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8月26日 火曜日
第7話 第二回ミーティング
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「……あれ? ここ、ですよね?」
塚本くんの声につられて顔を上げる。と、なるほど教室の電気がついていない。
「まだみんな来てないのかな」
念のため確認しようとドアに手を伸ばした時だった。
「──! あれ、二人ともそんなところで。さっさと入ってくれてよかったのに」
ほんの一瞬の差で、内側からドアが開いたのだ。姿を見せたのは新垣くんで、廊下の様子にさっと目を走らせている。特に異常は見られなかったのか、彼はすぐに教室の内側へと引っ込み私たちに道を空けてくれた。
「昨日と会場を変えたのは、あえて?」
教室に足を踏み入れながら尋ねると、新垣くんは「まあね」と曖昧にうなずいた。
「もしかして、電気つけてないのも……?」
私の背後では塚本くんがそんな声を上げている。それも納得だった──見ればすでに昨日のメンバーはそろっていたのだから。
「まあ、あのなんか恐ろしげな生徒会長に目、つけられたくはないじゃん?」
中村くんがあくびをしながら言った。桐山会長は中村くんにすら「恐ろしげ」に見えるのかと思うと、なんだかおかしい。
そして新垣くんが何も言わずに苦笑しているところを見ると、どうやらあながち間違いでもないらしい。
「取り越し苦労というか、単なる気にしすぎならいいんだけどね。若干暗い中でだけど、始めようか」
校舎の東端に位置するとはいえ、西日が全く入らないわけではない。
黄昏の中、合唱祭実行委員会による第二回ミーティングが始まった。
「……とりあえず、去年の合唱祭がどんな感じだったか振り返ってみるのはどうかな、と思うんだけど」
そう言って、まず方向性を示してくれたのは山名さんだった。
私はうんうんとうなずいて賛同の意を示す。
いい考えだと思う──去年の合唱祭の状況をひとつずつ思い出していけば、何かしらのヒントが見つかるかもしれない。
毎年恒例の行事である合唱祭は、去年も例年と同じく市内の文化ホールで行われた。当日はうちの学校の貸し切りだ。
生徒は全員現地集合で、集合時間は普段の授業開始よりも若干早めの午前八時半。
といっても会場となる文化ホールがあるのは図書館や会議室なども備えた複合施設なので、合唱祭自体の開始はその施設全体の開館時間である十時に合わせられている。
つまり、八時半から九時半までは各クラスの最後の練習時間というわけなのだ。
まあ、毎年実行委員はその練習に加わることはできないのだけれど。舞台のセッティングから照明や音響まで、ホールの人たちと一緒に、いわゆる裏方として準備に奔走しなければならないからだ。
毎年そうして尽力してきたのに──とまた頭をもたげそうになる不満を、意識的に追い払う。
そして一時間後の午前九時半からは、一般生徒や関係者──主に保護者のことだ──の準備や入場が始まる。
生徒はみんな一階の観客席に着席することになっていて、たしか上手側から二年、三年、一年という並びだったはずだ。保護者席は例年二、三階席だった。
午前十時になれば開会式が始まり、校長、生徒会長、合唱祭実行委員長と挨拶が続く。
それが終われば、いよいよ一年生の最初のクラスのステージだ。
「……特に一昨年と変わったとこもなかったよね?」
去年、一昨年と二度の合唱祭を経験している三年生たち三人に尋ねる。
「うん、別に何か大きな変更とか、トラブルとかもなかったと思う」
そう山名さんが答えたところで、「あ」と声を上げたのは乾だ。
「トラブルといえば、閉会式の前に何か揉めてなかったっけ? なんだったかな……」
乾はそう言って、記憶をたどろうとしているのか眉間を押さえる。
けれど彼が何かを思い出すより前に、二人の声が重なった。
「あったね」
「ありましたね」
新垣くんと真紀ちゃんだ。
