567 / 744
連載
650、感動の再会もそこそこに
しおりを挟む無言で見つめ合うっていうか睨み合ってるお爺さんとセイジさんの異様な雰囲気を察してか、街のおじさんは「また来るから」とそそくさと退散していった。パタン、とドアが閉まった瞬間、お爺さんがつかつかとセイジさんの方に歩いていき、ガッと被っていたフードを持ち上げた。
「……」
無言でセイジさんのローブの胸倉を掴み、お爺さんがギリギリと奥歯を噛みしめる。
おばあちゃんも椅子から立ち上がったまま口もとを押さえて震えていた。
「ルーチェ……なの?」
セイジさん、お爺さんたちにも生きてたことは言ってなかったんだ。
それにしてもこのタイミングで。
「……よ、元気そうだな」
盛大に溜め息を吐いた後、セイジさんは口元を歪めて、おばあちゃんに視線を向けた。途端にお爺さんの手が更に胸倉を締め付ける。
「苦しいって……」
「今までどこをほっつき歩いとった」
お爺さんは締めあげたまま、怒ったような口調でセイジさんを見上げた。
「旅が終わったなら、帰って来ると、あれだけ約束しただろうにこのバカ息子」
お爺さん一人くらいだったら難なく逃げられるはずのセイジさんは、されるがままの状態で、困った顔で二人に視線を向ける。
そして、自分の顔を片手で覆い、天を仰いだ。
「くそクラッシュ、やってくれた……」
生きてたんなら早く帰ってこい馬鹿もん! と怒鳴り散らすお爺さんと、泣いてしまったおばあちゃんを宥めながら、セイジさんは小さく魔法陣を描いた。
そして、宙に向かって声を上げる。
「クラッシュ、聞こえるか」
『あ、セイジさん。おかえりなさい』
「今どこにいる」
『その声音は……無事おじいちゃんとおばあちゃんに会えたんですね。よかった』
「よくねえよ! じじいには怒鳴らればばあには泣かれてどうしろっていうんだよ!」
『前に言ったじゃないですか。俺が店を留守にする間、おじいちゃんたちにもう一度店に戻って来てもらうって。最近セイジさんの顔を見てなかったから、そのままお願いしちゃいましたよ。顔を出さないセイジさんも悪いんですからね』
強気なクラッシュの言葉に、セイジさんは溜め息しか出なかったみたいだった。
ったく、と吐き捨てたところで、スッと真顔になる。
「クラッシュは、どこにいるって……?」
セイジさんは二人を交互に見た後、ひっそりとその場にいた俺に視線を向けた。
そして、しっかりと目が合った状態で、はっきりと訊いた。
「クラッシュは、どこに行ってるんだ?」
「ばかもん。自分の足で立ってるガキの行動はそうやって無粋な詮索をするもんじゃない」
お爺さんはようやくセイジさんから手を放して、ものすごくしかめっ面になった。
その顔でセイジさんもクラッシュがどこにいるのかわかったのか、口を開こうとして、お爺さんの無言の制止で口を閉じる。
その目が、俺に「後で全部説明してもらうからな」と言っている。怖い。何で俺はこんな恐怖の親子再会場面にいるんだろう。クラッシュのドッキリは心臓に悪すぎだろ。全員にとって。しかもクラッシュは本気で善意しかないから怒るに怒れない。
お爺さんから離れたセイジさんは、おばあちゃんにもハグして、更に泣かせていた。
「商人たるもの信用が一番なんだから、約束だけは破るなと教え込んだんだが」
「あのなじじい」
おばあちゃんの背中を優しく撫でながら、セイジさんは、未だ怒りの冷めやらぬお爺さんの言葉を止めた。
「俺の中では、まだ終わってねえんだよ。心配させてんのは悪いと思ってる。でもな、俺の中では、まだ終わってねえんだ。だから、まだ約束を反故にしたわけじゃねえ」
「そうやって屁理屈を」
「じじいが言ったんだろ。あいつと並んで元気に帰って来いって。だから、まだだ。心配すんなよ。ちゃんとじじいとの約束は守るからよ」
「……だが、サラちゃんは」
「じじい。いいか、俺は、約束は破らねえ」
はっきりと言い切ったセイジさんに、お爺さんは口を噤んだ。
