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連載
431、おそろい
しおりを挟むアリッサさんは、よければ雄太たちにも声をかけてほしいと言い残して、ヴィルさんの会社を去って行った。
ゲームフェスタを前に、思わぬアクシデントの連続で、運営もめちゃくちゃ忙しいらしい。アクシデントっていうのはもちろん魔法陣で各街を繋いじゃったこととかなんだけどね。
中継時間はほんの10分くらいとか。
溜め息を零しまくりの俺は、その後のバイトに身が入らなかったのは言うまでもない。
次の日、俺は昼休みに早速雄太と増田に声を掛けた。
「獣人の村でゲームフェスタに中継?」
「健吾と俺たちが?」
「うん。もう獣人たちと話は付いてるらしいんだけど、向こうに行って中継できるのって、俺か雄太たちかユキヒラくらいしかいないらしいんだよ。村に入れる人限定になっちゃうから。ユキヒラには断られたって言ってたから、俺たちしかいないんだって。ユイルがノリノリだから、中継自体はなくならないだろうって」
驚いた顔で箸を止めた二人に説明すると、2人はうわあ、という顔をした。
考えるそぶりをした後、まずは増田が「俺はいいけど、海里みさとと唯の返事はあとでいい?」と一応の了承をくれた。
雄太も、「健吾も出るのか? ちょっと面白そうだな」と乗り気みたいだった。
あのぎゅうぎゅう詰めの人の頭上に燦然と輝く大型モニターにアバターが映し出されるのか……と考えると少し引くし、ヴィルさんがまたブースに立って「門番さーん!」って言われるのを見てみたい気はするけど、俺一人応募してゲームフェスタの抽選に当たる気がしないんだよなあ。勿論一般でチケットを買って入ることは出来るけど、時間差があるからあの巨大モニターだって遥か遠くに小さく見えるくらいにしか近づけなそうなんだよな。そう思うとちょっと考えるよな。フェスタに行ってもみくちゃにされるか、ユイルを抱っこして獣人の村を案内するか。
「じゃあ、雄太と増田はオッケー貰ったって伝えておくね。そのうち契約書みたいなの書かされると思うから素直に署名してくれ」
「なんかそんなセリフを言うと悪徳貸金業者みたいだぞ健吾」
「バイト代も出てゲームフェスタのスタッフとして動けるって、普通に考えるとありえないよねえ」
確かにね。俺も去年ヴィルさんをブースで見かけたときには全然こんなことになるとは思わなかったし。
ごちそうさま、と手を合わせながら、俺はそう言えばユイルに会いたいな、なんて呑気なことを思っていた。
ユイとブレイブからも了承を得たので、俺はそれを伝えるためにヴィルさんの所に向かった。今日はバイトはないんだけどね。
会社に入っていくと、いつもはモニターに何かの数値を流しているだけのパソコンに日暮さんが座っていた。
出向してきたんだそうだ。今日だけ。
「『高橋と愉快な仲間たち』のメンバー全員中継オッケーだそうです。俺も」
「そのためにわざわざ寄ってくれたのか? ありがとう。でもメールでもよかったのに」
「ちょっと頼みたいことがあって来たんですけど……ヴィルさんが忙しいなら、いいです」
この間撮ってもらったスクショを携帯端末に送れないかなと思って足を運んだんだけど。
日暮さんも来てるってことは、よほど忙しいってことだよな。
「頼み? なんでも言ってみろよ。お義兄ちゃんが叶えてあげよう」
スッと立ち上がってドヤ顔をするヴィルさんに、佐久間さんと日暮さんが呆れたような視線を向ける。
俺はいいのかな、と思いながら、ヴィデロさんとツーショットを撮ってもらったから、そこにある端末と自分の端末にスクショを移動したいことを伝えた。
「なんだ、そんなことか。もちろんすぐ終わるよ。健吾、ギアでログインして」
「はい。ありがとうございます」
「いいってこと。兄弟だろ」
違いますけど。ヴィルさんの兄弟はヴィデロさんだけです。
心の中で突っ込みながら、俺は俺専用ギアを被ってIDとパスを入力した。
そしてヴィルさんが言うとおりに操作すると、目の前のパソコンにスクショがパッと現れた。
ヴィルさんがパソコンを弄ると、すぐにズボンのポケットの中にある携帯端末が震えて、充電器に乗っていたヴィデロさんと繋がる携帯端末が棚の上で音を鳴らした。
ギアを外して端末を見てみると、トレの街中で並んで笑っている俺とヴィデロさんがしっかりと送られて来ていた。なのですぐに待ち受けにする。最高。にんまりしていると、ヴィルさんが笑いながら俺の頭をポンポンと叩いた。
臨時バイトとして、買い出しと飯炊きをしてきた俺は、ヴィデロさんに画像を送ってから家に帰った。
家に帰り着くと、俺は早速ログインして、ヴィデロさんに画像が届いているか確認するために門に走った。
