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2-My goddess-【千歳SIDE】
50りのが足りない②
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今日もりののクラスへといち早く向かうために、終わりと同時に千歳は素早く立ち上がった。
鞄を手に一歩踏み出したところでぐるりと女生徒たちに囲まれ、千歳はふぅっと内心で溜め息をついた。
「高塚くん、話があるんだけど」
内心面倒だなと思いながら、「なに?」とゆったりと愛想笑いを浮かべて彼女たちを見た。途端、きゃぁっと顔を赤らめる彼女たち。その様子をただただ冷静に千歳は見ていた。
見慣れすぎた反応。顔を赤くするくらいならまあ可愛らしいものだとは思うのだけれど、こんな時は面倒くさくて仕方ない。1分1秒でもりののところに行きたいのに、邪魔でしかない。
「話って? このあと行かないといけないところがあるから、手短にしてくれると助かるんだけど」
そう告げると、彼女たちは顔を見合わせ示し合わせたように頷き合い、その中の一人がずいっと一歩前に出て、どこか誇らしげに口を開いた。
「行くところって都築さんのところ?」
「そうだけど?」
「私達も高塚くんと仲良くしたいって思ってるのに、彼女ばかりずるい」
「ずるい?」
「だって、放課後都築さんとばかり帰ってるし」
千歳は柳眉を上げた。意味が全くわからない。
彼女たちが言いたいことは経験上わかるのだが、なぜそこでそういう思考になるのかという意味で。
「それのどこが悪いの?」
「だから、高塚くんを独り占めしてずるいって」
「独り占め?」
「そうよ。なんで彼女だけ?」
「私たちだって喋りたいのに」
「一緒に帰りたいのに」
一人が話し出すと、私も私もと話し出す。
一人じゃ言えないから、みんなそろって抜け駆け禁止しながらりのだけを悪者のように言う女の話を聞いて、俺がどう思うとか考えてないところがバカじゃないかと本気で思う。
ああー、ありえない。千歳が彼女たちを邪険にしないのは、ただその方が楽だから。あとは、俺がそうすることでりのに当たりが強くなったら嫌だったから。それだけの理由だ。
特に、彼女たちに何か丁寧に接したとかではない。人として最低限のコミュニケーションをしているだけなのに、どうして、『みんなの理想の高塚くん』でいなければならないのか。
「はぁぁー」
隠しもせず思いっきり溜め息をつくと、彼女たちがびくっと身体を揺らす。
少しでも理想の高塚くんでなくなったら過剰に反応するのに、俺の何を知っていて俺と過ごしたいと言っているのか。イライラを隠せない。
この間に、もしりのが帰ってしまったらと思うと焦る。待っててくれるなんて保証もない。行かなければ、きっと帰ってしまう。
今日はこないんだなって、連絡もなくただ “そう” なのだと受け入れられてしまう。一度例外を作ると、そういう日もあるってあっさりと切り捨てられそうで怖い。
それがりのと千歳の関係だ。
それを突きつけられたくなくて、一生懸命通っているのになんでこんなところで時間を食わなければいけないのか。
「ちょっとさ、何を見てそんなことを言うのか理解できないんだけど」
いつもより低音で、それでいて耳を澄ませてるやつにも聞かせるように、はっきりと告げた。
千歳は、彼女たち、そしてついでにこっちの様子を興味深々に眺めているクラスメイトも含め、ゆっくりと見回すように視線を流した。
「高塚くん?」
ああー、マジむかつく。
「あのさ。なんでそれをずるいと言われないといけないの? もしかして、りのが悪いみたいに思ってたりする?」
そう聞くと、彼女たちは気まずげに視線を合わせあったが、一人、また一人と媚びるように瞬きを繰り返す。
「だって、彼女ばっかり」
そこで数人が悔しそうに唇を噛むが、本当なにを思ってそうするのか。
