二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
41 / 64
赤と青の遊戯

37.マリアンヌ乱入

しおりを挟む
 
 二人は口を開くつもりはないようなので、私から挨拶をするしかないようだ。
 本来なら身分が上のマリアンヌから私に向けて言葉が欲しかったが、すっかり私の存在は抜けているようだ。
 いや、もしかしたらあえて無視されているのかもしれない。

「はい」
「ありがとうございます」

 最低限の会釈と返事のみの二人。
 ちらりと双子を見ると、表情を改めにこにこと笑みを浮かべるだけで何も言わない。
 こういう時こそはた迷惑な行動力を発揮してマリアンヌの注意を引いてほしいが、初対面で水をかけてくるこの双子に期待しても無駄だろう。

 彼女の本性を知っているからマリアンヌの狙いがわかるのかもしれないが、完全にベアティとシリルを取り込む気満々のマリアンヌに引く。
 死に戻り前は聖女や紫の殿下のお気に入りの肩書効果もあってか、気づけばマリアンヌの周囲に顔立ちや権力と周囲が羨むような男性が集まっていた。

 男性にとって魅力的なのだろうと思っていたが二人は嫌がっているし、双子は彼女に気に入られようとはしているがどこか冷静さも感じられる。
 死に戻り前との違いに首を傾げながら、今日も髪型も服装も気合いが入っているマリアンヌに声をかけた。

「スタレット様。殿下のお茶会以来ですね」

 二人が嫌がっているのなら、今は主として楯になるべきだろう。
 声をかけると、マリアンヌはやっと私のほうを見た。

 挨拶がまだだったわねという顔をしたが、にっと口端を引いたのでこれはきっとわざとだ。
 私は私で別の意味でターゲットにされているようだ。

「ええ。お久しぶりね。二人があなたたちを誘ったと教えてくれたの。もっと早く言ってくれればよかったのだけど、私も仲良くしたいと思っていたから時間を調整してきたの」
「そうなのですね。お会いできて嬉しいです」

 にこりと微笑まれ、こちらも微笑み返す。

 ――ほんと、双子は余計なことを……。

 先ほどの態度から単純にマリアンヌに懐いているのではなく何やら事情がありそうな気がするが、距離を取りたい私にとっては迷惑でしかない。
 だが、こうなってしまえば私にはどうすることもできない。

 相変わらず双子はこの場を取りなすつもりはないらしく、笑顔で黙ったままだ。
 ベアティとシリルが茶会での態度を気にしているから会いたがっているとマリアンヌは誤解しており、彼女は期待にこもった眼差しでずっと二人を見ている。

 これを無視し続けるわけにはいかないと、そっと溜め息をついた。
 さすがに二人の手は離し、密着した状態なのは好きにさせたまま改めて彼らをマリアンヌに紹介する。

「前回も紹介しましたが、ベアティにシリルです。二人とも長年子爵領に仕えてくれています。ベアティが二つ上、シリルは私たちと同じ十四歳です」
「そうなのね。学園に行くということは能力があるのよね」
「はい。とても優秀です。彼らには私も助けられることが多いです」

 当たり障りなく答えていると、会釈するだけで大した反応をしない二人に痺れを切らし、とうとう自ら二人に直接話しかけた。

「ベアティにシリル。あの日のことは気にしていないから、あなたたちも気にしないでね。もう一度自己紹介をするわ。私はマリアンヌ・スタレット。侯爵家の娘よ。公式の場以外では気軽にマリアンヌと呼んで。私、身分など関係なく皆と仲良くしたいの」

 にこっと慈悲深く微笑んだマリアンヌは、興味深く二人を上から下へと観察する。
 二往復したところで笑みを深め、さあ何を言うのかしらと待ちの姿勢で二人を見た。

「……ありがとうございます」
「……ありがとうございます」

 二人がしぶしぶといった声で儀礼的に返し、会話が続かず気まずい空気が流れる。
 見る見る顔を強張らせていくマリアンヌに、さすがにマズイと思ったのか双子が慌てて事情を説明しだした。

「彼らは噂通りエレナちゃんのナイトみたいで。すごいよね~」
「懐きと威嚇が忠犬のようだよね。あと、彼らの態度に問題がないわけでもないのだけど、これには事情があって。僕らがマリアンヌちゃんに来てほしくて嘘をついたんだ。それを彼らも怒ってるようで」
「そう。僕たち初対面で水をかけちゃったし、ここに応じてたのもきっとしぶしぶだろうしね~。その上、嘘が露見しちゃって怒らせてしまったみたいで」

 ごめんね、と双子が両手を合わせてマリアンヌに謝る。
 一応、こちらにも配慮された内容なので私は口を挟まず苦笑すると、ようやくマリアンヌの表情が和らいだ。

「そういうことなの。二人は嘘をついてでも私に会いたかったのね」

 機嫌よさげに二人を見つめるマリアンヌに、双子がぶんぶんと頷く。

「だって、ウィリアムのところに行くっていってから。怒った?」
「そう。それなら僕たちと遊ぶほうが楽しいと思って。ごめんね」
「いいえ。ここまで望んでくれるのは嬉しいわ。二人ともよく遊びにくるのに、それだけでは足りないだなんて。ふふっ。そんなに私のことが好きなのね」

 そこでマリアンヌが私を見る。
 これだけ慕われているのよ、との合図だろうか。

 ――面倒くさい。

 常に優位を示さないと気が済まないようで、毎回それで疲れないのかなと私はどこか諦めの気持ちで笑みを浮かべながら彼らを眺めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」 セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。 少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。 ※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。 さくさく進みます。

処理中です...