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連載
486、みんなで(魔女風薬草)鍋を囲もう
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何とか雄太の攻撃により授業中に撃沈することもなく午後を終えることが出来た俺は、今日はユイを迎えに行かないという雄太と共に自転車を走らせて家に向かった。
雄太の家の前で、あとで取りに行くという雄太に頷いて、家に帰ると、早速ログインをする。
工房で少なくなったものをチェックしていたら、トントンとドアがノックされた。
雄太たちは工房に入れるように設定しているから、「どうぞ」と返事をすると、4人がぞろぞろと工房に入ってきた。
「すごーい。鎧が飾られてる。前より普通っぽくなったね」
「これ、長光作じゃね? めっちゃかっこいい。っつうかあんだけあったベッドがなくなってるんだな」
「結構広いし可愛い部屋になったね。この手作り感溢れる椅子とか可愛い」
「結構部屋数あるんだ。このカーテンを閉めたら工房とキッチンも仕切られるなんて、いいなこういう部屋。もしかして向こうが寝室だったり?」
これだけ一緒に遊んでいても、実は『高橋と愉快な仲間たち』はあんまり工房に来たことはなかったからか、皆が物珍しそうに工房内を見ている。増築してからは一度も来てないんじゃなかったっけ。
とりあえずキッチンのテーブルに皆を案内すると、たくさん作った『倦怠感解除薬ウィジーポーション』をテーブルに並べた。
「あるのはこれくらい。もう素材は使い果たしちゃったから、もっと欲しかったらバイ村の森で魔物狩りして集めるしかないかな。『発香草』っていうのが必要なんだ。他の素材はすぐに手に入るからいいんだけど」
「『発香草』な。わかった。魔物を狩ればドロップするのか?」
「うん。大きめの身体の丸っこい羽毛生えた緑色の魔物。師匠は稀に出て来るって言ってたけど、結構頻繁に出てくるからゲットはそこまで難しくないと思う。ちなみにヴィデロさんは二撃で倒してた」
俺が情報を教えた瞬間、皆が一斉に俺を見た。
そして、皆で顔を見合わせてから、悲壮な顔つきになった。
「……もしかして、素材集めかなり難易度高そうじゃないか……?」
「俺、簡単に素材任せろとか言っちゃったけど、今猛烈に後悔している」
「……そっかあ。レアドロップ品かあ」
「っていうか魔物自体がレアなのかもしれないよ」
ひそひそしてるけど、俺目の前にいるから全部聞こえてるよ。
アレだけたくさん出てきた魔物なのに、レア魔物ってどういうことなんだよ。
首を捻ってると、ブレイブが呆れたように半眼をこっちに向けた。
「前に教えただろ。門番タックルを見たやつはレアドロップ待ったなしってやつ。アレを自ら体験したかもしれないってことだよ。魔物狩りデートしてきたんだろ?」
「そうだけど。え、もしかして俺、ヴィデロさんの『エッジラック』恩恵を知らない間に受けてたってこと? それじゃ何かお礼しないとじゃん」
「……大人なあはーんでお礼したんじゃねえの?」
「昨日は俺何も出来てないから!」
「いつもはしてるんだぁ……」
ノリが学校のノリになるのは仕方ないと思う。けど、ユイ、女の子なんだからそこでそんなこと呟いて顔赤くしないの。
ブレイブも女の子なんだから、ワクワクした顔こっちに向けないで。
「そうだそうだ。門番さんで思い出した。お祝いを持ってきたんだった」
ブレイブが思い出したようにカバンから何かを取り出す。
テーブルに置かれたのは、リボンのかかった袋。
「開けてみろよ。俺たちからのお祝いだ」
雄太に促されて、袋を開けてみると……。
「……えっちい! なにこの下着!」
総レース的な女の子が身に付けるような薄い水色の下着セットだった。でも女の子用じゃない。だって、パンツと思わしきレースの前が、前が、縦開きになっていて、そこが紐で結ばれてるんだもん!
何この人たち! 俺と同じ歳とは思えないプレゼントのチョイスなんだけど!
