これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
331 / 744
連載

414、首脳会議のすみっこで

しおりを挟む
 早朝だったけれど、ユキヒラはログインしていたので、メッセージを送る。



『宰相さんに伝えて欲しい。エミリさんの了承を得たからこれから行くって。獣人代表も一緒に行くからよろしく伝えておいて。そして、オランさんの手が生えたよ。まだ仮腕だけど』



 メッセージはすぐに読んでもらえたらしい。そこまで間を空けずにユキヒラから返答がきた。



『昨日のうちに長光からそれっぽいことを聞いたから知ってる。そして腕、見せてもらった。こういうのはすぐに言えよ、その場にいたんだから。でもまあ、獣人の村に行けるようになったからよしとする』

「え?! ここに来たの?!」



 思わず声を出すと、ケインさんが首を傾げた。



「どうしたんだ?」

「ここにユキヒラが来たって聞いて」



 いつの間に、と呟くと、オランさんがくつくつと笑った。



「昨日、マックと別れて村に帰ってしばらくしたら、セイレンから連絡があってな。すごい形相で駆け込んできた奴がいると。俺の手が治ったって本当かと詰め寄られるがどう返答すればいいか訊かれたので、そのままここに連れてきてもらった。あの聖騎士、ユキヒラだったか、あいつはとても心が綺麗な人族だな。俺の腕を見て、涙を流していた」



 その時のユキヒラを思い出してか、オランさんの目が細められた。

 ああ、泣くよな、ユキヒラ。あれだけ気にしてたんだもん。ほんとごめん、連絡遅くなって。

 今日もし宰相さんと一緒にいたら謝ろう。



「あいつはすごくいい奴です。たまに熱いし強い魔物もソロで倒しちゃう変人ですけど」



 俺が付け足した言葉に、オランさんはさらに笑った。そして、マックに変人扱いされるとは、という呟きを漏らしていた。待って、それじゃ俺も変人って感じじゃん。



「俺はそんな変人じゃないですよ。辺境をソロで歩いたりなんてしないし」

「俺たち獣人と最初から普通に接する人族は十分変人だ」



 オランさんの笑いながらの一言は、想像以上に俺の心にダメージを与えた。オランさん、今はもう、獣人を虐げる人はいないよ。

「これが普通なんです」と首を振って、「そう感じたからオランさんも村の獣人さんを外に出そうって思ったんでしょ」とオランさんにではなく、独り言のように呟いた。





 ケインさんにセィ城下街の場所を地図で教えると、ケインさんは座標みたいなものを魔法陣に描いて、本当にセィ城下街の近くに跳んでくれた。ケインさん曰く、その座標がわかればどこにだって跳べるらしい。俺にはまねできない。

 壁の外だったけれど、本当にすぐ近くだったので、今度は俺が全員を連れて王宮の中のアリッサさんの魔道具研究室まで一気に跳んだ。

 目の前には、驚いた顔をした宰相さんとアリッサさんがいた。あれ、ユキヒラはいないんだ。



「お久しぶりです、アリッサさん」



 驚きすぎて固まっているアリッサさんに声を掛けると、アリッサさんはようやく動き出した。



「え、ええ。久しぶりね、マック君。そしてヴィデロ。後ろの方たちは、アンドルースの言っていたギルドのトップと、幻の獣人さんたちかしら。今日はご足労いただきありがとうございます」



