161 / 830
161、強力な協力者
しおりを挟む「これ、変化するところ……?!」
落ちないようにと、思わず羽根の下に手を掲げる。
羽根は眩しいくらいに光を発していて、肉眼では変化してるのかどうかもわからない。
うわ、どうなるんだろう!
俺の大事な羽根……!
ドキドキしながら光が収まるのを待つ。
すると、スウッと光が俺の手のひらの上に落ちてきた。そして、それが手のひらに吸収されていく。
「熱……っ」
「マック……?!」
光が身体に入った瞬間、いつも羽根をぶら下げていた胸の辺りがカッと熱くなる。思わずそこを手のひらで抑えると、いつもと同じ感触が手のひらにあって戸惑う。
ヴィデロさんが心配そうに俺を見てるけど、俺も何が何だかわからないよ。
光を放って手に吸収されたはずの羽根が、またローブの留め具にぶら下がってるんだよ。手の平の感触でわかる。
熱さも治まって手をそっと避けてみると、そこには、いつもの通りブルーテイルのアミュレットが。
あれ。でもステータスを確認すると、パーセンテージ表記が消えてる。そしてなんかおかしい。俺、こんなにステータス高くなかったんだけど。
今までは、アミュレットのプラス補正があってこれくらいの高さだったんだけど。
羽根を外して見てみると、今まで宝石のあった場所がぽっかりと空洞になっていた。
「何が、どうなってんの……?」
首を捻っていると、レガロさんが口を開いた。
「マック君、熱を感じた場所を、見てみてください」
そう言って、奥に入っていってしまった。
早速ローブをはだけて、胸当てを外して、インナーをめくってみると。
「マックの胸に、翼がある……」
ヴィデロさんがそう呟いて、そっと手を伸ばしてきた。
俺、インナーで見えないんだけど。
とさらにめくって、ようやく胸元を見ると、確かに左胸の心臓の上あたりに可愛い翼の刺青みたいなのが描かれていた。
「何だこれ。こんなのなかったのに」
「ああ。身体に支障は?」
「むしろさっきよりいい感じ。でもこれ、何だろう」
「それならよかった。なかなか似合うぞ、マック。可愛いっていうかなんて言うか……」
とヴィデロさんにそっと指で触れられて、少しだけ身体が震える。感覚が、腰にあるオプション傷に近いような……。
こんなところで何となく変な気分になりそうだったので、慌ててインナーを下げた。
ちょっとだけヴィデロさんが残念そうな顔をした気がしたけど、気のせい気のせい。
胸当てを着け直し、改めてステータスを確認する。
今まではアミュレットのパーセンテージに合わせてステータスが補助されてたんだけど、元の力とかそういうのは結構低かったんだよな。知力と器用さが群を抜いていたくらいで。
でも、羽根のおかげか、その補填されて上昇していたステータスが今の通常値としてあらわされてる。なんていうか、アミュレットに付加されていた防御と器用さと運が、すべて100上がっていた。
す、すげええええ!
え、まって、LUCK値が魔力とか抜いちゃってるんだけど。これ俺すごく運がよくて器用になってる?
「どうしてこうなった……」
宙を睨んだまま呟くと、ヴィデロさんが顔を覗き込んできた。
「眉間に皺が寄ってる。その顔も可愛いけど、どうしたんだ?」
スッと眉間を指でたどられて、ようやくいつもの顔に戻る。
っていうか上がりすぎ。でもどうせなら魔力と力に欲しかった気がしないでもないけど、守りと器用さと運は、ヴィデロさんが俺に必要だと思って付加してくれたものだろうから。
「何ていうか、ヴィデロさんの幸運をおすそわけしてもらっちゃった気分」
俺は今すごく運のいい男だから。なんて思ってそう言うと、ヴィデロさんがくすっと笑っておでこをこつんとくっつけて来た。美形アップ最高。好き。
「マックにならすべての俺の『幸運』をあげたいくらいだ」
「ヴィデロさんも幸せになって欲しいからダメ。おすそわけで十分だよ」
口を尖らせた瞬間、ヴィデロさんの唇が俺の口の上を掠めていく。おでこが離れたところで、奥の扉がギィ、と開いてレガロさんが帰ってきた。
「マック君、押し売りなのですが、こちらはいりませんか?」
「押し売りって」
レガロさんの言い方に思わず笑うと、レガロさんがスッと手を差し出した。
その手の平には、深緑と明るい緑色の中間のような不思議な色合いの小さな宝石が乗っていて。
その色合いはまるで。
「ヴィデロさんの瞳の色みたい。綺麗」
押し売り大歓迎です。即座に買いますと返事すると、レガロさんがいい笑顔で俺の胸元のアミュレットを外した。
目の前でその宝石をぽっかり空いてしまった空間に填めてくれる。そして、羽根をまた胸元に戻してくれた。
「ちょっとだけ魔力の込められた宝石です。お高いですよ。お値段は、マック君が最近研究している調薬をここで一つ作ることです。よければ一つだけ私にくださいませんか。もちろん売りに出すなんてことはしません」
最近研究してるって、解呪の薬のことだよな。まだランクの低い劣化版しか作れないんだけど。
ちらりとヴィデロさんを見ると、ヴィデロさんは少しだけ考えてから、レガロさんを見た。
「レガロさん、マックが最近作ろうとしている薬は、教会に知られると絶対に妨害をされるような薬なんです。マックの納得がいくような薬が出来たら、それを王宮側から出回るようにしてもらう予定の物なんです。だから、絶対にまだどこにも明かさないでいて貰えますか? たとえ誰かが情報を欲しいと言っても、この情報だけは売れないんです。レガロさんを信用していてもこういう釘を刺さないといけないくらい」