「女の子たちがこんなものを買って来るんじゃありません!」
「マック君。女の子の下着なんて、そんな感じのが多いよ? むしろ男の子の方が抵抗あると思う。高橋だって下着買うのは付き合ってくれないから」
「そんなのは付き合いませーん。売ってるの見るより身に付けてるところを見るほうが好きだからな」
「高橋あけすけすぎでしょ。でもほんと、下着は女の子の方が派手だしエッチよ。下着選ぶのすごく楽しいもの。ログアウトすると結構抵抗があって下着売り場に入るの躊躇うからこっちで楽しんでるの」
「それな、オットに生息している服飾系職業の生産プレイヤーが作ってるやつなんだ。一目見て精巧な造りに驚いて、それからアンダーと下着系はそこで購入してるんだ」
照れすらなく普通に話す雄太たちは、普段からこんな話をしているのかもしれない。
俺には敷居が高い会話なんだけど! 女の子の下着の話なんて!
「普段アレだけイチャイチャしてるのに、何下着ごときで照れてるんだよ」
雄太にまで突っ込まれて、俺は総レースパンツ片手に撃沈した。
こ、こ、こんなもの、俺が身に付けて似合うと思ってるのかよ!
5人で俺の作った魔女鍋を食べていると、隣の建物からノックの音が聞こえた。
ヴィルさんだ。
どうぞと声を掛けると、ヴィルさんが通路から入ってくる。いつもは勝手に入って来るのに、もしかして誰かいるからノックしてくれたのかな。
「皆集まってるんだな。いい匂いがしたからつられてきたんだ……が……」
ヴィルさんはテーブルの上にある黄緑色のドロドロ鍋を視界に入れて、動きを止めた。
皆が躊躇いなく食べてるのを見て、流石のヴィルさんも顔を引きつらせていた。
「お、ヴィルさん! まだ椅子あるんで、どうぞ」
雄太が工房の方から椅子を持ってきてヴィルさんに勧める。ヴィルさんがためらっていると、後ろからもう一人ドアを開けて入ってきた。
「赤片喰さん。お疲れ様です」
「お疲れすぎて何も考えたくねえ……お、何食ってるん……だ……!?」
疲れた顔をして鍋を覗き込んできた赤片喰さんもやっぱり動きを止める。
さすが魔女鍋。威力デカい。
これ、疲れが取れる鍋なんだけど。
俺は椅子にも座らず鍋を覗き込んでいる2人に勧めた。
恐る恐る席に着いた二人にお皿を渡してから、赤片喰さんを雄太たちに紹介した。
「ま、堅苦しいのはなしにして、2人とも一緒に食べませんか、魔女風薬草鍋。効能は自然回復増とランクS聖水で作ったから穢れが取れます」
「贅沢な鍋だな……いただこう」
ヴィルさんと赤片喰さんは追加された椅子に座ると、一緒に食べ始めた。
もちろん、上げる声は「うめえ!」のみ。よし。
あとはもう皆一心不乱に黄緑色のグツグツ鍋を搔き込んだ。ピエラの澄果実をケチらなくてよかったよ。残りあとほんのちょっとだけどね。
鍋の中身がすっかりなくなると、俺は聖水茶を淹れた。
それを一口飲んで、赤片喰さんが盛大な溜め息を吐く。
「これで、あいつらも浄化出来りゃいいのに……」
「そんなに酷いんですか?」
呟かれた言葉に思わず反応すると、椅子にぐてっと身体を預けた赤片喰さんが眉を顰めた。
「中坊はまだいいんだよ。いや、まだまだよくねえんだけど、言い方次第ではちゃんと話を聞くんだけどな、一緒に組んでたプレイヤー二人がたち悪くてなあ。中坊共の行動を煽った挙句に最後ちょっとだけ注意して、我関せず。唆して楽しんでる節があるっつうか。質悪い」
「そういうのは垢BANならないんですか?」
確かに聞いていて質が悪いなと眉を顰めると、赤片喰さんは盛大に溜め息を吐いた。
「あいつらは唆すだけでなんもしてねえんだよ。マックにだってちゃんと金は払ったんだろ? だから、グレーには出来てもBANまでは行かねえんだよ。一番厄介なんだ」
「でも、何も悪いこと考えてなかったらジャル・ガーさんは攻撃しないですよね」
「考えてるんじゃねえ? でもそれを行動しないっていうかなんて言うか。ほんと質悪ぃぜ」
俺たちの会話を聞いていた雄太たちが、「それってもしかして」と口を挟む。
「あの石像をぶっ壊してジャル・ガーに全滅させられたっていう例のパーティーっすか?」
「ああ」
「何でそんなのと一緒に行動してるんすか。苦手そうに見えるんすけど」
「これも大人の事情なのよ……代わってくれる人がいるなら代わって欲しいっての」
「なるほど、運営的な事情が」
頷くブレイブと海里に、何で今の会話でそこまで推測するのかなと変質者を見る目を向けると、2人と目が合った。いや、何も考えてないよ?
