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2-My goddess-【千歳SIDE】
51長い休日①
しおりを挟む土曜日。今日は久しぶりの1日オフだ。
ここ最近、臨時のモデルの仕事が入っていて忙しく、ようやくゆっくりとできる時間を確保したが、千歳の気持ちは晴れなかった。
「りのに会いたい」
もう、そればっかり。
そんなに独り言を言うほうでもなかったのに、気づけばりのの名前を口に出していて、この部屋は『りの』と自分の吐いた言葉で埋め尽くされるのではないかというくらいだ。きっと、文字に色がついたら、己の情熱を表した色でちかちかと暑苦しい部屋になるのだろう。
現在、千歳はマンションで一人暮らしをしている。
辞めたはずのモデルに駆り出されるのを良しとしているのは、実家を出て一人でやっていくために協力してもらった恩人の頼みは断れないというよりは、貸し借りを残しておきたくないからだ。
あとは、それなりに稼ぐことができていることと、現在は顔出しNGという条件付きで優遇されその上で需要があるのなら、稼げる時に稼いで悪いことはないだろうくらいの気持ちだ。
自分でも様々な計算をした上で良しとしたことなのだが、りのに再会してから週末ずっと埋まっていたというのは痛手だった。
「ああ、早くりのとデートしたい。りのの私服見たい」
絶対可愛い。むしろ、俺が買ったやつを着せて、そしてじっくり眺めながら脱がしたい。それくらい、もうりのに飢えている。
惚れている女がそばにいて、想像しないなんて無理だ。早く捕まえて、自分のものにしたくて仕方がない。
できることなら、早くこの溢れんばかりの気持ちを伝えたいが、今はまだ警戒されている。
いきなりは怯えさせるかもしれないと思うと、この心情を口に出して伝えることが憚られた。
それに、言葉にしてしまえば、千歳は小出しにできる自信がない。
その代わりにというか、もう身体が勝手にというか思いっきり態度で出しているのだが、どこまでりのに伝わっているかわからない。
というか、たまに伝わっていないのだろうなという距離感がもどかしくて苦しくて、さらにりのを渇望して、ここ最近の千歳は余裕がなかった。
「まさか、こうなるなんて」
呆れとともに、どこか充足した気持ちが言葉となる。
どうしても気になって探してみようくらいから、引き返しの効かないくらい一気に惹かれるなんて想像さえしなかった。
そんな存在がいるだけで、意識さえしなかったところがずっとぽかぽかと暖かくて、それ以上にもっともっとと求める心に落ち着かなくなる。
放課後だって、本当ならもっとりのと一緒にいたい。けれど、まだ優しい彼女が流されているだけということもあるので、これ以上嫌われたくなくて聞き分けのいい振りをしている。
それもいつまで続けられるのか、ほんと自信ない。
日に日に、りのが欲しくてしかたがないくて、手がちょいちょい出てしまうのは動物の本能なので仕方がないと最近では抑えることさえしなくなってきた。
ぎしり、とソファを軋ませ体重を預ける。
どうせないとわかっていても、一縷の望みをもってスマホの画面を見ることをやめられない。
通話アプリにはたくさんの通知がついているが、この中にはない。りのからメールも電話ももらったことがない。
────いつも自分だけ。
それは別にいい。自分がしたいから。
でも、ほんの少しだけ、いや、大分、りのからも欲しいって思う。好いている女性からのアクションが欲しいって思う。自分だけじゃないって、踏み込んでもいいって確証が欲しい。
バイトで本当に帰るだけしか一緒にいれないのに寂しいって言ってみても通じなくて、挙げ句の果てに他の人を誘ってと言われる始末。
伝わるようにいい含めるように気持ちを伝えたけれど、どうしてそうなるのか千歳もわからない。
ほぼ毎日顔を合わせて、いろんなことを話して、そろそろ気持ちを許してくれてもいいのに、ずっと警戒されているような感じ。
彼女の何がそうさせるのか。もしくは、千歳に原因があるのか。
うまく伝わらないことに、ずっとイライラもやもやする。
「こんな状態で、好きだとか付き合ってほしいとか、無理だろう……」
今までにないほど、……いや、違うな。ずっとどこか冷めていた自分が執着してりのしかいらないと思う気持ちを、その本人に否定されたら自分でどうなるかわからない。
自分自身がりのを傷つけてしまう可能性が怖い。冗談だと思われるとかありえない。
好き、なんて軽々しいものじゃない。そういうのを、どうやって伝えればわかってくれるのだろうか。
りのに当たってしまいそうで、このもやもやはりのにしか解消できなくて、強引に抱きしめさせてもらう権利をもぎとって。
これ以上ないほど、これ以上隙間なんて作らせないぞと、ぴったりとくっついてようやく衝動が収まる。
りのの匂いに包まれて、ようやく収まるイライラ。
だけど、それは一時的。時間が経つと、なかなか埋まらない距離が余計にもどかしくなった。やっと見つけて抱きしめることができて、それでも遠く感じて。
一度、りのの感触を知ると、仕方がなくだとしても許されると、りのを一度は抱きしめないと落ち着かなくなった。りのにできることが増えると、もっともっととまた求める気持ちが膨れ上がる。
許してくれるから、本気の抵抗がないから……。
────だけど、一度もりのから求められたことがない。
その事実は、黒いシミがぽとぽと落ちていき広がっていくようだ。
それを拡がらせないように、「りの。りの」と何度も何度も口にするのだけど、いつまでたっても千歳の中に埋まる気がしない。
りのが足りない。ずっと足りない。
足りないから、赤くなったりのが可愛いから、思わずキスを落とした。
唇はさすがに奪えない。だから、言い訳もきくような額に落とす。
りのの肌が自分の唇に触れると、全身が喜び満たされる思いがするが、またすっとなくなる。
際限なく、りのを求めてしまう自分。
どこまでなら許されるのか。様子を見ながら、早く求めて欲しくて、意識して欲しくて、でも引かれてないように注意深く観察する。
いつになったら、りのはこっちをちゃんと見てくれるのか。
このそこはかとなく漂う距離はいついなったら埋まるのか。
りのしかいらない。
好きだ、なんて軽々しい気持ちではない。言葉にすると、自分の気持ちが途端に軽くなってしまうような気もして……。なんかすっごく中途半端だ。
どうしてこんなにりののことばかり、なんてもうどうでもよくて。りのさえいてくれたら、何でもいいって思っている。
キス……額にだけどしたとき、本気で嫌がられたときとか心臓止まるかと思った。
でも、そこで離したらダメだと思ったし、引いてしまったらもっと届かないところにいきそうで。
隙あらばりのに触れたいのに。そこにいるのに、ずっとそっぽを向かれているような気がして。全然、足りない。
りのだけが欲しいのに、そのりのがずっとずっと遠い。
こんなにも近くにいるのに、ずっともどかしくてどうにかなりそうだ。
「すごく胸が痛い。りの、りの」
こないとわかているのに、連絡を待ってしまう。
俺はりのがいないと寂しいのに、りのはそういうことはないと言われているようで。
女々しいと思いながらも、こんな日はスマホを覗いてしまう。
「ああー。会いたい」
本当だったら遊べるかもしれなかった。そう思うと、すっごくこの時間が無駄で長く感じる。
定期的に通知の数が上がっていく。今もまた通知がついた。でも、その中にりののはない。
少し悩んだが久しぶりに会うのもありかと返信し、クロゼットから適当に服を見繕い鍵を持って出た。
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