真剣なヴィデロさんの表情に、レガロさんはいつもの雰囲気で「もちろんです」と頷いた。
「解呪アイテムを作るということは、前にマック君本人から訊いていましたし、最近私はマック君の協力のもとに、教会とは手を切ったのですよ。敵対したものに情報を渡すなど、愚かもいいところです。絶対に他には明かさないと誓います。ただ、私もその壮大な改革の波に一緒に乗りたいだけなんですよ。ぜひ私も一枚噛ませて貰えたらとても嬉しいです」
うわ、レガロさんが参戦したらこれほど力強い物はないよ。何せなんでも見通せるっぽい人だし。
これは早速作らねば! とインベントリを開くと問題発生。
「聖水がもうない」
思わず呟くと、レガロさんが綺麗な装飾の空き瓶をカウンター裏からひとつ出してきた。
そして、呟く。
「命の源を司る水の聖霊よ、その美しい澄んだ調べをここへ。ウォーター」
レベル1で覚える水魔法だった。
レガロさんの呪文と共に、空き瓶に綺麗な水が湧き上がる。
その綺麗な水の入った瓶を、レガロさんが俺の前に差し出した。
あ、はい。これに祈れば聖水になるんですねわかりました。
っていうか俺が「祈り」を覚えたの、レガロさんなんで知ってるの。ステータス欄とか、レガロさんには丸っと見られてそうだよ。
俺は瓶を受け取って、ニコロさんに習った様に手を組んで祝詞を唱え始めた。
聖水作りは一回もしたことなかったから、成功するのかなとかちょっと不安だったけれど、その心配は全くの杞憂だった。
祝詞を唱え始めたら俺、すぐに夢中になっていたから。
しばらくの間俺は祝詞を唱え続けてたんだと思う。全然時間の感覚がなかったけど。
自分の世界に入って、ただ一心に祝詞だけを口に乗せていた。脳裏に浮かぶのはヴィデロさんの笑顔。寂しそうな顔なんかじゃなくて、すごく幸せそうな、見てるだけで満たされて涙が出そうになる、最高の笑顔。
たった一人の幸せを望む私のこの愛を守る力をお授けください。
ハッと我に返って組んだ手を解くと、目の前の水が七色に輝いていた。
「……あれ、成功?」
ふっと身体の力が抜ける。ステータス欄を見ると、MPとスタミナがごっそりなくなっていた。
「はい、成功です。さすがに心の込められた祈りは違いますね。胸に響きます」
「……よかった」
鑑定をしてみると、確かに聖水になっていた。
早速スタミナとMPを回復すると、それを使ってディスペルポーションを作る。
「あ、れ。ランクがCになってる。前作った時はDだったのに」
首を捻っていると、レガロさんがくすっと笑った。
「それはそうでしょう。祈りの質が違いますから。マック君の気持ちが痛いほど伝わってきました」
「え、あの、それは……」
感情駄々洩れってことですか。それはそれで恥ずかしいような。
とちらりとヴィデロさんを見ると、ヴィデロさんはテーブルに両肘をついて、手のひらに顔を埋めていた。
「ヴィデロさん……?」
「感動した……すごく」
顔を上げないまま呟かれた言葉に、くらりとする。
俺の祝詞で感動とか、嬉し恥ずかしいんですけど! どうしてくれようこの人! 可愛い!
俺、「祈り」覚えてよかった!
内心ハイテンションになってしまった気持ちを深呼吸で落ち着けて、俺は出来上がったディスペルポーションを一つレガロさんに差し出した。
「まだ試作段階なんです。でも効果はばっちりでした。と言ってもまだこれは穢れを消すだけなんですけど。もう少しだけ色々やってみて、呪いを解くアイテムを作りたくて」
「ふふふ、それはまた、盛大に教会に喧嘩を売るおつもりですね。面白い。では、協力ついでに、いいことを教えて差し上げましょう」
手にしたディスペルポーションを眺めながら、レガロさんは瓶越しに俺に視線を向けた。
「水魔法というものは、練度を磨けば磨くほど、洗練された強さの水魔法を放ちます。例えば、水魔法の第一人者は、水で魔物を一撃で倒せるようになりますよね。ですが、水の質は、先ほど私が使った初心者向けの水魔法と同じなんですよ。強さは変わっても、水は、すべて同じ「魔力の込められた水」なんです」
レガロさんの言葉が、時間差で脳に浸透していく。
水魔法の水の質は、全部同じ。レベルを上げなくても、出す水はすべて聖水に変化させられる水であって、それにレベルは関係ないと。そうか……レベルを上げた時に覚えるのは強い水魔法であってそれに水の質は関係ないもんな。
そうか。目から鱗とはこのことだ。
「俺、水魔法覚えます」
「初級なら、そうですね、クラッシュ君でも教えられると思いますよ。今度お願いしてみてはいかがでしょうか」
「はい、頼んでみます!」
うわ、なんか、物事がすごくいい方に向いてきた! これもヴィデロさんから貰ったアミュレットのおかげなのかな!
そんなことを考えながらにやけ顔で宝石の変わった羽根を見下ろす。今までのもよかったけれど、今度の宝石は本当にヴィデロさんの瞳とそっくりの色で、もっともっと大事な物になった。
応援ありがとうございます!
146
お気に入りに追加
8,368
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる