これは報われない恋だ。

朝陽天満

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128、ヴィデロさんの魂

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「偽物の身体……」

『だってよお。その身体、どう見ても魔素の塊だろ。壊れてもすぐ作れるっぽいからそれいいなって思ってたんだ。俺も偽物の身体を手に入れたら、酒を飲みに街に行くのによ。どうやって作ってるんだ?』

「そこらへんはたぶん、知ってる人はいないと思うよ。俺も知らないし」

『そっかあ、残念だなあ。でもあれか、偽物の身体用の魂じゃねえと入れないとかあるのかもしれねえしな。薬師の兄ちゃんの魂もそうだし、偽物の身体のやつは変な魂してるんだよな。上限取っ払ってるようなそんな感じだ』



 上限を取っ払ってるって、現実より動けるとか、力が付くとか、そんな感じのことなのかな。

 ステイタスを上げていけば、現実なんかより全然無茶出来るから、そう言われると確かに上限取っ払ったと言えなくもないけど。



「石像さんはどこまで見えてるんですか? 魂が、見えるんですか?」

『おー。見えるぞ。俺たちはちょっとばかり目がよくてよ。そいつの持つ色とか魂とか丸っと見えるんだ。それがその偽物の身体の場合、たまに魂と身体がぶれるんだよな。それが気になって。今身体を変えるのが流行ってんのかなって感心してたんだ』

「流行ってはいないですけど」

『そうか。流行ってねえのか。ちょっとくらいは流行りってのを取り入れてみてえなって思ってたのにな。何せここに立ってると他にやることなくて暇でよ。今の趣味は人族観察なんだよ。たまに俺らの仲間みたいななりの奴も来るけど、あいつらの魂は人族だしな。俺らも流行に取り入れられるくらい知名度あるのかなってちょっと喜んでたんだ』



 あ……知名度、ごめんなさい、ほぼ、ないです。とは言えない。

 嬉しそうだからなおさら言えない。



『面白い奴の魂はよく覚えてるんだよ。賢者の兄ちゃんとかな。そっちの男前の兄ちゃんも面白いから覚えてるぜ』

「俺が、面白い?」



 石像の言葉に、ヴィデロさんが首を捻った。

 何か面白いことでもしたのかな、とヴィデロさんを見つめると、不穏な何かを感じたらしいヴィデロさんが手と首を同時にぶんぶん振った。



「マックが何を期待しているか知らないが、俺はただここにたまに遺品を拾いに来るだけだぞ? 別に何かをするわけじゃないぞ?」



 ヴィデロさんがそう言うと同時に、石像がぶはっと吹き出した。動く方の手で、腹を抱えて、重低音で大笑いしている。

 狼の顔のはずなのに、すごく楽しそうな顔してる石像は、すごく表情豊かだった。

 表情豊かな狼って、すごく愛敬あっていいなあ。



『いやいや、あのな、薬師の兄ちゃん、この兄ちゃんがここで面白いことしたわけじゃねえよ? 俺はいつでも暇だから、面白いことは大歓迎だけどよ。違うって。魂の色がよ、すっげえ目立つんだよ。この男前の兄ちゃん。来ると一発でわかるくらいにな』

「魂が、目立つ?」

『目立つも何も、だって金色なんだもんよ。本当に金色の魂がいるなんて俺は思ってもいなかったのに、ぼーっと立ってたら金色の魂がひょっこりここに顔を出すからよ。楽しくなっちまって。いつも来るのを待ってたんだよ』



 金色の魂って、ヴィデロさん魂も輝いてるイケメンってことかな。さすがヴィデロさん。

 金色と言われた当の本人はちょっと困惑してるみたいだけど。



「他の人ってそんな色ないんですか?」

『本物の身体のやつらの魂は、大体が色んな色が混じったような地味な色してるんだ。そういう奴はそろそろ魂の器が上限に近い奴らなんだよな。でも、偽物の身体の奴らは、まだまだ余裕があって、だからこそなんつうか派手な色してるっていうか。薬師の兄ちゃんも綺麗な空の色してるよ。すっげえ澄んだ空の色。まだまだ色が混じってねえから、これから伸びるぜ。そんな中でもぴか一に輝いてるのが、男前の兄ちゃんなんだ。身体は本物なのに魂が金ぴかってどういうことだよって思わず心の中で叫んじまったぜ。何つうか、身体は本物なのに、魂は偽物の身体に入ってる奴らの方に近い気がするな』