すると、門の所で、俺たちのスクショを取ってくれたプレイヤーとヴィデロさんが立ち話をしていた。門に立って挨拶している時とは違う、リラックスした笑顔に、しばし見惚れる。
「ヴィデロさん」
声を掛けると、ヴィデロさんが笑顔のまま振り返った。
そしていきなり俺を抱きしめた。
「ありがとう。素敵な物が届いた。今、そのことでこの異邦人に礼を言ってたんだ」
ヴィデロさんがプレイヤーにチラッと視線を向けたので、俺もつられてそっちを向くと、そのプレイヤーがよ、と気楽な感じで挨拶してくれた。
「この間はスクショありがとう」
「こっちこそ、いきなり不躾なお願いして悪かったな。もうフレンド解除してもいいんだぜ」
「ううん、せっかくだから不都合なければこのままで。すっごく嬉しかったから。二人で並んだスクショって自分では撮れないから」
「あー、確かにな。それにしても門番さんからも礼を言われたんだけど、スクショって門番さんも見れるのか?」
「え、あー……普通は見れない、と思うけど……」
俺は裏技を使ったからヴィデロさんに送れるんだよ。とは言わない。
言葉を濁して誤魔化そうとしていると、「それはそうとマック」とヴィデロさんが話題を変えてくれた。
「今日は森がちょっと騒がしいみたいだから、一人では行くなよ」
「また何か出たの?」
「ああ、最近はトレの森では珍しい魔物が出てき始めて、騎士団の中でも少し問題になっているんだ。どこの街でも同じような感じらしいな。少しずつ魔物が強くなってる気がする」
森の方を見上げて少しだけ顔を厳しくするヴィデロさんは、軽く胸当てと籠手を着けていて、これから森に行ってきます、みたいな恰好をしていた。
もしかして見回りに行くのかな。だったらついてっていいかな。
まだログアウトまで時間はあるし。
ヴィデロさんの横に並んで「じゃあいこっか」と気合を入れていると、スクショを撮ってくれたプレイヤー、沢庵たくあんさんが「もしかして薬師君も森に入るのか?」と訊いてきた。
「ヴィデロさんが行くなら、一緒に行こうと思って」
「え、待ってくれ。戦闘職じゃねえだろ」
「回復要員だよ。だってヴィデロさん滅茶苦茶強いから、俺の出番はないんだ」
「マジかよ……俺も一緒に行っていいか? 今日はパーティー組んでる奴ら誰もインしてないから、ソロだったんだ」
沢庵さんが駄目か? と俺を見下ろしてきたので、俺はヴィデロさんを見上げた。
ヴィデロさんは肩を竦めてから、目をスッと細くした。
「いいんじゃないか?」
「じゃあ今日は三人で歩く? 素材あったら採取していいかなあ」
いいのがあったら採取させてもらおう、そう思いながら俺たちは森に足を踏み入れた。
森の中では、セィ城下街付近で出てくるくらいの魔物が一匹徘徊していた。
でもそこら辺の魔物なんてヴィデロさんの相手にはならなくて。
気合いと共に剣を抜いて一瞬で魔物を屠るヴィデロさんは、魔物がキラキラするのを見ながら剣をしまった。カッコいい。
「門番さんつええ……」
沢庵さんの口から呟きが洩れる。そうでしょ。ヴィデロさんは強いんだよ。最高だよ。きっと俺の顔は我が事のようにドヤ顔になってると思われる。鏡は絶対に見ないけど。
もう一匹同じような強さの魔物が出てきたのをヴィデロさんが一撃で倒して、沢庵さんはその時に反対側から襲撃してきた魔物を難なく倒して、今日の狩りは終わった。
回復役出番なし。それが一番だよね。
沢庵さんと門で別れて、俺は一度詰所のヴィデロさんの部屋にお邪魔させてもらった。
ヴィデロさんが大事そうに取り出してきたのは、アリッサさんの携帯端末。
そこにはさっき俺が送った二人のスクショがしっかりと映っていた。もしかして、前にやり方を見せただけで待ち受け画面の変更方法を覚えちゃった? さ、流石アリッサさんの息子。もしかしたらヴィデロさんって騎士とかじゃなくても成功してたんじゃなかろうか。
愛し合う時間はなかったけれど、少しだけくっついていた俺は、送っていくというヴィデロさんを断って、門番さんたちの詰所を後にした。
だって俺、男だから。夜道だって大丈夫だからね。普通に。
途中ちょっとだけギルドを経由して工房に戻った俺は、さらに少しだけ増えていた『謎素材』を錬金の倉庫にしまうと、ログアウトした。
ギアを外して起き上がった俺は、机の上に投げ出されていた携帯端末を見て、ヴィデロさんとおそろいの画像に思わず変な笑い声を出してしまい、慌てて笑いを収めた。
もちろん、お風呂から帰ってきて、パソコンに画像を保存するのは忘れなかったとも。永久保存版。
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