これは報われない恋だ。

朝陽天満

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127、石像は酒をご所望


 それは、ここが墓標だということを知らしめている文字だった。



「いやいやいや、そういう文字は普通台座に刻み込むものだろ!」



 思わず石像に突っ込む。

 だって手首のブレスレットにそういう情報を彫り込むって、ちょっとこれ作った人、おかしいだろ! お茶目なのか?!

 まるで、「見つけてみろよ」とでも言いそうな感じじゃん! ってことはもしかして、首のドッグタグみたいなネックレスにもなんか書いてあったりして。

 結構上の方だからよく読めないけど。 

 と石像の首のあたりを見上げていると、ヴィデロさんが後ろに立って、俺の腰を持ち上げた。ひょいと。

 え、あれ、俺、子供みたいに持ち上げられてない?! そ、そんなに軽くないはずなのに!

 焦っている間に、ヴィデロさんの肩に座らされた。



「待って、重いから!」

「いや、軽いから大丈夫。その文字を読みたいんだろ? これなら見えないか?」



 見えるけどね! なんていうか、うん、複雑な気分だ。ちょっとだけへこむ。けどありがたいから文字は読もう。それにしてもほんと力強いなヴィデロさん。好き。



「ええと、『稀代の英雄ジャル・ガーは酒が好き 浴びるほど飲ませろ』って書いてある」



 でも俺酒って持ってきてないよ。未成年だから、酒っていう概念自体なかった。

 浴びるほどってことは、この像に酒でも掛けたら何かが起こるのかな。うううう、アルコールを持ち歩かないことが悔やまれる。自分では飲まないけど、今度購入しておこう。



「酒か。一旦下ろすぞ」

「ん」



 ヴィデロさんは、俺を下ろすと腰に着けられているカバンを開けて、中から小ぶりの瓶を取り出した。



「それ、お酒?」

「ああ。マックはまだ飲めないけどな。気付け用にって俺たちは大抵一瓶は持ち歩いているぞ。これを像に掛ければいいのか?」



 俺が頷くと、ヴィデロさんがそっと石像に近付いて、肩の付近に酒を掛けた。頭の上には残念ながら届かなそうだったから。

 すると。



「うわ、石像が色変わった!」



 酒が掛かったところが、段々と変色していき、青味の掛かった灰色の体毛が現れた。

 バッとヴィデロさんが石像から離れ、俺の前に立って剣を構える。

 その体毛が現れた手が、ゆっくりと動き、ヴィデロさんを指さした。

 ヴィデロさんを指さした後、人差し指をちょいちょいと曲げる。



「何か、ヴィデロさんを呼んでる……?」

「……みたいだな。マックは動くなよ」

「大丈夫……?」

「ああ」



 剣を構えたまま、ヴィデロさんは一歩だけ像に近付いた。

 するとその手は、足元に転がった瓶を指さし、そしてヴィデロさんの腰付近を指さし、またも指をくいくいと曲げた。

 その指の動きを追っていたヴィデロさんが、困惑した表情になる。



「……もっと酒が欲しいのか?」



 そう言った瞬間、指がオッケーの形になった。

 酒を掛けると動き始める、ってことか?

 この動き的にちゃんと知恵もあって、話は通じそうなんだけど……。

 まだ石像部分からは呪いの気がプンプンする。動けるようになった瞬間襲われたら、目も当てられないんだよな。



 そんなことを考えていると、ヴィデロさんがもう一本酒の小瓶を取り出して、俺に手渡した。



「マック、俺がマックを持ち上げるから、これをこの像の頭に掛けてくれないか? 酒が掛かったところだけ動くようだから、頭に掛ければ話が出来るようになるかもしれない」

「あ、そっか。うん。やってみる」



 頷くと、ヴィデロさんがまたも俺をひょいと持ち上げた。

 肩の上に乗せられ、足を押さえられる。



「そこで立てるか?」

「や、やってみる」



 フラフラしつつ、ゆっくりとヴィデロさんの肩の上に立つ。

 ヴィデロさんの手の支えがすごくしっかりしてるから、案外楽に立ち上がることが出来た。さすがヴィデロさん頼りになる。好き。

 石像の頭の上に酒を掛けれるくらいまで近付いてもらい、触らないように気を付けながら頭部に酒をトプトプと掛ける。

 空になったところで、ヴィデロさんが石像から離れて、俺を下ろしてくれた。



『ぶっはぁ! 何年ぶりだあ? 久方ぶりの酒はやっぱうめええ!』



 俺が地面に足を着けた瞬間、石像からバリトンのしっぶい声が聞こえてきた。下っ腹に響くような、そんな声だ。

 思わずビクッとヴィデロさんの腕にくっついてしまう。び、ビビったわけじゃないからな。くっつきたかっただけだから!