赤片喰さんは特に隠すこともなく、肩を竦めていた。まあこのメンバーなら、ヴィルさんと一緒にいる時点でそういうのは察してるってことかな。
「即BANに出来ないんだ」
「まだ未成年だからな。一度は更生の機会を与えるのが母の方針なんだ。それでもダメな場合はADOが合わないからやめてくれっていう警告を出す。もちろん親御さんに。同じアカウントではログインできなくなるから、安くはないゲーム代金を支払ったであろう親御さんのフォローも必要なんだよ。でもその更生規定期間内にやらかしたら被害にあうのは俺らじゃなくて、街の人なわけだから、監視は必要なんだ」
「そっか親かあ……ってか親が買ってくれるっていうのもありなのか」
「俺とマックは自腹だもんな」
雄太と二人で頷いていると、ブレイブが「俺は実は海里からのプレゼントなんだ」と今まで知らなかった事実を教えてくれた。
え、増田ってあの高いギアとゲームをまるっとプレゼントしたってこと? すっごい、太っ腹っていうかかっこいい。
「だってこれは絶対にブレイブと一緒にしたかったんですもの。一人でやってもつまらなそうだしね。実際に一人でやってたらもうログインしてなかったかも」
ニコニコと海里が言う。そんな人がトッププレイヤーって。一緒にやる人って重要なんだなあ。と納得していると、雄太に「お前もだろ」と突っ込まれた。
確かに、ヴィデロさんに会わなかったら一人黙々と進んで砂漠都市辺りから進めなくなって段々フェードアウトしてたかもしれない。
「確かに一緒に行動してくれる人って重要だね」
頷いていると、ヴィルさんがヴィデロさんそっくりの顔で微笑んでいた。
「さあてと。今日も一緒に行ってくるかね。ヴィル、あの大人二人は俺パスな」
「そっちは俺が何とかする。健吾、明日はブリの照り焼き希望だ」
「俺も食いてえ! 味噌汁は油揚げがいい」
「くるくるしている麩も入れてくれ。佐久間は腹に溜まる物がいいって言ってるから、ドンブリで納豆ご飯でも出してやってくれ」
席を立った二人が、じゃあ、と手を挙げて、玄関から外に出ていく。これからまたあのパーティーの教育的指導をするらしい。頑張れ。ブリ照りでその疲れが癒されるならいくらでも作るから。
皆二人を見送ると、冷めたお茶を手にして「それにしても」と視線を俺に向けた。
「いつの間にやら俺らも色々巻き込まれてる気がする」
「あんな話を聞ける立場じゃないと思うんだけどねえ」
「案内のアルバイトはしたけど、それだけだもんね」
「でもマックは身内になるわけだろ。もう門番さんの身内に挨拶はしたのか?」
勿論、と頷くと、皆が生暖かい目で俺を見た。
「そして、婚姻の儀を受けたあと何か変わったか?」
雄太にそう訊かれて、俺は「伴侶パートナー補正」のことを教えた。
俺のラック数字が補正されていてとんでもない数字になっていることとか。あとはよくわからないけど。
「ってことはだ。俺たちも婚姻の儀を受ける一択だな」
「そうだね。どんな感じなのかも聞きたかったんだ。ブレイブ、一足先にここの世界で私と結婚してくれる? 現実では、大学卒業してからになっちゃうけど」
「もちろん喜んで。初夜にはとっておきの下着付けてくれるんだろう?」
「こらこらブレイブ! 女の子なんだから!」
ブレイブの言葉に思わず赤くなると、2人は肩を震わせた。
「大胆なんだか照れ屋なんだか」
「このギャップがいいんじゃないか?」
「女の子に何か幻想を抱いてるのかもな」
「そっか、あっちの身体はまだまだ綺麗なままだもんね」
「童貞で悪かったな!」
アバターでも童貞だよ! 思わず突っ込むと、雄太が盛大に吹き出した。
そのうちあっちの身体でこっちに来たら、生の身体で愛し合って! それで!
