これは報われない恋だ。

朝陽天満

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160、アクセサリーが……!

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 朝一でログインして、俺は門の方へ走った。

 息を切らして門に着くと、立っていたマルクスさんが兜の前を上げて、いい笑顔で「よう」とあいさつしてくれた。



「今日は早いな。ヴィデロとデートなんだって? かああ、羨ましいねえ。独り身の俺にはお前らが眩しいぜ! な、ロイ!」

「俺は独り身じゃねえから一人で眩しがってろよ」



 相変わらずのやり取りに笑いながらそこで待っていると、すぐにヴィデロさんが出てきてくれた。

 今日はクワットロの呪術屋さんまでデートなのだ。

 久しぶりに馬車を使って、ゆったりデート。

 あのブルーテイルの羽毛アクセサリーがそろそろ出来上がるんだ。



 二人に手を振りながら、郊外の馬車乗り場まで向かう。



「こんなにゆっくりした気分は久し振りだな」

「うん。なんか、怒涛の様に色々あったからなあ」



 とはいえ、「祈り」スキルのレベルはまだ上げてないし、水魔法の方も全然めどは立ってないし。水魔法を覚えてもいいんだけど、そっちのレベル上げも一緒にってなると、ほんとに手を広げすぎて成長が遅くなるから。

 乗合馬車は、すでに人を乗せるだけになっていたので、慌てて駆け寄ると、馬車の御者さんが笑顔で迎えてくれた。





 乗合馬車は順調にクワットロまで進んだ。俺たちの他に三人乗ってたけど、一人が寝てしまっていたので、会話は静かなものだった。

 流れるような外の景色をヴィデロさんと二人で見ながら、どんなアクセサリーになってるかを想像していた。

 でもあの羽毛自体が可愛いから、ヴィデロさんに似合うようなかっこいいものにするのは結構大変な気がする。でもレガロさんだしなあ。なんか不可能を可能にしそう。

 ヴィデロさんは相変わらず、転げそうになる俺の腰を支えていてくれた。ありがたい。好き。

 最近ヴィデロさんと一緒に行動することが増えて嬉しいなあ。



 クワットロに着くと、寝ていた人を揺り起こす御者さんに別れを告げて、さっそく呪術屋に向かった。

 実は俺の羽根のゲージももうすぐ溜まるんだ。もう93%だよ。

 どんな風に変化するのかすごく楽しみなんだけど。でもこのアクセサリーもすごくお気に入りだから、変化しちゃうのはちょっと寂しい気もする。



 相変わらずすごい外見の呪術屋のドアベルを鳴らして、そっと店に入っていくと、今日も一分の隙もない執事な格好で、レガロさんは俺たちを迎え入れてくれた。



「お待ちしておりました。頼まれた物は、しっかりと仕上がってますよ」

「やった! ありがとうございます!」



 歓声を上げて、ワクワクしながら待っていると、レガロさんがトレイを掲げてカウンターの裏から戻ってきた。

 そのトレイの上には。



「すごい。カッコいい……」



 金属と黒い何かの革を組み合わせて複雑に編み込まれたアクセサリーが乗せられていた。

 ブルーテイルの産毛は中央部分から垂れ下げられており、その周りにも小さくてカラフルなビーズのような石がシャラシャラと下がっている。

 裏には細い編み込まれた革の紐が両端に付いており、それをただ引っ張ることによって太さの調整が出来るみたいだった。



「これはこの革紐で長さを調整できるので、腕と手首、もしくは足首などに装着可能なアクセサリーです。ブルーテイルの産毛がお可愛らしくて、久しぶりに頭を捻らせてもらいました。ご依頼ありがとうございました。早速、マック君がヴィデロ君のお好きなところに着けて差し上げてください」

「はい」



 そっとアクセサリーを持ち上げると、俺はそれを手に持ってヴィデロさんを見上げた。



「どこがいい? ヴィデロさんの動きが制限されないところがいいんだけど」

「レガロさんはマックの好きなところに着けろって言っただろ。だから、マックに任せる」



 任せられて、アクセサリーを掲げてみる。手首もいいけど、とちらりと大好きな二の腕に視線を向ける。

 ここに黒革のアクセサリーがあるとか、すごくかっこいいよね。



「ヴィデロさん右利きだよね。じゃあ、左腕を貸して」



 ほら、と出された憧れの二の腕に、服の上から黒革のベルト風アクセサリーを巻いてみる。

 言われた通り、裏にある革紐を引いてみると、想像以上にしっかりと腕に収まった。

 二の腕の外側に、青い羽根とビーズが揺れている。



「……ヴィデロさんかっこいい……」



 筋肉がしっかりついているから、黒革がすごく似合ってる。

 デザインが口では説明できないくらいかっこよくて、そのかっこいいアクセサリーをはめたヴィデロさんがいつもよりもっとかっこよくて。少しだけうっとりしながらヴィデロさんを見上げた。



