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552、聖短剣レベルアップ
しおりを挟む「ところでその短剣の経験値はどうなったんだ?」
ブレイブにそう言われて思い出した俺。
最後は聖短剣どころじゃなくなったからなあ。
取り出してみてみると、聖短剣の石が薄く発光していた。
『ルミエールダガールーチェ・アルジェント【49/****(-4)】:闇を吸収変換し、聖を吸収しおのれの力とする聖なる短剣。闇属性以外のものを傷つけると少しずつ力を失っていくので注意が必要。祭典儀式用であり、装備したものは特有の聖魔法『サークルレクイエム』が使えるようになる。状態異常回避率+10%』
「あ、なんかレベルが上がったっぽい。名前にアルジェントってくっついてるし、必要経験値が更に増えた」
「アルジェントってことは、『銀』か。ってことはまたレベルを上げたら次は『金』とかになるのかな」
へえ、アルジェントって銀って意味なんだ。するっとそんな答えが出てくるブレイブに尊敬の眼差しを向ける。
でも次のレベルってなんか必要経験値4桁になってるんだけど。いつになるんだろう。
しかもやっぱり必要経験値は見れないようになってるし。前の必要経験値も結局幾つだったのかわからないままレベルが上がってる。もし前の時の経験値が900とかだったら、今回みたいに聖魔法使いまくりのダンジョンに入ったらすぐ上がるっていう証明になるけど、最大値が300とかだったりしたら、今回のあの聖魔法使いまくりでもトータル100とか200とかしか経験値が入らなかったってことだよな。
そこらへんが曖昧だから聖短剣のレベル上げはわからないことばっかりだ。きっとユキヒラの聖剣は魔物を倒せばサクサク上がるんだろうな。そっちの方が単純明快ですごくいいんだけど。
短剣を腰にしまって溜め息を吐くと、ユイが「きっとマック君なら大抵は大丈夫だよ」と謎の慰めをくれた。
ご飯食ってけよと誘われたけれど、そろそろヴィデロさんの仕事が終わる時間だからと辞退してトレに帰ってきた俺は、山のような汚い布を調薬工房のテーブルに載せて頭を捻っていた。
ほんとに汚い。匂いがないのが不思議なくらい汚い布だらけ。しかも『ホロゴースト』と『ホロギガゴースト』の二種類の端切れ布があった。意味が解らない。出てきたゴーストは全部同じに見えたのにどこに違いがあったのか。
あとはよくわからない『ホロゴーストの影』という名前の黒いボール。中にはやっぱり『ホロギガゴーストの影』というものもあって、それは『ホロゴーストの影』より大きかった。それもゴロゴロとテーブルに転がす。
一応錬金レシピ集を開いて探してみると、中間くらいに影を使った錬金物があったので、影は錬金素材の方に分類することにした。
汚い布のほうは特に載ってなかったので、溜め息を吐きながらレシピをしまう。
「聖水で少しだけ汚れが落ちたんだよな……」
ユイが洗っていたのを思い出して、俺は自分でも一回やってみることにした。
桶を取り出して、その中に聖水をドボドボ入れる。
そこに一枚の端切れ布を浸すと、ふわっと汚れが取れた。それはもうみごとに綺麗にとれた。
「嘘、綺麗になったけど」
もしかして、ユイは市販の聖水を使ったから中途半端に汚れが落ちたのかな。市販は確か上限でランクB程度だった気がするから。
すっかり汚れの落ちた布を聖水から持ち上げて、鑑定眼で見てみると『追憶の端切れ』というアイテム名に変わっていた。
桶の聖水はすっかり汚れの染み込んだどす黒い液体に変わっていたので、一回しか洗濯に使えないらしい。
聖水だったものを捨てて、もう一度聖水を入れる。そして布を浸すと、またしても綺麗に汚れが取れた。
一瞬にして布の色が変わるのがなんだか楽しくなってくる。
聖水を5本ほど使ったところで、ふと二枚一緒に入れてその上から聖水を掛けたらどうなるのか、と思った俺は、早速実験してみることにした。
