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345、胸の刺青
しおりを挟むトレの街に帰り着いた俺たちは、門に立っているマルクスさんに「デートかよ畜生」と歓迎されながら馬さんを詰所に返して、その足で防具屋さんに向かった。
防具屋さんに着くと、店の奥に、どこも傷ついてないヴィデロさんの鎧がひっそりと立てられていた。
「直ってる……」
「当たり前だ。直してなきゃ呼ばねえよ」
俺の一言に防具屋のおじさんが笑いながら店の奥から出てきた。
そして、黒い鎧をトン、と叩いた。
「でもやっぱり耐久値の減りは早くなるから、あんまり無理するなよ。それと、これ」
作業台の下から、防具屋のおじさんは新しいブーツを取り出した。黒っぽい、丁度胸当てと同じような色のブーツだった。上の部分が捲られていて、そこに紐が編み込まれているかっこいいブーツ。
ヴィデロさんが注文してくれていた、俺の予備のブーツらしい。
履いてみろと言われて足を入れると、すごくぴったりフィットした。
「その折りたたまれたところを上まで持ち上げて紐で締め上げると、太ももまでガードできるやつだ。かなり柔軟性があってしかも衝撃をちゃんと吸収してくれるから、下手な金属のもんをつけるより使い勝手がいいんだ。好きな方をメインに履きな」
「ありがとうございます。マック、そのまま上まで伸ばした状態で履いていたほうがいいんじゃないか?」
俺が何か答える前に、ヴィデロさんが真顔で答えていた。
確かに太ももまでガードされてしかも柔らかいしきつさを紐で調整できるから、防具としてすごくいいブーツだった。
やっぱり紐はスピードが速い魔物の物を使ってるから、ちらっとステータスを見ても今まで履いてたやつと比べて遜色がない。どころか、防御力はこっちの方が上だった。
両方履いて上まで伸ばして紐を締めてみると、今まで以上に歩きやすかった。膝が曲がりにくいってことも全くなくて、このぴったりフィット感が何とも言えずいい感じだった。
「うん。伸ばして履こうかな。でも、変じゃない?」
自分の足を見下ろすと、なかなかにその細さが貧弱に見える。でもヴィデロさんはそんな俺の足を見て、「すごくよく似合ってる」といい笑顔をくれた。よかった。
早速お金を払おうとすると、すでに鎧の修理代と共にヴィデロさんが払ってしまったらしい。またしても出遅れた。
「マック君、ちょっとそのローブ脱いで寄越しな」
俺のカバンにヴィデロさんの鎧を収納していると、防具屋のおじさんが何かに気付いたように手を差し出した。
あ、もしかしてスライムに溶かされたところ、直してもらえるのかな。
すっかり鎧とブーツに気をとられてて、大事なローブを直してもらうのを忘れてたんだ。
脱いで防具屋のおじさんに渡すと、おじさんはすぐに作業台の引き出しから糸と針と小さな布を取り出した。
素早く手を動かして、すぐに開いていた穴を塞いで直してしまう。かかった時間、約二分。プロは違う。
「ほら。綺麗に直ったよ。ブーツといいこの穴といい鎧といい、ほんと二人は恐ろしい所に行ってたんだな。稼ぐのも大事だけど、くれぐれも無茶はするなよ」
防具屋のおじさんは俺にローブを羽織らせてくれながら、俺とヴィデロさんを交互に見て肩を竦めた。
その顔には心配そうな表情が浮かんでいて、すごく胸があったかくなる。
「ありがとうおじさん。お代は」
「おまけだ。そんな作業にお代なんて貰えねえよ」
「え、でも」
仕事は仕事だから。ただでやってもらうのはなんか。
俺はお代がダメなら、とインベントリの中から湿布薬とスタミナポーションを取り出しておじさんに差し出した。
「お金を受け取ってもらえないなら物々交換で。これ、腰とか痛くなったら貼ると痛みが緩和されるから。さっき腰をトントンしてたでしょ。あと、ちょっとクマが出来てるよ。これを飲んで、無茶しないで」
「お? だからこんなちょろい作業にお代は」
