしかいつもより低い声とさらに熱のこもった眼差しで訴えられ、私は息を呑んだ。

「僕たちちゃんと考えてるよ。自分たちのお金だから自分たちで使い方を決めてるだけだから」

 シリルにくいっと引っ張られてそちらを見ると、密に揃った白銀の長い睫毛が縁取ったくりんとした形のよい瞳が、思った以上に強い光を湛え私を捉える。
 同時に訴えるように見つめられ、私は小さく首を振った。

「確かに二人のお金だから二人が好きに使ったらいいと思う。でも、頑張って働いたのだから、やっぱり将来のためだとか自分のために蓄えておくほうが健全じゃないかな?」

 今後、何があるかわからない。
 死に戻り前の私は塔に囚われ、家族は領地から追い出された。
 そうならないように対策し、ランドール子爵家としての立場を順調に上げてはいるが、不確かなことも多く、絶対大丈夫だとは言い切れない。

「大丈夫。エレナ様を一生養える度量はある。なんなら今からでもいける」
「僕も雇われている立場だけど、エレナお嬢様のためならなんでもできるよ? エレナお嬢様が与えてくれたものに比べたらこんなのまだまだだよ」

 恩を感じそのことを大事に思ってくれるのはありがたいが、特別なことをしたつもりはない。
 私にできること、しかもそのできることは結局周囲の協力があってこそのもので、私だけの力ではない。

 彼らが困っているときに救えたのは、ただの偶然だ。
 私は手を差し伸べ場を提供し、それらに応え居場所を確立したのは二人だ。改めて考えてみても、何も特別なことはしていない。

 最初はマリアンヌのことも含め、動きを理解しているほうが流れを読みやすいという意図はあった。
 けれど、今は彼ら自身のために捉われずに生きてほしいと思っている。

 死に戻り前の、彼らの顔を覆っていた黒い靄のこともある。
 このまま学園に行くことがいいことなのかもわからず、二人が去るならいつでも去っていいよとさり気なく伝えているつもりなのだが、考えを伝えれば伝えるほど無限ループに陥っていて脱し方がわからない。

 しかも、かなり過保護であるとともに寂しがりやだ。
 無駄に知恵がつき、あの手この手で甘えてくるので手を焼くことが増えた。

「何度も言うけど、気持ちは本当に嬉しいよ。でも、これは高額だし自分のためにお金は使ってと言っているの」
「元気になって恩返しして、エレナ様のことは俺が守ると誓った。まだその道半ばでエレナ様にいらないと言われたら俺は生きていけない」
「そう。エレナお嬢様の存在があってこそだから、僕らのものはエレナお嬢様のものだよ」

 出会ってからこのようなやり取りをするたびに、少しずつ言動が重くなっている。
 気のせいから、もう確信するレベルだ。

「二人とも……」

 私は知っている。
 ここで否定するとさらなる言葉が被せられることを。

 それなりの年齢になったしほかでの対応を見ていると、私よりは立派だと感じることは多い。
 でも、身体は大きくなり一人前に生活できる稼ぎと強さを手に入れても、彼らは私に認めてもらいたがる。そばにいたがる。

 雛鳥の刷り込みみたいに、最初に優しくされた相手を求めているのかもしれない。
 つらい過去を持つ二人だ。私が精神安定剤みたいなものになっているのかと考えると、これ以上彼らの主張を拒むことはできなくなる。

「俺は絶対にエレナ様のそばを離れない。そのために力をつけてる」
「僕もだよ」

 長年も一緒にいれば、死に戻り前の彼らの姿は今にすっかり上書きされた。
 私としても、彼らは当初の私や周囲に不利益をもたらすかもといった不安材料よりは心強い存在ではある。

「二人の気持ち、受け取るわ。ありがとう。でも、私はあなたたちの幸せも願っているから、くれぐれも無理だけはしないで」
「「はい!」」

 そう伝えると、ぱぁっと顔を輝かせるベアティとシリル。
 この懐きっぷりに、また違った意味で不安を覚える。
 だが、私がもらう側なのにあまりにも嬉しそうな姿にもう突っ込む気になれず、むしろここで言い合いをしているほうがお店にも迷惑だと話を変える。

「ほどほどにしてね」

 貢がれた分はまたどうするか考えるとして、念のため釘を刺しておく。

「わかりました。では、それぞれ贈らせてもらおう。どちらも似合うし何より俺が見たい。受け取ってもらえますよね?」
「そうだよね。どっちも似合うし。魅力が増しても僕らが守るから」
「邪なヤツからは絶対守るから安心して」

 畳みかけるようなセリフにもう笑うしかない。

「頼りにしているわ。ありがとう!」

 ふふっと笑うと、二人はぱっと朱を散らすように白い頬を赤くさせた。

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