これは報われない恋だ。

朝陽天満

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230、にわかパーティー

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 結局三日間戻らなかった俺は、能力がアップしている分レベルが上がり易かったらしく、クラッシュの店の奥でおとなしく古代魔道語のレベル上げをしていた。錬金も調薬も魔法陣魔法も全て何かしらが減るからね。その点読書はスタミナの減りもなかったし、レベルが上がるたびに読みやすくなっていくのが面白くて、ずっと読みふけっていた。とはいえ、二か所から持ち出した本すべて合わせて軽く百冊を超えるから、まだまだ読んでないのが残っている。

 そしてわかったのは、二人は魔大陸からの移住者ってこと。だって魔大陸がまだ魔大陸じゃなかったときの本が大部分を占めていたから。

 物語もレシピもごっちゃになっていたので、本当に読みやすい物を片っ端から、って感じで読んでいたんだけど。

 レシピも数点見つけたんだけど、ここにはない様な素材を使った物が多かったから、俺には手が出なかった。獣人の村にもないから、多分海の向こうの大陸特有の素材なんだと思う。

 なので、レシピとしての登録も出来なかったのが悔やまれる。それでも蘇生薬のレシピはなくて、試行錯誤した跡がいたるところに見て取れた。沢山書き込まれてたからね。

 もしかして蘇生薬って、獣人たちが独立してから確立した技術なのかなって、読みながら考えていたんだ。とにかく蘇生薬の素材が獣人の村にしかないから。獣人たち独自の知識と技術を駆使して作り上げた薬なんだろうと思う。俺、心して作らないと。まだ作れないけど。





 待ちに待った週末、朝ご飯を食べて母さんに頼まれた家のことを全力で終わらせた後にログインした俺は、自分の身体が元のパンツ張り付いた状態に戻ったことを確認して、よし、と気合を入れた。

 ようやく回復できるから、動き回るぞ! とインベントリの中身を確認する。

 何とか形になった魔法陣魔法が戦闘で使えるかを調べたり、なくなりかけてる素材を集めに行ったりしないといけないんだ。

 ってことで素材を求めて出発。……の前に、ヴィデロさんの顔を見に行こう。



 ヴィデロさんに挨拶してから素材集めをしようと思い立った俺は、早速工房を出て門まで走った。

 クラッシュの所にずっと詰めていたから、愛を確かめ合った後顔を合わせてないし。そっとクラッシュの所に移動して、帰りは転移の魔法陣で帰ってログアウトしてたから。

 鼻歌交じりに門に向かうと、ヴィデロさんとブロッサムさんが鎧を着た数人と揉めてるのが見えた。

 あらわされるマークはプレイヤー。何事かあったのかな。

 何気ない通りすがり風を装い、俺は門に近付いた。



「だから、横取りされたっつってんだろ! こいつが報酬を独り占めしやがったんだよ!」



 怒鳴っている人が指さしたほうには、呆れたような顔をしたプレイヤーがただ黙って立っている。

 ブロッサムさんが兜の面を閉めたまま、溜め息を吐いていた。



「あのな。そういう報酬ってのは、事前に配分を決めるのが普通だろ? 何で今更揉めてるんだよ。迷惑だから邪魔にならないところでやってくれねえか?」

「俺らだけじゃ話し合いにもならないから、あんたらに訴えてるんだよ! 何もしてねえ奴が一番報酬を貰えるなんて、おかしいだろ!」



 後ろの方で、他の人も同調するようにそうだそうだと口々にはやし立てている。件の指をさされた人は、ただ黙って視線を通り過ぎる人たちに向けていた。

 そしてふと俺と目が合う。え、と。すごくじっと見られてるんだけど。

 その視線を追うようにヴィデロさんとブロッサムさんがこっちを向いた。



「お、出かけるのか。気を付けろよ。今日はちょっと雑魚が多いみたいだからな」

「一人か? 気を付けて」



 二人とも俺を関わらせないようにしてか、門番さんモードで挨拶してくるので、俺も「行ってきます」と頭を下げて、怒鳴ってる人の横を通り過ぎようと足を進めた。

 すれ違った瞬間、ガッと肩を掴まれて鎧の人が大声で「お前もそう思うだろ!? プレイヤーとして!」といきなり声を掛けてきた。

 っていうか、どういう状況なのかさっぱりわからないんだけど。



「……っていきなり言われても。俺状況が全く分からないし」



 困ったようにヴィデロさんを振り返ると、ヴィデロさんは面の間から見える目をひたすら細めていた。まるで「巻き込まれたか……」と呆れているかのように。不可抗力だよ。

 掴まれてちょっと痛かった肩は、さりげなくヴィデロさんがその人の手を外してくれて自由になった。



「こいつクエストこなそうとしてるから助っ人として今日だけ組んだんだけどよ、戦闘に全然参加しねえんだよ! 魔導士とか言いながらだ!」

「俺は最初に支援魔導士だと言ったはずだが。余計なことに他人を巻き込むな。それに何もしてないわけじゃない。索敵罠発見解除採取は俺がすべてしたはずだ。採取した物もちゃんと均等に分けて配分しただろうが」



 あ、なるほど、にわかパーティーだから配分で揉めてるのかあ。俺、こういう揉め事の経験殆どないんだよな。皆いい人ばっかりで、お前ばっかりとか言われたことないし。っていうか俺が戦闘出来ないっていうの知ってる人としかほぼ組んだことないから。

 それにしても、採取したものまで均等に分けたのにとりすぎとか、ちょっとこの人がめつすぎるだろ。



「俺に意見を振られても俺、部外者だから何も言えるわけないだろ」



 俺が不機嫌な声丸出しではっきりとそう言うと、そっか、と案外すぐにその人は俺から視線を外した。



「お前も戦闘には参加しなそうなジョブっぽいしな。悪かったな、答えにくいこと訊いて。お前もあれだろ、レベリングしてもらうタイプだろ」



 何気なく言った一言が、ちょっとだけカチンとくる。

 それはヴィデロさんもそうだったらしく、持っていた槍の柄で地面をカン! と打った。



「お前のそれは侮辱と偏見だ」



 いつもよりワントーン低い声で、ヴィデロさんが鎧の人に吐き捨てる。

 横ではブロッサムさんが「おいおい」と苦笑していたけれど、その手はしっかりとヴィデロさんの槍を持つ肩に乗っていた。もしかして押さえてる?



