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10月3日 金曜日
第45話 合唱祭、開会
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「──ただいまより、第四十八回合唱祭を開催いたします」
マイクを通した声が講堂に反響する。私は緊張をごまかすように、マイクを握る手に力を込めた。
桐山会長のような立場ならいざ知らず、合唱祭実行委員であることを除けば完全な一般生徒にすぎない私には、こんなに大勢の前で話をする機会なんてめったにないのだ。といっても司会なので、ものすごく注目されるわけではない。そう自分に言い聞かせていたおかげか、幸いにも声はそれほど震えずに済んだ。あとは噛まないように気をつけるだけだ。
「開会に先立ちまして、生徒会長の桐山秀平より挨拶をいたします」
マイクが拾った音声は、自分に直接聞こえる声よりもほんの少し遅れて聞こえてくる。
そのせいで自分がどこまで発音したのか混乱しそうになるが、私はなんとか言い終えて壁際へと退いた。
そんな私と入れ替わるようにして、桐山会長がステージに上り、演台のもとへと歩み寄る。
そのすらりと高い背には、学校指定のチャコールのブレザーがとてもよく映えていた。
(桐山会長って、実は結構かっこよかったんだな……)
事前に用意した原稿を読むなんてこともなく、ただまっすぐに顔を上げて堂々と挨拶をする桐山会長を見ながら、私はそんなことを思う。
そういえばいつだったか、桐山会長には非公認の隠れファンクラブがあるらしい、なんて噂を梨花から聞いたことがあった。そのときは「そんな、少女漫画じゃあるまいし」と流してしまったけれど、今思えばあれはあながち冗談でもなかったのかもしれない。とはいえ桐山会長のファンクラブなるものが実在したところで、入りたいとは全く思わないけれど。
そもそも私は生徒会執行部に、というか生徒会活動全般に興味がなかった。まあ、興味がある生徒の方がまれだとは思うけれど。ゆえに執行部の面々にも特に関心を払ったことはなかったし、それは桐山会長も例外ではない。
春の生徒会選挙の時なんかは、信任選挙だったのもあって、機械的に立候補者全員に信任の丸をつけたくらいだ。生徒会執行部と関わるのなんて合唱祭の準備や当日の運営の時くらいなのだから、言ってしまえば会長や副会長が誰だったってよかったのだ。
(……でも)
きっと、この執行部とこの実行委員会でなければ、今年、合唱祭を開催することはできなかったと思う。
「……『歌』はひとりでも歌える。でもひとりでは、『合唱』は決して作れない」
急にどこかで聞いたようなフレーズが聞こえてきて、私は思わず目を見張る。
もちろん、全校生徒に向けて挨拶をしている最中の桐山会長は、こちらに視線を投げかけてきたりはしないけれど。
それでもその横顔がかすかに笑みをたたえている気がするのは──気のせいだろうか。
「今日ステージに立つ人も、立たない人も、みんなで歌うからこそ、力を合わせるからこそ生まれる『合唱』に、そしてその響きに、耳を傾けてみてください」
マイクを通しているからよく聞こえる。でも桐山会長の声はまるで囁き声だった。それが逆に、聴衆の意識を引き込んでいる。こういうところはさすがだと思わずにはいられない。
「『合唱』が放つ魅力や『合唱』が秘める力が、みなさん一人ひとりに届くことを祈念して、会長挨拶といたします」
そう締めくくり、桐山会長は完璧な礼をした。
それを見届けた私は、手元のクリップボードに挟んだ司会原稿を確認する。
そして桐山会長が退場するタイミングを見計らって司会の定位置に戻り、マイクのスイッチを入れた。
マイクを通した声が講堂に反響する。私は緊張をごまかすように、マイクを握る手に力を込めた。
桐山会長のような立場ならいざ知らず、合唱祭実行委員であることを除けば完全な一般生徒にすぎない私には、こんなに大勢の前で話をする機会なんてめったにないのだ。といっても司会なので、ものすごく注目されるわけではない。そう自分に言い聞かせていたおかげか、幸いにも声はそれほど震えずに済んだ。あとは噛まないように気をつけるだけだ。
「開会に先立ちまして、生徒会長の桐山秀平より挨拶をいたします」
マイクが拾った音声は、自分に直接聞こえる声よりもほんの少し遅れて聞こえてくる。
そのせいで自分がどこまで発音したのか混乱しそうになるが、私はなんとか言い終えて壁際へと退いた。
そんな私と入れ替わるようにして、桐山会長がステージに上り、演台のもとへと歩み寄る。
そのすらりと高い背には、学校指定のチャコールのブレザーがとてもよく映えていた。
(桐山会長って、実は結構かっこよかったんだな……)
事前に用意した原稿を読むなんてこともなく、ただまっすぐに顔を上げて堂々と挨拶をする桐山会長を見ながら、私はそんなことを思う。
そういえばいつだったか、桐山会長には非公認の隠れファンクラブがあるらしい、なんて噂を梨花から聞いたことがあった。そのときは「そんな、少女漫画じゃあるまいし」と流してしまったけれど、今思えばあれはあながち冗談でもなかったのかもしれない。とはいえ桐山会長のファンクラブなるものが実在したところで、入りたいとは全く思わないけれど。
そもそも私は生徒会執行部に、というか生徒会活動全般に興味がなかった。まあ、興味がある生徒の方がまれだとは思うけれど。ゆえに執行部の面々にも特に関心を払ったことはなかったし、それは桐山会長も例外ではない。
春の生徒会選挙の時なんかは、信任選挙だったのもあって、機械的に立候補者全員に信任の丸をつけたくらいだ。生徒会執行部と関わるのなんて合唱祭の準備や当日の運営の時くらいなのだから、言ってしまえば会長や副会長が誰だったってよかったのだ。
(……でも)
きっと、この執行部とこの実行委員会でなければ、今年、合唱祭を開催することはできなかったと思う。
「……『歌』はひとりでも歌える。でもひとりでは、『合唱』は決して作れない」
急にどこかで聞いたようなフレーズが聞こえてきて、私は思わず目を見張る。
もちろん、全校生徒に向けて挨拶をしている最中の桐山会長は、こちらに視線を投げかけてきたりはしないけれど。
それでもその横顔がかすかに笑みをたたえている気がするのは──気のせいだろうか。
「今日ステージに立つ人も、立たない人も、みんなで歌うからこそ、力を合わせるからこそ生まれる『合唱』に、そしてその響きに、耳を傾けてみてください」
マイクを通しているからよく聞こえる。でも桐山会長の声はまるで囁き声だった。それが逆に、聴衆の意識を引き込んでいる。こういうところはさすがだと思わずにはいられない。
「『合唱』が放つ魅力や『合唱』が秘める力が、みなさん一人ひとりに届くことを祈念して、会長挨拶といたします」
そう締めくくり、桐山会長は完璧な礼をした。
それを見届けた私は、手元のクリップボードに挟んだ司会原稿を確認する。
そして桐山会長が退場するタイミングを見計らって司会の定位置に戻り、マイクのスイッチを入れた。
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