これは報われない恋だ。

朝陽天満

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424、友人って大切だよね

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 ヴィデロさんと並んで衛兵の詰所に行くと、ランディさんとスランさんは外で待っていてくれた。

 内勤っていうのかな。そういうのは違う人と変わってもらったみたいで、2人とも衛兵の制服は脱いでいた。

 窓は開けられていて、中にいる年配の衛兵さんが「飯、楽しんで来いよ」と笑顔を向けていた。



「んじゃ、まずどこか行くか。どこがいい、ランディ」

「裏の定食が食いてえ。ヴィデロ、そこでいいか?」

「裏の定食屋か……しばらく行ってないな」



 三人で食べに行く場所を相談し始めた姿を、俺は黙ってみていた。

 裏の定食屋ってどこだろう。美味しいのかな。裏って言うと、居住区の方にある店かな。どんなメニューがあるんだろう。

 そんなことをちょっと思ってしまったのが顔に出たのか、ヴィデロさんはちらりとこっちを見ると、フッと笑って「そこでいい」と頷いた。



 ヴィデロさんとランディさんに挟まれて案内された食堂は、まさに居住区の食堂だった。

 中に入ると、そこまで広くはない店内は結構な人だかりだった。店内には美味しそうな匂いが漂っている。



「いらっしゃい。あら、三人とも久しぶりね。顔を見なかったけど、元気そうねえ」



 忙しそうに動いていた女性が、ヴィデロさんたちの顔を見てにこやかに声を掛ける。

 奥に一つ4人掛けテーブル空いてるわよ、と指さしてから、呼ばれている席に向かって足を進める。

 その空いている席に俺たち4人は座った。

 ざわざわと喧騒が凄い。こんな中話をするのかなとも思ったけれど、2人は特に難しい話題は出さなかった。

 そして普通に今日のおすすめを頼む。ヴィデロさんも今日のおすすめを頼んでいた。



「俺は何にしよう」



 カウンターに示されているメニューは、「今日のおすすめ」と「肉定食」と「新鮮野菜定食」と「酒」のみ。うん、豪快。



「この新鮮野菜定食ってどんなの?」



 そっとヴィデロさんに聞くと、カイルさんの所の野菜をふんだんに使った塩味の野菜炒めらしい。美味しそう。ちなみに肉定食っていうのは、トレの森に大量に生息している狼型の魔物からドロップする肉を使うらしい。安定供給してるんだって。そういえばギルドの依頼掲示板に常に狼肉の納品依頼出てた気がする。

 そして今日のおすすめっていうのが、毎日どんなおかずが付くかわからない一品なんだって。その日に仕入れることが出来た物をおすすめとして作るんだそうだ。どんな物が出てきても、味付けは大抵美味しいから外れはないって。

 というわけで、俺も今日のおすすめを頼むことにした。

 しばらく三人の友人トークを聞いていると、「お待たせ。ちょっとだけ量増やしといたよ。あんたたち久しぶりなんだから」と店員さんがウインクしながらトレイを運んできてくれた。

 トレイの上には、丸いパンとスープと、ちょっとしたサラダと、あと、なんだかわからない肉の塊。しっかりと煮込まれてるようで、すっごく美味しそうな香りがする。そうか、入った時の匂いってこのおすすめの匂いだったんだ。

 既に食べ始めているランディさんに習って、俺も早速フォークを手にした。

 肉の塊にフォークを刺してみると、ほろりと肉が崩れる。うわ、なんだこの手ごたえ。

 ナイフなんて使わなくても食べられる大きさになる肉を口に放り込むと、じわっと甘めの汁が染み出してきた。しかも手ごたえがほろりなのに、ちゃんと歯ごたえはあるのがすごい。



「今日は大当たりの日だな。うめえ」

「そうだな」



 ランディさんとスランさんがそう言って頷き合ってるのに、俺も同調してうんうん頷く。

 こういうの、俺も作ってみたいなあ。



「どうやってこんな風に作るんだろ」



 咀嚼してから思わず呟くと、思ったより近い位置から「そりゃ2日くらい煮込み続けたからねえ」との返事が返ってきた。



「二日も煮込んだんですか。だからこんなに柔らかいんだ……」

「肉もね、すごくいい状態の霜鳥の肉が大量に入ったからさ」

「この肉、「霜鳥の肉」っていうんですか。すっごく不思議な歯ごたえですね」

「最高だろ。あたしと旦那の力作だよ。ちょっと割高な値段になっちゃうけどね」



 すごいなあ、と感嘆の声を出すと、女性店員さんは嬉しそうに笑った。

 タレは果物ベースで色々混ぜ合わせるみたいで、なかなかに手が込んでいた。でもそれ、初対面の俺に教えちゃっていいの?



