これは報われない恋だ。

朝陽天満

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284、『薬草の色とりどり薬膳スープ』

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 釜の中に謎液体が満たされる。

 改めて渡されたレシピを覗き込み、材料を取り出して、ふと気付く。

 俺のレシピと違う。

 慌ててサラさんのレシピ集を取り出すと、二つを見比べてみた。

 手順が違うし、素材も違う。そして何より、完成図が違った。出来上がった物の名前は同じなのに。



「これ、俺の作り方とサラさんの作り方の違いってこと、かな」



 サラさんのオリジナルレシピは、レシピ集の物より素材が一つ多くて、そして手順は大雑把。三個くらい一気に入れてかき混ぜる感じで書かれている。

 うーんと唸ってから、俺は顔を上げて、足りない素材がないか長老様に訊いてみた。



「あの、『香緑花』という物はありますか?」

「『香緑花』ね、あるわよ」



 笑顔で答えてくれた長老様が、手をパンパンと叩く。すると、奥からエルフの人が手に袋を持ってやってきた。どうして手を叩いただけで持ってくるものがわかるんだろう。すごい。

 エルフの人に袋を渡され、中を覗いてみると、そこには、さっきお茶に沈んでいた花が沢山入っていた。



「この花が『香緑花』っていうんだ。ありがとうございます」



 花を素材群にまぜて、俺はもう一度釜に向きなおった。

 今度こそ錬金開始。サラさんの素材を使って、俺のやり方で錬金。多分サラさんみたいに一気に入れても、俺の場合は失敗するから。

 錬金釜に一つ一つ素材を入れて、丁寧に溶かしていく。

 雄太たちも固唾を飲んで俺の錬金を見守っている。

 一つ入れるごとに変わる色に、目が楽しい。ヴィデロさんの魔力も借りてるっていうのがさらに楽しい。

 さらに一つ素材を入れる。ふわっと色が空色に変わる。綺麗。そして次の素材を入れると、今度は濃い青に変わる。何度見ても不思議だよな。

 だんだんと濃い色に変わって、茶色っぽくなった液体に、『ナナフサ』を入れると、全体が黒くなった。でも、前と違うのは、中心がなぜか金色をしていたってことだ。前は全体真っ黒だったのに。

