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9月9日 火曜日
第30話 応えてくれた人たち
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放課を告げるベルが鳴り終わった瞬間、私は教室を飛び出した。
というのも私のクラスは、中村くんが指定した「噴水のある中庭」から全校で二番目に遠い教室に位置しているのだ。
「お前、やる気満々だな」
階段を一段飛ばしで駆け下りる私の背後で、乾の声がした。
「だって、私たちが遅れるわけにはいかないでしょ!」
半ば叫ぶように答えている間に、乾が隣に並ぶ。
「ま、それでもここまで急がなくったっていいだろうけど」
そう言いながらも、彼は走るそのスピードを緩めることはしない。
もちろん、中村くんたち二年生が先に着いて対応を始めてくれてはいるだろう。が、それはそれなのだ。
いつの間にか私の前を走っていた乾を追うようなかたちで中庭にたどり着く。
と、すでに何人もの──いや、何十人もの生徒の姿があった。
「はーい! では一年生はこっち、二年生はこっち、三年生はこっちで男女別に集まってくださーい!」
やはり先に来てくれていた中村くんが、噴水の縁に立って声を張り上げている。
塚本くんや湯浅くんは集まった生徒たちの真ん中で名簿をチェックしているようだ。
「俺らも行くぞ」
乾がこちらを振り返りもせずに言った。
「言われるまでもないわよ!」
とっさに叫び返したが、すでに駆け出していた乾に聞こえたかはわからない。
(こんなに集まるなんて……)
中村くんが、たとえば空き教室なんかではなく中庭を指定したのは正しかったかもしれない。というのも、現時点ですでに相当な人数が集まっていたからだ。ざっと見渡しただけでも百人近いのではないだろうか。
もしかしたら、参加したいけれど今日は部活や用事があるからと友達に言付けを頼んだ人だっているかもしれない。だとしたら、参加希望者の数は今以上に大きなものになるはずだ。
なんだか、合唱祭に参加したいと思ってくれる人がこれだけいたという、たったそれだけのことで胸がいっぱいになってしまう。
私はさっき輝から渡された手元の名簿──三年女子の参加者リストに目を落とした。集まった人にそれぞれクラスと名前を記入してもらったもので、当然ながらバラバラの筆跡が並んでいる。その不揃いさに何かこみ上げてくるものがある、と感じた時だった。
「──彩音ちゃん」
背後から聞き覚えのある声で呼ばれた。振り返ると、そこには幸穂ちゃんの姿がある。違うクラスの友達だろうか、何人もの女子生徒と一緒だ。
「わあ! 来てくれたんだ!」
感激して言うと、彼女は長い髪をさらりと揺らして微笑んだ。
「音楽系クラブの元部員としては外せないと思って」
ということは、一緒にいる彼女たちはみんな吹奏楽部の面々なのかもしれない。
「受験前の最後のイベントとして、羽伸ばすのもありかなって」
幸穂ちゃんの隣にいた、ショートカットの女の子が言った。
もしかしたら、彼女が前に言っていた「副部長だった子」というのはこの子のことかもしれないな、とちらりと考える。
「あと、伴奏。合唱曲の伴奏とはいえ、一カ月弱で一曲モノにできる人、限られてるんじゃないかな」
「うっ……」
幸穂ちゃんの至極もっともな指摘に、私は思わずうめいた。
「実は、そうなんだよね……」
どうしても見つからなかったときには、最悪自分が伴奏に回ろうかと考えていたくらいだったのだ。ピアノは小学校卒業と同時に辞めてしまったけれど、勉強も何もかもすべてそっちのけでなりふり構わず練習すれば、今だって一曲くらいならなんとかなるだろう。もちろん、本音を言えば歌う方で参加したいけれど。
だから次に幸穂ちゃんの口から飛び出した言葉は、本当に願ってもないものだった。
「ほら、吹部三年ってほぼ全員がピアノ経験者なのよ。もう引退してステージもないから、よかったら協力するよ」
そう言って微笑む幸穂ちゃんのそばで、数人がうんうんとうなずいている。
「ほんとに……? もう、何ってお礼言ったらいいか……」
