470 / 744
連載
553、オランさんの頼み
しおりを挟むヴィデロさんと手を繋いでジャル・ガーさんの洞窟に跳び、周りの様子を見ながら石像の部屋に入る。
中には、ジャル・ガーさんと話をしている数人のプレイヤーがいた。
『ようマック、ヴィデロ。こんな時間から村に行くのか?』
「ああ。オランに用事があってな」
ヴィデロさんが答えると、ジャル・ガーさんは頷いて、目の前のプレイヤーたちに『すまないな、火急の用が出来たみてえだ』と声をかけた。
「火急の用なら仕方ないな。でも楽しかった。また話しようぜ」
「今度村に遊びに行ってもいいか?」
「また差し入れ持って来るね」
次々と挨拶をして、座っていたプレイヤーたちが立ち上がる。
そして俺たちにも手を振って、部屋を出ていった。
ジャル・ガーさんもにこやかに『また来い』と手を振って見送っていた。
入り口ドアが閉まると、ジャル・ガーさんは改めてこっちを向いて、笑顔を消した。
『オランに用事なんて、ただごとじゃねえ気配がするな。マック、俺の石化を解いてくれねえか。一緒に行く』
「はい」
脚の方が石化していたジャル・ガーさんに石化解除の魔法陣をぶつけると、ジャル・ガーさんは立ち上がって首をコキコキ鳴らした。
「今ケインを呼んだから少しだけ待ってろ」
「そこまで急ぎではないんですけど」
大事になりそうな気配がしたので一応そう言ってみると、ジャル・ガーさんは破顔した。
「なあに、何事もないようだったらオランと飲むだけだ。マックも一緒にどうだ?」
「ごめんなさい」
頭を下げたところで、目の前にケインさんが出てきた。
頭を上げると、びっくりした顔のケインさんが目に入る。
「何謝ってんだマック。俺になんか謝るようなことしたのか? 正直に白状しろ」
「してないですから」
俺の顔を覗き込んできたケインさんに手を振りながら視線を動かすと、笑っている二人が目に入った。
ナイスタイミングとはこのことだよ。
ケインさんはまっすぐオランさんの家の前に跳んでくれた。
そしてそのまま俺たちと一緒に家に入ってくる。
なんでも「どうせ後でまた呼び出されてどこかに跳ばされるんだろ。だったら一緒にいた方がましだ」とのこと。大丈夫だと思うけど。
ユイルはもう寝る時間らしく、ジャル・ガーさんがちょっとだけ残念そうな顔をしていた。
「よく来たな、2人とも。俺に用事があるとか」
オランさんは穏やかに俺たちを迎え入れてくれた。
ジャル・ガーさんは早速棚にある酒を物色し始めている。
勧められるままに席に着くと、俺はさっき見てきた場所をオランさんに伝えた。
「ああ、あの墓地か。察しの通り、俺たちが仲間を弔った場所だ」
「やっぱり……」
「もう足を踏み入れることは叶わない状態になっているのはわかっていた。一度足を向けたが、とても俺たちが行ける場所ではなくなっていた。せめて、故郷に近い場所に弔いたかったからとあの場所にしたが、それがあだになってしまった」
「じゃあ、やっぱりあの最奥のお墓は」
「ああ。俺の、最愛の者だ」
酒の入ったグラスを片手に、オランさんとジャル・ガーさんは揃って同じ方向に視線を向けた。
少しの間黙って酒を飲んでいたオランさんは、ふう、と長く息を吐くと、「そうか」とポツリと一言つぶやいた。
「マックはあの墓地まで行けたのか。あんな濃い瘴気の様な魔素に包まれた場所だ。ダンジョン化しているだろうとは思ったが……中の状態を教えてくれてありがたい」
「やっぱり中で出てくるゴースト系魔物は、昔亡くなった獣人さんたちの魂なんですか?」
「多分、それは違う。あれは魔物だ。思う存分消してくれ。それと……もし、昔の仲間が魔物として出て来たとしても、それは、消してやって欲しい。魔物として残るのはきっと苦しいから」
「わかりました」
これで遠慮なくゴースト系を消せるってことだな、と頷いていると、オランさんは何か考えるような表情をした後、手で目を覆った。
「マック、頼みがある」
手を外したオランさんは、まっすぐ俺を見て、口を開いた。
途端に、ピロンとクエスト欄に通知が来た音が聞こえた。
「はい」
俺が返事をすると、皆が苦笑する。
ヴィデロさんが「マック、まずは内容を聞いてから返事しろよ」と耳元で囁いてきたけれど、ほかならぬオランさんの頼みだから。他の見も知らない人だったらこんな風に返事はしないよ。
「あそこの墓標を読んだか?」
「読みました」
「あれは、俺の過去最大の過ちだ」
「過去最大の過ち?」
オランさんの言葉に首を捻ると、オランさんは溜め息と共に頷いた。
ジャル・ガーさんはだんまりを決め込んでいたけれど、苦い物を食べたような何とも言えない顔つきでただグラスを傾けている。
ケインさんはその時代の人じゃないからか、口を挟もうとはしない。
「あの場所に墓標を選んだのは、人族の街から離したかったのと、故郷の地に近かったから、という理由だ。俺があの近くに居を構えていたというのも大きかった。あの墓地を作った当時は、まだこの世界と袂を分かつところまでは考えが及ばなかった。だから、俺たちが仲間の死を弔おうと思っていた。だが、魔の者の気配は強く、程なくして、あの壁が建てられた。その頃だな、俺たちが人族の世界を離れようとしたのは。気がかりだったのは、あいつらが穏やかにあの地に眠れるように祈りを捧げる者がいなくなってしまうということだった。瘴気の魔素が蔓延ると、俺達は人族の手には負えない程の魔物と化してしまうんだ。せめて、輪廻の輪に加わり、次の命こそは幸せにと願ってやまなかった……だがな」
窓の外は暗い。
いつもは聞こえる子供たちの喧騒も聞こえない。
ただ、静かに話すオランさんの声だけが聞こえていた。
「俺が刻んだ墓標のせいで、あそこに眠っている仲間たちの魂があの地に留まってしまっている。俺は、あの墓標に、仲間たちがその場に留まらざるを得ない文字を刻んでしまっていたんだ。あの場所で永遠を望むという言葉のせいで皆は輪廻の輪に還っていくことが出来ない。そして、祈りがささげられないからこそ、あの場は魔素の塊、ダンジョンと化してしまったようだ。だからマック」
オランさんはいったんそこで言葉を切り、テーブルにぶつけそうな勢いで頭を下げた。
「頼む、あの墓標を壊し、新たな墓標を建てて欲しい」
『【NEW】北の地の魂を解放せよ
北の地に眠るかつての王者の仲間たちが魔物と化して苦しんでいる
魂を救済し、掲げられた墓標を破棄し、新たな墓標を掲げよ
クリア報酬:追憶の地の標 獣人好感度上昇 追憶の地の詳細
クエスト失敗:墓標内容を変更できなかった 魂を輪廻の輪に還すことができなかった ダンジョン難易度上昇 歯車の欠け』
2,675
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。