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監獄に連れていかれるような気持ちでタクシーに乗ったのはもう、数か月前のことだ。
住めば都とはいうが、正直なところ亜季は拍子抜けした。
オメガばかりということだったが、そのとおりだった。先生もオメガ、生徒もオメガだけというのは、考えていたよりはるかに過ごしやすかった。
亜季は第二性がオメガだとわかってからの服装は首が隠れるものばかりになっていた。首にも毎日ネックガードをしなくてはならないことを窮屈に感じていた。
ここにはオメガしかいない。
首を隠す必要も、ネックガードで守る必要もないのだ。
在籍する生徒もさまざまだった。
亜季のように家が裕福なものから、施設育ちのものまで。共通しているのはオメガで、すでに発情期を迎えているということだけだ。
「次の発情期いつ?」
「最近、抑制剤の効きがよくないんだよね……」
といった会話が日常的になされている。
こそこそしなくてよい、発情期になっても慌てる必要がないというのは思ったより精神衛生上これ以上ない良い環境だ。
ただ、亜季が慣れなかったのは、亜季同様に実家が裕福であったり、事業をやっているオメガの間で交わされる会話だった。
「今度お見合いするんだ。〇〇の社長の息子。もちろんアルファ!」や、「両親が条件の良いアルファの許婚を探してくれてるんだ」、「早く卒業して専業主夫になりたい」といった話。
そして必ず、最後に「亜季は?」と聞かれる。
そう言ったとき、亜季はアルファとの結婚話を嬉々としてする同級生たちを異星人でも見るような目で見つめた。
亜季はアルファとのお見合いも、許婚もアルファとの結婚も興味がなかった。
しばらく頻繁にあった家族からの連絡は日に日に数を減らしていった。
母からの『体調はどうかしら?』と言うメール。
晴臣からの『新しい学校の生活には慣れた?』という電話。
冬紀や夏輝からも、初めての発情期であれだけの迷惑をかけたにもかかわらず、優しく気遣う内容のメッセージが届いていた。
それが、たった数か月で……。
学校に入れられて最初の長期休みは年末年始を含む冬休みだった。
家族とは前回の発情期の夜以来、一度も顔を合わせていない。あの惨事の後に顔を合わせることなく、亜季は学校の寮に入っていた。
それを目にした両親に心のどこかで気まずいと思っていた。特に惨状の渦中にいた兄弟、冬紀と夏輝に会うのは。
だが、それ以上に久しぶりに家族に会えることを楽しみにしていた。しかし、そんな亜季に母から「帰ってきてはいけない」と連絡が入った。
そうでなくても、三人の兄弟から可愛がられていた生活から一転した寂しい寮生活。
それに、長期休みは他の生徒も家に帰る。寮に残るのはほんの数人だけだ。一人残された末っ子は悲しい気持ちでいっぱいになった。
受け取り損ねた誕生日プレゼントはクリスマスプレゼントと一緒に寮へと送られてきた。
亜季は段ボール箱を開けながら涙をこぼす。
カードが添えられた美しい装飾箱に手をかけ持ち上げると、亜季の大好きな晴臣の甘い香りがふわりと鼻先を掠めた。
亜季は大粒の涙をこぼし、開けることが出来ずに箱をそのまま床に置いた。
泣きつかれた亜季はそのまま部屋で寝ていると、身体がだんだんと熱を持ってきた。
二回目の発情期が始まったのだった。
亜季は現在市販されている抑制剤はほとんど効き目がないことが入院中の検査でわかっていた。
初めての発情期は微熱と抑えきれないほど猛烈な性欲以外覚えていない。それも、丸一日と経っていない時間しか記憶にない。
病院で目を覚ました時には発情期は終わっていた。
それもそうだ。不幸なアルファの精液を接種したのだから……。
家に帰らなくて正解だったのだ。
これでは前回の二の舞いになる。
母はわかっていたから、「帰ってくるな」と連絡してきた、そう亜季は考えた。
厄介者のオメガを家族は山奥に捨てた。
そう思うのに、それほど時間はかからなかった。
高校に上がるころには、家族からの連絡はほぼなくなっていった。
住めば都とはいうが、正直なところ亜季は拍子抜けした。
オメガばかりということだったが、そのとおりだった。先生もオメガ、生徒もオメガだけというのは、考えていたよりはるかに過ごしやすかった。
亜季は第二性がオメガだとわかってからの服装は首が隠れるものばかりになっていた。首にも毎日ネックガードをしなくてはならないことを窮屈に感じていた。
ここにはオメガしかいない。
首を隠す必要も、ネックガードで守る必要もないのだ。
在籍する生徒もさまざまだった。
亜季のように家が裕福なものから、施設育ちのものまで。共通しているのはオメガで、すでに発情期を迎えているということだけだ。
「次の発情期いつ?」
「最近、抑制剤の効きがよくないんだよね……」
といった会話が日常的になされている。
こそこそしなくてよい、発情期になっても慌てる必要がないというのは思ったより精神衛生上これ以上ない良い環境だ。
ただ、亜季が慣れなかったのは、亜季同様に実家が裕福であったり、事業をやっているオメガの間で交わされる会話だった。
「今度お見合いするんだ。〇〇の社長の息子。もちろんアルファ!」や、「両親が条件の良いアルファの許婚を探してくれてるんだ」、「早く卒業して専業主夫になりたい」といった話。
そして必ず、最後に「亜季は?」と聞かれる。
そう言ったとき、亜季はアルファとの結婚話を嬉々としてする同級生たちを異星人でも見るような目で見つめた。
亜季はアルファとのお見合いも、許婚もアルファとの結婚も興味がなかった。
しばらく頻繁にあった家族からの連絡は日に日に数を減らしていった。
母からの『体調はどうかしら?』と言うメール。
晴臣からの『新しい学校の生活には慣れた?』という電話。
冬紀や夏輝からも、初めての発情期であれだけの迷惑をかけたにもかかわらず、優しく気遣う内容のメッセージが届いていた。
それが、たった数か月で……。
学校に入れられて最初の長期休みは年末年始を含む冬休みだった。
家族とは前回の発情期の夜以来、一度も顔を合わせていない。あの惨事の後に顔を合わせることなく、亜季は学校の寮に入っていた。
それを目にした両親に心のどこかで気まずいと思っていた。特に惨状の渦中にいた兄弟、冬紀と夏輝に会うのは。
だが、それ以上に久しぶりに家族に会えることを楽しみにしていた。しかし、そんな亜季に母から「帰ってきてはいけない」と連絡が入った。
そうでなくても、三人の兄弟から可愛がられていた生活から一転した寂しい寮生活。
それに、長期休みは他の生徒も家に帰る。寮に残るのはほんの数人だけだ。一人残された末っ子は悲しい気持ちでいっぱいになった。
受け取り損ねた誕生日プレゼントはクリスマスプレゼントと一緒に寮へと送られてきた。
亜季は段ボール箱を開けながら涙をこぼす。
カードが添えられた美しい装飾箱に手をかけ持ち上げると、亜季の大好きな晴臣の甘い香りがふわりと鼻先を掠めた。
亜季は大粒の涙をこぼし、開けることが出来ずに箱をそのまま床に置いた。
泣きつかれた亜季はそのまま部屋で寝ていると、身体がだんだんと熱を持ってきた。
二回目の発情期が始まったのだった。
亜季は現在市販されている抑制剤はほとんど効き目がないことが入院中の検査でわかっていた。
初めての発情期は微熱と抑えきれないほど猛烈な性欲以外覚えていない。それも、丸一日と経っていない時間しか記憶にない。
病院で目を覚ました時には発情期は終わっていた。
それもそうだ。不幸なアルファの精液を接種したのだから……。
家に帰らなくて正解だったのだ。
これでは前回の二の舞いになる。
母はわかっていたから、「帰ってくるな」と連絡してきた、そう亜季は考えた。
厄介者のオメガを家族は山奥に捨てた。
そう思うのに、それほど時間はかからなかった。
高校に上がるころには、家族からの連絡はほぼなくなっていった。
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