そして、セイジさんの肩をバン、と叩いた。
「その言葉、信じるぞ」
「信じろよ。……母さんも。もう少し待っててくれ。俺にはまだやらなきゃならねえことがあるんだ。それが終わったら、堂々と村に顔を出してやるよ」
ひとしきり泣いて、ようやく笑顔を見せたおばあちゃんにお茶を勧められたセイジさんは、それを断って、俺に目配せした。
「ちょっとそこの薬師を借りるぜ。頼みてえことがあるからさ」
「借りるって、マックさんは物じゃないのよ」
「わかってるって。俺もアイテム頼みてえんだよ」
そう言って店を引っ張り出された俺は、居たたまれない想いでセイジさんをチラ見した。
セイジさんは真顔になると、「エミリの部屋を借りるか」と俺の手を掴んで一瞬で跳んだ。
目の前にいきなり雑多な部屋が現れ、その部屋の机には、エミリさんが座って何か書類を書いている。
そして、俺たちが現れた瞬間に「あら」と笑みをこぼした。
「珍しい組み合わせね。どうしたのセイジ」
「どういうことか説明しろ。クラッシュは、魔大陸に行ったのか?」
「ええ」
「ええってお前……」
笑顔で肯定したエミリさんに、セイジさんががっくりと力を抜く。
「あの子ちゃっかり雑貨屋の魔大陸支店を開いてるわよ」
「エミリは心配じゃねえのかよ!」
ダン! とセイジさんが机を叩くと、エミリさんは動揺したそぶりもなく、面白そうに「あら」と声を上げた。
「マックも一緒にいるからてっきり色々聞いてたんだと思ったのに」
「これからここで聞くんだよ。店にはクソじじい達がいたから」
「だからここから派遣した子が帰って来たのね。あとで挨拶に行かないと」
「そうじゃなくて!」
イライラしているセイジさんに、エミリさんはくすくすと笑う。
「たまには顔を見せてあげてもいいんじゃないかとは私も思ってたわ。でもあなたの気持ちも知ってるから強引に連れていくことはしなかったけど。今回はあなたよりクラッシュの方が一枚上手だったみたいね」
ふふふ、と笑うエミリさんは、心底嬉しそうだった。
笑い事じゃねえよと口を尖らすセイジさんに、更に笑みを深めている。
「前に一緒に魔大陸に行くってクラッシュに言われてたんじゃないの?」
「でも魔力の適正値がわかればって条件つけたぞ」
「しっかりと魔道具で見てもらったわよ」
「は……? どうやって」
王宮の魔道具だろ、と呟くセイジさんは本気でクラッシュを魔大陸に行かせたくなかったようで、エミリさんからも「ほんとセイジってクラッシュを可愛がってるわよね」と突っ込まれた。
「私今、王宮魔道具技師と個人的にやり取りする仲なの」
にこやかにエミリさんが宣言すると、セイジさんは半眼になった。
「子供を死地に送るのかよ」
「あら、精鋭たちが周りを囲んでるわ。そして、村の中は安全よ」
「安全?」
「ええ。だって村の中は浄化されてるもの」
ね、とこっちにウインクしてくるエミリさんに、俺は帰っていいですか、と言いたくなった。詳しくはエミリさんに訊けばいいと思うんだ。
エミリさんは事細かに浄化された村のことをセイジさんに話した。クラッシュは魔王討伐に参加するわけじゃなくて、そこで店を開くから危なくはないということも。もちろん、魔力は適正値だったことと、俺作アイテムで補助していることも。
「アルが育てた子たちなんて、魔大陸の魔物を簡単に倒しちゃう様になってるのよ。それに、向こうに行く子たちは、私がちゃんと厳選してるから、安心して背中を預けられるわ。補助アイテムも充実してきてるしね。特別に、クラッシュが売ってるアイテムをあなたにあげるわ。使ってみて。面白いわよ」
エミリさんに魔大陸アイテムセット一式を渡されたセイジさんは、わけがわからねえ、と小さく呟いた。展開が怒涛過ぎたからね。エミリさんと宰相さんとアリッサさんが仕事早すぎるんだよ。賢者が話題に乗り遅れるくらいに。
2,401
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。