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連載
554、『ミクスチャハイポーション』
しおりを挟む「新たな墓標を建てるってことは、石に文字を書かないといけないってことですよね。俺、流石に石を削る技術はないんだよな……どうしよう」
うーん、と考え込んでいると、話を聞いていたヴィデロさんがハッとしたように俺を見た。
「長光なら鎧に模様を彫り込めるから、文字を刻むこともできるんじゃないか?」
「あ、そうだね。頼んでみようかな」
「高橋たちはまた一緒に行ってくれるんだろう?」
「うん」
「聖魔法が効くなら、ユキヒラも一緒に誘ってみたらどうだ。ユキヒラも浄化を使えるんだろ」
「あ、そうだね」
色々と助言をくれるヴィデロさんは、まるで俺の周りを固めるかのように次々と信頼できるプレイヤーの名前を出し始めた。
「兄もきっと色々といい案を出してくれるはずだから付いて行ってもらうといい。あと『白金の獅子』は……」
「ヴィデロさん、それだと大分大人数になっちゃうよ」
ついつい止めると、オランさんが盛大に溜め息を吐いた。
そして、ヴィデロさんに少しだけ鋭い視線を向けた。
「マックが心配なのはわかる。俺もお前もついていけないから余計にな。でも、マックは一度入って出てきた。それを信じろ、ヴィデロ」
「マックの実力は信じてるんだ……ただ……そうだな。俺が信じないでどうするんだ」
盛大に息を吐いたヴィデロさんは、少しだけ表情を翳らせた。
「大丈夫。聖短剣をたんまり鍛えて来るからさ。気楽に待ってて。ちゃんとお墓を綺麗にしてくるから」
「マック」
「それに何かあれば高橋が盾になってくれるって言ってたし、ユイの魔法はかなり強力だし、ブレイブのサポートは的確だし、海里は……うん。ちゃんと心強い仲間が一緒に行ってくれるから」
「そうだな。悪い。頑張れって背中を押さないといけないのに」
ヴィデロさんは首を振って、隣に座っていた俺の肩に腕を回して、優しく抱き寄せた。
俺もヴィデロさんの背中に腕を回して抱き着く。
「いつでも押してもらってる。だから、行ってくるね。オランさんの番さんたちの魂をあんな暗い所から解放したいんだ」
「ああ。これで、また一つオランの憂いがなくなるんだな。マックのおかげで」
「俺は、マックに借りを作ってばかりだな。いつか返せるといいのだが、積もる一方だ……」
困ったようなオランさんに、ようやくヴィデロさんの表情が緩んだ。
でもオランさんにはいつだって知恵を貰ってるし、助力を乞うと嫌な顔をしないですぐに助っ人に来てくれるし。
あ、そうだ、と俺はヴィデロさんの素敵胸筋から顔を上げた。
「あの、これ、あの墓地から出てきたんですけど、オランさんは知ってますか?」
インベントリから『ミクスチャハイポーション』を取り出してオランさんに見せると、オランさんはそれを手に取って、驚いたように目を見開いた。
「こんなものが……」
「知ってるアイテムですか?」
瓶を手にアイテムを凝視していたオランさんは、俺の問いに頷いた。
「これは、俺たちがまだ魔大陸で暮らしていた時に使っていた回復薬だ。ここやグランデにはない素材を使っているから、すでに手には入らないはずなのだが」
「そっか。素材が手に入らないんじゃレシピを知ってもダメか……ありがとうございました」
ちょっとだけがっくりしながら返してもらったミクスチャハイポーションを、そのままヴィデロさんの腰のカバンにしま……おうとして止められる。
何で止めるんだよ。どっちも一気に回復したらその分戦闘で時間短縮になるじゃん。反撃とか出来るじゃん。ってことは危険性が減るってことだよ。
そう訴えると、ヴィデロさんはジト目で俺を見た。
「俺も同じことを言いたい。だから、これはマックが使うべきだ」
「俺は最悪死に戻って復活して回復すれば大丈夫だから」
「それでもだ。その死に戻りリスクを少しでも減らして欲しいんだ」
ごり押しされてもやっぱりこれはヴィデロさんに持っていて欲しくて、俺は口を尖らせた。
「お願い。俺の心配を一つ減らすと思ってヴィデロさんが持ってて。そしてヤバい状況になったら躊躇わず使って。……そんな状況になんかなって欲しくないけど。たまにヤバい魔物が沸いたら率先してヴィデロさんたちが前線に行くでしょ」
口を尖らせたままヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはムムムと眉を寄せて、目をつぶって、唸って、そして溜め息を吐いた。
「…………わかった」
「ヴィデロさん大好き!」
諦めたようにうなずいたヴィデロさんに満面の笑みを向けると、俺は気が変わる前に、とヴィデロさんのカバンに『ミクスチャハイポーション』を突っ込んだ。性能的には俺が作ったハイパーポーションとマジックハイパーポーションの方が回復量が大きいんだけどね。
ニコニコとヴィデロさんに抱き着くと、目の前にいたオランさんとジャル・ガーさんが「ヴィデロ完敗だな」と笑っていた。
オランさんの所から帰ってきた俺たちは、ガランとして石像のいなくなった部屋から直接工房に跳んだ。入り口がしっかりとしまっていたから。そうだよね、守護の人が不在だもんね。
工房に帰ってくると、ヴィデロさんはお茶を淹れようとする俺を抱きとめて、そのまま横抱きに持ち上げた。
「ヴィデロさん?」
「いつ行くんだ?」
抱き上げた俺を覗き込みながら訊いてくるヴィデロさんに「まだ長光さんに連絡も取ってないよ」と首を振ると、ヴィデロさんはちゅ、と俺のおでこにキスをした。
「どうもマックが俺の行けない場所に行くっていうだけで、俺は使い物にならなくなるな……」
「ごめんね、でもどうしても行かないといけないんだ」
もう一度ヴィデロさんがちゅ、と俺の額にキスをして、続けざまに頬にキスを落とす。
そして、そのまま寝室に向かって歩き始めた。
「今日は遅くなってしまったから、もう寝ようか」
そう言われてちらりとステータス欄の時間を見ると、確かにもうあと一時間もするとログアウトのアラームが鳴る時間になっていた。
「後一時間くらい時間あるよ。お風呂はどうする? 汗かいた?」
「一応仕事の後に詰所で身体は洗い流してきたんだけど、汗臭いか?」
「全然。ヴィデロさんの匂いがする。でもヴィデロさんの汗だったら俺好き」
真横にあったヴィデロさんの上腕二頭筋に顔を近づけてスンスン鼻を鳴らすと、ヴィデロさんは少しだけ身を捩った。そしてベッドの上に俺を降ろすと、俺の顔の両脇に手をついた。
「じゃあ、あと一時間は、マックと愛し合う時間だな」
俺を真っすぐ見下ろすヴィデロさんを見上げて、俺も異存なし、とヴィデロさんの首に腕を回した。
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