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赤と青の遊戯
29.黒と白銀
しおりを挟むうーむと黙っていると、こてんと二人同時に首を傾げた。
「エレナ様?」
「エレナお嬢様?」
さっきまで言い合っていたとは思えないほど、意気投合した姿。なまじ顔立ちがいいから絵になりすぎて、怒る気も失せる。
周囲がざわざわするのに苦笑し、私は二人を前に立たせ言い聞かせるようにじっと目を見つめた。
「二人とも選んでくれるのは嬉しいけれど、私は質素でいいの。あと、何か理由をつけては買おうとしないで」
これで贈り物は何度目だろうか。
最初はチョコレートだとか、可愛らしいものから始まった。気持ちが嬉しくて受け取っていたら、いつの間にか高価な物へと移行していった。
贈りたいと思ってくれる気持ちは本当に嬉しい。
私もその時々で嬉しい気持ちとして贈り返しているので、受け取ってもらいたい気持ちもわかる。
だけど、彼らが手にしているのはどちらも希少な宝石だ。
恐ろしいことに、桁が二つほど違うこれらを二人は私に貢ごうとしているのだ。
「でも、エレナ様に捧げたくて」
「でも、エレナ様に貰ってほしくて」
「でも、じゃないから!」
あと、それなりの装いが必要だという彼らの言い分は理解しているが、一目を引くほどの上等な物を身に着けるとマリアンヌに目を付けられる可能性がある。
わかる人にはわかる高級品を、子爵家の私が着けていたらどう思われるか。
そういった心配もあってここは断りたいのだけど、こうなった彼らが話を聞かないのも経験済み。
――ああ、もう! 私ったらまた彼らのペースにはまってる……
彼らがここに入りたいと言った時から、嫌な予感はしていた。
決して仲が悪いわけではなく普段は互いに干渉せずに各々で動く彼らだが、目的が同じとなったらまた違う。
今回の場合は店へと見事な連携で誘導し、気づけば店の中だった。いつも次こそは流されないよう気をつけようと思うのだけど、二人のほうが上手だ。
「ダメ、ですか?」
「僕たちの気持ち、迷惑?」
あからさまにしゅんと二人は肩を下げる。
ベアティはわずかに目を伏せ悲しそうにし、シリルは大きな瞳をうるうると潤ませた。
「えっと……」
さっきまで言い合っていたのに、こういうときだけ息が合う二人。
落ち込んだ様子にほだされそうになるが、さすがに今回ばかりは簡単に頷くわけにはいかない。
「これを着けたエレナ様を見たい」
「絶対綺麗だよ」
口を開きかけたら、すかさず被さるように告げてくる。
――ず、ずるい。
甘えるように二人同時に褒められ、頑なでいるほうがおかしい雰囲気が作られ、私は小さく唇を尖らせた。
長い付き合いなので私が彼らのことをわかっているように、彼らも私のことをよくわかっている。
「はぁ、尊い」
「あそこまで思ってもらえるって女冥利に尽きるわよね。受け取ってもらえるといいねって応援したくなるくらい」
こそこそと話している店員さんの声が聞こえる。
あまりにもごねる二人と私? に、彼女たちも仕事モードが途切れ、気が緩んでしまったようだ。
初めての店で繰り広げてしまったことに対し、好意的に受け止めてくれてはいるみたいだが、二人は眼中にないようなのがまた居た堪れない。
「とても綺麗だし気持ちは本当に嬉しいけど、やっぱり高価すぎるし……。自分たちで稼いだのだから自分のために使ってほしいの」
十六歳になったベアティと十四歳になったシリルは、それはもう美しく育った。
店員さんが思わず感嘆の声をあげるくらいの仕上がりだ。
ベアティの引き締まったしなやかな体躯は、服の上からもわかるほど出来上がっている。その上、艶やかな黒髪、金黒オレンジと魅力的な色合いの瞳は健在で見るものを魅了する。
シリルのほうは女の子に間違われるほど可愛いだけだった容姿は、くりんとした目元はそのままだが今や誰が見てもカッコいい男性に成長していた。
しかも、二人はすっかり独り立ちできるほど稼いでおり、成長した彼らはどこに行っても人気者だ。
――子爵領でもそうだけど、さっきの商会の取引でも女性の従業員はかなり舞い上がっていたし。
インドラ含め三人は交代制で私についている。
ベアティは私につかなくていいときは、しっかり両親の了解を得て冒険者稼業のようなことをしている。
二日以上私のそばを離れたことはないが、長期の依頼をこなしていないのにかなり評判がよくその筋では有名だ。
シリルのほうは最初に私が提案した仕事を今でも続け、孤児たちを仕切り、想像以上の利益を生み出していた。
私が望むことを理解し常に先を進んでいき、今では事業に欠かせない人物となっていた。
――この二人は本当に出会いからすべてが誤算よね。
マリアンヌに振り回される人生にはしないと記憶を思い出してから頑張ってきたが、まさかマリアンヌの取り巻きの二人と深く関わることになるとは考えもしなかった。
しかも、彼らにこれほど懐かれるとはと、感慨深く彼らを眺めた。
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