これは報われない恋だ。

朝陽天満

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487、新しいクエスト

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 雄太たちは、辺境に戻って神殿に行くと言って工房を後にした。

 4人とも婚姻の儀を受けれるか試してみるらしい。

 絶対受けれるとは思うけど、結婚してまで一緒にいたいのか、っていうのはなかなか難しいのかもな。でももうすでにユイは雄太の家の一員になってる気がするけど。

 鍋を洗いながら、心の中でうまくいくように少しだけ願ってみる。なんたって俺たちの婚姻の儀にお祝いをくれたしね。えっちい下着だけど。着たら絶対にヴィデロさんドン引きするよ。ってかオットって言ってたよな。そこの下着屋さん、ヴィデロさんに似合う下着も売ってるかな。でもどんなのが似合うだろ。総レース……うん、却下。それよりもお尻の筋肉がくっきりわかるような伸縮性の強いボクサータイプがいいなあ。きゅっとして絶対かっこいいお尻になりそう。



「……下着、買いに行こうかな」



 呟いて、ハッと我に返る。

 下着マジック恐るべし。ついついヴィデロさんのお尻に夢を見ちゃったよ。



 いけないいけない、と頭を振って、工房を出る。

 そんなことより二組のお祝いを何にするか考えないと。っていうか蘇生薬10本セットでいいかな。それとも金一封を包む……それじゃ味気ない。

 考えながらクラッシュの店に向かっていると、遠くの方からぞろぞろと集団が歩いてくるのが見えた。

 ヴィルさんたちだ。

 あの五人集団とヴィルさんと赤片喰さんが一緒になって歩いている。

 ヴィルさんはすぐに俺に気付いたみたいだけど、すぐに視線を外して俺をスルーするかの様にアイドル顔のプレイヤーに話しかけ始めたので、ありがたく顔を下に向けて足を進める。

