21 / 41
6-1
しおりを挟む
初めて晴臣が予約をしてから、季節は一つ進んでいた。
一体いつまでこんなことを続けるつもりなのか──。
それからしばらくすると、晴臣は会えたとしてもほとんどが挿入の伴わない、ちょっとした性的な接触だけになっていた。
セックスらしいセックスをしたのは最初の数回のみ……。
(なんで抱かない?)
亜季は晴臣が自分とセックスをすることに飽きたのかと思った。
それならば、もう予約も入れずに会いもしなければいい。
それなのに、晴臣は相変わらず連日のように予約をいれてくる。
亜季には長男の行動の意味がまったく理解できないでいた。
そんな日々を過ごしたある日、今日も服を脱いでない晴臣から「自分にはオメガの兄弟がいた」という話をされる。
「へぇ……」
亜季はそんな話をされても、どう反応したらいいのかわからなかった。
それに、「いた」という過去形の言い方に、家族の中では亜季はいないものとして扱われている……亜季の帰るべき家ではなくなっているということがわかる。
分かりきっていたこととはいえ、この言葉は亜季の心を深く傷つけた。
「亜季……末っ子のオメガに出来なかったことを君にしたい」
(はぁ?)
何度もセックスしておいて、繰り返し触れておいて、何を今更と亜季は思う。
しかも、先ほどまでの性的な触れ合いの名残を流すために、風呂に入ったあとである。さんざんいちゃついた後の男娼に対するピロートークとしてふさわしい話題だとはまったくもって思えない。
完全に痛い客のそれだ……。
亜季は腹の中で長兄をあざけり、馬鹿にした。そして、この際その弟の振りでもして搾り取れるだけ金を搾り取ってやろう、そう思った。
(まぁ、実際僕がその弟なんだけど……)
それから長兄は予約をしても、挿入を伴うような性行為を一切しなくなった。
快楽に慣れた亜季の身体には物足りない。触れて甘やかされて、さんざん蕩かされる。
だが、最後まではしない。
ただ身体に熱を溜めるだけの行為は、亜季の……心を蝕む。
高められるだけで解放されない熱。
熟れるだけで摘み取られない身体。
初めての発情期か、何度もの一人の発情期を超えて覚え慣れた自慰行為でもそれは発散しきれない。
それとは逆にデートのたびに増えていく、かつての亜季が着ていたような清楚で上品なおぼっちゃん風の服。
そして、昔と同じように自分の名前を呼んで笑いかける兄との思い出──。
とうとう亜季の苦悩は限界を超えた。
「不能かよ!!」
「荒れてるわね」
「荒れてるね」
一人はこの店の古株ナミ、もう一人は亜季をこの店に引きずりこんだ張本人のハルだ。
「なんかすっごい羽振りのいい客らしいじゃん。不満なんだったらこっちにまわしてくれていいんだよ?」
ハルが茶化してくるが亜季はそれどころじゃない。
きっとハルのことを睨みつける。
最初こそ騙されはしたが、この二年でハルは亜季の親友になっていた。
「ハール、ふざけないの。アキちゃん、なにかあったの?」
ナミがハルを窘めて、そう尋ねる。
「別に」
不貞腐れた態度だとわかっているが、古参でこの仕事をよく知っていて、なおかつ優しいナミにはついつい店のみんなが甘えてしまう。
亜季もその一人だった。
「そう? なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえたけど……」
「なになに? 勃たせられないって?」
「違う!」
不名誉なことを言われて、亜季は即座に否定した。
実際、晴臣は不能なわけでも、亜季が勃たせられないわけでもない。ズボン越しに見る限りばっきばきに勃起させているのに、亜季の身体を弄りまわして満足しているのか、挿入だけは頑なにしてくれない。
ハルが手招きする。「何?」と不満げな顔を隠さずにそれでも亜季はハルに顔を近づけた。
「薬、使っちゃばいいじゃん」
「ハル!」
こそこそと亜季の耳元で囁いたつもりだったが、どうやらナミには聞こえていたようで、ハルは怒られる。
「ダメよ! うちは優良店なのよ。……っていうか、あなたそんなものお客さんに使ってないでしょうね!?」
「えーどうかなぁ」
「ハル!」
二人がわちゃわちゃと話している中で、亜季は「その手があったか」と金言を得た気持ちになった。
「いいよ、もう。二人とも仕事は?」
亜季はその考えを悟られないように、この話を終わらせて、別の話題を振る。
だが、頭の中では、次の予約のときに使ってやろうと考えていた。
一体いつまでこんなことを続けるつもりなのか──。
それからしばらくすると、晴臣は会えたとしてもほとんどが挿入の伴わない、ちょっとした性的な接触だけになっていた。
セックスらしいセックスをしたのは最初の数回のみ……。
(なんで抱かない?)