 最後に『雪森草』を入れた瞬間、色がスッと透明になった。でも、まだ中心には薄っすらと光る金色が残っている。

 グルグルと掻き混ぜて、金色を撹拌する。金色は段々と色を薄くして、円を描きながら周りと混ざっていった。

 しばらく掻き混ぜていると、ふわっと色が緑色に変わった。



「よし」



 すぐに釜を持ち上げ、用意していた空き瓶に注ぎ入れる。

 出来上がった物は、前と同じ、綺麗な層の出来たスープだった。ただ一つ違うのは。



「中に金粉が散らされてるみたいになってる……」



 キラキラとしたものが、緑色の層の間に散らされていて、前に作った物よりも豪華に見えた。そして綺麗。



「うわあ、綺麗。素敵」

「ほんとね」



 ユイと海里が感嘆の声を上げている。

 重なった様々な緑色の層が、とても綺麗で、でも全く濁っていないから、瓶の向こう側がしっかりと見える。だからこそ、中に浮いている金粉の様な物もしっかりと見えていて。



「鑑定」



『薬草の色とりどり薬膳スープ



 数種類の薬草類を使った薬膳スープ

 状態異常とスタミナを強化する

 見た目と味でも楽しめる



 効果:一定時間状態異常無効 一定時間スタミナ減少無 幸運値上昇小』



 前に作った物の効能に加えて、しっかりと幸運値上昇が付いてた。さすがヴィデロさん。

 出来上がりに満足して、俺はそれを長老様に差し出した。



「出来上がりです。飲んでみてください」

「ありがとう。ふふ、素敵ねえ」



 長老様は瓶を受け取って、横にしてみたり下から覗いてみたりと、一通り目で楽しんでいた。ひっくり返しても層が崩れず綺麗な色合いのままなのが、いつ見ても不思議だよ。



「あなたは丁寧な子なのね。サラの物よりもとても綺麗にできてるわ」

「サラさんの物もなかなかにユニークで面白いと思いますけど」



 俺はサラさんのレシピの紙を見ながら少し笑った。

 俺のは一色一色段になってるのに対して、サラさんのスープは一段の中に三色くらいがマーブル状に混色されているんだもん。それもまた綺麗で、何より面白いんだけど。



 ではいただきますね、と長老様はエルフの人に透明なカップを持ってこさせた。

 そこに薬膳スープを注ぎ入れる。

 カップの中でもやっぱりというか綺麗に層が出来ていて、皆の口から歓声が洩れていた。

 一口長老様が口に含む。



「……美味しいわ。ふふ、美味しい」



 長老様が呟いた瞬間、ピロンと音がした。

 クエストクリアだ。



「なあマック! 俺にもアレ、作って欲しいんだけど!」



 目を輝かせて雄太が俺に詰め寄った。

 周りを見ると、ユイも海里もブレイブですら、うんうん頷いていた。



「なあ! ちゃんと報酬は払うから! 俺にも一杯!」

「え、まあ、いいけど」



 ここまで連れてきてもらったんだし。それに対して何の報酬も払ってないわけだし。

 作ってあげるのはやぶさかじゃないんだよね。

 俺は二つ返事で頷いて、素材を並べ始めた。



 毎回ヴィデロさんの魔力を貰いながら、全員分作り終わると、俺はようやくほっと息を吐いた。全部成功してよかった。あの失敗の「ぼん!」を見たら、絶対雄太に笑われるから。なんだそれおもしれえって。それはちょっと悔しい。

 錬金釜とドイリーをインベントリにしまいながら、ふと思い出す。



 ……そういえばエミリさんから手紙を受け取っていたんだった。

 すっかり大興奮で忘れてた。記憶から抜け落ちてたよ。

 そっとインベントリを開いて、大事な物をまとめたところから、エミリさんの手紙を取り出す。



 ゆったりと座っている長老様に、俺はエミリさんの手紙を、今更ながらおずおずと差し出した。



「あの、そういえば、エミリさんから託されていたものを……すっかり忘れてしまっていました、ごめんなさい」

「あらあら」



 謝ると、長老様はコロコロと笑いながら手紙を受け取ってくれた。

 その場でそっと開き、目で文字を追う。そしてすぐにたたむと、自分の懐にしまった。



「あなた、色々と賢者のために動いているのね。確かにつながりが見えるわ」



 エミリさんが手紙に何を書いたのかはわからなかったけれど、長老様はエミリさんの手紙の入った懐を、とても大事そうに両手で押さえた。





「人の縁というのは不思議なものでね。心ひとつでそれがいい縁にも悪い縁にもなるのよ。そして、縁が人と人とを繋いでいって、結びつける。例えば、マック君と高橋君、2人の縁が、周りの人たちを結び付けた。これが繰り返されて、縁が繋がりそれがその人の人生の一角を彩るの。縁が全くない人など、誰一人いないのよ。親だったり、友人、兄弟、すべてが結ばれている。たとえ憎み合っていたとしても、それは悪い縁として結ばれているの。その縁を大事に大事にすれば、最初は悪い縁だったとしても、いつか何かの拍子にいい縁にコロッと変わるときもあるのよ」



 長老様が大きな樹を見つめながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 それは不思議としっとりと心に染み込んでいき、いつしか俺たちは長老様の話に聞き入っていた。

 縁。ヴィデロさんと俺を繋ぐ縁。それはヴィデロさんのお母さんだったり、ヴィルさんだったり、ブロッサムさんやロイさん、マルクスさん。クラッシュもそうだし、雄太たちも俺を通じてヴィデロさんと仲良くなって。

 確かに縁っていうのは繋がっていくんだな、なんて、しんみりと思う。



「あなたたちに繋がっているその縁の糸、大事にしてね。そして、ヴィデロ君、あなたはその縁を手繰り寄せる力があるわ。一つの運命の糸を、大事に大事に手繰り寄せてね。とても難しいけれど、縁が結ばれるのを待つのではなく、手繰り寄せるのよ。そうすれば、きっとあなたは……」



 長老様はそこで言葉を切ると、目を細めた。

 あの目には何が映ってるんだろう。ジャル・ガーさんとはまた違う世界が見えてるんだろうな、と長老様を見ながら思う。

 そして、行く先々でヴィデロさんに忠告する人たちの言葉は、一体何を指してるんだろう。



 長老様の視線を追って、俺は大きな樹の幹に目を向けた。



『錬金しよう



 エルフの里の最長老がサラの作ったスープを所望している

 材料を集めて目の前で錬金し、スープを振舞おう



 タイムリミット:一日



 クリア報酬:素材採取及び入手の権利 レシピ入手

 クエスト失敗:錬金出来ずスープを振舞えなかった 素材採取権取得ならず レシピ入手



【クエストクリア!】



 エルフの里の最長老に最上級の『薬草の色とりどり薬膳スープ』を振舞うことができた

 幸運値上昇により最長老の霊力が上昇した



 クリアランク:S



 クリア報酬:素材採取及び入手の権利 サラの遺したレシピ入手 えにし

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