二人はとっさに顔を見合わせ、真紀ちゃんが「どうぞ」と譲るような仕草をする。それに応える形で、新垣くんが口を開いた。
塚本くんの声につられて顔を上げる。と、なるほど教室の電気がついていない。
「まだみんな来てないのかな」
念のため確認しようとドアに手を伸ばした時だった。
「──! あれ、二人ともそんなところで。さっさと入ってくれてよかったのに」
ほんの一瞬の差で、内側からドアが開いたのだ。姿を見せたのは新垣くんで、廊下の様子にさっと目を走らせている。特に異常は見られなかったのか、彼はすぐに教室の内側へと引っ込み私たちに道を空けてくれた。
「昨日と会場を変えたのは、あえて?」
教室に足を踏み入れながら尋ねると、新垣くんは「まあね」と曖昧にうなずいた。
「もしかして、電気つけてないのも……?」
私の背後では塚本くんがそんな声を上げている。それも納得だった──見ればすでに昨日のメンバーはそろっていたのだから。
「まあ、あのなんか恐ろしげな生徒会長に目、つけられたくはないじゃん?」
中村くんがあくびをしながら言った。桐山会長は中村くんにすら「恐ろしげ」に見えるのかと思うと、なんだかおかしい。
そして新垣くんが何も言わずに苦笑しているところを見ると、どうやらあながち間違いでもないらしい。
「取り越し苦労というか、単なる気にしすぎならいいんだけどね。若干暗い中でだけど、始めようか」
校舎の東端に位置するとはいえ、西日が全く入らないわけではない。
黄昏の中、合唱祭実行委員会による第二回ミーティングが始まった。
「……とりあえず、去年の合唱祭がどんな感じだったか振り返ってみるのはどうかな、と思うんだけど」
そう言って、まず方向性を示してくれたのは山名さんだった。
私はうんうんとうなずいて賛同の意を示す。
いい考えだと思う──去年の合唱祭の状況をひとつずつ思い出していけば、何かしらのヒントが見つかるかもしれない。
毎年恒例の行事である合唱祭は、去年も例年と同じく市内の文化ホールで行われた。当日はうちの学校の貸し切りだ。
生徒は全員現地集合で、集合時間は普段の授業開始よりも若干早めの午前八時半。
といっても会場となる文化ホールがあるのは図書館や会議室なども備えた複合施設なので、合唱祭自体の開始はその施設全体の開館時間である十時に合わせられている。
つまり、八時半から九時半までは各クラスの最後の練習時間というわけなのだ。
まあ、毎年実行委員はその練習に加わることはできないのだけれど。舞台のセッティングから照明や音響まで、ホールの人たちと一緒に、いわゆる裏方として準備に奔走しなければならないからだ。
毎年そうして尽力してきたのに──とまた頭をもたげそうになる不満を、意識的に追い払う。
そして一時間後の午前九時半からは、一般生徒や関係者──主に保護者のことだ──の準備や入場が始まる。
生徒はみんな一階の観客席に着席することになっていて、たしか上手側から二年、三年、一年という並びだったはずだ。保護者席は例年二、三階席だった。
午前十時になれば開会式が始まり、校長、生徒会長、合唱祭実行委員長と挨拶が続く。
それが終われば、いよいよ一年生の最初のクラスのステージだ。
「……特に一昨年と変わったとこもなかったよね?」
去年、一昨年と二度の合唱祭を経験している三年生たち三人に尋ねる。
「うん、別に何か大きな変更とか、トラブルとかもなかったと思う」
そう山名さんが答えたところで、「あ」と声を上げたのは乾だ。
「トラブルといえば、閉会式の前に何か揉めてなかったっけ? なんだったかな……」
乾はそう言って、記憶をたどろうとしているのか眉間を押さえる。
けれど彼が何かを思い出すより前に、二人の声が重なった。
「あったね」
「ありましたね」
新垣くんと真紀ちゃんだ。
二人はとっさに顔を見合わせ、真紀ちゃんが「どうぞ」と譲るような仕草をする。それに応える形で、新垣くんが口を開いた。
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