亜季は晴臣が自分とセックスをすることに飽きたのかと思った。
それならば、もう予約も入れずに会いもしなければいい。
それなのに、晴臣は相変わらず連日のように予約をいれてくる。
亜季には長男の行動の意味がまったく理解できないでいた。
そんな日々を過ごしたある日、今日も服を脱いでない晴臣から「自分にはオメガの兄弟がいた」という話をされる。
「へぇ……」
亜季はそんな話をされても、どう反応したらいいのかわからなかった。
それに、「いた」という過去形の言い方に、家族の中では亜季はいないものとして扱われている……亜季の帰るべき家ではなくなっているということがわかる。
分かりきっていたこととはいえ、この言葉は亜季の心を深く傷つけた。
「亜季……末っ子のオメガに出来なかったことを君にしたい」
(はぁ?)
何度もセックスしておいて、繰り返し触れておいて、何を今更と亜季は思う。
しかも、先ほどまでの性的な触れ合いの名残を流すために、風呂に入ったあとである。さんざんいちゃついた後の男娼に対するピロートークとしてふさわしい話題だとはまったくもって思えない。
完全に痛い客のそれだ……。
亜季は腹の中で長兄をあざけり、馬鹿にした。そして、この際その弟の振りでもして搾り取れるだけ金を搾り取ってやろう、そう思った。
(まぁ、実際僕がその弟なんだけど……)
それから長兄は予約をしても、挿入を伴うような性行為を一切しなくなった。
快楽に慣れた亜季の身体には物足りない。触れて甘やかされて、さんざん蕩かされる。
だが、最後まではしない。
ただ身体に熱を溜めるだけの行為は、亜季の……心を蝕む。
高められるだけで解放されない熱。
熟れるだけで摘み取られない身体。
初めての発情期か、何度もの一人の発情期を超えて覚え慣れた自慰行為でもそれは発散しきれない。
それとは逆にデートのたびに増えていく、かつての亜季が着ていたような清楚で上品なおぼっちゃん風の服。
そして、昔と同じように自分の名前を呼んで笑いかける兄との思い出──。
とうとう亜季の苦悩は限界を超えた。
「不能かよ!!」
「荒れてるわね」
「荒れてるね」
一人はこの店の古株ナミ、もう一人は亜季をこの店に引きずりこんだ張本人のハルだ。
「なんかすっごい羽振りのいい客らしいじゃん。不満なんだったらこっちにまわしてくれていいんだよ?」
ハルが茶化してくるが亜季はそれどころじゃない。
きっとハルのことを睨みつける。
最初こそ騙されはしたが、この二年でハルは亜季の親友になっていた。
「ハール、ふざけないの。アキちゃん、なにかあったの?」
ナミがハルを窘めて、そう尋ねる。
「別に」
不貞腐れた態度だとわかっているが、古参でこの仕事をよく知っていて、なおかつ優しいナミにはついつい店のみんなが甘えてしまう。
亜季もその一人だった。
「そう? なんだか聞き捨てならない言葉が聞こえたけど……」
「なになに? 勃たせられないって?」
「違う!」
不名誉なことを言われて、亜季は即座に否定した。
実際、晴臣は不能なわけでも、亜季が勃たせられないわけでもない。ズボン越しに見る限りばっきばきに勃起させているのに、亜季の身体を弄りまわして満足しているのか、挿入だけは頑なにしてくれない。
ハルが手招きする。「何?」と不満げな顔を隠さずにそれでも亜季はハルに顔を近づけた。
「薬、使っちゃばいいじゃん」
「ハル!」
こそこそと亜季の耳元で囁いたつもりだったが、どうやらナミには聞こえていたようで、ハルは怒られる。
「ダメよ! うちは優良店なのよ。……っていうか、あなたそんなものお客さんに使ってないでしょうね!?」
「えーどうかなぁ」
「ハル!」
二人がわちゃわちゃと話している中で、亜季は「その手があったか」と金言を得た気持ちになった。
「いいよ、もう。二人とも仕事は?」
亜季はその考えを悟られないように、この話を終わらせて、別の話題を振る。
だが、頭の中では、次の予約のときに使ってやろうと考えていた。
148
あなたにおすすめの小説
追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。
行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。
異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?
隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました
水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。
その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。
整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。
オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。
だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。
死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。
それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。
「見つけた。俺の対になる存在を」
正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……?
孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。
星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる