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285、エルフとか錬金釜とか
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このクリア報酬の『縁』って何だろう。
考えていると、長老様が手をパンパンと叩いた。奥からエルフの人が真っ白い紙の束が紐でまとめられた物を持ってきてくれた。
「よければ、これをあなたに差し上げるわ。先ほどの物と同様の物なんだけれど、あなたなら活用してくれそうだもの。ぜひ、持って行って。あと里の中にある素材は好きに使ってくれていいわ。楽しい物を作ってくれることを期待するわ」
「ありがとうございます」
差し出された束を受け取った瞬間、真っ白だった紙が色鮮やかに染まっていく。
これはちょっと目に楽しいかもしれない。
ふわっと浮き上がるレシピをパラパラめくると、ヴィデロさんと雄太たちが俺の手元を覗き込んできた。
「すっげえなあ。錬金術師とか、何で隠してるんだよ」
「だって悪い人が釜を手に入れたら次の魔王になるかもしれないっていうブツを持ってるんだよ。黙ってるしかないじゃん」
「そんなに凶悪なのか? 細菌兵器とか世界中の樹を枯らしちまう物とか作ったり?」
「出来ないから」
そんなものを作ろうとしたら失敗して終わるって。
思わず笑うと、長老様が「それはねえ」とまるで世間話をするかのような気楽な表情で口を開いた。
「その『神の御使いの欠片』を全て集めて一つの『神の御使いの持ち物』を作ったら、世界を簡単に滅亡させることができるようになる物なのよ。魔大陸で魔王となってしまった人の様に。だからね、『神の御使いの欠片』のほとんどは、処分してしまったの。本当はサラが持っていた時点で処分しようかとも思ったけれど、何かが警鐘を鳴らしたのよ。処分したらいけないって。それで思い出したのよ。昔々、私たちの仲間で未来を見通せる力のあった子の呟いた言葉を」
長老様は大きな樹に目を向けて、何かを思い出すように目を細めた。
「その子はね、特殊な力の持ち主で、未来を見通すという稀有な力を持っていたの。もう何百年も前に亡くなっているんですけどね。その子が見た私たちエルフ族の未来というのが、二つほどあって」
一つは、人族と道を分かつことをしないで、人族と共に魔王と戦い、人族の手によって滅ぼされる未来。
一つは、人族と道を分かち、ただこの地脈を守るだけの日々に精神が疲弊して、感情という物がすり減り、感動も悲しみも何も感じなくなってしまう未来。
獣人たちはきっぱりと人族の元を去る決意をするなか、エルフたちはその言葉に悩んだ。中にはすぐに人族から離れるべきだと主張する者もいたが、それでもただ毎日地脈だけを管理する毎日になることで精神が崩壊するのを嫌がって残ることを強く勧めてくるエルフもいた。
これが魔王に滅ぼされる未来だったのなら、エルフ族は人族の元を去らなかった。しかし、エルフ族を亡ぼすのは、人族。
「その子の未来を見る目は、それまで一度も外れたことはなかったのよ。だから、私は決断したの。人族から離れることを。でも、その予言を残したその子は、人族の地に残ったわ。こう言い残して」
――神の御使いの欠片を扱う者が里に現れたら、エルフの未来は変質する。だから、私は神の御使いの欠片を扱える者をこの地で探す――
「それでも、持ち主のいない欠片は危険だからと片っ端から処分したの。神の御使いの欠片を扱える者は定期的に出たのだけれど、そこからこの里に来ようとする者もいなかったしねえ。だから、その扱える者が亡くなったら神の御使いの欠片を壊したの。もう何年そうしてきたか、数えるのもばかばかしいくらい月日が経った。すでにその予言を残した子もこの世にいなくなって久しい時に、サラが来たの」
長老様はふふ、と笑って口元を隠した。何かを思い出して、思わず笑ってしまったみたいだった。
サラさんは、長老様に思い出し笑いをさせるほどの何かをここでやらかしたってことなのかな。