『おうおう、もっと酒出せや。舐めるだけじゃ全然足りねえ』



 じろり、と俺たちを見下ろした狼特有の瞳が、さっきまでとは違ってしっかりと光をともしていた。

 理性も知性もあるような、そんな瞳だった。相変わらず石像部分は呪いを振りまいていたけれど。



「すまない。酒はもう手持ちがないんだ」



 ヴィデロさんが石像に謝ると、石像はちょっとだけ瞳を伏せて、残念そうに『そうか……』と呟いた。



『今度は盛大に持ってきてくれねえか? 何せ15年ぶりの酒なんだ。もっともっと味わいてえ。な、頼むぜ』

「わかった。持ってこよう」

『おう、兄ちゃんあんた男前だな!』



 ヴィデロさんと石像が普通に会話しているのを見て、俺はただただヴィデロさんの手にくっついていることしかできなかった。

 ヴィデロさん順応力高いなあ。



『あ、なあなあ、ちょっと気になったんだけどよ、賢者は無事女を助けられたのか? 助けたら報告に来るって言ってたのに一向に来ねえんだよ』



 首から上と手だけ動く状態で、石像が首を捻る。

 賢者って、あの、魔王を討伐した賢者のことを言ってるのか?



「賢者なら、15年前の魔王討伐で命を落としたと言われているが」

『はぁ? あいつそんな噂振りまいたのかよ。生きてるしぴんぴんしてるっての。魔王の魔力が消えた後に会ったもん、俺。そいつが俺に15年前に酒をくれたからよく覚えてるんだよ。酒の恩は忘れねえんだ』



 豪快にかっかっかと笑う石像の言葉に、俺とヴィデロさんは首を捻った。



「ヴィデロさん、賢者が生きてるって本当?」

「いや、俺も勇者と英雄が生きて帰ってきたってことしか知らない」

『徹底してやがんな。さすが賢者だ。ってことは、まだ女を助けてねえってことか……』

「女?」

『そうよ。魔王を封印するのに媒体に自らの身体を差し出したんだと。それを助けるために、賢者は世界中を走り回ってるんだよ』



 あれ、確か、錬金レシピの本で、「魔王は眠ってるだけ」って書いてなかったっけ。

 石像の言葉に、ハッと錬金の本を思い出す。

『ルークを助けるためにこの本を残す』って。魔王の棺にこの身を持って、ってもしかして。



「その、賢者の女って……サラさん……? もしかして、生きてて、今も身体に魔王を封印してる、とか……」



 それだったら、あの本の注意書きの意味が分かる気がする。

 そして、ルークを指すのは、賢者で。

 何かが少しだけ、つながった気がした。



『なんだ、知ってんじゃねえか。お前もさては賢者目指してんのか?』

「いや、俺は薬師ですけど」

『薬師だあ?! 薬師の割には物知りじゃねえか。俺の知ってる薬師ってのはあれだ。自分の知ってることをただ馬鹿みてえに繰り返してる馬鹿者たちの集団だろ』

「えええ、石像さんの時代からそんなんだったんですか薬師! じゃあ伸び悩んで当たり前じゃん……」



 動く石像に緊張していたのも忘れて、俺は思わず呆れ返っていた。これじゃ宰相が憂うのもあたりまえだよ。どんだけ引きこもってたんだよ薬師。

 溜め息を吐く俺の目の前で、石像が『ところでよ』とちょっとだけ躊躇いがちに口を開いた。



『その偽物の身体は、今の流行りなのか? 最近よくここに偽物の身体の奴らが来るから、今はハイカラな時代になったなって思ってたんだ』

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