「霜鳥の肉かあ……一度も手に入れたことないなあ」



 鳥型の魔物自体殆ど相手にしないからなあ。今度魔法陣魔法の練習も兼ねて鳥狩りしようかな。

 真剣にそんなことを考えていると、ヴィデロさんが横から「行くときは俺も行くからな」とくぎを刺してきた。





 大満足の夕飯を食べて、ようやく本題に入るかと思いきや、ランディさんたちはそのまま席を立って店を出た。

 お金を払おうと声を掛けたら、俺たちの分はランディさんが出したよ、と受け取ってもらえなかった。

 夜道を居住区に向かって歩く。

 アルルの家の方向とはまた別の方に歩いていた二人の後ろを付いて、俺たちは足を進めた。

 一軒の小さな家の前に着くと、ランディさんが「入れよ」とドアを開けて俺たちを促した。



「ここ、俺の家。詰所に通うのめんどくさいから普段はあっちの部屋にいるんだけど……帰って来ることなんてあんまりねえからちょっと埃っぽい気がするけど、まあ、気にするな」



 にかっと笑ったランディさんは、俺たちが入ると、ドアを閉めて施錠までした。







「で、本題なんだけど」



 俺が淹れたお茶を全員で飲みながら、スランさんが俺を見た。



「あの薬、ほんとに『コウマ病』を完治できるのか? 確かにあの二人は回復に向かってるけど」

「できます」

「どうやって作ったんだ。マックが作ったって言ってたよな」

「はい。でも作り方の説明は……できません」

「それは、偶然できた産物だからか? だから世にレシピを広められないし、たまたま出来あがった物を持ってたんだよな」

「え……」

「だな。偶然、全然違う薬を作っていたら、たまたまよく効くと思われる薬が出来上がってしまった。素材もほぼ手に入らない物で、しかも失敗して出来た薬だから、量産出来ないどころか、もう一度作れるかはわからない。しかし鑑定では病に効くとなっていたから今回ダメもとで使ってみた、と」

「ランディ……スラン……」



 わけのわからない二人の会話をはてなマークを頭に乗せて聞いていた俺は、ヴィデロさんが嬉しそうな顔で二人の名前を呼んだことで、俺の薬を誤魔化して上に報告するんだということに気付いた。

 って、国を揺るがす薬ってヴィデロさん言ってたよね。



「マックがすげえ薬師だっていうのは、俺らだってちゃんと聞いてるんだけどな、あんな病にまで効く薬を作っちまう腕だとは思わなかったよ」

「ヴィデロの恋人君って、すげえなあ。どうしてあんな危ない物を排除する依頼を統括直々の頼みで受けてるんだと疑問に思ってたけど、単なる実力じゃねえか。クラッシュの親友だから優遇されてるのかと思ってたけどそんなことないな」

「ランディ」



 ランディさんの言葉に、ヴィデロさんがスッと笑顔をしまう。

 剣呑なまなざしでランディさんの名前を呼ぶと、ランディさんは苦笑して「実際そう思ってたんだから仕方ないだろ」と肩を竦めた。



「侮辱して悪かったよ。でもな、ちょっと人となりをこの目で確かめたくてな。だって今回のこの件、お前の恋人が自ら自慢して吹聴するような奴だったなら、俺らのやろうとしてることはすべて水の泡、それどころか懲罰もんだろ。本来なら隠蔽していい内容じゃねえからな。でも、ようやく人間らしくなったヴィデロから、この子を引き離したくねえから。俺らの上にいて俺らをまとめてるの、貴族様だぜ」

「……その、ランディの懸念は杞憂だ。マックは既にその手のことに散々巻き込まれてるから、自身のつくるものの危険性も十分わかってる。それでも倒れた人を救いたいからと、止めても動くんだよ……」



 溜め息とともに出された言葉は、今までのことを思い出してでもいるかのように、重かった。

 でもやっぱり、俺は誰かが倒れてたら助けられるなら助けたいんだよ。でも、そうだよね、一緒にいるヴィデロさんに迷惑かけちゃってるよね。でも今更別れるなんて言われても泣いて縋りまくって立ち直れなくなるから無理だけど。



「でも、それこそが俺の惚れたマックだから」

「ぐはあ、最後は惚気かよ。でも、わかったよ。俺らも全力でごまかしてやる。あの『万能薬』だっけ? あの薬のことは、お前らのゴーサインが出るまで、この胸にしまっとくよ。うちの親とアルベルトたちにもさっきので説明しとく」

「ほんと、俺たち友人思いだねえ。ってことでヴィデロ、今日は奢ったけどな、今度はお前が奢れよ」



 自分で友人思いとか言って、ちょっと照れたように肩を竦めたランディさんは、ヴィデロさんの出した拳に自分の拳をこつんとぶつけた。







 もし二人が本当に完治したなら、もしかしたら衛兵の上の方からも一度話を聞かれると思うから、その時はさっきの通りに説明してくれ、と二人に言われて、頷いた俺たち。

 でも、庇われて隠れてるだけでいいのかな、ってちょっとだけ思った。

 確かに俺以外は作れない薬だけど。

 ふと思ったんだよ。

 タルアル草の出す液体は、謎素材じゃないんだよ。謎素材じゃない状態で『万能薬の素』ってなったんだよ。もしかしたら、調薬でも作れるようになるのかもしれない。ヒイロさんは何か知ってるかな。今度聞いて来よう。

 夜道をヴィデロさんと歩きながら、俺はそっとそんなことを考えていた。

 そしたら、あの二人にごまかしてもらうこともなくなる、かもしれない。





 

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