「どっちにしろ門番さん相手なら童貞なままだろ」
雄太の言葉に本日二度目の撃沈をした俺だった。いいもん。愛し合えれば童貞だろうとそうじゃなかろうといいもん。重要なのはヴィデロさんが相手ってことだもん。
雄太の家の前で、あとで取りに行くという雄太に頷いて、家に帰ると、早速ログインをする。
工房で少なくなったものをチェックしていたら、トントンとドアがノックされた。
雄太たちは工房に入れるように設定しているから、「どうぞ」と返事をすると、4人がぞろぞろと工房に入ってきた。
「すごーい。鎧が飾られてる。前より普通っぽくなったね」
「これ、長光作じゃね? めっちゃかっこいい。っつうかあんだけあったベッドがなくなってるんだな」
「結構広いし可愛い部屋になったね。この手作り感溢れる椅子とか可愛い」
「結構部屋数あるんだ。このカーテンを閉めたら工房とキッチンも仕切られるなんて、いいなこういう部屋。もしかして向こうが寝室だったり?」
これだけ一緒に遊んでいても、実は『高橋と愉快な仲間たち』はあんまり工房に来たことはなかったからか、皆が物珍しそうに工房内を見ている。増築してからは一度も来てないんじゃなかったっけ。
とりあえずキッチンのテーブルに皆を案内すると、たくさん作った『倦怠感解除薬ウィジーポーション』をテーブルに並べた。
「あるのはこれくらい。もう素材は使い果たしちゃったから、もっと欲しかったらバイ村の森で魔物狩りして集めるしかないかな。『発香草』っていうのが必要なんだ。他の素材はすぐに手に入るからいいんだけど」
「『発香草』な。わかった。魔物を狩ればドロップするのか?」
「うん。大きめの身体の丸っこい羽毛生えた緑色の魔物。師匠は稀に出て来るって言ってたけど、結構頻繁に出てくるからゲットはそこまで難しくないと思う。ちなみにヴィデロさんは二撃で倒してた」
俺が情報を教えた瞬間、皆が一斉に俺を見た。
そして、皆で顔を見合わせてから、悲壮な顔つきになった。
「……もしかして、素材集めかなり難易度高そうじゃないか……?」
「俺、簡単に素材任せろとか言っちゃったけど、今猛烈に後悔している」
「……そっかあ。レアドロップ品かあ」
「っていうか魔物自体がレアなのかもしれないよ」
ひそひそしてるけど、俺目の前にいるから全部聞こえてるよ。
アレだけたくさん出てきた魔物なのに、レア魔物ってどういうことなんだよ。
首を捻ってると、ブレイブが呆れたように半眼をこっちに向けた。
「前に教えただろ。門番タックルを見たやつはレアドロップ待ったなしってやつ。アレを自ら体験したかもしれないってことだよ。魔物狩りデートしてきたんだろ?」
「そうだけど。え、もしかして俺、ヴィデロさんの『エッジラック』恩恵を知らない間に受けてたってこと? それじゃ何かお礼しないとじゃん」
「……大人なあはーんでお礼したんじゃねえの?」
「昨日は俺何も出来てないから!」
「いつもはしてるんだぁ……」
ノリが学校のノリになるのは仕方ないと思う。けど、ユイ、女の子なんだからそこでそんなこと呟いて顔赤くしないの。
ブレイブも女の子なんだから、ワクワクした顔こっちに向けないで。
「そうだそうだ。門番さんで思い出した。お祝いを持ってきたんだった」
ブレイブが思い出したようにカバンから何かを取り出す。
テーブルに置かれたのは、リボンのかかった袋。
「開けてみろよ。俺たちからのお祝いだ」
雄太に促されて、袋を開けてみると……。
「……えっちい! なにこの下着!」
総レース的な女の子が身に付けるような薄い水色の下着セットだった。でも女の子用じゃない。だって、パンツと思わしきレースの前が、前が、縦開きになっていて、そこが紐で結ばれてるんだもん!
何この人たち! 俺と同じ歳とは思えないプレゼントのチョイスなんだけど!
