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亜季は再び路頭に迷うことになった。
検索で出てきた「オメガ用のホテル」は今いる場所から少し離れている。歩いていけなくもないが、もう夜もかなり遅い。
(ネットカフェ? とかいうのに行ったらいいのかな……)
野宿はしたくなかった。以前なにかで「若者は終電を逃すとネットカフェに泊まる」と書いてあった。その時の亜季は、「電車がなくなったら家の人に迎えに来てもらうか、タクシーで帰ればいいのに……」と思ったが、いまならその若者たちがネットカフェに泊まる理由がわかる気がした。自分と同じ境遇なのだろうと。
ネットカフェは最終手段としようと、亜季は件のホテルまで歩くことにする。
ぱらぱらと小雨が降ってくるなか、徒歩で向かうこと三十分。もともと体力に自信があるわけではない亜季の足が棒になりそうになってやっと行き着いた。が、なんと満室だった。
考えてみれば、今日は三月の三連休の前の金曜日。ホテルは当然予約が埋まっているにきまっている。
ホテルの入り口でどうしようかと携帯電話の画面を眺める。検索結果の二番目のホテルはまたこの場所からは一時間弱歩くことになる。
正直、この雨の中また一時間も歩いた日には体調を崩しかねない。
亜季は八方塞がりだった。
画面を見ながらぼんやりしていたその時だった。
「ねえ、貴方オメガ?」
本日二度目の「オメガ」確認に、亜季は苛立ちながら振り返った。
「いきなりなんですか?」
振り返った先にいたのは、歳も自分と変わらなさそうな華奢な男性……いや、まだ男の子といったほうがしっくりくる見た目だ。
「そんなにイライラしてどうしたの?」
よく見ると、首にネックガードをしている。
(オメガ……)
もしかしたら、ファッションなのかもしれない。
学校は生徒も教員も事務員も全員オメガ。学園長と理事長だけはアルファらしいのだが、それも噂の範囲の眉唾物な話だし、なにより日常生活で出会う人ではない。そのため、ネックガードをつけている人自体がいなかった。
外の世界では、こんなにも普通にオメガがネックガードを見せびらかして歩くものなのだろうか──。
このホテルはオメガだけが泊まれるということだが、宿泊客らしい人とはすれ違っていない。この子はこのホテルの宿泊客なのだろうかと亜季は考える。
「このホテルの宿泊の人ですか? 何か僕に用でも?」と身構えて亜季は尋ね返した。
「そんなに警戒しないでよ。何か困っているのかと思って声をかけただけだから」
そう言って笑った男の子は、「ハル」と自己紹介をしてきた。
「はる……?」
「そう、はるだよ。それ、チョーカーじゃなくて、ちゃんとしたネックガードでしょ?僕もオメガなんだ」
ちまたではこんなに簡単に自分がオメガであることを他人に告白するものなのだろうか。亜季は世間の常識がわからないので、困惑するばかりだった。
「え、あ、うん」
「なんか、困ってる?」
同じオメガ、同じ年ごろ、そして「ハル」という名前……。亜季の警戒心が和らいだ。心配して声をかけてくれたのに、邪険な態度を取ったことを少し申し訳なく思った。
「あ、いや……」
だが、今の窮状を話したところで彼にどうにか出来るとも思えない。
「もしかして、泊まる場所がないの?」
「!?」
亜季はぴたりと言い当てられて、表情を取り繕えず、素直に驚きの表情を浮かべる。
「あたり~」
「なんでわかったの?」
亜季も相手に合わせて、いつのまにか砕けた言葉使いで聞き返す。
「なんでもなにも、そんな大荷物でオメガ専用のホテルの入り口でうろうろしてたら、誰だってわかるっしょ」
確かに言われてみればその通りだ。今後生活を新たに始めるための最低限の荷物ではあるが、いま亜季はそれらをパンパンに詰めた旅行バッグを持っている。
「そう、だよね。うん、正直困ってる……」
亜季は今夜の宿がなく、途方に暮れていたことをハルと名乗る少年に正直に打ち明ける。
まだ、夜中というには時間が早いが、これから宿を探してうろつき回るような時間でもない。亜季が現在いるホテルは繁華街から少し離れてはいるものの、目と鼻の先にはネオン輝く東京で有名な歓楽街がある。夜が更ければ治安も心配になってくる。
オメガはある種のセックスシンボルのように考えられている節がある。歓楽街をうろついて、勘違いをされても面倒だと思った。
「そっか、わかった。僕と一緒に行こう。泊まれる場所を知ってるから」
初対面の男についていくなんてことは普通だったら亜季には考えられない。危ないと思う。
だが、相手はオメガの男の子だ。いままでも、オメガ同士で助け合って生きてきた。
発情期のときの連絡や授業のノートや、体調が悪いときにはすぐに手を差し伸べあう在校生と教員たち。同じように困っている自分を助けようとしてくれているのに、疑うなんて人でなしだと思う。
「それは助かるな……」
「それじゃあ、行こう」
そういって、ハルは亜季に手を差し伸べた。
亜季はその手を一瞬だけ躊躇して、強く握り返した。
