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263、進化した! って俺じゃないよ
しおりを挟む「ヴィデロ君の母君がどういったいきさつでいなくなり、どのような理由で異邦人が現れたのか、その詳細を見たわけではありません。ですが、彼女がいなくなるまでは、この世界は変わらず闇に包まれていました。ですが、異邦人たちが現れた途端、突然闇から光が差し始めたのです。もう隠居を決め込んでいた私には、とてもとても眩しくて、目もくらむような光でした。そんなとき、ヴィデロ君がここにそっとやってきたのです。とてもとても大きな光を背負い、その光に飲み込まれてしまっているような暗い暗い表情で。ヴィデロ君の持つ光と、闇を切り裂く光は、私の目には全く同質のものに見えました。が……その持ち主のはずのヴィデロ君が今にも光に押しつぶされそうになっているのを見て、私は、久し振りに少しだけ手を出してみよう、と思ってしまったのです」
暗い暗い表情。光に、押しつぶされそうになって。
知らず、俺は奥歯をきゅっと噛み締めていた。
「俺は、初めてここに来た時、そんなに情けない顔をしていたのか……」
ヴィデロさんがポツリと零す。レガロさんが微笑したまま「それはもう」と全肯定したので、ヴィデロさんが声を出して笑った。
「同僚の方に案内されてここに入ってきたヴィデロ君は、世捨て人の様な瞳をしていました。同僚の方もそんなヴィデロ君を心配してここに何か気晴らしになる物でもないかと連れてきてくださったのですよ。でも、今は違います。ちゃんと希望を取り戻した目をしています。そして、その光を自身で制御して、しっかりと自分のものにしていますから。きっと、それはマック君のおかげなのでしょうね」
「……まあ、マックがいなかったら、俺はもっと堕ちてただろうから」
毎日酒を飲んで、門に立って、ただその流れるような日常を惰性で続けていたと思う、とヴィデロさんは口を歪めた。きっかけがあれば命を落とすのも何とも思わなかっただろう、と。
でもそれはレベルは違っても俺も同じだったんじゃないかな。毎日学校とゲームとちょっとした勉強。先を見据えることもせずに、ただダラダラ続けていってた気がする。そして、三年になってもまだ自分がやりたいことを見つけられなくて、ただ流れで三流の大学辺りに進んで、でもって、適当に就職して、やっぱり息抜きにゲームでもしながら、毎日ただ生きてたと思う。命までは捨てようとは思わなかったけど。でも、俺はヴィデロさんに会っちゃったから。ヴィデロさんを好きになっちゃったから。だから目標も出来て、未来を考えることも出来るようになって。そして。
ヴィデロさんに視線を向けると、ヴィデロさんも俺を見ていた。視線が絡まる。
ヴィデロさんは、さっきまでの苦笑が嘘のように、ふわっと笑った。
幸せそうなその笑顔に、俺もつられて笑顔になる。好き。
幸せに浸っていると、レガロさんが「マック君」と俺を呼んだ。
「もしも、答えたくなければ答えなくていいのですが、不躾な質問をしてもよろしいでしょうか。ヴィデロ君を前にして、もしかしたら答えにくい問いかもしれませんが」
「答えにくい……って言うと、もしかして、向こうの世界のこと、だったりしますか?」
「はい。もし世間話として答えたくない質問であれば、このような形にしてもかまいません」
このような? と首を傾げていると、レガロさんが「試練を与えよ」と一言呟いた。
途端にクエスト欄がピコン、と光る。
「え?!」
思わず声を出すと、レガロさんが「どうぞ開いてみてください」と俺を促した。
待って。ちょっと待って。このクエスト……。
ドキドキしながら宙を指さす。
ビックリマークのついたクエスト欄をドキドキしながらタップすると、新しいクエストが一件現れていた。
「……ニュークエスト……質問に、答えよう……時の傍観者の質問に答えよう。答えた内容によって、報酬が変わる……」
目の前に現れた文字を、口に出して追う。
このクエストって。