「だからさ。ばっかりって意味がわからない。彼女が俺のことをつきまとってるわけじゃないよね?」
「いつも放課後一緒にいるし……」
「質問に答えられてないよ。りのから俺のところに来たとこ見たことある?」
「……ないです」
「だよね。むしろ、俺から彼女のところに通ってるのに、なんでりのが悪いみたいな言い方するの?」
「だって……」
代表ですとばかりに出てきた女生徒に目を合わせると、彼女は途端に気まずそうに視線を逸らした。
ちょっと正論を言うだけでそうなるって、そんな自分勝手な思いだけでりのを吊るし上げようとしてるのって許せないよね。
「だって、なに? そもそもさ。俺がりのに会いたから会いに行って、仕方なく彼女に相手してもらってるんだし。今もさ、もし彼女が俺を待たずに先に帰ってしまうんじゃないかと気が気じゃないんだけど」
「…………」
「ずるいとかさ。俺がどうしようが勝手だよね? 俺がりのに会いたくて会いに行ってるのにそれをずるいとか意味がわからないんだけど」
イライラしながらも、ついつい癖でにこにこと微笑んでしまう。
それでも、彼女たちも千歳の機嫌が悪いことは伝わったようで、誰も声を発しようとしなかった。
とん、とわざと机の上を指で叩き、意識をこちらにしっかりと向け忠告を忘れない。
「そういうことだから。この後も俺のすることに勝手にでしゃばらないで。ついでに、りのに何かしようとしたら許さないから。その辺、以前もそういう話を他の子にもしたんだけどね。この際だから、聞き耳を立てている人たちにもそう言っておいて」
去り際にぽそりとつぶやいて、いい機会だから釘を刺しておく。
これで少しでも大人しくなってくれればいいし、ついでに他の男にもりのを狙おうなんて思わないように牽制できたらそれでいい。
時間を取られた分成果はあったと、少しだけ満足して足早に教室を出る。
すでにりののクラスも終わっていて数人が教室を出ていたので、少し焦る。
教室を覗くと、りのはクラスの女子に話しかけられていた。その彼女がこちらに気づくと小さく目線を下げて、りのに何かを言うとその場を離れていった。
ああ、確か初めに申請しにきたファンクラブを名乗る中にいたな、と協力的な彼女に感謝しながら、それよりもとりのの名を呼んだ。
「りの。遅くなってごめんね」
「……ううん」
あ、やっぱり一緒に帰るんだと軽く目を見開いて、ちょっと困ったような表情をしたけれど最後は小さく笑うりの。
だーかーらー、そこで可愛く笑うから俺みたいな男が調子に乗るんだって。
早く俺と一緒にいることを当たり前のように思ってほしい。むしろ、遅くなったら寂しいくらいに思ってくれたらいいのに。
とりあえず、今はりのがこっちに来るのを待つ。
この辺は前よりすぐに来てくれるようになったので、進歩だ。手を差し出すと、しぶしぶ感は伝わってくるけれど特に抵抗もせず鞄も渡してくれるし手も繋いでくれる。
ぎゅっ、とその手を握りしめながら、触れることが許されている事実を噛みしめる。
「今日はバイトじゃないよね。どこ行きたい?」
「……いつも私の行きたいところばかり。高塚くんはないの?」
「りのが喜ぶところに行きたい」
「……そう。なら、参考書買いに行きたいとは思ってるのだけど」
「なら、本屋寄って、その辺のお店に入ろうか」
「うん。ありがとう」
そこでお礼をいうりのが優しすぎて困る。
俺に惚れてるとかじゃないのに、強引に連れ回されてる側なのに、やっぱり俺の女神だ。
絶対手放さないぞ、と千歳は繋いだ手の指をするり撫でるように伸ばしさらに絡めた。
それに気づいたりのが困ったように控えめに笑って、そのまま繋ぐことを許してくれる。
ああー、もっと俺のこと見て俺のこと欲しがってほしい。
千歳は、りのの声が聞きたくていつものようにウザがられない範囲で情報を引き出し、何の疑問を抱かず時おり可愛い顔をして首を傾げながら答えるりのをじっと見つめた。
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