これは報われない恋だ。

朝陽天満

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553、オランさんの頼み

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 ヴィデロさんと手を繋いでジャル・ガーさんの洞窟に跳び、周りの様子を見ながら石像の部屋に入る。

 中には、ジャル・ガーさんと話をしている数人のプレイヤーがいた。



『ようマック、ヴィデロ。こんな時間から村に行くのか?』

「ああ。オランに用事があってな」



 ヴィデロさんが答えると、ジャル・ガーさんは頷いて、目の前のプレイヤーたちに『すまないな、火急の用が出来たみてえだ』と声をかけた。



「火急の用なら仕方ないな。でも楽しかった。また話しようぜ」

「今度村に遊びに行ってもいいか?」

「また差し入れ持って来るね」



 次々と挨拶をして、座っていたプレイヤーたちが立ち上がる。

 そして俺たちにも手を振って、部屋を出ていった。

 ジャル・ガーさんもにこやかに『また来い』と手を振って見送っていた。

 入り口ドアが閉まると、ジャル・ガーさんは改めてこっちを向いて、笑顔を消した。



『オランに用事なんて、ただごとじゃねえ気配がするな。マック、俺の石化を解いてくれねえか。一緒に行く』

「はい」



 脚の方が石化していたジャル・ガーさんに石化解除の魔法陣をぶつけると、ジャル・ガーさんは立ち上がって首をコキコキ鳴らした。



「今ケインを呼んだから少しだけ待ってろ」

「そこまで急ぎではないんですけど」



 大事になりそうな気配がしたので一応そう言ってみると、ジャル・ガーさんは破顔した。



「なあに、何事もないようだったらオランと飲むだけだ。マックも一緒にどうだ?」

「ごめんなさい」



 頭を下げたところで、目の前にケインさんが出てきた。

 頭を上げると、びっくりした顔のケインさんが目に入る。



「何謝ってんだマック。俺になんか謝るようなことしたのか? 正直に白状しろ」

「してないですから」



 俺の顔を覗き込んできたケインさんに手を振りながら視線を動かすと、笑っている二人が目に入った。

 ナイスタイミングとはこのことだよ。





 ケインさんはまっすぐオランさんの家の前に跳んでくれた。

 そしてそのまま俺たちと一緒に家に入ってくる。

 なんでも「どうせ後でまた呼び出されてどこかに跳ばされるんだろ。だったら一緒にいた方がましだ」とのこと。大丈夫だと思うけど。

 ユイルはもう寝る時間らしく、ジャル・ガーさんがちょっとだけ残念そうな顔をしていた。



「よく来たな、2人とも。俺に用事があるとか」



 オランさんは穏やかに俺たちを迎え入れてくれた。

 ジャル・ガーさんは早速棚にある酒を物色し始めている。

 勧められるままに席に着くと、俺はさっき見てきた場所をオランさんに伝えた。



「ああ、あの墓地か。察しの通り、俺たちが仲間を弔った場所だ」

「やっぱり……」

「もう足を踏み入れることは叶わない状態になっているのはわかっていた。一度足を向けたが、とても俺たちが行ける場所ではなくなっていた。せめて、故郷に近い場所に弔いたかったからとあの場所にしたが、それがあだになってしまった」

「じゃあ、やっぱりあの最奥のお墓は」

「ああ。俺の、最愛の者だ」



 酒の入ったグラスを片手に、オランさんとジャル・ガーさんは揃って同じ方向に視線を向けた。

 少しの間黙って酒を飲んでいたオランさんは、ふう、と長く息を吐くと、「そうか」とポツリと一言つぶやいた。



「マックはあの墓地まで行けたのか。あんな濃い瘴気の様な魔素に包まれた場所だ。ダンジョン化しているだろうとは思ったが……中の状態を教えてくれてありがたい」

「やっぱり中で出てくるゴースト系魔物は、昔亡くなった獣人さんたちの魂なんですか?」

「多分、それは違う。あれは魔物だ。思う存分消してくれ。それと……もし、昔の仲間が魔物として出て来たとしても、それは、消してやって欲しい。魔物として残るのはきっと苦しいから」

「わかりました」



 これで遠慮なくゴースト系を消せるってことだな、と頷いていると、オランさんは何か考えるような表情をした後、手で目を覆った。



「マック、頼みがある」



 手を外したオランさんは、まっすぐ俺を見て、口を開いた。

 途端に、ピロンとクエスト欄に通知が来た音が聞こえた。



「はい」



 俺が返事をすると、皆が苦笑する。

 ヴィデロさんが「マック、まずは内容を聞いてから返事しろよ」と耳元で囁いてきたけれど、ほかならぬオランさんの頼みだから。他の見も知らない人だったらこんな風に返事はしないよ。



「あそこの墓標を読んだか?」

「読みました」

「あれは、俺の過去最大の過ちだ」

「過去最大の過ち?」



 オランさんの言葉に首を捻ると、オランさんは溜め息と共に頷いた。

 ジャル・ガーさんはだんまりを決め込んでいたけれど、苦い物を食べたような何とも言えない顔つきでただグラスを傾けている。

 ケインさんはその時代の人じゃないからか、口を挟もうとはしない。



「あの場所に墓標を選んだのは、人族の街から離したかったのと、故郷の地に近かったから、という理由だ。俺があの近くに居を構えていたというのも大きかった。あの墓地を作った当時は、まだこの世界と袂を分かつところまでは考えが及ばなかった。だから、俺たちが仲間の死を弔おうと思っていた。だが、魔の者の気配は強く、程なくして、あの壁が建てられた。その頃だな、俺たちが人族の世界を離れようとしたのは。気がかりだったのは、あいつらが穏やかにあの地に眠れるように祈りを捧げる者がいなくなってしまうということだった。瘴気の魔素が蔓延ると、俺達は人族の手には負えない程の魔物と化してしまうんだ。せめて、輪廻の輪に加わり、次の命こそは幸せにと願ってやまなかった……だがな」



 窓の外は暗い。

 いつもは聞こえる子供たちの喧騒も聞こえない。

 ただ、静かに話すオランさんの声だけが聞こえていた。



「俺が刻んだ墓標のせいで、あそこに眠っている仲間たちの魂があの地に留まってしまっている。俺は、あの墓標に、仲間たちがその場に留まらざるを得ない文字を刻んでしまっていたんだ。あの場所で永遠を望むという言葉のせいで皆は輪廻の輪に還っていくことが出来ない。そして、祈りがささげられないからこそ、あの場は魔素の塊、ダンジョンと化してしまったようだ。だからマック」



 オランさんはいったんそこで言葉を切り、テーブルにぶつけそうな勢いで頭を下げた。



「頼む、あの墓標を壊し、新たな墓標を建てて欲しい」





『【NEW】北の地の魂を解放せよ



 北の地に眠るかつての王者の仲間たちが魔物と化して苦しんでいる

 魂を救済し、掲げられた墓標を破棄し、新たな墓標を掲げよ



 クリア報酬:追憶の地の標 獣人好感度上昇 追憶の地の詳細

 クエスト失敗:墓標内容を変更できなかった 魂を輪廻の輪に還すことができなかった ダンジョン難易度上昇 歯車の欠け』





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