文字の大きさ
大
中
小
311 / 706
連載
432、恋愛相談?
俺は今、ヒイロさんと一緒にモントさんの所に向かっている。
前に頼まれていたことを、土曜日で休みだからと実行することにしたんだ。
ヒイロさんは人族の街の方に出るのは全然躊躇いがないらしく、うきうきしている。
途中ユイルにばったり会って一緒に行きたいと言われるアクシデントがあったけれど、何とかユイルとバイバイして南のセイレンさんの所に出てきたんだ。
「なあ、さっきユイルに渡してたお菓子、もうねえのか? あれ美味そう」
「あれで最後でした。だって子供たちいっぱいいたから。今度作ったら師匠の分もちゃんととっときますから」
「うん。期待してる。それにしても美味そうだったなあ」
グルル、とヒイロさんの腹が鳴ったのを聞いてしまい、苦笑する。お腹空いたのかな。石化を解かれたセイレンさんも、ヒイロさんに笑っていた。
セイレンさんと話すのは初めてだったけれど、すごく誠実そうな獣人さんだった。やっぱりジャル・ガーさんたちと同じ時代を生きてきたんだって。出身が魔大陸の西の方だとか。セイレンさんの村付近が最初に魔王に取り込まれたらしく、今度詳しく教えてくれるって約束してくれた。
セイレンさんの所から、転移魔法陣でモントさんの所に跳んだ俺たちは、丁度作業をしているモントさんをすぐに見つけることが出来た。
「モントさん!」
「よう、マックじゃねえか。最近頻繁に顔出すなあ。今日はどうした」
「俺の師匠がタルアル草のことを訊きたいっていうので連れてきました」
「あんたがウネウネに詳しい人か?」
ヒイロさんが気さくに手を上げて、モントさんに話しかける。
モントさんは、ヒイロさんの姿を見て、「へぇ……」と驚いたように声を上げた。
「あんたは異邦人……じゃねえよな。幻の方か?」
「異邦人でも幻でもない、獣人だよ。俺はヒイロ。マックに調薬を教えてるんだ」
「そりゃ頼もしい。俺はモントだ。一応人族の農園を取りまとめてる者だ」
二人がガシッと握手を交わす。
よくわからないけど、通じ合うものがあるらしい。
さっそくヒイロさんはモントさんにタルアル草の色々を訊き始めたので、俺はどうしようかなと首を捻った。
「あ、そうだ。トレアムさんの所のバターを使ってふわふわドーナツを作ったら、もっと美味しくなるかも。中に果物のジャムを入れてみたりして」
思い立っちゃうと作りたくなるよね。
俺は二人に声を掛けると、そのままトレアムさんの畑に跳んだ。
ステータス欄を開いて、ちらりと輪廻がログインしてるか見てみると、輪廻はまだログインしてないらしく、名前が灰色になっていた。
「こんにちは、トレアムさん」
母屋のドアをノックしながら中に声を掛けると、「おう」という返事があった。
そして、トレアムさんが顔を出して、俺を中に通してくれた。
「今日は輪廻はまだ起きてないんですね」
「ああ。今はログアウト中、だったか? 一昨日からずっと寝てるな。それにしても異邦人ってやつはずっと寝てても大丈夫なのか? 何か食ったり飲んだりしなくても弱ったりしないのか? 輪廻がずっと寝てたりするから、そこらへんがちょっと心配でな。本人は大丈夫っていうんだが、あいつはたまに無理をするから」
心配そうに、ちらりと奥の寝室に視線を向けるトレアムさんに、俺は「大丈夫」と返した。
「大丈夫ならいいんだが……異邦人ってのはわからないもんだな」
「わからない?」
トレアムさんの言葉に首を捻ると、トレアムさんはひとつ溜め息を吐いて、俺をじっと見つめた。
「住んでいる世界が違うから、一緒に生きることは無理だと言われてな。ついこの間だ」
「え……」
「輪廻にプロポーズしたんだ。どうしても一緒にいたくて、可愛くてな。そうしたら、その言葉を言われて、そして泣かれた。何でそういうことを言うんだと怒鳴られたな」
「……世界が違う、か」
確かに、そうなんだよな。俺は幸運にもこの世界への道がすぐ目の前にあって、今はまだ工事中だけどいつかは繋がるのが目に見えている状態にいるから、こうして最愛の人と思いあっていられるけど、輪廻にはその道は見えてないから。
輪廻もトレアムさんが好きだからこそ、余計にキツいのかも。
「説明はされたんだがな……輪廻が寝ているときは、違う世界の違う人で、そっちがメインの生活なんだって。だから、俺と一緒になることは無理だって言われたんだが……起きている間だけでもいいから一緒になってくれと懇願したら、余計に泣かれた」
「……」
なんていうか、好き合ってるのに一緒にいれないのって本当に辛いんだよね。輪廻なんかはトレアムさんが好きだからって彼女と別れちゃったくらいだし。泣くよね、それは。
トレアムさんも元気ないし。
かといって、まだ生物を送る実験まではいってないし、ヴィルさんの実験がどこまで可能性を広げるのかが焦点になるってことかな。そのうち移住とかも出来るんだったら、一緒にいられるんだけど、そうなるととんでもなくスケールの大きな話になっちゃうんだよね。研究の方は俺、全然携わってないから何も言えないしなあ。
俺が溜め息を吐くと、トレアムさんも同時に溜め息を吐いた。
「おっと悪いな。今日は何を買いに来たんだ?」
「そうだった。バターと果物を買おうと思って」
「果物か。何がいい。油はどれくらいだ」
「塊が欲しいなあ。果物は……ジャムにしたら美味しいのがいいです」
「待ってろ」
話題転換をしたトレアムさんは、いつもの口調に戻って席を立った。
どの果実もジャムは美味いぞ、なんて言いながら、母屋を出ていく。
少し待っていると、ギイ、遠くの部屋の扉が開いた。
そこから輪廻が顔を出した。
「あれ、マック。来てたんだ」
「うん。おはよう輪廻」
「おはよ。……あのさ、マックってこっちの人と付き合ってるんだっけ」
「うん」
ドアを閉めて出てきた輪廻は、自然な流れでキッチンに立ってお茶を淹れながら、そんなことを訊いていた。
お茶のいい香りが漂い、カップが三つ用意される。
一つはお客さん用、二つはマグカップだ。
「あの人、お茶も入れないで行っちゃったのかよ。悪いな。どうぞ」
「お構いなく。俺は今日は果樹園のお客さんだから。商品を用意してくれてるんだよ」
「そうなんだ。毎度アリ」
自然にそんなことを言う輪廻に、俺は思わず吹き出す。
ここの生活に慣れ切ってる。もう果樹園の一員じゃん、輪廻。
お茶を一口飲んでホッと息を吐いていると、輪廻が視線をせわしなく巡らせて、口を開いた。
「なあ、マックはゲームの中だけの遊びの恋愛なのか?」
「は?」
「だって、ここゲームの中だろ。実際には向こうに付き合ってる奴がいたりするのか?」
「いないよ。俺はだってヴィデロさん一筋だもん」
目をまん丸にして驚きながら答えると、輪廻は少しだけ眉を寄せた。
「でも、だって、ここ、現実の世界じゃないだろ」
「……」
「どうしたらいいんだよ俺」
「……輪廻」
輪廻は俺に視線を合わせることなく、まるで独り言のように呟いている。
プロポーズされたから、か。素直に喜べないのがちょっとだけ悲しいよな。
「俺さ……トレアムさんにずっと一緒にいたいって言われてさ」
「うん」
「一瞬滅茶苦茶舞い上がったんだよ。でも、その後一気に熱が引いて。ダメじゃんって。ここ、ゲームじゃんって。ここ、ほんとすっげえリアルだけど、俺はログアウトすると単なる学生で、ゲームにログインすることでしかこっちにいれないじゃん。そう思ったら、なんか、ダメで。無理って。でも、それでもなんかここから離れたくなくてさ……どうしたらいいと思う。なあ、マックはどうするつもりなんだよ」
「俺は、もう将来の約束したから。一緒に住む気満々だよ。だから」
ちょっとだけ輪廻の手が震えてる気がするのは気のせいかな。
また顔が泣きそうになってるよ。でもなんか、気持ちはわかる。
「一緒にいたらいいよ。ログインできる限り。会いたいときに会って、愛し合ったらいいと思う。だって輪廻、トレアムさんが好きなんだろ」
「それでいいのかよ」
「トレアムさんがそれでいいって言ってくれてるんならいいと思う。だって、好きだっていうのは止められないし」
「でも、もしトレアムさんが同じくらい思ってくれてるなら余計に……辛くないかな」
「輪廻、辛いんだ」
「キツイ」
輪廻はちょっと目元を手で隠すと、大きく息を吐いた。
そして顔を取り繕って、椅子を立った。
「ちょっとトレアムさん遅いから呼んでくる。待ってろ」
「あ、うん」
そう言い残して素早く母屋を出ていった輪廻を見送りながら、俺は久しぶりに思い出した苦い気持ちに、自然と溜め息を吐いたのだった。
感想 555
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結済。
おまけのお話を時々更新したりしています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
ふたりの動画をつくりました!
もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!
表紙や動画にはAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
【8月書籍化♡】キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております)
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】憧れの先輩アルファに告白されたんだがどうやら罰ゲームだったらしい
ある日の放課後、校舎裏で花壇の手入れをしていた上田凛斗に告白してきたのは、憧れの先輩であり校内の人気者でもある上條蘭世だった。
目付きの悪さと暗い性格のせいで恋人どころか友達もいない凛斗は、戸惑いながらもお試しで蘭世との交際をはじめたのだが……
美形溺愛アルファ×三白眼平凡オメガ
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。
早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。
だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。