この歌声が届くまで

蒼村 咲

文字の大きさ
5 / 55
8月26日 火曜日

第5話 南校舎の二階で

しおりを挟む
 今日からは容赦なく通常授業が始まり、案の定私たちの夏休み気分は跡形もなく吹っ飛んでしまった。
 普段ならこのままするりと二学期モードに突入していくのだけれど、いつもの順応性が今ひとつ効力を発揮してくれない。理由は明白──合唱祭が突然中止されてしまったからだ。
 その中止の真相を探るため、私たち合唱祭実行委員会は今日も集まることになっている。委員長である新垣くんは、昨日とはまた別の教室を指定してきた。

(「南校舎二階の東端」って……何の教室だっけ)

 南校舎というのは、三年生のホームルーム教室が集められていることもあり、基本的には私たち三年の領分だった。けれど私の教室は三階にあるので、何か特別な用事でもなければ二階に足を踏み入れることはめったにない。

(ミーティングに使えるってことは、やっぱり空き教室か少人数教室かな)

 そんなことをぼんやりと考えながら階段を下りていると、よく見知った顔と鉢合わせた。

「あ、塚本くん」

 新垣くんからの連絡を受けてここまでやって来たのだろう。塚本くんは私に気づくとあからさまにほっとした表情になった。それから「こんにちは」と会釈してくれる。

「木崎先輩に会えてよかったです。なんか、アウェー感すごかったので……」

「ああ、そうだよね……」

 今でこそ気にならないだけで、塚本くんがそう言いたくなる気持ちはよくわかった。私だって二年生だった頃は、南校舎には結局一度も足を踏み入れずじまいだったくらいなのだ。もちろん、他学年の生徒の立ち入りが禁止されているわけではないし、部活の先輩などに用があることもあるだろうけれど、たしか塚本くんは部活には入っていないと言っていた気がする。

「三年は多分なんとも思ってないけど、二年生からしたら気になるよね」

 新垣くんが指定した教室は反対側なので、私たちは適当に無駄話をしながら廊下を進んでいく。

(そういえば、前にもこうして塚本くんと二人で話したことがあったっけ……)

 少し高いところにある横顔を見上げながら相づちを打っていると、脳裏に塚本くんとの初めての会話がよみがえってきた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...