42 / 105
赤と青の遊戯
38.雨と赤
しおりを挟むざあざあと雨が降り続ける。
話を聞きつけたマリアンヌが途中乱入し、双子のマリアンヌ接待に巻き込まれ、気づけば私はベアティとシリルと離れ、兄のミイルズと二人きりになっていた。
双子と関わると濡れる運命にあるのだろうか。
さすがに自然相手ではベアティとシリルも太刀打ちできず、そもそも彼らはここにいないので私は全身びしょ濡れだ。
常備されていたタオルを受け取り、髪を拭きながら窓の外を眺める。
いっこうに止む気配のない雨に嘆息すると、私と同じように窓の外を眺めていたミイルズが眉尻を下げた。
「エレナちゃん、ごめんね」
「いえ。これは不可抗力ですから」
そう答えながら、今頃焦っているだろう二人を思い小さく息をついた。
「雨、なかなかやみませんね」
「じきに迎えがくるだろうけど、ひどい目に遭ったよね~」
「急に降り出しましたからね。ほかの皆さんも無事雨宿りできているといいのですが」
私たちは一番近くにあった小屋に避難し、雨が通り過ぎる、もしくは迎えがくるのを待っていた。
外はすっかり暗くなり、なぶるような雨で外は周囲を見渡せないほど視界が悪かった。先ほどよりもいっそう激しく、地面に叩きつけるような雨音に溜め息が出る。
一度そばを離れたミイルズが、新たなタオルを渡しながら私の横に立った。
「これを」
「ありがとうございます」
濡れて重くなったタオルと交換で新しい物を受け取り再び拭いていると、窓越しにミイルズと視線が合う。
彼は雑に拭き、タオルを首にかけた状態だ。
「僕たちのせいで本当にごめんね。ベアティとシリルは今頃君と離れて気が気じゃないだろうね~」
「そう、ですね。確かにとても心配しているとは思いますが、伯爵家の敷地なので安全は確保されていますし大丈夫だと思います」
そばで守ると意気込んでいたのに申し訳ないとは思うが、それこそ不可抗力だ。
最初はそばにいたはずなのだが、気づけばあれよあれよと離され、急に降ってきた大雨のせいで今一緒にいることができていない。
思うところはあるが、天候までをも彼らのせいにするつもりはない。
獣が出るなどの、危険な場所ではない。
雨がやめば帰ればいいだけだし、それまでに伯爵家の人たちがここに迎えにくるだろうとわかっているため、私のほうは別に問題はない。
どちらかといえば、マリアンヌにまとわりつかれた彼らの精神状態が心配だ。
彼らがどれだけ素っ気ない態度を取っても、恥ずかしいのね、身分など関係ないのよ、となぜかポジティブ上から目線で通じない。
見かねて私もフォローに入るが、数回しか会っていないのにどうやらあまり好かれていないようで私の話を聞いてくれない。
死に戻り前に容姿のことも触れていたし、マリアンヌにとっては私の存在自体が気に食わないのだろう。
自分本位の人であることはわかっていたが、あれほど空気が読めない人だとは思いもしなかった。
どれだけこちらの気持を伝えても、マリアンヌのいいようにしか解釈しないので徒労に終わる。
――ひどさが増していない?
思い出してもむかむかする。
崇拝者ばかりの死に戻り前と違うためか、マリアンヌをサポートする人がいないとめちゃくちゃだ。
そのサポートする人たちの中にかつて自分が入っていたことが情けなく、明らかに狙われている二人を思うと胸がじくじくする。
そこで、直接ミイルズのほうを見た。
濡れた赤髪を鬱陶しそうにかきあげたミイルズの瞳は、赤とオレンジが交ざった美しい夕日のような瞳をしていた。
弟のアベラルドと並ぶとつい髪色で対比するので頭に視線がいきがちだが、その色はとても美しい。
まじまじと見るのは初めてで、真正面から捉えるとその瞳に吸い寄せられる。
死に戻り前、気づいた頃には彼らの顔は黒い靄で隠され見えなくなっていた。それがいつからだったか覚えていないが、今後靄がかかるようなことが起こるのだろうか。
――もしかして、先ほど言いかけていた『何か』が関わっている?
仲の良い弟と対立してまで、言おうとしていた何か。
マリアンヌの機嫌を取ろうとする動き、回復ポーションを渡したときに見せた反応。効果を感じられれば、私に頼みごとをしたい様子だった。
本来なら、マリアンヌ側にいる彼らに深く関わることは避けるべきだ。
だが、ベアティとシリルの過去からの今、死に戻り前の彼らの状態、双子の様子から放っておくには引っかかる。
――距離を置いておきたいのにな……。
どうしても気になるのだから仕方がない。
多分、ミイルズが話したそうに、つまり頼ろうとしていたことが、突き放せない原因になっているのだろう。
ベアティたちにまた甘いと怒られるかもしれないと苦笑しながら、私はミイルズに話しかけた。
307
あなたにおすすめの小説
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』
鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。
断罪もなければ、処刑もない。
血も流れず、罪状も曖昧。
ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。
婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。
彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。
一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。
「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」
その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。
だが真実は語られない。
急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。
証拠はない。
ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。
そして気づく。
自分のざまあは、罰ではない。
「中心ではなくなること」だと。
王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。
旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。
婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。
激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。
これは――
満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる