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赤と青の遊戯
37.マリアンヌ乱入
しおりを挟む二人は口を開くつもりはないようなので、私から挨拶をするしかないようだ。
本来なら身分が上のマリアンヌから私に向けて言葉が欲しかったが、すっかり私の存在は抜けているようだ。
いや、もしかしたらあえて無視されているのかもしれない。
「はい」
「ありがとうございます」
最低限の会釈と返事のみの二人。
ちらりと双子を見ると、表情を改めにこにこと笑みを浮かべるだけで何も言わない。
こういう時こそはた迷惑な行動力を発揮してマリアンヌの注意を引いてほしいが、初対面で水をかけてくるこの双子に期待しても無駄だろう。
彼女の本性を知っているからマリアンヌの狙いがわかるのかもしれないが、完全にベアティとシリルを取り込む気満々のマリアンヌに引く。
死に戻り前は聖女や紫の殿下のお気に入りの肩書効果もあってか、気づけばマリアンヌの周囲に顔立ちや権力と周囲が羨むような男性が集まっていた。
男性にとって魅力的なのだろうと思っていたが二人は嫌がっているし、双子は彼女に気に入られようとはしているがどこか冷静さも感じられる。
死に戻り前との違いに首を傾げながら、今日も髪型も服装も気合いが入っているマリアンヌに声をかけた。
「スタレット様。殿下のお茶会以来ですね」
二人が嫌がっているのなら、今は主として楯になるべきだろう。
声をかけると、マリアンヌはやっと私のほうを見た。
挨拶がまだだったわねという顔をしたが、にっと口端を引いたのでこれはきっとわざとだ。
私は私で別の意味でターゲットにされているようだ。
「ええ。お久しぶりね。二人があなたたちを誘ったと教えてくれたの。もっと早く言ってくれればよかったのだけど、私も仲良くしたいと思っていたから時間を調整してきたの」
「そうなのですね。お会いできて嬉しいです」
にこりと微笑まれ、こちらも微笑み返す。
――ほんと、双子は余計なことを……。
先ほどの態度から単純にマリアンヌに懐いているのではなく何やら事情がありそうな気がするが、距離を取りたい私にとっては迷惑でしかない。
だが、こうなってしまえば私にはどうすることもできない。
相変わらず双子はこの場を取りなすつもりはないらしく、笑顔で黙ったままだ。
ベアティとシリルが茶会での態度を気にしているから会いたがっているとマリアンヌは誤解しており、彼女は期待にこもった眼差しでずっと二人を見ている。
これを無視し続けるわけにはいかないと、そっと溜め息をついた。
さすがに二人の手は離し、密着した状態なのは好きにさせたまま改めて彼らをマリアンヌに紹介する。
「前回も紹介しましたが、ベアティにシリルです。二人とも長年子爵領に仕えてくれています。ベアティが二つ上、シリルは私たちと同じ十四歳です」
「そうなのね。学園に行くということは能力があるのよね」
「はい。とても優秀です。彼らには私も助けられることが多いです」
当たり障りなく答えていると、会釈するだけで大した反応をしない二人に痺れを切らし、とうとう自ら二人に直接話しかけた。
「ベアティにシリル。あの日のことは気にしていないから、あなたたちも気にしないでね。もう一度自己紹介をするわ。私はマリアンヌ・スタレット。侯爵家の娘よ。公式の場以外では気軽にマリアンヌと呼んで。私、身分など関係なく皆と仲良くしたいの」
にこっと慈悲深く微笑んだマリアンヌは、興味深く二人を上から下へと観察する。
二往復したところで笑みを深め、さあ何を言うのかしらと待ちの姿勢で二人を見た。
「……ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
二人がしぶしぶといった声で儀礼的に返し、会話が続かず気まずい空気が流れる。
見る見る顔を強張らせていくマリアンヌに、さすがにマズイと思ったのか双子が慌てて事情を説明しだした。
「彼らは噂通りエレナちゃんのナイトみたいで。すごいよね~」
「懐きと威嚇が忠犬のようだよね。あと、彼らの態度に問題がないわけでもないのだけど、これには事情があって。僕らがマリアンヌちゃんに来てほしくて嘘をついたんだ。それを彼らも怒ってるようで」
「そう。僕たち初対面で水をかけちゃったし、ここに応じてたのもきっとしぶしぶだろうしね~。その上、嘘が露見しちゃって怒らせてしまったみたいで」
ごめんね、と双子が両手を合わせてマリアンヌに謝る。
一応、こちらにも配慮された内容なので私は口を挟まず苦笑すると、ようやくマリアンヌの表情が和らいだ。
「そういうことなの。二人は嘘をついてでも私に会いたかったのね」
機嫌よさげに二人を見つめるマリアンヌに、双子がぶんぶんと頷く。
「だって、ウィリアムのところに行くっていってから。怒った?」
「そう。それなら僕たちと遊ぶほうが楽しいと思って。ごめんね」
「いいえ。ここまで望んでくれるのは嬉しいわ。二人ともよく遊びにくるのに、それだけでは足りないだなんて。ふふっ。そんなに私のことが好きなのね」
そこでマリアンヌが私を見る。
これだけ慕われているのよ、との合図だろうか。
――面倒くさい。
常に優位を示さないと気が済まないようで、毎回それで疲れないのかなと私はどこか諦めの気持ちで笑みを浮かべながら彼らを眺めた。
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