「俺にとってはそのスタミナポーション作りはちょろい作業だからおあいこだよ」
「あ? ああ……」
湿布薬は獣人特有の薬だけどね。それは言わない。おじさんは手に乗せられた物を見下ろしてから、苦笑して「ありがとよ」と受け取ってくれた。
工房に帰ると、早速鎧を所定の位置に戻した。
ようやく工房が落ち着いたみたいだった。
やっぱりこの鎧がないとダメだ。ないとなんか足りない気がしてソワソワするんだもん。
おかえり鎧、と飾り終わった鎧を撫でていると、後ろからヴィデロさんに抱きしめられた。
耳元で鎧ばっかり見てないで俺も見ろって囁かれて、思わず顔をにやけさせる。どこまで可愛いんだろヴィデロさん。
振り向いてヴィデロさんの背中に腕を回すと、目を細めたヴィデロさんのかっこいい顔が近付いた。
寝室に移動して、服を脱いでみる。
自分の胸を見下ろすと、確かに前より刺青が大きく赤くなっていた。最初は青かったのに今は真っ赤だ。
「なんでだろうね。ヴィデロさんを前よりもっと好きだから?」
愛情ゲージが溜まってこうなったんだから、もしかしたら前よりもっともっとヴィデロさんが好きだからこの刺青が大きくなったってことかもしれない。
だったらきっともっと刺青は広がってくのかな。身体中この模様で覆われたらさすがに引かれないかな。
「それだったら最高だな。もっと大きくなって、身体中を覆ったら、きっとすごく」
「すごく……?」
ドン引き? どドキドキしながらヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんは愛おし気に俺の刺青を指で撫でながら「綺麗だろうな……」と呟いた。
刺青を指でたどられて、背中をじわじわと耐えがたい快感が駆け上っていく。指が動くたびに息が上がっていく。
ただ胸を指でたどられてるだけなのに、まるで俺のモノを直に鷲掴みにされてるみたいにダイレクトに脳に快感が響く。
まだ下は履いてるんだけど、なんか下着の中が大変な状態になってそう。
向き合って立っていた俺たちだけど、すでに俺はヴィデロさんの腕に縋らないと立っていられないくらいの状態になっていた。
「マック……ここに、たくさんキスをしていいか?」
なんて指でたどりながら訊かないで。それだけで俺、昇天しちゃいそう。
ゆっくりとベッドに転がされながら、俺はすっかり熱くなった頬をそのままにヴィデロさんを見上げた。
ヴィデロさんの熱のこもった目に視線をからめとられた俺は、その熱に浮かされたように「たくさんして……」と呟いていた。
うつ伏せてお尻だけ高く上げて、ヴィデロさんのヴィデロさんを身体の奥に感じながら、俺は枕を涎と汗で濡らしていた。
手加減しないでとお願いしたら、ヴィデロさんは今日は遠慮もせずに俺の性感帯をダイレクトに攻めてきた。
今も片手が腰の傷を撫でている。それだけでヴィデロさんのヴィデロさんをさらに締め付けていて、俺のモノは布団に液体を零し続けてる。
さっきも一回頭がパーンってなって、それ以来ずっと身体が絶頂をきめっぱなしな気がする。口閉じれない。声押さえられない。気持ちよすぎて腕に力が入らない。愛し合うことを重ねる度に俺の身体がヴィデロさんの熱を感じやすくなってる気がする。前は薬の効果が切れたらリセット、って感じだったのに。
ヴィデロさんは、俺の目の前に星が飛ぶのと同時に最奥に熱を吐き出して、それからゆっくりと俺の中から出ていった。
抜けたと同時に足の間をヴィデロさんが出したモノが垂れた感触があったけど、もう拭く気力もない。スタミナポーションどこだっけ。
いまだにじわじわと熱の残るお腹の奥の余韻を味わいながら、俺は肩越しにヴィデロさんを見上げた。
「マック、その格好、ちょっとクるものがあるから、普通の格好になろうか……」
少しだけ口元を抑えたヴィデロさんは、持ち上がっていた俺のお尻を拭くと、優しく身体を仰向けにしてくれた。
でもやっぱりヴィデロさんをスタミナ切れでヘロヘロに出来てないのが悔しい。俺ばっかり。
