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346、ギルドでクエスト
「健吾、向こうの工房の部屋、ちょっと弄ってもいいか? 費用は俺持ちで」
「いいですけど……」
バイト中、ヴィルさんにいきなりそんなことを言われて、俺は深く考えずに答えていた。
自分であの狭い部屋を広くするのかな。
なんて軽く考えていたんだけど。
特に工房は変わったところはなく。
俺は数日こもりきりでハイパーポーションを作り続けていた。
騎士団納品用の物と、自分専用。神殿でかなり使ったからね。雄太にもかなりの数あげたから、ストックしとかないと。
ヴィデロさんが仕事なのは知ってるから、ひたすらこもって薬師家業をしていた俺は、とうとう耐え切れなくてヴィデロさんのところに強襲することにした。
顔見たい! 抱き着きたい! 鎧だけじゃ満足できない!
すっかりヴィルさんの言っていたことを忘れ去っていた俺は、ただヴィデロさんの顔を見たい一心で工房の外に出た。
そこで目に入る真新しい建物。
工房の右隣は空き地だったはずなのに、新しい建物が建っていた。
誰か引っ越してくるのかな、なんてしげしげと見ると、何か違和感が。
「……俺の工房と繋がってる……?」
なんとその建物と俺の工房の間に、渡り廊下みたいな通路があった。
あれは丁度、ヴィルさんの部屋の所……。
俺は慌ててフレンドリストを開いてヴィルさんに連絡を取ろうとして、ログインしていないことを示す灰色のヴィルさんの名前にがっくりした。
いいや、ヴィルさんがいるときに聞こう。
っていうか、いきなり建物を建てるって、ヴィルさん、こっちの世界でも稼げる何かを始めたのかな。その金策、雄太に伝授してあげて欲しいよ。昨日もチャットで鎧代がねえ! と喚いていたから。
ざかざかと門まで歩いていくと、ヴィデロさんが門番さんの鎧を着て立っていた。
ついつい走り寄って抱き着いていく。途中で俺に気付いたヴィデロさんも、手を広げて待っていてくれた。
「マック。ここ二、三日顔を見なかったけど、何してたんだ?」
「工房にこもってひたすら薬作ってたよ。でももう耐えられなくて、ヴィデロさんの顔を見に来たんだ。会いたかった」
「俺もマックの顔を見たかった。そうだマック。工房、また増築したのか?」
あ、ヴィデロさんはあの建物知ってたんだ。知らぬは家主オレばかりなり、ってことか。外にも目を向けないといけないと身を以って知ったよ。
「あれは……ヴィルさんが」
溜め息と共にそう言った瞬間、ヴィデロさんの表情が少しだけ顰められた。
「あいつが……いつも、あいつが迷惑かけて、ごめんな……」
「迷惑とかじゃないんだけどね。ヴィルさんって次にどんな行動をするのか全く読めないから、驚くだけ。でも今度どうなってるのか訊いてみないと」
「明日なら俺も休みだからよければ一緒に行っていいか?」
うん、もちろん、と答えようとして、ヴィデロさんが槍を地面にタン! と突いたのを見て、答えを躊躇った俺。ヴィデロさん、なんか怒ってない、かな。笑顔もちょっとだけ怖いよ。でもその顔も好き。
明日の約束をして、門を後にした俺は、なんとなく冒険者ギルドに行ってみることにした。
あのギルドの極秘情報っての、そういえば内容をエミリさんに聞いただけで張り出されるのは見てなかったし。
夏休みなせいか平日午前中なのに人通りの多い大通りを歩き、久し振りに冒険者ギルドのドアを潜る。
そういえば俺、冒険者ギルドの依頼って最初のころしか受けてないや。この街に来てからはずっとクラッシュの所に直接納めるようになって、お金に余裕が出来たから。
依頼の貼ってある掲示板を見つつ、カウンターのさらに奥の情報関係の掲示板に向かう。
たくさんの紙が貼り出されていて、その前には数人のプレイヤーが貼り紙を見ていた。その人たちの間に立って俺も掲示板を覗き込む。
「教会……まだまだ混乱中なのかな」
情報の中には、閉鎖中の教会などもあって、ここトレの教会も閉鎖中となっていた。