「あれだけ皆が感情を動かしたのは、本当に久しぶりだったわ。皆がサラの言動で焦り、笑い、驚き。もちろん私も。忘れていた何かを思い出させてくれるような気がしたの。それで、ああ、あの子の言ってたことは、これだったのかしらって。でも本当にその子の言っていたエルフ族の未来の変質というのは、もっと奥が深かったの。ほんの少しのエルフたちの手によってもたらされた縁が、サラがここに来たことで私たちとしっかりと根付き、そこから巡りに巡って、複雑に絡み合って、そして、またエルフ族と人族が交わろうとしている。きっとこのことを言っていたのね、とサラとエミリを見ていて、気付かされたわ。今は、私達なんかよりももっと隔絶していた獣人たちが人族と手を取ろうとしているのでしょう。それも皆、『縁』なのです」
とても楽しそうに並ぶ姿が、未来の自分たちと人族たちの姿に重なった時には涙が出たわ、と長老様は呟いた。
ほんとにそうなるといいなあ。獣人さんたちの時も思ったけど。ここまで来るのにあんな強い魔物なんていらない、石像になって入り口を守る獣人さんなんていらない世界が来るのを、実はエルフの人たちも獣人さんたちも望んでるってことだよな。
顔をあげると、はらはらと部屋の前の木が、綺麗な緑色の葉を風に乗せていた。
宙を舞う葉は俺たちの目の前を通り過ぎ、地面にそっと降りていく。それを暖かいオレンジ色の陽が優しく照らしている。
どれだけここで長老様の話を聞いていたんだろう。雄太たちも席を立つことはなく、ただ長老様の話に聞き入っていた。
とても長い話だったような気がするし、でもとても短い時間だった気がする。気が付くと、空は既にオレンジ色に染まり、これから宵闇があたりを包んでいく気配が迫っている。
長老様と過ごした時間は、ただただ穏やかな時間だった。
長老様は「お話が長くなってごめんなさいね。おばあちゃんの話は長いのよ。自分でも呆れちゃうくらい」と笑い、手をパンパンと叩いた。
すると、俺たちの前にエルフの人たちが綺麗なお膳を持ってきてくれた。会席膳の様な、見た目にも楽しいご飯だった。
皆の口から自然歓声が上がる。
「一緒に食べましょう。今日はこの里に泊りなさいな。夜の森は陽の高い時間より危険よ」
俺たちを案内してくれたエルフの人は、いつの間にやらいなくなっていた。
エルフの人が蔦の籠に入った明かりを部屋の4隅に置くと、さっきよりもさらに外の闇が濃くなったような錯覚に陥った。
夜ご飯はとても美味しかった。一つ一つがすぐに食べ終わってしまうような大きさなのに、それが次々運ばれて来て、結局はすべての物を味わう前にお腹がいっぱいになってしまった。悔しい。まだ食べられる雄太とブレイブとヴィデロさんはさらに綺麗な夕食を楽しんでいる。もうダウンした俺とユイと海里は、食後にと出されたお茶と口直しのお菓子をちょびちょび食べながら、長閑な風景を味わった。夜のエルフの里もすごく綺麗。
まだごちそうさましていない人たちを残して、俺たちは庭と呼ぶには広い野原を見て回ることにした。
光る花や、ちょっと色的にどうなのっていう草。そして、落ちた瞬間フッと色が変わる葉っぱ。楽しい物がたくさんある。
「ねえマック君、これは? リンリン鳴って可愛い」
「『光風鈴こうふうりん』っていうらしいよ。錬金素材。綺麗な音だね。しかも光るからこの名前が付いたのかな」
「こっちのはなに? 綺麗な果物」
「それは『偽香いこう果実』だって。果物みたいなフルーティーな匂いがするけど、分類が毒草の類なんだって。少量の摂取は腹痛の緩和だけど大量摂取はやめた方がいいらしい」
二人とも俺の説明で、その果物の様な毒草をもいでみる。匂いを嗅いで、ほんとだ、なんて笑ってる。
俺は片っ端から鑑定しては大興奮して、手元のサラさんのレシピを開いては新しく現れた文字にほくそえんでいた。
「長老様! これ、使っちゃダメ! っていうのはありますか? それだけ教えてください!」
遠くの建物に小さくちんまりと座っている長老様に大声でそう訊くと、長老様は「そうねえ」と顔に手を当てた。普通に話してるような声なのに、なぜかしっかりと聞こえるのは何でだろう。そういう力があるのかな。
「こっちの若い子の葉は落ちたもの以外は使われるのを嫌がるわ。あとは大丈夫かしら? すぐに生えてくるから」
「わかりました! あ、でも落ちた葉っぱはいいんですね?」
「大丈夫って言ってるわ」
