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第22話 本当の親子でなくても
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フローラは公園の遊具で一人すすり泣くルイトのもとへ歩いていく。
彼女自身も彼の姿が大きくなるにつれて、緊張が増していった。
ゆっくり慎重な足取りで彼のもとへたどり着くと、穏やかな声で名前を呼ぶ。
「ルイト様」
フローラの声を聞いたルイトは、顔を伏せながらも肩をビクリとさせた。
しかし、呼ばれてもなお顔をあげることはない。
彼女は彼と同じようにしゃがんで体を小さく丸めると、隣にそっと寄り添う。
「ルイト様、私とお話をしてくれませんか?」
「……いやだ」
か細い声ではあるもののはっきりした「拒否」に、フローラの心はズキンと痛んだ。
それでも彼女の中で、彼を放っておくという選択肢は決してない。
少しだけ間を置いて、今度は自分の話を始めた。
「ルイト様、それでは私のお話を聞いてくれませんか?」
「…………」
今度は否定しない。
フローラは感謝の言葉を述べた後で、二人にしか聞こえないほどの声で語り始めた。
「私のお父様……ルーおじさんはね。昔、お仕事ばっかりでお家にいなかったんです。お母様と私とアデリナの三人。そんな日ばかりでした」
彼女はハインツェ伯爵家が男爵位だった頃の話をする。
「お母様のお腹には赤ちゃんがいたんです。それでお母様は体調を崩し気味になって……。お父様もお仕事でいないお家では、アデリナはお母様につきっきりになってしまって、私はいつも一人でした」
「…………」
「お父様もお母様も、私のこと嫌いなんだ。好きじゃないんだって思ってたんです」
「それで……フローラはどうしたの?」
フローラは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべながら、ルイトに続きを話す。
「お家を飛び出してしまいました。もうこんなお家いやだーって。でも、夜になってやっぱり怖くなってきて、帰り道もわからなくて」
「どう、したの……?」
「ルーおじさんが私を見つけてくれました。汗いっぱいかいて、でも一生懸命で必死で。私を見つけた途端、『よかった。一人にしてごめんな』と、それだけ言って抱きしめてくれました。こんな風に」
当時の様子を再現するように、フローラはルイトを抱きしめた。
愛おしそうに抱きしめて愛情をいっぱい注ぐ。
「フローラ……」
「それからお父様は少しだけお家に顔を出してくれるようになりました。私と一緒にたくさん遊んでくれて。だから、私はお母様と赤ちゃんを守るんだ!って前を向くようになりました。残念ながら、赤ちゃんとはお別れしてしまったのですが……」
子どもが無事に立派に育つことがどれだけ尊いか、生まれる前の赤子が亡くなってしまうことが珍しくないことをルイトもなんとなく理解している。
それゆえ、フローラの悲しみを感じ取ったのか、ルイトは彼女の背中に小さな腕を回して励ますように抱きしめる。
「ルイト様のご両親は、わけあってルイト様と一緒にいられなくなりました。ディーター様も。だから、私が代わりのお母さんとして、ルイト様のお傍にいさせていただいています」
「フローラは僕のお母様?」
「ええ。ルイト様に幸せになってもらいたくて、一緒に今ここにいます」
二人が寄り添い話す姿をじっと遠くからヴィルは見守っている。
すると、フローラの想いを聞いたルイトが口を開いた。
「ぼく、おとうさまとおかあさまと、それからおにいさまにきらわれてるってしってる」
幼心にそれを口にするのがどれほど苦しいことか想像し、フローラの胸は痛む。
それでもルイトは自分の想いを真っ直ぐにフローラに伝えようとしている。
「いつもたたかれたり、おもちゃとられたりした。だれもたすけてくれなかったの」
「はい……」
「でもフローラはちがう。たくさんあそんでくれて、ぎゅってしてくれて、いっしょにねてくれる」
ルイトは顔をあげて真っすぐな瞳を向けて、フローラに伝える。
「だから、ぼくフローラがだいすき。フローラといっしょにいたい。ずっと」
「ルイト様……」
涙は流さないようにしようと思っていたフローラの目が思わず潤んでしまう。
「ぼく、つよくなりたい。フローラをまもれるくらい、つよいおとこになりたい。だから、ようちえんいく」
なんて力強い言葉だろうか。
たった四歳の子が真っすぐに自分の出自や想いに向き合って、前へ進もうとしている。
もうそこにさっきまで泣いていたか弱い子はいなかった。
フローラは涙を拭いて彼をもう一度力いっぱい抱きしめる。
「フローラ、いたいよ」
「ルイト様は私の大切な、大切な子です。私はあなた様を全力で守り抜きます。前を向くと誓ったあなた様を、絶対に離しません」
「うん……ぼくがんばるから。だから、おうえんして」
「もちろんです!」
フローラとルイトは目を合わせると、笑顔を浮かべた。
ずっとずっと変わらない彼への愛──。
本当の親子でもない、一年限りの代理母だとしても、全力で愛し抜こう。
フローラはそう心に誓った。