辛うじて開いているのが、セィの総本山と王が決めた城下街の教会のみ。でももう呪いはそこらへんで売ってるディスペルハイポーションで事足りるし、聖水もなんだかんだでエミリさんが権利をぶんどったらしく、冒険者ギルドで売ってるから、実際に教会はあっても意味がない状態になってるんだよな。ただ、やっぱり聖魔法取得は教会でっていうのが一番の早道らしいから、そういう点ではないとよくないらしいんだけど。聖魔法、そういえばユキヒラは聖魔法レベル99まで育て上げてたらしい。今回の神殿クエストで、聖魔法がまたレベル上がるようになったとか。スキルレベル99って、どれだけやりこんでるんだろ。
教会情報を目で追っていると、最後に一つ、貼り紙が貼られていた。
『複合呪いでお悩みの方、一度ご相談ください ギルドマスター』
走り書きの様に書かれたメモ用紙が、ピンでとめてあった。
「あ、マック! いいところにいた! ちょっと相談があるのよ!」
タイムリーにエミリさんの声がして、俺は、その相談がディスペルハイポーションの話だな、と直感でわかった。
エミリさんの執務室に通されて、ソファに座る。もう何度ここに座ったかわからないけど、普通の人は統括の執務室ソファなんて座ったことないんだろうなあ。
インベントリから聖水茶を取り出してエミリさんに振舞いながら、目の前でニコニコとお礼を言っているクラッシュそっくりの美人に視線を向けた。
「さっき掲示板前に立ってたじゃない。見てくれた? そのことで相談が」
「ディスペルハイポーションランクSを売ってくれ、ですか?」
「察しがいいわね」
わかるから。
お茶を啜りながら、思わず苦笑する。
「本当なら先にマックに了承を得るのが正しいっていうのはわかってるのよ。でも今教会の中もごたごたしていて、ちょっと目を離せない状態なのよね。だから、セイジからも助言もらったんだけど、マックのその技術、ギルド預かりにして目隠ししちゃえばいいんじゃないのって思って。ギルドの方で扱えば、例えばマックが教会に何かされても大々的にギルドが介入できるようになるし、ディスペルハイポーション自体はレシピも公開されているから、誰が作ったかっていうのも目隠しできるのよ。ちゃんと報酬も払うし、悪いことはないと思うの。っていうか、複合呪いを解けるアイテムをマックが独自に持って歩いていることが教会にバレることの方が怖いのよね」
「ああ、クラッシュも言ってました。自分の店では扱いたくないって。教会に拉致されるから」
「まさにそれ。だから、ね、お願い。ディスペルハイポーションランクS、ギルドで取り扱わせてくれないかしら」
エミリさんの言葉から、利益を出そうとかそんなことを考えて扱わせてくれって言ってるわけじゃないことがわかる。
確かにギルド経由で世に出せば、誰が納品した物を売ってるとか全く情報は洩れないし安心なんだよな。
エミリさんが「ね」と自分の顔の前で手を合わせた瞬間、ピロンと音が鳴った。もしかして、今のエミリさんのお願いがクエストになったってこと?
俺はエミリさんに「ちょっと失礼します」と断って、クエスト欄を開いた。
『【NEW】冒険者ギルドと手を組もう
ディスペルハイポーションの取り扱いについて冒険者ギルドが介入してきた
エミリと話し合い、教会の介入を避けつつディスペルハイポーションランクSを世に送り出そう
ディスペルハイポーションランクS 1本納品
クリア報酬:冒険者ギルドランク値上昇 冒険者ギルド優遇権 街人との友好値上昇 『絆』値上昇 ???
クエスト失敗:教会側にディスペルハイポーションランクS製作者を知られる 街人との友好値下降 『絆』値減少クエスト発生』
何だこれ。
クエスト欄を読んでそう思う。
成功ならいいけど、失敗って。
『絆』値減少クエストが発生って、文字見てるだけでヤバいクエストっぽい。これは失敗できない。
連動クエストなんて面白そうじゃん、なんて安易に失敗してみるなんて俺には出来そうもない。
俺はクエスト欄を閉じると、表情を改めてエミリさんに向き合った。
「是非、詳しい話を聞かせてください」
「よかった。マックならそう言ってくれると思ってたわ」
エミリさんはホッとした様な表情を一瞬だけ浮かべると、テーブルに身を乗り出した。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。