ちょっと悔しくて口を尖らせていると、ヴィデロさんが横に転がってきた。スッと俺の頭を持ち上げて、腕枕をしてくれる。ああ、もうこの瞬間なんでも許せちゃうよ。
俺は身体をぴとっとくっつけて横に転がるヴィデロさんに、ちょっと掠れた声を出してスタミナポーションを要求した。
「でも転がって飲むと零れるぞ」
枕元にある小さなテーブルからスタミナポーションを取ってくれたヴィデロさんは、そう言うと、それを自分の口に含んだ。
そして、口移し。
流れ込んできた液体を飲み下すと、体のだるさがスッと消えた。
よし回復。……でも、待てよ。これ、ヴィデロさんも口に含むんだから、ヴィデロさんもスタミナ回復してるってことかな。
俺はがばっと身体を起き上がらせて、ヴィデロさんの胸に乗り上げるようにしてヴィデロさんを見下ろした。
いきなり動いた俺に目を丸くしたヴィデロさん可愛い。好き。
身体まで乗り上げた俺は、ヴィデロさんの腰を跨ぐようにしてヴィデロさんを組み敷いてみた。
まだヴィデロさんの手にあったスタミナポーションの瓶を取り上げて、置いてあった場所に戻すと、今度は俺からキスを仕掛けていく。
まだ時間はあるから。今度こそヴィデロさんをヘロヘロにしたい。
そんな欲望を滾らせながら、俺は未だ元気なヴィデロさんのヴィデロさんを自分から腰を降ろして呑み込んでいくのだった。
後にヴィデロさんは、「襲われるのも最高……」と最高の笑顔で言ってたのはまた別の話。
『試練クリア。やべえなあの試練。心を抉る試練だった』
次の日、ハルポンさんからそんなチャットメッセージを貰った。
目の前には、ヴィルさんのアバターと赤片喰さん。そして、ユキヒラ。
ユキヒラもハルポンさんと一緒に入った組だったから、詳しい話を工房で、ということになった。
俺の工房、ヴィルさんたちの拠点になりそうな予感がする。
ヴィデロさんは今日は仕事でいない。
俺が淹れたお茶を飲みながら、俺たちはユキヒラの詳しい話を聞いた。曰く。
全員がクリアすると、あの1440時間のペナルティはつかないらしい。ってことは、またすぐ入れるってことだ。
そして、詳しい内容を聞いたところ、俺たちの報酬に書かれていた『大陸の歯車』っていうのはなかったらしい。
赤片喰さんが、「初回突破特典みたいなもんか」なんて呟いてたのが妙に納得できた。
そして無事皆限界突破の結晶を貰って、早速使ったそうだ。
「マジであれ、すぐ入れるっつっても入りたくねえ。何度死ぬと思ったかわからねえ。特にあのスライム。あれから逃げるのが最悪に酷かった。乙のやつが持ってた魔物肉を撒いて、それにスライムが群がってるうちに距離を稼いで何とか逃げたって感じだった。けど、他の所じゃマックの聖水を撒いたら足止めになったとか言ってて、そのための聖水だったのかって皆で顔を見合わせたよ。先に言えよっての」
神殿を出たその足でトレの街に来たユキヒラは、回復した今も精神的に参ってるみたいだった。
最後の試練、影の魔物に攫われたロミーナちゃん救出っていう試練だったらしい。早くしないとロミーナちゃんが影に取り込まれるっていう物で、ユキヒラは半パニックだったらしい。
ふざけ半分で口説いてると思ったら、実は本気だったのがその試練内容でわかってしまった。
「マジ泣きそうだったぜ。いきなりセィの雑貨屋の前でよ、なんかヤバい黒い奴らがロミーナちゃんを連れて行っちまうんだぜ。切っても切れねえし。聖魔法しか効かねえし! 忠告された通り、インベントリに回復系入れてなくてよかったよ! インベントリ開けねえんだもん。あれ、中に入れてたら最初の時点でロミーナちゃんが影に取り込まれるところだったぜ……」
思い出しただけで目に涙が溜まっているユキヒラを、俺とヴィルさんと赤片喰さんは温かい目で見守っていた。
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