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423、夜のお誘い
次の日、俺は学校が終わるとすぐにログインして、居住区の方に走った。
途中衛兵の詰所を覗くと、今日もランディさんがいた。衛兵って、街を見回ったり、詰所で番をしたりして、なんか交番のおまわりさんみたいだ。
「よう、ヴィデロの恋人君。昨日は助かったぜ。今日もスランがあの子の家に行ってるぜ。様子見に行くのか?」
「はい」
「旦那さんの方も目を覚ましたらしい。スランも驚いてた。順調に回復してるとか。そのことでちょっと話があるんだが、あとでヴィデロが上がった後に一緒にここで話をしないか?」
「はい」
多分『万能薬』の話になるんだと思う。覚悟はしていた。ヴィデロさんに「国を揺るがす薬が出来た」って言われた時から。
通っていいよ、と許可してもらって、俺は詰所横を抜けた。ここから先は居住区なので、プレイヤーは一人もいない。
昨日通った道を思い出しながら、俺は一人進んだ。
迷うことなく目的の家についてホッとしながら呼び鈴を鳴らすと、中からスランさんのお母さんが顔を出した。
「あら、昨日の薬師さん。来てくださったのね。どうぞお入りになってぜひ二人を見てください」
丁寧に迎え入れられて、俺はお邪魔しますと家に足を踏み入れた。
テーブルにはアルルがついていて、丁度夜ご飯を食べているところだった。
「おにいちゃん! おとさんとおかさんね、おっきしたよ!」
俺を見た瞬間、アルルは満面の笑みで走り寄ってきた。
俺はくっついてくるアルルを抱き上げて、「よかった」とつられるように顔を緩めた。
寝室の方に入っていくと、まだ横になっている二人がいた。
旦那さんが俺を見て、身体を起こす。
「あ、無理は禁物です。そして魔力とスタミナの回復を忘れずに」
「いえ、ぜひお礼を言わせてください。本当にありがとう。俺たちの命が助かったのは、あなたのおかげとスランに聞きました」
「たまたまよく効く薬を作って持っていたので、効いてよかったです。だから、そんな気にせず、まずは身体を治してください」
しっかりとした声で話す旦那さんに、ちょっとほっとする。
大分魔力欠乏のだるさが抜けてるような感じだった。
俺は二人に断って、「鑑定眼」を発動させた。
「二人ともまだ魔力とスタミナ不足です。補充していきますので、ガンガン飲んでください。味の保証はします」
「ありがとう」
アルルを抱っこしたままベッドの間の小さなテーブルに、スタミナポーションとマジックハイポーションを置いて、空き瓶を回収していく。
鑑定眼ではまだ二人の身体には病巣が残ってるって出てたから、まだ時間はかかりそうだ。でも昨日の今日だし、病巣消滅率38%っていうのは順調だと思う。
「おとさんとおかさん、もうよくなったの?」
アルルがニコニコしながらそう訊いてくるので、俺は頷きたいところを我慢して首を横に振った。
「まだ薬が頑張ってるところだから、お父さんとお母さんをゆっくり休ませてあげてね。治ったらきっと沢山アルルと遊んでくれるから」
「わかった。おくすり、がんばって」
アルルは俺の腕から降りると、二人に手を伸ばしてその手を握った。ピリッと静電気を感じながら、アルルが呪文のようにおくすりがんばれと唱えた。
「おにいちゃんはくすしさん?」
「そうだよ」
「じゃあ、アルル、おにいちゃんみたいにおとさんとおかさんを治せるくすしさんになりたい」
アルルの言葉を聞いて、旦那さんの目が優しく細められる。
アルルが大きくなった頃には、きっと俺もこっちの世界に生身で来ていて……でもそうなると見た目がちょっと変わっちゃうのか。アルルに色々教えることは出来るかな。
そうなったら楽しいかもな、なんて思いながら、俺はアルルの頭を撫でて、頑張れ、と一言呟いた。
寝室から出てくると、スランさんのご両親とスランさん本人が椅子に座ってお茶を飲んでいた。
アルルはスランさんのお母さんの所に走り寄っていくと、あのね、アルルくすしさんになりたい! と足元に絡まっていく。スランさんのお母さんも、あらあらとアルルを抱き上げて、それは素敵ね、と膝に乗せた。
「サンキュな、ヴィデロの恋人君。名前は……」
「マックです」
「マック。送ってってやるよ。ここまで足を運んでくれてサンキュ」
スランさんが席を立って、俺を促した。スランさんのお母さんが「お茶くらいでも」と声を掛けるも、スランさんが「売れっ子薬師は忙しいんだよ」と断って、玄関を開ける。
アルルに手を振ってから、スランさんの後をついて俺も外に出た。
しばらくは二人の状態を話し、その後少し無言で歩く。
衛兵詰所に近付くと、スランさんが足を止めた。
「ランディからの夜のお誘いはあったか?」
「はい。ヴィデロさんと一緒にって」
