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1-something quite unexpected-
16高塚くんとの距離③
しおりを挟む歩いてくるのをじっと待っていた高塚くんは、莉乃が到着するともたれていた扉から背を離し、一歩莉乃に近づいた。
彼の影に覆われ視線を上げると、
「りの」
よくできましたとばかりににっこり微笑まれて、長身を少しかがませ息を吹きかけるように耳元で名を呼ばれる。
こそばゆさとなんとも言えない恥ずかしさに眉根を寄せると、くすりと高塚くんが笑う。
「ん」
「…………」
「抵抗しても無駄だよ」
当たり前のように莉乃の鞄を寄越すように手を出されて、言葉もなく見返しているとぼそっと囁かれる。
もたもたしてたから機嫌を損ねたのかもしれない。高塚くんに逆らうことなく鞄を渡す。
「はい。こっちもね」
「…………」
これまた当たり前のようにもう一方の手を差し出されて、そっちは一瞬ためらったが、じろっと睨まれて手を繋ぐ。
これも安定の流れである。初めは抵抗していたけれど、結局は高塚くんの圧だとか周囲の目だとか気になって高塚くんにされるがままだ。
手を繋ぐことに抵抗がないわけではないけれど、人がいるところで手を繋ぐ繋がないと言い合ってる方がよっぽど恥ずかしいって、先週気づいた。
それに高塚くんは折れてくれないし。
なら、莉乃が折れるしかなくて。やっぱり、こういうことをするたびに意識はしてしまうわけで。
そして、意識しないようにしようとすればするほど意識してしまっている気もして、どうしていいのかわからない状態が続く。
「りの。帰ろうか」
「今日はバイトだから」
今日は貴重なバイトの日だ。今年の3月から通いだして、学校が始まってからは週一回になったので頻度も少ないためようやく慣れてきたところだ。
「知ってる。それまでは一緒にいられるだろ」
だろって。もうあまり時間がないから帰るだけになる。
先週も先々週もそう言って断ろうとしたが、同じことを言われて結局一緒に帰った。今日も同じパターンになるらしい。
何も用事がない時は必ず寄り道を提案されて、喫茶店だったりゲーセンだったりとすぐに帰ることは許されない。
言葉たくみに誘導されて、結局毎日放課後一緒に過ごしている。
莉乃も莉乃で結局楽しむからこうして続いているんだろうけど、高塚くんはいい加減飽きないのかなって、続けば続くほど思うことは増えてきた。
あと、結構な割合で美味しい甘味どころに連れて行ってくれるので、ついつい、ね。
美味しいし、楽しいとなれば断る理由もないというか。決して、食い意地が張っているとかじゃないはず。
大抵はひとつ付き合うとその日は解放してくれるので、疲れすぎないのもいい。
でも、そろそろテストも近いので勉強もしたいとは思ってる。
だから、高塚くんはどうするのかなぁって様子を見てるのだけど、やっぱり私から言い出した方がいいのかな。
高塚くんはこの学校よりレベルの高い高校から来てるだけあって賢いから、テスト勉強とか言ってもピンとこない可能性もありそうだ。
だったら、なおさらこの状態が続くなら言わないとって思ってる。
高塚くんの勉強レベルは先生がベタ褒めらしい。これも志穂情報だ。
そう。これだけ放課後一緒にいても、私は高塚くんのことをよく知らない。
勉強のこととか、前の学校のこととか、友人関係、女性関係など、人から聞いた情報が多い。
私が知っていることは、高塚くんは私と仲良くなりたくて放課後必ずくること。
甘いのが苦手だということ。でも、一口は食べたいらしいってこと。
たまに、無表情になるとすっごい怖いと感じること。圧がやばい。
敬語を話されると機嫌が悪くなること。
家はそんな遠くないらしいこと。
話し上手で、女性慣れしてて、たまに可愛いところもあって、人を見る眼差しが甘いなってくらい柔らかな時もあって。
知れば知るほど魅力的な人だ。モテ王子。納得だ。
たったそれだけ。それくらい、だ。
甘いの苦手だとか、一口だとかはちょっと特別っぽいけれど、そんなことはきっと高塚くんをよく見ている、もしくは付き合ってきた人なら知っているようなことで。
毎日メールして放課後一緒に過ごしていても、莉乃が知る高塚くんの情報は人伝のものの方が多くて、他の人より知らないことの方が多いのだと思う。
例えば、莉乃とこうして遊んだあとは何をしているとか。
現在の交友関係はどこまであるのだとか。
家族のことだとかは知らない。
趣味も。得意なことも。
好きな色だって、莉乃は教えてもらっていない。
高塚くんは私のことは知っているのに、だ。
それを昨日、他のクラスの女子が「高塚くん、足すっごい早いよねー」「そうそう体育祭は絶対アンカー走ってもらわないと」と話しているのを聞いて、初めて気づいた。
その時の会話で、高塚くんが夕焼け色が好きなこととか。
そんな単純なことさえ知らない私。
つくづく、曖昧な関係だと思う。
高塚くんとのよくわからない関係。
彼と過ごす時間が増えて行くにつれて、たまに心臓が痛くなる時が増えてきた。考えることが増えてきた。
メールだとか一緒に帰るだとか、まるで付き合っているみたいなやりとりをしているけど、──友だち。
友だちでいいんだよね?
男女の友だちって、こんな唐突に始まるものかな?
でも、仲良くはなりたいと言われているけれど、そういう意味では告白はされていないし。言葉通りストレートに受け取るべきなのだろう。
性別が違うから、やたら格好いいから、変に意識してしまうだけなのだ。
きっと…………。
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