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420、迷子の子をお届け
しおりを挟む「どうするもこうするも、お前も一緒に行ってこいよ」
後ろから声がかかる。皆で振り向くと、ブロッサムさんが鎧姿で出てきた。
「俺が替わるから、ガレンはちゃんとその子を親元に送り届けて来い。絶対に心配してるからよ。ヴィデロも、よければマックも手伝ってくれねえか? このガタイのいい二人が連れてったら相手がビビっちまうかもしれねえし。緩衝材になってくれ」
ほら行った行った、とガレンさんの背中をトン、と押したブロッサムさんは、早速一緒に立っていた門番さんに「てなわけだからよろしくな」と声をかけていた。
途端にピロンとクエストになる。俺は慌ててそのクエストを開いた。
『【NEW】迷子の子を送り届けよう
人族の子が迷子になって表通りに出てきてしまった。
無事親元に届けよう
そして無事元気な家族を見届けよう
タイムリミット:6日
クリア報酬:レシピ トレ街居住区住民好感度上昇 獣人との親愛度上昇
クエスト失敗:時間内に親元に送り届けられなかった 元気な家族を見届けることが出来なかった 親愛度下降』
タイムリミットは6日。でも明日も学校があるから、今日は夜しか探してあげられない。それにちょっと引っかかるクエスト内容だし。
元気な家族って。なんか、不安がよぎる。
早いうちに見つけないと。
気合いを入れると、ヴィデロさんがポン、と俺の肩に手を置いた。
「居住区となると、俺もあまりわからないから、こういう時は衛兵の方に一旦顔を出して、迷子の届けがないか調べた方が早い」
「そっか。そうだね。きっと迷子の届け出出てるよね」
「ああ」
「よし、んじゃ行くかあ。しっかり掴まってろよ、チビ」
「あい」
ガレンさんの肩で機嫌よく返事したその子は、のっしのっしとガレンさんが歩き始めると、歓声を上げた。可愛い。
ガレンさんの耳が倒れてるから、その歓声はちょっとガレンさんには耳障りだったのかもしれない。けれど、子供を抑える手はしっかりとしていて、子供は宝だ、という獣人さんたちの気持ちをその行動で体現していた。
ヴィデロさんに案内されて衛兵の詰所に行く。
冒険者ギルドの裏手にあるその詰所は、表通りと居住区の丁度中間くらいに位置しており、どっちのもめごとにもすぐに対応できるようになっていた。
詰所の窓から中を覗くと、そこにはランディさんが座っていた。
「あれ、ランディ、ナスカ村の方はどうなったんだ?」
「ようヴィデロ。向こうは出向期間が終わって次のやつと交代になったぜ。まだ向こうの村にいたかったんだけど、交代しないとダメだって言われて渋々戻って来たよ。よう、ヴィデロの恋人君」
「はい。もうお元気そうで何よりです」
「あ、バカ、ヴィデロには内緒って」
前に会ったのは複合呪いに掛かっていた時だったから、すごくげっそりしてたランディさんは、今日は最初に見た時の様に元気そうだった。だからその挨拶をしたんだけど、そういえば言うなって言われてたんだった。忘れてた。
焦って俺の言葉を止めるランディさんに、ヴィデロさんが窓から手を伸ばして襟首を掴む。
そしてぐいっと自分の方に引き寄せて、すごくイイ笑顔で顔を近づけた。
「俺に内緒でマックと何かしてたのか……?」
笑顔で訊くのがとても恐ろしい。ランディさんも、焦ったように「ちょ、待てヴィデロ、誤解だ!」と弁明している。
「何もしてないって……!」
「ヴィデロさん。ほんとに何もしてないよ」
首が締まっているらしいランディさんが大変なことになりそうだったので、俺はヴィデロさんの素敵な腕を掴んで二人の間に口を挟んだ。
ホントに何もしてないよ。あの呪いを治したのはエミリさんだから。俺は付いてただけ。次に行ったときはクラッシュと一緒だったし。その時は全部クラッシュが説明してたから、俺は横で聞いてただけだから、ほんとに何もしてないよ。
「呪い……?」
「そう、俺さ、ちょっと情けない話なんだけど、複合呪いに掛かってな。それを治しに来てくれたのが統括で、そばにいたのがお前の恋人だったんだよ。でもってその後クラッシュの野郎がお前の恋人を伴ってきて、その俺が呪いを受けた物を始末しに来たって、ただそれだけ。お前に「呪いなんか受けやがって」と笑われたらたまらねえから、黙っててくれって頼んだんだよ……今言っちまったけどな……」
「クラッシュと……複合呪い……」
あ、そこは思い出さないで。俺の黒歴史。最大級の恥ずかしい話だから。