まるで大樹と意思疎通ができるかのように話す長老様に尊敬の念を抱きつつ、さらに周りの物を鑑定していく。
木の幹に生えている鉱石のような物も、しっかりと錬金素材だったし、成っている実もやっぱり錬金素材として鑑定に現れる。
「すごい! ほんとにここは宝の山だった!」
次々空欄が埋められていくサラさんのレシピに、テンションが上がるのが止められなかった。
それに、長老様の話を聞いたことで蘇生薬の成功率がひたすら上がったんだ。蘇生薬の話はこれっぽっちも出てなかったのに。
調子に乗って色々手に取っていると、ご飯を食べ終わったヴィデロさんが近付いてきた。
俺の横にしゃがみ込み、目の前の花に手を伸ばす。
「楽しそうだなマック。さっきからずっと可愛い顔をしてる」
「可愛くないよ。ごめんテンション上がっちゃって。変質者な顔してなかった?」
「だから可愛いって」
花を手折らずにただ触れてみているヴィデロさんが、優しい目をして俺の顔を覗き込んだ。
うん。ヴィデロさん滅茶苦茶花が似合うよ。俺が似合うのは雑草とか薬草とかだけど、そこに咲いているような大振りで少しクールっぽい花が、ヴィデロさんにはよく似合う。
「マックはこうして素材を目の前にしている時が一番楽しそうだな。また、行ったことないところに素材集めデートしようか」
笑いながらヴィデロさんがそう言ったので、一も二もなく頷く。したい! 素材デート!
俺の欲望ギラギラな目がおかしかったのか、ヴィデロさんはさらに笑みを深くした。
「でもその前に、セィ城下街だな」
そうだった。お母さんと対面だった。どんな話になるのかな。自分から行きたいって言ってくれたけど、ヴィデロさんはお母さんとどんな話をしたいのかな。でもそれは俺が聞いていいことじゃないから、聞きたいけど我慢我慢。
気を逸らすためにサラさんレシピ集を覗き込み、一つ作れるようになってる物があったからその場で釜を取り出して、ヴィデロさんと向き合いながら錬金をする。2人で何が出来るのかドキドキしながらかき混ぜるこの瞬間がすごく幸せで、2人で何気なく次の約束が出来るのがやっぱり幸せで。
早くこの世界に平和が訪れますようにと。俺は静かに祈るのだった。
考えていると、長老様が手をパンパンと叩いた。奥からエルフの人が真っ白い紙の束が紐でまとめられた物を持ってきてくれた。
「よければ、これをあなたに差し上げるわ。先ほどの物と同様の物なんだけれど、あなたなら活用してくれそうだもの。ぜひ、持って行って。あと里の中にある素材は好きに使ってくれていいわ。楽しい物を作ってくれることを期待するわ」
「ありがとうございます」
差し出された束を受け取った瞬間、真っ白だった紙が色鮮やかに染まっていく。
これはちょっと目に楽しいかもしれない。
ふわっと浮き上がるレシピをパラパラめくると、ヴィデロさんと雄太たちが俺の手元を覗き込んできた。
「すっげえなあ。錬金術師とか、何で隠してるんだよ」
「だって悪い人が釜を手に入れたら次の魔王になるかもしれないっていうブツを持ってるんだよ。黙ってるしかないじゃん」
「そんなに凶悪なのか? 細菌兵器とか世界中の樹を枯らしちまう物とか作ったり?」
「出来ないから」
そんなものを作ろうとしたら失敗して終わるって。
思わず笑うと、長老様が「それはねえ」とまるで世間話をするかのような気楽な表情で口を開いた。
「その『神の御使いの欠片』を全て集めて一つの『神の御使いの持ち物』を作ったら、世界を簡単に滅亡させることができるようになる物なのよ。魔大陸で魔王となってしまった人の様に。だからね、『神の御使いの欠片』のほとんどは、処分してしまったの。本当はサラが持っていた時点で処分しようかとも思ったけれど、何かが警鐘を鳴らしたのよ。処分したらいけないって。それで思い出したのよ。昔々、私たちの仲間で未来を見通せる力のあった子の呟いた言葉を」
長老様は大きな樹に目を向けて、何かを思い出すように目を細めた。
「その子はね、特殊な力の持ち主で、未来を見通すという稀有な力を持っていたの。もう何百年も前に亡くなっているんですけどね。その子が見た私たちエルフ族の未来というのが、二つほどあって」