結果、二枚とも中途半端に汚れが落ちていた。もう一本追加するとようやく綺麗な布になっていた。ってことは、やっぱり一枚に一本なのか。しかもランクSじゃないと最後まで汚れは落ちないとか。贅沢な布だ。
結構な枚数あったので、途中でうんざりしてきた俺は、流しに布を山にして、魔法陣魔法で高濃度魔素の雨を降らせて直接祈ってみることにした。
セイジさんが前に神殿で描いていた雨を降らせる魔法陣を必死で再現して、魔法陣から雨が降り始めると、手を組んで『祈り』を唱える。
すると、汚かった布の山は、白い布の山になっていった。でもこれ、いつまで祝詞を唱え続けてないといけないんだろう。祈りをやめると、降ってる水は普通に魔素が濃いだけの水になっちゃうから、祈り続けてないといけないんだ。まだ下の方は黒いから、もう少しかな、というところで、「ただいま」と玄関が開いた。
俺の祝詞が聞こえたらしいヴィデロさんは、玄関の方を振り返った俺に「続けてて」と声を掛けながらこっちに近付いてきた。
そして後ろから覗き込むように、流しの中で山になっている白い布に目を向ける。
下まで綺麗に白くなったのを確認してから祝詞を止めると、俺はくるっと振り向いて後ろにいるヴィデロさんに抱き着いた。
「おかえりヴィデロさん」
「ただいま、マック。これは、なんなんだ? そっちにある黒い球も」
「ちょっと高橋たちと辺境のダンジョンに行ってきたんだけど、その時の魔物のドロップ品」
俺の返事に、ヴィデロさんは目を瞠った。
そして、俺に怪我がないかを確認するように、背中を撫でる。大丈夫だよ。今日はHPそんなに減らなかったから。まともな一撃はあの壁魔物の突進攻撃だけだし。
「危ない所に行ったんだな」
「でもほぼ聖魔法ですぐに消えていくゴースト系ばっかりだったから。高橋の攻撃が全く効かなくて、俺の独壇場だったよ。ヴィデロさんに見せたかった。俺きっとかっこよかったよ」
「マックはいつでもかっこいいよ。マックが大活躍なんて、見たらまた惚れ直しそうだな。さっきの祈りで惚れ直したけど。でもそんなダンジョンだったら俺が行っても何も出来なそうだな。高橋の攻撃が効かないのか」
「壁の向こう側だから、ヴィデロさんは連れて行けないんだ。でもそこ、すごく沢山の墓地があってさ。一番奥のお墓……オランさんの番さんのお墓かもしれなくて。ってそうだった。ちょっと待って。この布片付けたらご飯にしよう」
素敵な胸筋を名残惜しく思いながらヴィデロさんから離れた俺は、流しに山になっている布を絞り始めた。しっかりと絞ると、聖水も回復薬と同じようにすぐ乾くのが助かる。通常の洗濯もこうであって欲しい。
ヴィデロさんは、俺が布を絞り始めたのを見て、手伝うと言って俺の後ろから手を伸ばして、俺を抱え込むようにして一緒に布を絞った。絞りにくくないのかな、と思ったけど、腕の中にいるのが何とも居心地よくて結局最後までそのまま二人で布を絞る。
でも『追憶の端切れ』って何かに使えるのかな。模様の様なものはどれも少しずつ違っているような気がするけど、断片すぎてよくわからなかった。
インベントリにすべての布をしまい込んだ俺は、キッチンに移動して、作り置いていた物を次々取り出してヴィデロさんの前に出した。
俺もとなりに座って二人で夜ご飯を食べる。
ヴィデロさんの話を聞いたり、俺が今日行ってきたダンジョンの話をしたり、2人の夕食はすごく楽しい。
お腹もいっぱいになって片付けをしていると、隣で皿を拭いていたヴィデロさんが、「これが終わったら行こうか」と微笑んだ。
えっと、どこに? と目をぱちくりさせていると、ヴィデロさんが「その顔可愛い」と不意打ちで額にキスを落とした。
「オランの所に行くんだろ」
「一緒に行ってくれるの……?」
「当たり前だろ。俺を置いてくなよ」
すごくかっこいい笑顔でかっこいい答えをくれたヴィデロさんに、俺はドギャンと胸を打ち抜かれた。好き。
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