「さあ、ルイト様。幼稚園に遅刻してしまいます。行きましょうか!」
「うんっ!」
二人の再出発をヴィルは見届けて笑みを浮かべた。
彼女自身も彼の姿が大きくなるにつれて、緊張が増していった。
ゆっくり慎重な足取りで彼のもとへたどり着くと、穏やかな声で名前を呼ぶ。
「ルイト様」
フローラの声を聞いたルイトは、顔を伏せながらも肩をビクリとさせた。
しかし、呼ばれてもなお顔をあげることはない。
彼女は彼と同じようにしゃがんで体を小さく丸めると、隣にそっと寄り添う。
「ルイト様、私とお話をしてくれませんか?」
「……いやだ」
か細い声ではあるもののはっきりした「拒否」に、フローラの心はズキンと痛んだ。
それでも彼女の中で、彼を放っておくという選択肢は決してない。
少しだけ間を置いて、今度は自分の話を始めた。
「ルイト様、それでは私のお話を聞いてくれませんか?」
「…………」
今度は否定しない。
フローラは感謝の言葉を述べた後で、二人にしか聞こえないほどの声で語り始めた。
「私のお父様……ルーおじさんはね。昔、お仕事ばっかりでお家にいなかったんです。お母様と私とアデリナの三人。そんな日ばかりでした」
彼女はハインツェ伯爵家が男爵位だった頃の話をする。
「お母様のお腹には赤ちゃんがいたんです。それでお母様は体調を崩し気味になって……。お父様もお仕事でいないお家では、アデリナはお母様につきっきりになってしまって、私はいつも一人でした」
「…………」
「お父様もお母様も、私のこと嫌いなんだ。好きじゃないんだって思ってたんです」
「それで……フローラはどうしたの?」
フローラは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべながら、ルイトに続きを話す。
「お家を飛び出してしまいました。もうこんなお家いやだーって。でも、夜になってやっぱり怖くなってきて、帰り道もわからなくて」
「どう、したの……?」
「ルーおじさんが私を見つけてくれました。汗いっぱいかいて、でも一生懸命で必死で。私を見つけた途端、『よかった。一人にしてごめんな』と、それだけ言って抱きしめてくれました。こんな風に」
当時の様子を再現するように、フローラはルイトを抱きしめた。
愛おしそうに抱きしめて愛情をいっぱい注ぐ。
「フローラ……」
「それからお父様は少しだけお家に顔を出してくれるようになりました。私と一緒にたくさん遊んでくれて。だから、私はお母様と赤ちゃんを守るんだ!って前を向くようになりました。残念ながら、赤ちゃんとはお別れしてしまったのですが……」
子どもが無事に立派に育つことがどれだけ尊いか、生まれる前の赤子が亡くなってしまうことが珍しくないことをルイトもなんとなく理解している。
それゆえ、フローラの悲しみを感じ取ったのか、ルイトは彼女の背中に小さな腕を回して励ますように抱きしめる。
「ルイト様のご両親は、わけあってルイト様と一緒にいられなくなりました。ディーター様も。だから、私が代わりのお母さんとして、ルイト様のお傍にいさせていただいています」
「フローラは僕のお母様?」
「ええ。ルイト様に幸せになってもらいたくて、一緒に今ここにいます」
二人が寄り添い話す姿をじっと遠くからヴィルは見守っている。
すると、フローラの想いを聞いたルイトが口を開いた。
「ぼく、おとうさまとおかあさまと、それからおにいさまにきらわれてるってしってる」
幼心にそれを口にするのがどれほど苦しいことか想像し、フローラの胸は痛む。
それでもルイトは自分の想いを真っ直ぐにフローラに伝えようとしている。
「いつもたたかれたり、おもちゃとられたりした。だれもたすけてくれなかったの」
「はい……」
「でもフローラはちがう。たくさんあそんでくれて、ぎゅってしてくれて、いっしょにねてくれる」
ルイトは顔をあげて真っすぐな瞳を向けて、フローラに伝える。
「だから、ぼくフローラがだいすき。フローラといっしょにいたい。ずっと」
「ルイト様……」
涙は流さないようにしようと思っていたフローラの目が思わず潤んでしまう。
「ぼく、つよくなりたい。フローラをまもれるくらい、つよいおとこになりたい。だから、ようちえんいく」
なんて力強い言葉だろうか。
たった四歳の子が真っすぐに自分の出自や想いに向き合って、前へ進もうとしている。
もうそこにさっきまで泣いていたか弱い子はいなかった。
フローラは涙を拭いて彼をもう一度力いっぱい抱きしめる。
「フローラ、いたいよ」
「ルイト様は私の大切な、大切な子です。私はあなた様を全力で守り抜きます。前を向くと誓ったあなた様を、絶対に離しません」
「うん……ぼくがんばるから。だから、おうえんして」
「もちろんです!」
フローラとルイトは目を合わせると、笑顔を浮かべた。
ずっとずっと変わらない彼への愛──。
本当の親子でもない、一年限りの代理母だとしても、全力で愛し抜こう。
フローラはそう心に誓った。
「さあ、ルイト様。幼稚園に遅刻してしまいます。行きましょうか!」
「うんっ!」
二人の再出発をヴィルは見届けて笑みを浮かべた。
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