一つは、人族と道を分かつことをしないで、人族と共に魔王と戦い、人族の手によって滅ぼされる未来。
一つは、人族と道を分かち、ただこの地脈を守るだけの日々に精神が疲弊して、感情という物がすり減り、感動も悲しみも何も感じなくなってしまう未来。
獣人たちはきっぱりと人族の元を去る決意をするなか、エルフたちはその言葉に悩んだ。中にはすぐに人族から離れるべきだと主張する者もいたが、それでもただ毎日地脈だけを管理する毎日になることで精神が崩壊するのを嫌がって残ることを強く勧めてくるエルフもいた。
これが魔王に滅ぼされる未来だったのなら、エルフ族は人族の元を去らなかった。しかし、エルフ族を亡ぼすのは、人族。
「その子の未来を見る目は、それまで一度も外れたことはなかったのよ。だから、私は決断したの。人族から離れることを。でも、その予言を残したその子は、人族の地に残ったわ。こう言い残して」
――神の御使いの欠片を扱う者が里に現れたら、エルフの未来は変質する。だから、私は神の御使いの欠片を扱える者をこの地で探す――
「それでも、持ち主のいない欠片は危険だからと片っ端から処分したの。神の御使いの欠片を扱える者は定期的に出たのだけれど、そこからこの里に来ようとする者もいなかったしねえ。だから、その扱える者が亡くなったら神の御使いの欠片を壊したの。もう何年そうしてきたか、数えるのもばかばかしいくらい月日が経った。すでにその予言を残した子もこの世にいなくなって久しい時に、サラが来たの」
長老様はふふ、と笑って口元を隠した。何かを思い出して、思わず笑ってしまったみたいだった。
サラさんは、長老様に思い出し笑いをさせるほどの何かをここでやらかしたってことなのかな。
「あれだけ皆が感情を動かしたのは、本当に久しぶりだったわ。皆がサラの言動で焦り、笑い、驚き。もちろん私も。忘れていた何かを思い出させてくれるような気がしたの。それで、ああ、あの子の言ってたことは、これだったのかしらって。でも本当にその子の言っていたエルフ族の未来の変質というのは、もっと奥が深かったの。ほんの少しのエルフたちの手によってもたらされた縁が、サラがここに来たことで私たちとしっかりと根付き、そこから巡りに巡って、複雑に絡み合って、そして、またエルフ族と人族が交わろうとしている。きっとこのことを言っていたのね、とサラとエミリを見ていて、気付かされたわ。今は、私達なんかよりももっと隔絶していた獣人たちが人族と手を取ろうとしているのでしょう。それも皆、『縁』なのです」
とても楽しそうに並ぶ姿が、未来の自分たちと人族たちの姿に重なった時には涙が出たわ、と長老様は呟いた。
ほんとにそうなるといいなあ。獣人さんたちの時も思ったけど。ここまで来るのにあんな強い魔物なんていらない、石像になって入り口を守る獣人さんなんていらない世界が来るのを、実はエルフの人たちも獣人さんたちも望んでるってことだよな。
顔をあげると、はらはらと部屋の前の木が、綺麗な緑色の葉を風に乗せていた。
宙を舞う葉は俺たちの目の前を通り過ぎ、地面にそっと降りていく。それを暖かいオレンジ色の陽が優しく照らしている。
どれだけここで長老様の話を聞いていたんだろう。雄太たちも席を立つことはなく、ただ長老様の話に聞き入っていた。
とても長い話だったような気がするし、でもとても短い時間だった気がする。気が付くと、空は既にオレンジ色に染まり、これから宵闇があたりを包んでいく気配が迫っている。
長老様と過ごした時間は、ただただ穏やかな時間だった。
長老様は「お話が長くなってごめんなさいね。おばあちゃんの話は長いのよ。自分でも呆れちゃうくらい」と笑い、手をパンパンと叩いた。
すると、俺たちの前にエルフの人たちが綺麗なお膳を持ってきてくれた。会席膳の様な、見た目にも楽しいご飯だった。
皆の口から自然歓声が上がる。
「一緒に食べましょう。今日はこの里に泊りなさいな。夜の森は陽の高い時間より危険よ」
俺たちを案内してくれたエルフの人は、いつの間にやらいなくなっていた。
エルフの人が蔦の籠に入った明かりを部屋の4隅に置くと、さっきよりもさらに外の闇が濃くなったような錯覚に陥った。