「女の子たちがこんなものを買って来るんじゃありません!」
「マック君。女の子の下着なんて、そんな感じのが多いよ? むしろ男の子の方が抵抗あると思う。高橋だって下着買うのは付き合ってくれないから」
「そんなのは付き合いませーん。売ってるの見るより身に付けてるところを見るほうが好きだからな」
「高橋あけすけすぎでしょ。でもほんと、下着は女の子の方が派手だしエッチよ。下着選ぶのすごく楽しいもの。ログアウトすると結構抵抗があって下着売り場に入るの躊躇うからこっちで楽しんでるの」
「それな、オットに生息している服飾系職業の生産プレイヤーが作ってるやつなんだ。一目見て精巧な造りに驚いて、それからアンダーと下着系はそこで購入してるんだ」
照れすらなく普通に話す雄太たちは、普段からこんな話をしているのかもしれない。
俺には敷居が高い会話なんだけど! 女の子の下着の話なんて!
「普段アレだけイチャイチャしてるのに、何下着ごときで照れてるんだよ」
雄太にまで突っ込まれて、俺は総レースパンツ片手に撃沈した。
こ、こ、こんなもの、俺が身に付けて似合うと思ってるのかよ!
5人で俺の作った魔女鍋を食べていると、隣の建物からノックの音が聞こえた。
ヴィルさんだ。
どうぞと声を掛けると、ヴィルさんが通路から入ってくる。いつもは勝手に入って来るのに、もしかして誰かいるからノックしてくれたのかな。
「皆集まってるんだな。いい匂いがしたからつられてきたんだ……が……」
ヴィルさんはテーブルの上にある黄緑色のドロドロ鍋を視界に入れて、動きを止めた。
皆が躊躇いなく食べてるのを見て、流石のヴィルさんも顔を引きつらせていた。
「お、ヴィルさん! まだ椅子あるんで、どうぞ」
雄太が工房の方から椅子を持ってきてヴィルさんに勧める。ヴィルさんがためらっていると、後ろからもう一人ドアを開けて入ってきた。
「赤片喰さん。お疲れ様です」
「お疲れすぎて何も考えたくねえ……お、何食ってるん……だ……!?」
疲れた顔をして鍋を覗き込んできた赤片喰さんもやっぱり動きを止める。
さすが魔女鍋。威力デカい。
これ、疲れが取れる鍋なんだけど。
俺は椅子にも座らず鍋を覗き込んでいる2人に勧めた。
恐る恐る席に着いた二人にお皿を渡してから、赤片喰さんを雄太たちに紹介した。
「ま、堅苦しいのはなしにして、2人とも一緒に食べませんか、魔女風薬草鍋。効能は自然回復増とランクS聖水で作ったから穢れが取れます」
「贅沢な鍋だな……いただこう」
ヴィルさんと赤片喰さんは追加された椅子に座ると、一緒に食べ始めた。
もちろん、上げる声は「うめえ!」のみ。よし。
あとはもう皆一心不乱に黄緑色のグツグツ鍋を搔き込んだ。ピエラの澄果実をケチらなくてよかったよ。残りあとほんのちょっとだけどね。
鍋の中身がすっかりなくなると、俺は聖水茶を淹れた。
それを一口飲んで、赤片喰さんが盛大な溜め息を吐く。
「これで、あいつらも浄化出来りゃいいのに……」
「そんなに酷いんですか?」
呟かれた言葉に思わず反応すると、椅子にぐてっと身体を預けた赤片喰さんが眉を顰めた。
「中坊はまだいいんだよ。いや、まだまだよくねえんだけど、言い方次第ではちゃんと話を聞くんだけどな、一緒に組んでたプレイヤー二人がたち悪くてなあ。中坊共の行動を煽った挙句に最後ちょっとだけ注意して、我関せず。唆して楽しんでる節があるっつうか。質悪い」
「そういうのは垢BANならないんですか?」
確かに聞いていて質が悪いなと眉を顰めると、赤片喰さんは盛大に溜め息を吐いた。
「あいつらは唆すだけでなんもしてねえんだよ。マックにだってちゃんと金は払ったんだろ? だから、グレーには出来てもBANまでは行かねえんだよ。一番厄介なんだ」
「でも、何も悪いこと考えてなかったらジャル・ガーさんは攻撃しないですよね」
「考えてるんじゃねえ? でもそれを行動しないっていうかなんて言うか。ほんと質悪ぃぜ」
俺たちの会話を聞いていた雄太たちが、「それってもしかして」と口を挟む。
「あの石像をぶっ壊してジャル・ガーに全滅させられたっていう例のパーティーっすか?」
「ああ」
「何でそんなのと一緒に行動してるんすか。苦手そうに見えるんすけど」
「これも大人の事情なのよ……代わってくれる人がいるなら代わって欲しいっての」
「なるほど、運営的な事情が」
頷くブレイブと海里に、何で今の会話でそこまで推測するのかなと変質者を見る目を向けると、2人と目が合った。いや、何も考えてないよ?
