これは報われない恋だ。

朝陽天満

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563、魔王の位置

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 ケインさんに連れられてオランさんの家に行くと、そこにはモロウさんとセイレンさんも来ていた。

 ってことは、魔大陸時代に生きていた人たち勢ぞろいってことじゃないかな。

 守りの方は大丈夫かな、と見回すと、モロウさんが笑いながら「今獣人の村に行き来は出来ないから大丈夫だ」そうだ。ちなみに同じ種族の獣人さんが臨時で門を守ってるらしい。ジャル・ガーさんの所はもぬけの殻だけど。



 ヴィルさんはオランさんの家に入ると、広いテーブルにバサッとほぼ出来上がった地図を広げた。



「これは……」

「ほう……」



 モロウさんとセイレンさんが感嘆の声を上げている。



「懐かしいな。こんなまともな大陸の地図を見たのはずいぶん久方ぶりだ」

「本当に。これがフィアの眠る場所から手に入れたものなのか」

「ってかあの場所が解放されたってことに俺はびっくりだ」

「異邦人ってもんはすげえなあ。あんな場所に平気で入れるなんてよ」



 懐かしそうに眼を細めるオランさんと、胸に手を当てるセイレンさん、そして言葉通り目を丸くしているモロウさんと、カカカと笑うジャル・ガーさん。



「皆、大陸にいたころに戻りたかったんだな。こんなもんが出来上がるなんてよ」



 ジャル・ガーさんが布をなぞって目を細める。

 フォリスさんの本を読む限り、こっちに逃げてくるまでは皆、ちゃんと幸せに暮らしていたから。



「差別っていうのはどこにでもあるものだけどな……こんなものが出来上がる程大陸に想いを馳せていたとはな。……マックが言うには、これに触れてあの墓地の転移魔法陣に乗ると、大陸まで行けるらしい」



 ヴィルさんの言葉に、4人が一気に顔を険しくした。



「どういうこった」



 ジャル・ガーさんが俺に視線を向けて来るので、あの時のことを説明する。

 雄太に止められたことまで説明すると、皆揃って胸を撫で下ろして盛大な溜め息を吐いていた。



「行かなくてよかったぜ……今は向こうの大陸は人の住めねえ穢れた地だ。あの墓地に平気で入っていける異邦人ならまあすぐに魔物化はしねえだろうが、俺らにとっては死の大陸に等しいんだ。しかも俺らも知らねえその転移、どこに出るかわかったもんじゃねえ。そしてな、あの地を徘徊する魔物は全てがここいらでたまに出てくる突然変異よりさらに強いと来た。俺らでも太刀打ちできるかわからねえって代物だ」



 モロウさんの言葉に、背中を冷たい汗が流れる。 

 獣人の村のユニークより強い雑魚魔物……死亡フラグしか立たないよ。

 死に戻りしたらこっちに戻ってこれるかもわからないって雄太言ってたし。

 うん。ほんと勢いで行かなくてよかった。



「だから、これからどこに転移するのか確かめようと思うんだ」

「やめとけよ」

「でもこれは俺たちにとってはプラスになるかもしれない事案なんだ。上手くいけば俺たち異邦人が魔物の殲滅を出来るかもしれない。もしかすると魔王を倒す異邦人も出てくるかもしれないだろ。そのために勇者は自分の元で異邦人を鍛え上げているんだからな」

「そんな都合よくいくかよ」

「都合よくなんてこれっぽっちも考えていない。ただし、やってみる価値はある。色々と事実がわかれば、多分俺たちなら何とかなる。まあ……少しずつ体力は削られるし心が侵食されるような気持ち悪さはあるけどな、あの大陸は」



 笑いながらまるで魔大陸に行ってきたような口調で話すヴィルさんに、4人は目を剥いた。

 そういえば神殿で魔大陸に飛ばされたって言ってたっけ。サラさんに呼ばれたとも言う強引な手段で。

 それが本当の魔大陸なのかはわからないけど、でも、多分本当の魔大陸なんじゃないかな、なんてぼんやりと思う。

 ヴィルさんはこっちの世界の知識をどこまでため込んだんだろう。



「ま、まあヴィルフレッドだしな。常識と非常識を反転させる漢なだけはあるな」



 よくわからない称賛を受けて、ヴィルさんは苦笑した。



「とりあえず、情報が欲しいんだ。対価は出来る限りの物を渡す」

「対価など。マックがしてくれたことにすら俺はまだ何も報いていないんだが」



 ヴィルさんの言葉に、オランさんが首を振った。

 俺がしたことって、墓地の浄化の事? でもあれは俺がしたかったことでもあるし。

 首を傾げてそう言うと、ヴィルさんが俺の頭をガシガシと撫でた。



「情報は渡そう。ここの中央の大きな国が、初めの災いが起きた地だ」

「その災いは、まずここの小さな国を呑み込み始めた。私の故郷はその小さな国と中央の国の丁度境目に位置していたが、すぐに呑み込まれた。逃げるのが精いっぱいだった程の侵蝕具合だったな」