「だっておかしいだろ! 一番前線に出てる俺らの報酬がこいつの報酬と同じなんてよ」



 俺的には戦闘以外はすべて支援魔導士の人がやってるように聞こえるけど。確かにおかしい。採取は基本採った人の物になるはずなのに、それすら分けたなんて。これ、支援魔導士の人損しすぎだと思う。

 ヴィデロさんを落ち着かせるように肩をトントンと叩いたブロッサムさんは、顔を覆っていた面を上げた。

 まっすぐにその鎧の人とその後ろの人たちを見ると、スッと目を細めた。



「話に聞いてりゃ、報酬は均等に四分割されたんだろ? どこもおかしくねえなあ。お前はアレか。戦えりゃ偉いと思ってる勘違いのおこちゃまか」

「っな……!」

「確かに戦えりゃド派手に活躍してるように見えるかもしれねえ。でもな、戦闘してりゃなんでも済む世の中じゃねえんだぜ。考えてみろよ。こいつが索敵してたって言ってただろ。その索敵がなかったら、お前らは魔物に奇襲されたりするかもしれねえ。そしたらお前らのその力も十分に発揮できねえんだよ。それに採取物を分けるとか、それこそありえねえ。あれはな。技術がいるんだよ。採取が難しいもんを採るのはそれなりの経験と技術がいるんだ。初心者が採った薬草とベテランが採った薬草を比べてみろよ。雲泥の差だぜ。それを文句も言わずに分け与えるとか、それだけでお前らが過剰搾取だと俺は思うぜ。戦えないからってだけで報酬を均等に割るのを渋る奴はな、この先苦労するぜおこちゃま」



 言い終わった瞬間ブロッサムさんもガン! と槍の下の部分を地面に叩きつけた。すごい威嚇だ。

 それに気圧されたのか、文句を言っていた人もちょっとだけ身を引いて、「二度と組むかよ!」と吐き捨てて鼻息も荒く街に入って行ってしまった。

 残った支援魔導士の人は、振り向きもしないにわかパーティーだった人に一瞥をくれると、溜め息を吐いてから、俺達に頭を下げてきた。



「すみませんでした。巻き込んでしまいました。君も。ごめんな、楽しいはずの所をあんな風に巻き込んでしまって」

「大丈夫です」

「ったくよお。あんたも大変な奴らと組んじまったな。これを機に人を見る目を養うんだな」



 ブロッサムさんも面を上げたまま背中を見送り、それから苦笑して支援魔導士の人に肩を竦めて見せた。

 ヴィデロさんはさっきまでの怒りを消して、心配そうに俺を見ている。大丈夫だよ。ヴィデロさんが怒ってくれたからその怒った顔が素敵すぎて嫌な気分を忘れたから。好き。



「そうします。どうしても手に入れたい素材があったからと助っ人を頼んだら、外れだったみたいです。その欲しかったレア素材も持っていかれてしまって。もう一度違う人を頼って取りに行ってきます」

「異邦人同士のそういう揉め事は極力俺らは関わらないようにはしてるんだけどよ。聞いちまうと胸糞わりいなあ。素材って結構難しいもんなのか?」

「山の麓にある小さな花なんですが、あまり生えてなくて。その周りの魔物が、俺一人の手には負えないんですよ」



 何気なく話を聞いていて、ふと思った。その素材、俺前にヴィデロさんと山の麓デートしたとき見つけたやつだよ。調薬に使っちゃったんだけど。確かにあそこらへんは魔物強かったなあ。俺一人では倒せなかった。しかもアレ、採取レベル高くないと千切れちゃって使い物にならないようなやつのはず。

 ヴィデロさんも思い出したのか、ああ、と頷いた。



「ブロッサム。その素材の周りは確かに強かった。トレ周辺で動いてるやつの手には負えない程度には」

「何、知ってるのか?」

「ああ。前に行ってきたからな。その素材も採取がとても難しいんだろ? 一緒に行ったやつがそう言ってた。試しに俺も採ってみたが、花が潰れてしまって使い物にならなくなったやつだ」



 ほう……とブロッサムさんが目を細めた。ちょっとだけ含んだようにニヤリとするその顔は、俺とのデートだってすぐに気付いたらしい。楽しかったよ。



「ってことは、ここら辺にいるやつらじゃ難しいってことか。すぐに必要なのか?」

「ギルドの掲示板で、薬師の方がその花を使って薬を作りたいから至急採取してきて欲しい、という依頼があったので受けたんです。期日は今日の日没まで」

「花を使った薬ねえ……」



 ブロッサムさんはフム、と考えて、首を傾げた。



「ここまで聞いちまったからには放っとくわけにもいかねえしなあ……今日の非番は誰だっけ? マルクスか?」



 そう呟いたブロッサムさんは、備え付けられていた呼び鈴をカーンカーンと鳴らした。



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