夜ご飯はとても美味しかった。一つ一つがすぐに食べ終わってしまうような大きさなのに、それが次々運ばれて来て、結局はすべての物を味わう前にお腹がいっぱいになってしまった。悔しい。まだ食べられる雄太とブレイブとヴィデロさんはさらに綺麗な夕食を楽しんでいる。もうダウンした俺とユイと海里は、食後にと出されたお茶と口直しのお菓子をちょびちょび食べながら、長閑な風景を味わった。夜のエルフの里もすごく綺麗。
まだごちそうさましていない人たちを残して、俺たちは庭と呼ぶには広い野原を見て回ることにした。
光る花や、ちょっと色的にどうなのっていう草。そして、落ちた瞬間フッと色が変わる葉っぱ。楽しい物がたくさんある。
「ねえマック君、これは? リンリン鳴って可愛い」
「『光風鈴こうふうりん』っていうらしいよ。錬金素材。綺麗な音だね。しかも光るからこの名前が付いたのかな」
「こっちのはなに? 綺麗な果物」
「それは『偽香いこう果実』だって。果物みたいなフルーティーな匂いがするけど、分類が毒草の類なんだって。少量の摂取は腹痛の緩和だけど大量摂取はやめた方がいいらしい」
二人とも俺の説明で、その果物の様な毒草をもいでみる。匂いを嗅いで、ほんとだ、なんて笑ってる。
俺は片っ端から鑑定しては大興奮して、手元のサラさんのレシピを開いては新しく現れた文字にほくそえんでいた。
「長老様! これ、使っちゃダメ! っていうのはありますか? それだけ教えてください!」
遠くの建物に小さくちんまりと座っている長老様に大声でそう訊くと、長老様は「そうねえ」と顔に手を当てた。普通に話してるような声なのに、なぜかしっかりと聞こえるのは何でだろう。そういう力があるのかな。
「こっちの若い子の葉は落ちたもの以外は使われるのを嫌がるわ。あとは大丈夫かしら? すぐに生えてくるから」
「わかりました! あ、でも落ちた葉っぱはいいんですね?」
「大丈夫って言ってるわ」
まるで大樹と意思疎通ができるかのように話す長老様に尊敬の念を抱きつつ、さらに周りの物を鑑定していく。
木の幹に生えている鉱石のような物も、しっかりと錬金素材だったし、成っている実もやっぱり錬金素材として鑑定に現れる。
「すごい! ほんとにここは宝の山だった!」
次々空欄が埋められていくサラさんのレシピに、テンションが上がるのが止められなかった。
それに、長老様の話を聞いたことで蘇生薬の成功率がひたすら上がったんだ。蘇生薬の話はこれっぽっちも出てなかったのに。
調子に乗って色々手に取っていると、ご飯を食べ終わったヴィデロさんが近付いてきた。
俺の横にしゃがみ込み、目の前の花に手を伸ばす。
「楽しそうだなマック。さっきからずっと可愛い顔をしてる」
「可愛くないよ。ごめんテンション上がっちゃって。変質者な顔してなかった?」
「だから可愛いって」
花を手折らずにただ触れてみているヴィデロさんが、優しい目をして俺の顔を覗き込んだ。
うん。ヴィデロさん滅茶苦茶花が似合うよ。俺が似合うのは雑草とか薬草とかだけど、そこに咲いているような大振りで少しクールっぽい花が、ヴィデロさんにはよく似合う。
「マックはこうして素材を目の前にしている時が一番楽しそうだな。また、行ったことないところに素材集めデートしようか」
笑いながらヴィデロさんがそう言ったので、一も二もなく頷く。したい! 素材デート!
俺の欲望ギラギラな目がおかしかったのか、ヴィデロさんはさらに笑みを深くした。
「でもその前に、セィ城下街だな」
そうだった。お母さんと対面だった。どんな話になるのかな。自分から行きたいって言ってくれたけど、ヴィデロさんはお母さんとどんな話をしたいのかな。でもそれは俺が聞いていいことじゃないから、聞きたいけど我慢我慢。
気を逸らすためにサラさんレシピ集を覗き込み、一つ作れるようになってる物があったからその場で釜を取り出して、ヴィデロさんと向き合いながら錬金をする。2人で何が出来るのかドキドキしながらかき混ぜるこの瞬間がすごく幸せで、2人で何気なく次の約束が出来るのがやっぱり幸せで。
早くこの世界に平和が訪れますようにと。俺は静かに祈るのだった。
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