「そっから俺が住んでた更に西の方に侵蝕してきやがったんだ。下から来たから上を迂回してこっちに逃げて来た。でも、土地を離れたがらねえ奴らは逃げきれなかったな……それに、西の方に住んでた人族たちはのんびり気質でな、逃げ遅れちまってほぼ呑み込まれた」

「俺らと行動を共にしてた人族くらいじゃねえか? こっちに逃げてこれたのは」

「だな」

「俺らが逃げて来たルートは、こう、ぐるっと上をまわって上側の島を渡って、この国の東の最果てに来たんだ」



 ふむ、とモロウさんの指の動きを見ながらヴィルさんが考え込む。



「ってことは、ここから魔大陸に行けるってことか?」

「いいや、行けねえな。強い海流のせいで、こっちに来るのはすげえ楽だったが、向こうには絶対に行けねえ。そのせいで逃げる人数分の船を確保するのに相当時間がかかった」

「なるほど。海流じゃどうしようもないな」

「ここからの道は諦めろ」

「じゃあ下側は」

「そっちはどっちも岸壁だからまず海に降りれねえし向こうの大陸に登れねえな」

「そうか」



 ヴィルさんはひとつ溜め息を吐くと、やっぱりこの地図を使うしかないか、と小さく呟いた。



「魔王の位置が、ここか」

「ああ」



 地図の中央に位置する国を指さすと、4人は一斉に頷いた。

 ってことは、ここにサラさんが封印されてるってことかな。

 ふとあの天真爛漫な笑顔を見せたサラさんを思い出して、思わず眉をギュッと寄せる。

 セイジさんは結局もう一つのクリアオーブを自分で手に入れようと動くのかな。普通に考えたら、王宮にある魔力測定の魔道具なんて、一般市民が使うなんてことありえないしね。俺も使って欲しくないし。だってクラッシュの魔力だと、万が一なんてことがあるかもしれないから。



「魔王の瘴気に包まれた場所はどんな感じだったかわかるか?」

「そうだな……草木は穢されて、素材は一切使えなくなったな。それと食べ物も」

「持ち込み必須だな」

「水も飲めたものじゃなくなった。飲んだ瞬間身体の中から穢れるだろう」

「水か……それは、魔法でその場で出す分には穢れないのか?」

「じわじわと穢れたから、出してすぐは大丈夫だろう」



 肝心の道は、すでにかなり昔のことだからわからないらしい。穢れた木や草がどんな風に成長しているのかさっぱりわからないから。

 そんな感じで、ヴィルさんはいくつかの魔大陸のことについて質問すると、4人に礼を言って頭を下げた。



「貴重な情報をありがとう」

「これくらいならお安い御用だ。いつでも来い。俺の持ち得る情報なら惜しみなく渡そう」



 オランさんはヴィルさんと握手を交わして、微笑み合った。

 地図を畳んでインベントリにしまったヴィルさんは、腰を上げて、次に行こう、と俺を促した。



「すまない、西の守護者殿の所を通らせてもらう」

「いつでもいいってことよ」

「今度大吟醸を送ろう」



 モロウさんとも握手を交わしたヴィルさんは、行こう、と俺を促した。

 今度はどこに行くんだろう、とドキドキしながら腰を浮かせる。



「実はもう護衛には連絡を取っているんだ。だから、合流するぞ」

「護衛?」



 一緒に席を立ったモロウさんと共に森を歩き、転移魔法陣を経てモロウさんの洞窟に着くと、モロウさんは見張りの獣人さんに労いの言葉をかけてから、俺達に手を振った。

 俺たちも手を振り返して、魔法陣を描く。待ち合わせは辺境の壁だそうだ。

 壁に跳ぶと、そこには雄太たちが待っていた。

 あ、護衛って雄太たちだったんだ。



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