 一歩前に出て、ヴィデロさんにハグをした後、エミリさんに手を伸ばした。

 エミリさんは笑顔でその手を握り返す。

 そして、アリッサさんはさらにジャル・ガーさんに手を伸ばしたところで、首を傾げた。



「あなたは、どこかで……」

「元気そうで何よりだ。無事自分の所に戻ったみてえだな。久し振りだな、って言っても憶えてねえか。石像だ」



 ジャル・ガーさんがニヤリと自己紹介して、アリッサさんの手を取った。

 アリッサさんが握手してない方の手で口もとを覆う。嘘……という小さい呟きが俺の耳にも入ってきた。



「本当に、あの石像の……?」



 アリッサさんの呟きに、ジャル・ガーさんはしっかりと頷いた。

 そう言えば帰れることを教えたの、ジャル・ガーさんだった。前に会ったことあったんだよね、この二人は。



「……あの時は、助言を本当にありがとう。この子も無事ここまで大きくなって、私もやりたいことが出来るのは、あなたがいて、私に道を示してくれたからよ」

「俺の目の前でもとの世界に帰っていったから、ちゃんと迷わず自分の世界に帰れたかどうかかなり心配ではあったんだが」

「この通り無事よ。あなたのおかげでね」

「そりゃよかった」







 ユイルとケインさんも紹介して、俺たちは無事テーブルを囲むことが出来た。

 とはいえ、俺とヴィデロさんは話し合いに混ざる立場じゃないんだけどね。

 エミリさんと宰相さんも、前の確執を思わせるような表情をしてはいないことに安心した。

 ピロンと通知が来たので、ホッとしながらクエスト欄を開く。



『異種族交流を再開させよう



 異種族間交流のための話し合いをしたいと宰相から申し入れがあった

 人族、エルフ族、獣人族、異邦人を集めて、顔合わせをさせよう



 タイムリミット: 3:47



 クリア報酬:歯車噛み合い強化 縁強化 魔道具

 クエスト失敗:異種族が集まらなかった 歯車の欠け発生



【クエストクリア】



 無事それぞれの種族の者を集めて顔合わせさせることが出来た



 クリアランク:C



 クリア報酬:歯車噛み合い強化 縁強化 魔道具(C)』



 間に合ってよかった。

 クエスト欄を閉じながら、さっきから打ち合わせをしているメンバーを見回す。

 俺とヴィデロさんはほぼ話を聞いているだけだから、手持ち無沙汰なんだ。



 話し合いの内容は、各街間を繋ぐ転移魔法陣の詳細とルールの照らし合わせ。

 ケインさんが主に話をしている。

 そしてユイルは話の邪魔にならないようにと俺の膝の上。撫でる感触がとても気持ちいい。ユイルも気持ちよかったらしく、寝息を立てている。可愛い。

 ケインさんは転移魔法陣を通るための設定を皆に教え、エミリさんが管理内容を伝え、それを宰相さんが国のお触れとして出す内容に反映させて、アリッサさんは公式HPに載せるための内容確認。

 恐ろしい組み合わせだ。本当に異種族会議。っていうかケインさんが来てくれてよかった。実際に設置したのケインさんだから。

 既にすべての街のギルドの一室に魔法陣は設置済みだそうで、本当はもう使えるらしい。エミリさんは実際に色々移動してみたんだって。



「じゃあ、ちゃんと個別登録されて、一度触れたところじゃないと移動が出来ないのね。パーティー単位の移動は無理。ありがたいわ。話を聞いた時点でもしレベルの低い異邦人が強い魔物のいるところに跳んでしまったらと考えていたところだったのよ」

「問題ねえ。行商の奴らも使えるようになるし、ただそうなると、行商人もこの姉ちゃんのギルドに登録しねえといけなくなるけどな」



 その後は行商の人の馬車はダメ、とか一度通るごとに通行料が発生するから、荷物が多い人は善し悪しだとか、そういう護衛の依頼が減るとか色々と問題点が上がっていく。

 それに対する解決案がまた俺では考えもつかないような高度なことが飛び交いすぎて、やっぱり俺はこの場にいるのはふさわしくないというかおかしいだろと感じながら、冷めたお茶を啜った。







 話し合いは何時間にも及んだ。

 途中ユイルが飽きてジャル・ガーさんの膝の上をグルグル尻尾を追いかけて遊んだりして、場を和ませてくれたけど、やっぱりここまで大事だと詳細を決めるのは大変みたいだった。

 口を出せない俺が欠伸を噛み殺していると、ピロンとチャットメッセージが届いた。



『無事母に会えたか?』



 ヴィルさんからだった。

 目の前で喧々囂々しているメンバーを見回しながら、俺は『はい』と返す。

 そしてその後、『俺とヴィデロさん、ちょっと場違いで小さくなってます』と送ると、『頑張れ』という応援のメッセージが届いた。頑張って壁になってろってことかな。

 溜め息を呑み込んだのと同時に、ユイルがひょこっと頭を上げた。



「おなかしゅいた……」



 その一言の呟きで、首脳会議が一旦休憩になったのは言うまでもない。







 モントさんに採れたて新鮮野菜を届けてもらって、ユイルでも食べれるようなご飯を作ることになった俺。続きの隣の部屋にある簡易キッチンに立って、お湯に野菜を入れていく。野菜スープ時短バージョン製作中。

 アリッサさんは目を輝かせて俺を見ている。



「私、マック君の作るご飯大好きなのよ」

「ふふ、奇遇ね。私もマックの作るおかしな食べ物大好きよ」



 女性二人が意気投合しているけど、今日はユイルに合わせた薄口の食べ物だからね。あの佐久間さん好みの味とかサラさんの料理を連想されるヘンテコ料理も作らないよ。

 ユイルはひたすら俺の手元が気になるようで、ケインさんに抱っこされて俺の横から覗き込んでいる。



「おにいちゃんのおててしゅごいねー」

「母ちゃんの料理だって美味いだろ」

「おかあしゃんのご飯もしゅきー。でも前にえいゆうのところでたべたおにいちゃんの『ニモノ』がとってもおいしかったの」



 ねーとヴィデロさんと顔を合わせるユイルとヴィデロさんが可愛いです。お料理頑張れます。というか宰相さんはこんなところで食べていいんですか。毒見とか色々あるんじゃないのかな。

 出来上がった料理を、さっきまで書類を開いていたテーブルに並べて、特別にモントさんが焼いたと言って持ってきてくれたパンを添えると、皆お腹が空いていたらしく目を輝かせた。

 食べ終わるとまたさっきの続きが始まりそうだったので、俺は間食用にとインベントリに入っていたサンドイッチを差し入れて、今度こそヴィデロさんとともにその場から離れることに成功した。実際俺たちは話し合いに入れなかったので、いない方がいいんだよ。ユイルがちょっと寂しそうな顔をしていたけど俺たち邪魔してそうだったから。あとは公式発表を待てだよ。

 首脳会議を逃れた俺たちは、俺の転移魔法陣で一路トレを目指したのだった。

 それにしても、代表になるような人たちってものすごくパワフル。

 
しおりを挟む
感想 537

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。