【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ

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 一貫校ということもあり、卒業式も入学式もあるようでないようなものなのは、亜季自身でも理解していた。そもそも、入学式のタイミングで入ってくるような生徒はほぼいない。
 だいたいの生徒は亜季と同様に初めての発情期ヒートを経験したタイミングか、第二性が「オメガ」だとわかったタイミングで転校してくる。
 そもそも、オメガの数が圧倒的に少ないなか、これほど安全が保たれた学校は他にない。アルファのためのエリート学校は都市圏を中心にいくつかあるが、オメガの学校はほぼ無いに等しい。
 それはオメガの発情期ヒート期間に登下校時に問題が起きる可能性があるからだ。そして、もう一つの理由の方が大きい。昔からの偏見で、オメガは定職に就かないから──。
 正確には定職に「就かない」のではなく、「就けない」からなのだが、文武両道優秀なアルファに比べて、オメガに学をつける意味を感じないという世間の考えが、卒業後の進路は「家事手伝い」のようなカリキュラムの学校を創らせるに至った。
 実際、発情期ヒートの期間はそれぞれではあるものの、抑制剤を使用しても授業どころではない生徒も多い。先生もオメガのため、発情期ヒートの間は休暇を取っている。そのような中で、進学校のように勉強を頑張る意味など、少しもありはしなかった。

 この学校は裕福なオメガの家庭の多額の寄付金と政府の助成金で成り立っている。
 貧しいオメガでも通える理由だ。
 亜季の家もおそらく高額な寄付金を支払っているに違いない。
 寄付金の多少で生徒の中で差別的なことが起こることがないように配慮はされていた。
 一方で、個人が持ち込む私物にまで制限はかけれない。実家が裕福なオメガは持ち物で一目でわかるような高額なものをもって見せびらかすような風潮はあった。
 亜季はそういったところも家庭環境が似ているはずのオメガたちとは会わないと思っていた。 
 週に一度が、月に一度に。月に一度が四半期に一度に。
 高校に上がるころには何か用事がないかぎりは連絡がなくなっていた。


 そんなある日、母から突然電話がかかってきた。
 亜季は久しぶりの電話に
「もしもし、お母さま!」
「亜季、元気にしているかしら?」
「はい、元気にしております」
 今日は「何の用で?」と聞きそうになるのをぐっと堪える。要件だけ急かしているように思われたくなかったのだ。
 用事がなくとも連絡してほしいと、捨てられたとわかってはいるが、諦められずにいた。
「そう。今日は貴方に許婚ができたことを伝えようと思って」
「許婚……?」
「そう、亜季の結婚相手を決めたの。その人と高校を卒業なさったら結婚することになるわ」
「どういう……ことですか」
「亜季も卒業後のことを不安に思っていたのではなくて?」
「……」
「そちらの学校で成績が良くとも、大学に進学するのは難しいと聞いているけど」
「そ、そんな!」
 
 確かに亜季の成績が良かったのは中学……というより、発情期ヒートが起きて今の学校に転校してくるより前までのことだった。
 現在通うオメガ専用の学校で、いくら亜季が成績優秀だとしても、全国模試を受けたならば後ろから数える方がはやい順位となることは明らかだった。それでは、入学可能な大学など限られる。
 そんな行っても行かなくても同じような大学に、本当に行く必要があるのかは自分でも疑問に思っていた。
 かといって、母にまでそのように冷たく突き放されるとは思いもよらない。
 仮に大学を卒業したところで、オメガでFラン大学卒では、それこそ就職先などみつかりようもない。このオメガだけの楽園を出ていくとき、自分はどうしたらいいのかと不安を覚えていたのは事実だ。
 だとしても、「卒業したらアルファと結婚する」というのは違うと、亜季は心の中で叫ぶ。
「で、でも……」
 心の中では違うと思っても、それを母に直接的に伝えることはできない。
「とてもいい相手よ、貴方も……」
「お母さま。連絡ありがとうございました」
 母の言葉をこれ以上聞きたくない一心で、亜季はそう言うと電話を切った。
 実家に戻れるとはもう自分でも思っていなかったが、卒業と同時にどこぞのアルファと結婚するなんて、本当に厄介払い。
 オメガの末っ子なんて元から家にいなかったというように、家から出て行けと……。
 久しぶりの電話で嬉しかった気持ちはすっかり悲しみに塗りつぶされていた。 
 亜季は泣いた。こんなに泣いたのは初めての休みに帰ってくるなと言われて以来だった。
 発情期ヒートがいくらつらくてもこれほど声を上げて泣き叫んだことはなかった。
 まるで最後通告のように亜季は感じていた。
 これ以上家族から突き放されたくなくて、何度も鳴り続ける携帯の着信を亜季は無視した。
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