「あいつは、その、お前さんのこと、色々知ってるんだよな」
「薬のことですか? いつでも教えてますし、俺が何か作ると試作品を飲んでもらうのはヴィデロさんです」
俺が本当のことを暴露すると、スランさんは一瞬毒気を抜かれたような顔をしてから、くくくと笑い始めた。
「そっかそっか。ヴィデロが毒見役か」
「っていうか一方的に俺がヴィデロさんのカバンに瓶をわんさか詰め込んでます。何かあった時に備えあれば憂いなしって言うでしょ」
「確かにな。今回もそれで助かった。あれはほっといたらヤバかった。急性だったから特にな」
コウマ病って、急性とそうじゃないものがあるんだ。そういえばヴィデロさんのお父さんはずっと病気だったけど倒れたのは時間が経ってからだって言ってたよな。今度図書館で病気について調べよう。それに合うような薬が調薬出来たら、レシピを広めよう。
今回の『万能薬』は、錬金アイテムだから、レシピを誰かに教えたとしても、誰も作れないんだよ。
「それにしても、二人がいっぺんに罹ることってあるんですか?」
空気感染とかだったら、多分鑑定眼でそう示されると思う。もしかしてヒイロさんが見たらもっと詳しくわかるのかもしれないけど。
ああ、そうか。ヒイロさんに聞いてみればいいんだ。
「珍しい、とだけ。あれは感染するやつじゃない、いきなり発症するやつだから、同じ家から二人同時にってのは、珍しいなんてもんじゃない。ちょっと色々と調べなきゃならないかもしれない」
「調べるって」
「もし何か原因になるようなことがあれば、それがわかれば『コウマ病』の防止になるかもしれないだろ」
原因とか、本当にあるのかな。でも何かはあるってスランさんは考えているみたいだった。
俺が頷くと、スランさんは「じゃああとでな」と軽く手を上げて詰所に入っていった。
俺もそのまま居住区の境目を抜けて、表通りに戻って来る。
途端に賑わう街並みと、プレイヤーが闊歩している姿が目に入って、俺は知らずに安堵の溜め息をついていた。
さ、ヴィデロさんにダブルデートのお誘いに行こう。
門に着くと、ロイさんと名前の知らない門番さんが立っていた。
「ヴィデロは今日は森廻りだ。もうすぐ帰って来るから待ってたらどうだ。タタンも一緒だからかなり安心だぜ」
「そうなんだ。タタンさんもガレンさんも強いからね」
「強いなんてもんじゃねえぜ。獣人ってやつはあんなに身体能力が高かったのかって皆が驚いてる。ヴィデロ以外誰もかすり傷ひとつ付けれねえどころか、遊ばれてるようにしか見えねえんだ。ちゃんとやりあえるのはヴィデロだけ、次点で団長くらいじゃねえか?」
「団長さん、強い……」
さすが団長だけのことはある、と納得していると、簡素な鎧を身に着けた門番さん一行が帰ってきた。
タタンさんが大きいから、すごく目立つ。
周りには数人のプレイヤーも一緒になって動いていて、門の前で握手で別れていた。
そして通りすがりに、「お、薬師マックだ。よ」なんて挨拶をして街の中に消えていった。
「さっきちょっとデカい魔物が出てきたから、あいつらと一緒になって倒してきたんだ」
「そうなんだ。ヴィデロさん、怪我はない?」
「大丈夫」
「そっか」
おいで、とばかりにヴィデロさんの腕が開いたので、遠慮なく飛び込んでいくことにする。
門番さんたちもまわりにたくさんいたけど、皆「出たよ愛の抱擁! いちゃつくならあとでにしろよ」と暖かい目で見てくれている。
「お前ら。こいつらは番なんだからこうして無事を確かめるのは当たり前だろ」
真顔でタタンさんに門番さんたちが窘められて、どっと歓声が沸く。
「そうか番か。そういやお前らの種族には番っていうのがあるんだったな」
「ロイだっているだろ、番が。フランだっけか。小さい人族」
「番っつうか、伴侶っつうか」
「同じもんだろ。一生愛を誓うんだからよ」
「そう……だな。改めて言われると、なんか、照れるよな」
タタンさんにさらに「なんで照れるんだよ」と突っ込まれて、人族と獣人の感性の違いをロイさんはひたすら突き付けられ、周りの笑いを誘っていた。
俺はヴィデロさんを見上げて、「今日、仕事が終わったら衛兵の詰所に来てくれって言われたんだ」と伝える。
ヴィデロさんも何を言われるのかわかっているようで、微笑んでわかったと返事をしてくれた。
「後は解散で着替えるだけから、マックちょっと待っててくれるか?」
「うん」
「部屋に来るか?」
「そしてヴィデロさんの着替えを見ちゃうんでしょ。今ヴィデロさんの着替えを見たら絶対に俺ヤバいから、おとなしくここで待ってる」
絶対に発情するよ、生胸筋なんて。
そう思って慌てて断ったら、さらに周りの笑いが大きくなった。
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