赤片喰さんは特に隠すこともなく、肩を竦めていた。まあこのメンバーなら、ヴィルさんと一緒にいる時点でそういうのは察してるってことかな。
「即BANに出来ないんだ」
「まだ未成年だからな。一度は更生の機会を与えるのが母の方針なんだ。それでもダメな場合はADOが合わないからやめてくれっていう警告を出す。もちろん親御さんに。同じアカウントではログインできなくなるから、安くはないゲーム代金を支払ったであろう親御さんのフォローも必要なんだよ。でもその更生規定期間内にやらかしたら被害にあうのは俺らじゃなくて、街の人なわけだから、監視は必要なんだ」
「そっか親かあ……ってか親が買ってくれるっていうのもありなのか」
「俺とマックは自腹だもんな」
雄太と二人で頷いていると、ブレイブが「俺は実は海里からのプレゼントなんだ」と今まで知らなかった事実を教えてくれた。
え、増田ってあの高いギアとゲームをまるっとプレゼントしたってこと? すっごい、太っ腹っていうかかっこいい。
「だってこれは絶対にブレイブと一緒にしたかったんですもの。一人でやってもつまらなそうだしね。実際に一人でやってたらもうログインしてなかったかも」
ニコニコと海里が言う。そんな人がトッププレイヤーって。一緒にやる人って重要なんだなあ。と納得していると、雄太に「お前もだろ」と突っ込まれた。
確かに、ヴィデロさんに会わなかったら一人黙々と進んで砂漠都市辺りから進めなくなって段々フェードアウトしてたかもしれない。
「確かに一緒に行動してくれる人って重要だね」
頷いていると、ヴィルさんがヴィデロさんそっくりの顔で微笑んでいた。
「さあてと。今日も一緒に行ってくるかね。ヴィル、あの大人二人は俺パスな」
「そっちは俺が何とかする。健吾、明日はブリの照り焼き希望だ」
「俺も食いてえ! 味噌汁は油揚げがいい」
「くるくるしている麩も入れてくれ。佐久間は腹に溜まる物がいいって言ってるから、ドンブリで納豆ご飯でも出してやってくれ」
席を立った二人が、じゃあ、と手を挙げて、玄関から外に出ていく。これからまたあのパーティーの教育的指導をするらしい。頑張れ。ブリ照りでその疲れが癒されるならいくらでも作るから。
皆二人を見送ると、冷めたお茶を手にして「それにしても」と視線を俺に向けた。
「いつの間にやら俺らも色々巻き込まれてる気がする」
「あんな話を聞ける立場じゃないと思うんだけどねえ」
「案内のアルバイトはしたけど、それだけだもんね」
「でもマックは身内になるわけだろ。もう門番さんの身内に挨拶はしたのか?」
勿論、と頷くと、皆が生暖かい目で俺を見た。
「そして、婚姻の儀を受けたあと何か変わったか?」
雄太にそう訊かれて、俺は「伴侶パートナー補正」のことを教えた。
俺のラック数字が補正されていてとんでもない数字になっていることとか。あとはよくわからないけど。
「ってことはだ。俺たちも婚姻の儀を受ける一択だな」
「そうだね。どんな感じなのかも聞きたかったんだ。ブレイブ、一足先にここの世界で私と結婚してくれる? 現実では、大学卒業してからになっちゃうけど」
「もちろん喜んで。初夜にはとっておきの下着付けてくれるんだろう?」
「こらこらブレイブ! 女の子なんだから!」
ブレイブの言葉に思わず赤くなると、2人は肩を震わせた。
「大胆なんだか照れ屋なんだか」
「このギャップがいいんじゃないか?」
「女の子に何か幻想を抱いてるのかもな」
「そっか、あっちの身体はまだまだ綺麗なままだもんね」
「童貞で悪かったな!」
アバターでも童貞だよ! 思わず突っ込むと、雄太が盛大に吹き出した。
そのうちあっちの身体でこっちに来たら、生の身体で愛し合って! それで!
「どっちにしろ門番さん相手なら童貞なままだろ」
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僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
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