「俺たちに、近い魂……」

「マックに近い魂か……」



 繰り返すように、石像の言葉を呟くと、同時くらいにヴィデロさんもそう呟いた。

 思わず顔を上げると、ヴィデロさんと目が合った。

 ぐい、と肩を抱かれて、俺の髪にヴィデロさんが顔を埋める。



「もし俺がマックと同じ魂を持っていたら……ずっと、離れることなく、同じ時を同じ場所でいれるのかも、な……」



 囁くような言葉に、俺の心臓が跳ねた。ヴィデロさんも、同じことを考えていたんだ。

 何度も考えては否定していたその希望を、ヴィデロさんも持っていてくれたなんて。

 ぶわっと嬉しい気持ちが湧き上がる。

 ほんとに、ずっと一緒にいられたら、そんな幸せ他にないのに。



「ヴィデロさん、好き」



 零れた気持ちは、ヴィデロさんだけじゃなくて、石像にも聞こえてしまって。



『なんだ兄ちゃんたちは番なのか』



 石像の顔が、ニヤリと笑った。







 気付いたら結構な時間話をしてしまっていて、酒が渇いてきた石像の手がだんだんと石化していった。

 耳とかも大分石っぽくなってきて、それを本人もわかっているのか、残念そうな表情をした。



『今度はもっともっと酒を持ってきてくれねえか? すげえ楽しかったぜ。人と話したこと自体15年ぶりだからよ。また頼むぜ』

「わかった。持てる限り持ってこよう」

『さすが男前の兄ちゃん、話が分かる。できれば、来る奴全員が酒を持ってきてくれると嬉しいんだがなあ。そこまで贅沢は言わねえよ。それに石の俺に不用意に触ると呪われるしな。俺から呪いがかかるのはちょっと辛いからよ』

「そうだな。折を見て、少しずつ広めるよ」

『ありがとな、男前の……に……』



 とうとう口まで石化して、目だけがちらりと俺たちを見下ろしている。

 口が固まると声が出なくなるんだ。大変だな。たまにお酒を持って遊びに来よう。

 ヴィデロさんと寄り添って見上げていると、石像の目がニッと笑った。そのままの状態で全体的に石化していく。

 ああ、最初はきりっとした顔だったのに、にやけた顔の石像になっちゃったよ。でも愛嬌があっていいけど。



「ヴィデロさん、今度ここに看板でも立てようか。『酒を掛けるとしゃべります。触ると呪われるから気を付けて掛けてね』って感じで。それを読んだ人たち、次からは酒を持ってきてくれるかもしれない」

「ああ、そうだな。さすがに古代魔道語のアクセサリーじゃ、誰も読まないだろうしな」



 こんな風に二人で会話しているのも見られてるんだろうな。

 そんな風に思いながら、俺とヴィデロさんは、帰るときに石像に手を振って石像の部屋を出た。



「マック、この後、マックの工房に寄ってもいいか……?」



 並んで洞窟を歩きながら、ヴィデロさんがポツンとそう言った。

 ま、まさかのヴィデロさんからのお誘い……!

 俺に否やはありません! そうと決まれば、さっさと帰ろう!

 俺は、勢いよく頷くと、ヴィデロさんの手をとって、転移の魔法陣で洞窟入り口まで転移した。最奥から入り口までの転移でMP四分の一くらいなくなったけど。

 インベントリからマジックハイポーションを取り出そうとして、ふと、インベントリの隅に入れっぱなしになっていたレガロさんからのプレゼントを発見した。



「そういえば、これ、MP消費半分になるんだよな……」



 魔法陣でも使えないかな。

 綺麗なレース編みの四角い布を取り出して、それを腕に巻き付け、ようとして失敗。片手は大変だ。見かねたヴィデロさんが、俺からドイリーを受け取って巻き付けてくれた。



「ありがと。これ使って、工房まで飛べるか試してみていい? 失敗しても俺の魔力が減るだけだから」

「ああ、無茶だけはするなよ」

「わかってる」



 もう一度ヴィデロさんと手を繋いで、空に文字を描いていく。

 やっぱり。文字一つ一つに消えていくMPが、段違いに少ない。これなら工房まで飛べるかな。片道2時間の距離。

 マジックアイテムを使ってすらぐいぐい減っていくMPを気にしつつ、最後の文字を描き入れると、フッと視界がぶれた。

 そして、見慣れた部屋に立っていた。

 うわあ、成功だ! やった! こんな距離跳んだの初めてだよ。二人なのに。



「やっぱりすごいな、マック……」



 ヴィデロさんの感嘆の声に、思わずニヤける。

 俺も成功するとは思わなかったよ。MPの残りは笑っちゃうくらいに少ないけど。

 とりあえずもう一本マジックハイポーションを出して一気飲みする。よし、大分回復。



 さ、気合入れて!

 とヴィデロさんに抱き着くと、ヴィデロさんはちょっと笑って俺の髪にキスをした。



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