検索で出てきた「オメガ用のホテル」は今いる場所から少し離れている。歩いていけなくもないが、もう夜もかなり遅い。
(ネットカフェ? とかいうのに行ったらいいのかな……)
野宿はしたくなかった。以前なにかで「若者は終電を逃すとネットカフェに泊まる」と書いてあった。その時の亜季は、「電車がなくなったら家の人に迎えに来てもらうか、タクシーで帰ればいいのに……」と思ったが、いまならその若者たちがネットカフェに泊まる理由がわかる気がした。自分と同じ境遇なのだろうと。
ネットカフェは最終手段としようと、亜季は件のホテルまで歩くことにする。
ぱらぱらと小雨が降ってくるなか、徒歩で向かうこと三十分。もともと体力に自信があるわけではない亜季の足が棒になりそうになってやっと行き着いた。が、なんと満室だった。
考えてみれば、今日は三月の三連休の前の金曜日。ホテルは当然予約が埋まっているにきまっている。
ホテルの入り口でどうしようかと携帯電話の画面を眺める。検索結果の二番目のホテルはまたこの場所からは一時間弱歩くことになる。
正直、この雨の中また一時間も歩いた日には体調を崩しかねない。
亜季は八方塞がりだった。
画面を見ながらぼんやりしていたその時だった。
「ねえ、貴方オメガ?」
本日二度目の「オメガ」確認に、亜季は苛立ちながら振り返った。
「いきなりなんですか?」
振り返った先にいたのは、歳も自分と変わらなさそうな華奢な男性……いや、まだ男の子といったほうがしっくりくる見た目だ。
「そんなにイライラしてどうしたの?」
よく見ると、首にネックガードをしている。
(オメガ……)
もしかしたら、ファッションなのかもしれない。
学校は生徒も教員も事務員も全員オメガ。学園長と理事長だけはアルファらしいのだが、それも噂の範囲の眉唾物な話だし、なにより日常生活で出会う人ではない。そのため、ネックガードをつけている人自体がいなかった。
外の世界では、こんなにも普通にオメガがネックガードを見せびらかして歩くものなのだろうか──。
このホテルはオメガだけが泊まれるということだが、宿泊客らしい人とはすれ違っていない。この子はこのホテルの宿泊客なのだろうかと亜季は考える。
「このホテルの宿泊の人ですか? 何か僕に用でも?」と身構えて亜季は尋ね返した。
「そんなに警戒しないでよ。何か困っているのかと思って声をかけただけだから」
そう言って笑った男の子は、「ハル」と自己紹介をしてきた。
「はる……?」
「そう、はるだよ。それ、チョーカーじゃなくて、ちゃんとしたネックガードでしょ?僕もオメガなんだ」
ちまたではこんなに簡単に自分がオメガであることを他人に告白するものなのだろうか。亜季は世間の常識がわからないので、困惑するばかりだった。
「え、あ、うん」
「なんか、困ってる?」
同じオメガ、同じ年ごろ、そして「ハル」という名前……。亜季の警戒心が和らいだ。心配して声をかけてくれたのに、邪険な態度を取ったことを少し申し訳なく思った。
「あ、いや……」
だが、今の窮状を話したところで彼にどうにか出来るとも思えない。
「もしかして、泊まる場所がないの?」
「!?」
亜季はぴたりと言い当てられて、表情を取り繕えず、素直に驚きの表情を浮かべる。
「あたり~」
「なんでわかったの?」
亜季も相手に合わせて、いつのまにか砕けた言葉使いで聞き返す。
「なんでもなにも、そんな大荷物でオメガ専用のホテルの入り口でうろうろしてたら、誰だってわかるっしょ」
確かに言われてみればその通りだ。今後生活を新たに始めるための最低限の荷物ではあるが、いま亜季はそれらをパンパンに詰めた旅行バッグを持っている。
「そう、だよね。うん、正直困ってる……」
亜季は今夜の宿がなく、途方に暮れていたことをハルと名乗る少年に正直に打ち明ける。
まだ、夜中というには時間が早いが、これから宿を探してうろつき回るような時間でもない。亜季が現在いるホテルは繁華街から少し離れてはいるものの、目と鼻の先にはネオン輝く東京で有名な歓楽街がある。夜が更ければ治安も心配になってくる。
オメガはある種のセックスシンボルのように考えられている節がある。歓楽街をうろついて、勘違いをされても面倒だと思った。
「そっか、わかった。僕と一緒に行こう。泊まれる場所を知ってるから」
初対面の男についていくなんてことは普通だったら亜季には考えられない。危ないと思う。
だが、相手はオメガの男の子だ。いままでも、オメガ同士で助け合って生きてきた。
発情期のときの連絡や授業のノートや、体調が悪いときにはすぐに手を差し伸べあう在校生と教員たち。同じように困っている自分を助けようとしてくれているのに、疑うなんて人でなしだと思う。
「それは助かるな……」
「それじゃあ、行こう」
そういって、ハルは亜季に手を差し伸べた。
亜季はその手を一瞬だけ躊躇して、強く握り返した。
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