ランディさんの胸元から手を離して、ヴィデロさんは遠い目をした。
「マックの、兎姿……」
「ちょ、待ってヴィデロさん! そんなことより迷子の子を届けるのが先!」
何かを思い出しているヴィデロさんの意識を覚醒させるために掛けた発破は、見事ヴィデロさんを正気に戻したみたいだった。
キッと顔を上げて、「訊きたいことがあったんだ」とランディさんにもう一度声を掛けた。
「迷子の届け出は出てないか? 表通りに子供が迷い込んで来てしまったんだ」
「迷子……? いや、今の所ねえな。おい、スラン、迷子の届け、出てるのあるか?」
ランディさんが後ろの方に声を掛けると、衝立のようなところから一人、やっぱり見た事あるような人が出てきた。
「ようヴィデロ。迷子って、今の所何も。んで、迷子の子ってのはどこだ?」
窓を見て首を傾げるスランさんという衛兵さんに、ガレンさんが子供を見せるように身を屈ませる。そっか。背が高いから、子供が窓の枠外なのか。そっか。なにを食べたらそんなに大きくなるのかな。
子供を見たスランさんは、あれ、という顔をした。
「アルルじゃないか? 何で家の外にいるんだ?」
「スランにいちゃん!」
スランさんの顔を見て、子供がバタバタと暴れはじめる。
ヴィデロさんに「知り合いか?」と訊かれて「ああ、俺の両親が住む家の二軒隣の家の子だ」と教えてくれた。
ガレンさんの肩からスランさんの手に移った子供は、今まで何も言わなかった口を開いた。
「おとさんとおかさんがねちゃったの。おなかすいたから、おそとにでてみたの。おとさんとおかさんに、ひはあぶないよっていわれたから」
「あの二人が揃って寝てる? アルルの起きてる時間に……なんだそりゃ、ありえねえ……」
腕の中の子供の言葉に、スランさんの顔つきが変わる。
「ちょっと待ってろな。今詰所にある救急のセット持って連れてってやるから」
「あい」
「つうかはらへってるのか? 何か食べるか?」
「あのね、おおきなとらさんにご飯もらったの。おいしいの」
「そか……」
ホッとした様な顔をして、スランさんが窓から身を乗り出してガレンさんを見上げた。
「サンキュ。新しい門番だっけ。あとは俺が引き受けるから。この子知り合いの子なんだ」
「わかった。気を付けろよ。あんまりいい匂いがしねえから。マックとヴィデロは一緒に行ったほうがいいかもな」
「何かわかるのか?」
「ちょっとした違和感がこの子の身体から匂ってたんだが、話を聞いてわかった。もしかしたらこの子の両親は何か病に倒れてるかもしれねえ。でも俺はヒイロじゃねえから行っても何も出来ねえからよ。代わりにマックが行ってくれ」
「わかりました。病か……」
俺たちの会話を聞いていて、スランさんが更に青くなった。
「だったら、この救急箱を持ってたところで何の役にも立たないじゃないか」
「病は回復薬じゃ治らないからな」
「……とりあえず行ってみる。忠告ありがとうな、でかい虎の門番」
「おう。感染するやつだったらことだから、口元覆えよ」
「わかってる」
そうだよな。病気は治らないんだよな、ハイポーションとかで。傷は一瞬で治るから勘違いしそうだけど、ハイポーションって万能じゃないんだよなあ。
でも、と俺は前に作った物を思い浮かべた。
あれなら何とかなるかも。
「少しだけ待っててもらえますか、工房から取ってきたい物があるんで」
「急いでな。なんか早く行かねえとヤバそうだ」
「一瞬で行ってきます」
スランさんにそう答えると、俺はすぐに魔法陣を描いて工房に帰った。
そして、倉庫のインベントリから、前に作った『万能薬』をありったけ取り出した。
これ、身体の中の病魔に効くはずだから、もしかしたら効果があるかも。
とりあえず『鑑定眼』を使って確かめてみると、内容は『身体の中に巣食う病魔や猛毒を微量の電気で焼き切り根絶する。病巣を焼き切るまでには5日ほどかかるため、その間は帯電しやすくなるので注意。使った者のスタミナの減少値が早くなるため、常に回復を心掛けなければいけない。無理をすると芯まで焼き切ることが出来なくなる』となっていた。前に鑑定で調べた時より全然詳しく載っていて、思わずうなずく。これだ。
急いで詰所まで転移で戻ると、ランディさんとスランさんが驚いたように目を見開いていた。
「用意出来ました! 行きましょう!」
気合いを入れてそう言うと、スランさんは「お、おう」と気を取り直したように詰所から出てきた。
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