【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ

文字の大きさ
12 / 41

4-1

しおりを挟む
 亜季の中では卒業したら、家に帰るという考えは完全になくなった。
 山奥の何もない場所で、何一つ自由にならない青春をすごし、このまま会ったこともないアルファと結婚するなんて、まっぴらごめんだと思う。
 この山奥ではアルバイトもできない。
 そもそもオメガではまともなアルバイトには就けないのだが……。
 卒業後のことを考えて、亜季は実家から送金される生活費にほとんど手を付けなくなった。そのお金を貯めておいて、生活しようと考えた。
 この山奥の保護区サンクチュアリから追い出される日を指折り数える。


 卒業式の日、少しの衣服と貯めておいた現金だけを持って、それ以外はすべて実家に送る段ボールに詰めて、逃げるように寮をでていった。亜季はそれまで使っていた携帯電話端末も段ボールに入れた。
 母からの電話以降、電源が入ることはなかった携帯電話だ。送り返したところで何の問題も亜季にはない。

 意気揚々と山を下りたものの、オメガの自分にまともに就ける仕事はなかった。
 山奥の限られた世界で生きてきた亜季はあまりに世間知らずだった。
 
 まず、部屋を借りるのにはアルバイトでもいいから定職に就く必要がある。定職につくためには、定住地が必要という解決の難しいループに陥った。
 部屋を借りるのには、保証人も必要だった。職無し、保証人無しで借りられる部屋なんて無いか、ろくなものではない。
 まず、不動産屋に入ってもまともに相手をしてもらえなかった。亜季は高校を卒業して成人していたが、オメガらしく小柄なままあまり成長しておらず、まるっきり子供に見えるようだった。
 あるところでは家出を疑われ……、実際家出なのだが、未成年と思われて通報されそうになった。
 
 もともとしばらくはホテルに滞在するつもりでいたが、新しく契約した携帯電話で調べて、その価格に驚愕する。
 亜季が家族と家族で出かける際に宿泊していたホテルは一番安い部屋でも、十万するようなところばかりだった。そんなところには泊まれない。
 泊まったとしても、長くはいられない。それに、大して効かない抑制剤の金額もばかにならなかった。
 亜季は引き続き節約をしなければ……、早晩生活が立ち行かなくなることは、世間知らずの亜季にだってわかった。
 今度は検索で上限価格を五千円に設定すると、結果はゼロ件だった。
 亜季は途方に暮れた。初日からこんな状態でこれから生活していけるのか不安がよぎる。 だが、亜季に実家に戻るという選択肢はなかった。帰ったところで、誰が面倒を見てくれるというのか──。
(家に戻ったら……どっかのアルファと結婚させられる)
 検索価格を再度設定すると、いくつか候補が出てきた。亜季の表情が少しだけ明るくなる。
 まずは検索の一番上に出てきたホテル、「東京カプセルイン」に向かった。

 見るからに怪しい。
 「東京カプセルイン」という看板を見つけて、意気揚々と近づいた。近くで見ると、繁華街の雑居ビルとビルの間に、どうやって建てたのかと疑問に思うくらいに細くて長い建物だった。
 入るか入るまいか逡巡し、ここでうろうろしていても変に思われると考えて、自動扉を入る。
 中を見回すと、受付に座る男性が一人、新聞を読んでいた。
「あ、あの、すみません」
「あーはいはい、予約……」
「いえ」
「あんた、オメガか?」
 いきなりぶしつけな質問をされて、亜季は驚いた。確かに亜季は久しぶりに首が隠れる洋服を着て、その下には随分前に母親から渡された革製のネックガードをつけていた。
「そうですが……、なにか?」
 失礼な対応に、失礼な態度を返すのも子供っぽいとは思ったが、亜季は男性の質問にぶっきらぼうに答える。
「あー、だめだめ。うちはベータとアルファしか泊められないよ」
「え!? どうして」
「どうしてって、『オメガ』は駄目なんだよ。規則だよ、規則」
「そんな……」
 オメガはこんなところでも差別をされるのか──。
 亜季は自分の第二性を恨みたくなった。
 オメガにさえならなければ、今頃は家族と同じ家で暮らし、大学に進学するための準備をしていたに違いない。卒業したら、すぐにどこかに嫁がされるなんてこともなかったはずだ。
「ごめんよ。きまりなんだ。ホテルの概要に書いてあっただろ」
 亜季は検索結果でホテルの名前とアクセスしか確認していなかった。それというのも、ホテルにアルファ、ベータ、オメガで宿泊の可否に違いがあるなんて思ってもいなかった。
 これも亜季の世間の知らなさが露呈したものだった。
「見ていなかった、です」
「そもそも調べるときには『オメガ』を条件にいれないと、こういった宿だとどこも難しいよ」
 早速、男性の目の前でオメガを検索条件に入れて検索すると、ほんの数件結果が出たが、どれもこのホテルの一泊の値段よりかなり高かった。
 亜季はその価格の違いに驚いて、受付の男性に、「なんとか泊められませんか?」と縋ってみるも、つれない返事しか返ってこなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜

あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。 行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。 異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

処理中です...