「邪魔にならない? 手首の方がいい?」

「いや、全然気にならないし、全く動きに支障がない」

「俺からのプレゼント。この羽根のお礼。気に入ってくれたなら、受け取って」



 アクセサリーがはめられた腕をそっと確認しながらそう言うと、ヴィデロさんはただ俺をギュッと抱きしめてきた。



「ヴィデロ君も気に入ってくださったようですね。効果は、防御と力が少し上がります。それと、マック君の持ち味である器用さも付加してみました。よくお似合いですよ」

「レガロさん……ありがとうございます」

「私にじゃなくて、マック君からの依頼ですので、その言葉はマック君にたっぷりと差し上げてください」



 穏やかに微笑むレガロさんに頷くと、ヴィデロさんは目を細めて腕の中にいる俺を見下ろしてきた。



「マック……一生大事にする。ありがとう……」



 うん、と微かにうなずいて、俺はヴィデロさんの胸に顔を埋めた。二人の間に挟まれた俺のブルーテイルの羽根が、少し熱を帯びた気がした。







 お礼を言って帰ろうとするのを、レガロさんが少しだけ、と呼び止めた。



「今丁度焼き菓子が焼き上がったところなので、よければ食べていきませんか?」



 笑顔でそう言ってくるレガロさんに、首を傾げつつも腰を上げた椅子にもう一度腰を下ろす。

 レガロさんがこんな風に引き留めるなんて珍しい気がするから。ヴィデロさんもちょっとだけ戸惑ったような表情をしたまま、俺の横に座り直した。

 直後に、テーブルにマドレーヌのような焼き菓子が出てくる。

 うわ、美味しそう。この間のクッキーもめちゃくちゃ美味しかったから、絶対これも美味しいやつ。



「これ、食べていいんですか……?」



 涎を垂らさんばかりの俺の食いつきに、レガロさんがくすっと笑って「どうぞ」と一つ手渡してくれた。

 早速一口食べて、感激する。 

 これは、甘い中にもほんのりビターなエスプレッソ風のテイストが入っている……。めちゃくちゃ美味しい!



「美味しいー。ヴィデロさんも食べてみてよ。本当に美味しい」



 ついつい自分の食べかけをヴィデロさんの口の前に差し出して、ヴィデロさんが俺の差し出したものに口をつけた瞬間、レガロさんがこらえきれないようにふふっと笑った。



「沢山あるので、お好きなだけ食べていいんですよ。まあ、お二人で一つの菓子を分け合いたいというのならば全く止めはしませんが」



 た、確かに!

 レガロさんにくすくす笑いながら突っ込まれて、思わず顔に血が上る。

 でもヴィデロさんは目元をほころばせながらも俺の手首をがしっと掴んで、そのまま俺の手の焼き菓子を一つ丸々食べてしまった。



「美味しかった。ごちそうさま。マック手ずから食べさせてくれたから、美味しさ倍増だ」



 最後に俺の指をペロッと舐めて、ようやくヴィデロさんは俺の手を離してくれた。

 な、なん、なんてことを。やるなら二人きりの時にして欲しいんだけど!

 と心の中で叫んだ瞬間、耐えられなくなったようにレガロさんが後ろを振り向いてこっそりと吹き出していた。

 そうだった。この人、人の心が読める系の人だった。



「ふふ、すいません。お二人の雰囲気が前よりも柔らかいものに変わったので、ついつい揶揄いたくなったんですよ。どうやら、間違えずに希望の糸を掴めたようですね」



 レガロさんの言葉に、俺とヴィデロさんは顔を見合わせた。「希望の糸」っていうのは、もしかしてヴィルさんの言っていた話のこと……?

 間違えずに、って、もしかしたら諦めなくてもいい未来は掴めなかったかもしれないってことだろ。

 まだまだ先はわからないけれど。でも、今まではヴィデロさんの住むこの世界をよくするためにっていう考えの中に、自分の姿は全くなくて、ただただ俺が一緒にいれなくなってもヴィデロさんが心安らかに暮らしていけるようにって進んできたのが、たまにとても辛くて。きっと同じ辛さをヴィデロさんも感じていて。それが少しだけ変化したから。

 レガロさんの言葉を噛みしめて、俺は一つ頷いた。



 瞬間、俺の胸元で眩い光が発生した。

 目が眩むほどの光に、思わず目を閉じる。



「え、何……?!」

「マック、胸元の羽根が!」



 ヴィデロさんの言葉にうっすらと目を開けると、ヴィデロさんから貰ったあのブルーテイルの羽根のアミュレットが、光に包まれて宙に浮いていた。





 
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