 フードを被っているから、気付かれることなく、俺はクラッシュの店に着くことが出来た。

 ドアを開けると、クラッシュが笑顔で迎えてくれる。



「やあマック。待ってたよ。あのさ、お願いがあるんだけど」

「何か納品すればいい?」



 ピロンとクエスト通知が来る。

 クラッシュに手招きされて近付いていくと、クラッシュは意外な物を棚から出してきた。

 前に錬金の方で作った『香石』だった。確か何にでも香りが付くっていうやつ。何個か作ってクラッシュに納品してみたんだった。



「これ、もっと作れない?」

「『香石』を? それは出来るけど、今頃何で?」

「一つ買って行った異邦人が、たくさん欲しいって言って来たんだ。一つが結構高いから売れないよなあ、と思ってたら、最低10個は欲しいって」

「うわあ、気に入られたんだ。まあ、いいけど。すぐ作ればいい?」



 俺が聞くと、クラッシュは「明日まででいいよ。明日以降もう一度来てみるって言ってたから」と首を横に振った。

 それにしても香石ねえ。確か前は枕に塗り付けて、あんまりにも安らかな香りで、うん、寝落ちしたんだった。

 クラッシュから渡された『香石』を改めて鑑定眼で見てみると、前には見れなかった情報が乗っていた。



『香石:あらゆるものに香りを付けることが出来る。香りの付いたものを身に付けると感情の起伏が穏やかになる。使い過ぎは副作用が出る場合がある』



「使いすぎると副作用があるってなってるけど。その大量に欲しいって人、副作用大丈夫かな」

「あ、出来れば使い方を教えて。注意書きを付けるから」



 クラッシュに手を合わせられて、俺は鑑定眼で見た事を伝えた。そして、店の裏に回って工房まで跳んだ。



『【NEW】香りのいい石を納品しよう



 トレ雑貨屋店主が『香石』を欲しがっている

 『香石』を10個作って期日までに納品しよう



 タイムリミット:18時間



 クリア報酬:5万ガル 魔獣使いテイマーのヒント

 クエスト失敗:時間内に規定数納品できなかった 魔獣使いテイマーのヒント入手不可』



 クエスト欄を見て、ちょっと興奮する。

 テイマーか。そういえば霧吹さんはテイマーになるのかな。今度聞いてみよう。新しい職が出たかどうか。もしかして『香石』って慣らすのに使ったりするのかな。

 わくわくしながら素材を用意しようとして、肝心の黄色い花がないことに気付いた。トレの森でも沢山咲いている花なんだけど、最近トレの森で採取してないからなあ。

 とりあえずはそれを集めてからかな。と立ち上がって、俺は今度は門の方に向かって歩いて行った。





 門につくと、ヴィデロさんが立っていた。

 思わず駆け寄っていく。会えて嬉しい。



「マック。これから森か? 兄たちが森に向かったが、大丈夫か?」



 抱き着くと、心配そうな声を出しながらヴィデロさんも抱き返してくれた。鎧の硬い感触が冷たい。



「こいつの兄ちゃん、珍しくこいつを無視して出てったから、ちょっと心配してたんだよ。今までこんなことなかったし、例のあいつらと集団だったし」



 マルクスさんもヴィデロさんの肩に腕を置きながら付け足す。そしてヴィデロさんを覗き込んでしししと笑った。



「こいつな、兄ちゃんに無視されたのが堪えたのか、さっきからやたら心配してるんだよ」

「違う! 心配なんかしてるわけないだろ」



 マルクスさんの腕を払いながら、ヴィデロさんが焦ったように声を荒げる。あ、心配してたんだね。ヴィルさんに対してだけちょっとツンデレなヴィデロさん可愛い。



「大丈夫。森は広いからそんな会うこともないだろうし。そんなに深くまで行く気はないから」

「ならいいけど。あいつがいるから絡まれても大丈夫だとは思うが、気を付けろよ」

「うん」



 心配そうなヴィデロさんに頷いて、手を振りながら門を出ていく。

 南に逸れた方にあの花の群生地があるんだよなあ。結構綺麗なんだけどまだあるかな。

 それにしても、いつの間にヴィデロさんあんなにヴィルさんを好きになってたんだろ。いいことなんだけどちょっとだけヴィルさんが羨ましい。ツンデレ可愛い。

 あ、でもつれない態度を取られたら悲しくなるから、今のままでもいいかな。



 俺でもさくっと倒せる魔物を倒しながら、花のある場所に向かう。

 覚えていた場所に、花の素材はあった。

 でも、半分が踏み荒らされていた。ここで誰かが魔物と戦ったらしい。

 溜め息を吐きながら花を採取していると、マップに魔物のマークが出てきた。

 だから、ここで襲わないでほしい。花が潰れちゃう。



 立ち上がって後ろを見ると。



「……俺、倒せるかなあ?」



 見上げた魔物の頭上には、緑色のバーがあった。





「ユニークボス? せめて誰かといる時に現れて欲しかったな」



 インベントリから『感覚機能破壊薬』を取り出して、魔物を見上げる。

 魔物が咆えた瞬間瓶を投げつけると、上手い事口に入り込んだ。ガリリと音がした瞬間魔物が転がって暴れ出す。せめて向こう側に行ってくれ。この花が潰れたらもう一つの群生地はもっと遠いんだよ。祈りながら刀に手をかけて、構える。

 苦しんだ魔物は木と木の間に挟まる様に転がって、身動きが取れなくなったみたいだった。ラッキー。

 じたばたする魔物を刀で切り付けて、HPを削っていく。緑色から黄色のバーに変わった瞬間、魔物は正気を取り戻したみたいだった。

 身体に食い込んだ木をなぎ倒して態勢を整えると、もう一度咆哮を上げた。

 ビリビリする。久しぶりの一人戦闘だからドキドキしてるせいか、咆哮が効く気がする。ダメダメ。気合い負けしたら動けなくなる。

 花の群生地から遠ざかるように走ると、魔物も俺を追ってきた。よし。

 すぐに追いつかれそうになるけど、必死でかわして刀を叩き込む。でも俺の攻撃が浅いのか、魔物は全く気にせず俺に体当たりをかまして来た。

 背中をドッと押されて、膝を付く。そのまま背中に足を乗せられて絶体絶命かな、なんて死に戻りを覚悟すると、いきなり魔物は悲鳴を上げて俺の上から離れた。



「大丈夫か! 助太刀してもいいか?」



 遠くから魔法を飛ばして魔物を攻撃してくれたらしい。そこら辺を歩いていたプレイヤーたちのパーティーだった。

 お礼を言って立ち上がる。前面が土だらけになったけど、魔物はまだ元気そうだから土を払っている間もない。

 魔物は今度は俺じゃなくて、今攻撃してくれた魔導士っぽい人を狙い始めたので、今度は魔法で攻撃をすることにした。

 何個か覚えている魔法を飛ばす。うん。刀で切るよりHPが減らない。その間にも剣士の人がザクザク魔物を攻撃する。魔導師も強そうな魔法を次々飛ばす。双剣を持ってる人は、魔物にロックオンされてないのをいいことに、素早く後ろに回って背中を攻撃し始めた。

 連携がすごい。3人なのかな。俺が連携を壊したらやだな、と思いつつ、俺が攻撃をしないわけにも行かなくて、最終手段だ、とばかりに腰に下げていた聖短剣を抜いた。そしてインベントリから聖魔法の本を取り出す。

 剣を構えて、聖魔法の数少ない攻撃魔法の詠唱を始める

 本の後ろの方に書かれていたし、MPも結構減ったから攻撃力は高いはず、と詠唱を終えると、白い光り輝く球がすごい勢いで聖短剣から飛び出した。

 被弾した魔物は悲鳴を上げて後ろに弾かれた。見ると、HPバーが一気に削られていた。すっごい。なんか威力がすっごい。

 倒れた魔物に剣士が止めを刺して、光り輝きながら宙に消えていく魔物にホッとする。

 本をインベントリにしまって、聖短剣をしまおうとして気付く。

 あれ、短剣スキルが使えるようになってる。って、攻撃用スキルじゃんこれ。使ったら剣が弱体化するスキルじゃん!

 何で覚えてるの? ってか聖短剣の本まだ読んでなかった。

 首を傾げながら聖短剣を腰の鞘にしまっていると、一緒に戦っていた三人のプレイヤーが声をかけて来た。



「なんかもしかして俺たちの助力はいらなかったか?」



 剣士が申し訳なさそうにそんなことを言ったので、俺は首を横に振った。



「死に戻りを覚悟してたところだから、助かったよ」

「それならよかった。それにしてもユニークボスがこんなところに出るなんてな」

「あの子は無事かな」



 魔導士の人が挨拶もそこそこに花の群生地に向かっていく。



「あの子?」



 首を傾げると、双剣の人が苦笑しながら「昨日見つけた小さな魔物なんだ」と教えてくれた。

 魔物? 見つけた?

 何があるんだろう。まだ花の採取も終わってなかったから、俺も後を付いていくことにした。



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