私はもう物理的にも震えながら、彼女たちの名前の横に「伴奏可」の印を書き入れた。
というのも私のクラスは、中村くんが指定した「噴水のある中庭」から全校で二番目に遠い教室に位置しているのだ。
「お前、やる気満々だな」
階段を一段飛ばしで駆け下りる私の背後で、乾の声がした。
「だって、私たちが遅れるわけにはいかないでしょ!」
半ば叫ぶように答えている間に、乾が隣に並ぶ。
「ま、それでもここまで急がなくったっていいだろうけど」
そう言いながらも、彼は走るそのスピードを緩めることはしない。
もちろん、中村くんたち二年生が先に着いて対応を始めてくれてはいるだろう。が、それはそれなのだ。
いつの間にか私の前を走っていた乾を追うようなかたちで中庭にたどり着く。
と、すでに何人もの──いや、何十人もの生徒の姿があった。
「はーい! では一年生はこっち、二年生はこっち、三年生はこっちで男女別に集まってくださーい!」
やはり先に来てくれていた中村くんが、噴水の縁に立って声を張り上げている。
塚本くんや湯浅くんは集まった生徒たちの真ん中で名簿をチェックしているようだ。
「俺らも行くぞ」
乾がこちらを振り返りもせずに言った。
「言われるまでもないわよ!」
とっさに叫び返したが、すでに駆け出していた乾に聞こえたかはわからない。
(こんなに集まるなんて……)
中村くんが、たとえば空き教室なんかではなく中庭を指定したのは正しかったかもしれない。というのも、現時点ですでに相当な人数が集まっていたからだ。ざっと見渡しただけでも百人近いのではないだろうか。
もしかしたら、参加したいけれど今日は部活や用事があるからと友達に言付けを頼んだ人だっているかもしれない。だとしたら、参加希望者の数は今以上に大きなものになるはずだ。
なんだか、合唱祭に参加したいと思ってくれる人がこれだけいたという、たったそれだけのことで胸がいっぱいになってしまう。
私はさっき輝から渡された手元の名簿──三年女子の参加者リストに目を落とした。集まった人にそれぞれクラスと名前を記入してもらったもので、当然ながらバラバラの筆跡が並んでいる。その不揃いさに何かこみ上げてくるものがある、と感じた時だった。
「──彩音ちゃん」
背後から聞き覚えのある声で呼ばれた。振り返ると、そこには幸穂ちゃんの姿がある。違うクラスの友達だろうか、何人もの女子生徒と一緒だ。
「わあ! 来てくれたんだ!」
感激して言うと、彼女は長い髪をさらりと揺らして微笑んだ。
「音楽系クラブの元部員としては外せないと思って」
ということは、一緒にいる彼女たちはみんな吹奏楽部の面々なのかもしれない。
「受験前の最後のイベントとして、羽伸ばすのもありかなって」
幸穂ちゃんの隣にいた、ショートカットの女の子が言った。
もしかしたら、彼女が前に言っていた「副部長だった子」というのはこの子のことかもしれないな、とちらりと考える。
「あと、伴奏。合唱曲の伴奏とはいえ、一カ月弱で一曲モノにできる人、限られてるんじゃないかな」
「うっ……」
幸穂ちゃんの至極もっともな指摘に、私は思わずうめいた。
「実は、そうなんだよね……」
どうしても見つからなかったときには、最悪自分が伴奏に回ろうかと考えていたくらいだったのだ。ピアノは小学校卒業と同時に辞めてしまったけれど、勉強も何もかもすべてそっちのけでなりふり構わず練習すれば、今だって一曲くらいならなんとかなるだろう。もちろん、本音を言えば歌う方で参加したいけれど。
だから次に幸穂ちゃんの口から飛び出した言葉は、本当に願ってもないものだった。
「ほら、吹部三年ってほぼ全員がピアノ経験者なのよ。もう引退してステージもないから、よかったら協力するよ」
そう言って微笑む幸穂ちゃんのそばで、数人がうんうんとうなずいている。
「ほんとに……? もう、何ってお礼言ったらいいか……」
私はもう物理的にも震えながら、彼女たちの名前の横に「伴奏可」の印を書き入れた。
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