「私が、一手に管理しております。内容を決めることができるのは私自身がかかわった物だけなので、私と直接関係のない依頼はその異邦人方の言動により多少変わりますが、大体はその異邦人をより高みに昇らせるための内容となっているはずです。中には重要な物もあり、闇を切り払うために課したものもいくつか世界に散らばっております。もちろん、その依頼を手にできるかどうかも、その異邦人次第で、それは既に私の管轄ではなくなってしまうのですが」
「……それは、レガロさんがクエストを管理する者という事実は……一介の異邦人である俺に、伝えてもいい内容なんですか?」
「本当はあまりよくはないですが、マック君はマック君の世界でもより中心に近いところに近付いているので、こちらとあちらの関係も知っているでしょう。だからこそです。こちらを夢の世界と思っている方にはお伝え出来ません。何より、マック君は諧調を司るものですから。その諧調される世界の中には私という存在もある、という、ただそれだけなのですよ。だからこれは自然の流れなんです」
「そ……んなこと言われても、そうなんですかって、納得は出来ないというか。だって俺、普通の高校生で、単なる薬師で」
レガロさんの口から次々出てくる恐ろしい事実の連続に、脳みそが付いていかない。
自然の流れって何。そんなことを色々教えられても、俺、どうしたらいいのか。何も出来る自信がない。
「もっと自信をもって大丈夫です。それで、その依頼は受けて貰えますか? もちろん断っても何ら不利益はないようにいたしましたが」
内容を弄れるって時点で、信ぴょう性がさらに跳ね上がる。確かに、最後まで読むとクエスト失敗欄が書かれていなかった。そして、クリアするための期日も。
眉をハの字にして天を仰いだ後、俺はヴィデロさんに視線を向けた。
まっすぐと俺を見ているヴィデロさんの綺麗な深緑色の瞳が視界に入る。
極力、向こうのことは話さないようにしてたんだ。だって、異邦人、っていうくくりで見られるのが嫌だし、俺も、こっちの世界の人をそんな風に見たくないから。でも、ヴィデロさんも俺たちの世界の断片を知ってるんだよね。お母さんのことも、ヴィルさんのことも。全てちゃんと事実としてとらえてるんだよね。だったら、知ってもらってもいいのかもしれない。
何より、向こうの世界の雰囲気はヴィデロさんも夢という形で知ってるんだし。
「わかりました。答えられることは答えます」
俺がそうはっきりと宣言すると、レガロさんは目を細めた。
「とりあえずは長くなるかもしれませんから、喉を潤しませんか」
張り詰めた俺の雰囲気を察してか、レガロさんが和ませるように手をパンと叩いてそう言った。
そして、温かいお茶を俺とヴィデロさんの前に差し出してくれる。ありがたくそれを一口飲んで、ふわっと香るお茶の香りに和む。
俺とヴィデロさんの表情が和んだことを確認したレガロさんは、早速一発目からきつい質問をかましてくれた。
「ここに来る場合、どのようにして来るのですか?」
「ええと、ギアという精密機械を頭に被って、そこにセットされている「アナザーディメンションオンライン」という、ヴィデロさんのお母さんが開発したゲームディスクを媒体にして、ログインするんです」
「ゲーム。だからここはゲームなんだから、と傍若無人にふるまう異邦人もいるのですね」
「はい。皆、この世界はゲームの、電脳の世界だと思ってます」
「では、どうしてマック君はこの世界がその電脳、という世界じゃないと思っているのですか?」
「それは……色々なことを、知ってるから」
「それは、マック君たちの世界で知ったことですか?」
「そうでもあり、そうでもないです。知ったのはこの世界でなんですが、教えてくれたのは向こうの世界にいるヴィデロさんのお兄さんですから」
ためらわずに答えると、レガロさんがそうですか。と頷いた。
「でも、そのことを知る前にマック君はヴィデロ君とお互いを大切な存在だと認識しましたよね。どうして、それでも前に向かおうとしていたのですか? 諦めようとは思わなかったのですか?」
「沢山思いました。でも、それでも俺が何かを行動することでヴィデロさんがこれから安心して暮らせる世界を作れるんだと思ったら、手を止める気にはならなかったんです。ただ」
「ただ?」
「ログアウトした後、ヴィデロさんがこの世界には存在しないんだなって思うと……それだけがちょっと辛かったです。でもログインすれば会えるし、ヴィデロさんの元気な顔が見れるから」
促されるように相槌を打たれて、一瞬だけヴィルさんの姿が浮かぶ。彼がヴィデロさんの中の人かな、なんて一瞬でも思ったっけ。でもその後それは全否定されて。
よかったってほっとしたんだ。だって、違う人だったから。
「でも、ヴィデロさんのお母さんが本当にこっちの世界で一時期暮らして、そして戻ってきたことを向こうに残っていたヴィデロさんのお兄さんと知り合って知り、諦めるのはやめました。ヴィデロさんのお兄さん、今、こっちとあっちを繋ぐ道を必死で作ってるんです。俺もそれの手伝いを少しだけしていて、来年からは本格的に手伝いをすることになって。だから、俺、この世界を平和にして、未来に何の憂いもない世の中にして、こっちの世界に本当の姿で来ようと思ってるんです。そしてこっちで薬師を続けて。ただ、この姿じゃなくて本来の身体なので、今までの技術と経験が一からになるのが大変ですけど」
ヴィデロさんにも言ってなかったことを話していく。
ヴィルさんの会社で働くことは、全然ヴィデロさんにも言ってなかったんだ。どう言おうか迷ってて。驚いた顔をするヴィデロさんにごめんね、と肩を竦めて見せる。
言いづらいことを言う機会をくれたレガロさんには感謝しかないよ。
「それは大丈夫でしょう。何せ、心は同じなんですから。もし本物の身体で来ても、スキルがなくなるわけじゃありませんから。大丈夫ですよ。全て、マック君が自身で極めて来た道なのですから、それは心が覚えています。たとえ、身体が魔素で出来ていても、中身は一緒で、身に付けた物はそれはその方自身のスキルなんです」
「そうなんですか。なんか……レガロさんにそう言ってもらえて、ホッとしました」
生身で来ても、薬師としてやっていけるってことだよな。
ヴィルさん、頑張って。
もう何度目になるのかわからない声援を心の中で送っていると、ピコン、とクエスト欄にビックリマークが付いた。
え、クリア?
驚いていると、レガロさんが「とても興味深いお話を聞かせてもらいました。ありがとうございます」と俺に頭を下げた。
「まだまだマック君は色々知っていそうですが、追加のお客様が来そうなので、一旦ここで締めましょうか。またよければ聞かせてくださいね」
「あ、はい」
ちょっと失礼しますね。と店の方にレガロさんが移動していったので、俺はビックリマークのついたクエスト欄を開いてみた。
『質問に答えよう
時の傍観者の質問に答えよう
(答えた内容によって、報酬が変わります)
クエスト報酬:???
【クエストクリア!】
時の傍観者のある程度満足いく回答ができた
「時の傍観者」解放条件が満たされ
「時の傍観者」から「時の輔翼者」に変改された
クリアランク:A
クリア報酬:『スキルと心の関係性』の繋がり 時の輔翼者の信頼度上昇 更なる依頼の機宜』
あ、報酬、目に見えない物だ。しかもクリアでレガロさんの呼び方が変わっちゃった。もしかしてレガロさんも進化したのかな。でも信頼度上昇って文字が付くとちょっと嬉しい。そしてもう一つの報酬内容。あれかな。会話中にあった身体は魔素でも中身は一緒だから身に付けたものはなくならない的なやつかな。
じゃあ例えば雄太が生身でこの世界に来たとしても今みたいに戦えるってことかな。顔も同じだから全く違和感がない。
「そっか。じゃあ、心置きなくヴィデロさんを攫いに来ることができるってことか」
ふふっと笑って呟きながら、クエスト欄を閉じる。
隣のテーブルに座っていたヴィデロさんがそっと俺の隣に移動してきたので、その顔のままヴィデロさんを見上げた。
「ヴィデロさん、俺と、ずっと一緒に生きてくれる?」
つい勢いに乗じてそんなことを言った瞬間、「うわあ」っていう聞き慣れた声が店の方から聞こえてきた。
店の方に視線を向けると、観葉植物の間から、こっちを見ている雄太と目が合ってしまった。
っていうか、何でいるの?
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