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651、事情説明はエミリさんから
しおりを挟む「ところでセイジはどこに行ってたのよ。全然顔を見なかったけど。クラッシュも心配してたのよ」
「俺? ずっと獣人の村にいた」
「獣人の村? 気付かなかったわ」
「ナム村ってところにいたんだ。ずっと引きこもってたからじゃないか?」
へえ、セイジさん獣人の村にいたんだ。ナム村ってもしかしてヒイロさんたちの村じゃなかったっけ。あそこにいたんだ。全然気付かなかった。
それにしても、と俺は話をしているセイジさんとエミリさんを見た。
俺、いらないよね。エミリさんが全部教えてくれてるから。
実際に今、俺たちプレイヤーがどういう状況かっていうのを詳しく話しているし。さすがエミリさん、めちゃくちゃ詳しい。依頼を出す方だから当たり前かもしれないけど、俺ですらそうなんだ、なんて聞き入ってしまう内容だった。俺が聞いていいのかな。
魔大陸をどんな感じでどんなプレイヤーが進んでるのかとか。かなりの数のパーティー名が上がるけど、そのほとんどをセイジさんは知ってるみたいだった。皆ダンジョンに行ったことあるからかな。一緒に行った人の事、忘れないのかな。
エミリさんは魔大陸全体の描かれた地図を開き、『高橋と愉快な仲間たち』『白金の獅子』はここまで進んだと地図にそこらへんにあった石みたいなのを置いた。
「結構進んでるんだな。その先辺りに大きめの街がなかったっけか」
「あるわね。でも大きい街って逆に休めないじゃない。全く、教会が穢れてるのが最悪よね」
「こっちだって同じだっただろ。今はましだけどな」
「ええ、猊下は本当に最高のお方よ。ご本人はいやいややっているけれど、だからこそ」
なるほどあそこにデカい街があるのか、と一緒になって地図を見ていると、セイジさんはクラッシュが店を開いている村を指さして、ここにいるんだな、とエミリさんに確認していた。
「この村は行ったことねえな」
「そうね。北の方の村だしね。異邦人たちが向かっているのは、こっちのほうなのよ。オラン様の故郷が出発点だったから」
「ああ、あの獅子の」
「ええ。でもその村は今、異邦人は入れなくなってるの。魔道具ってホント凄いわね。実物を見に行ってきたけれども、本当に異邦人にとって透明な壁みたいなものが出来ているみたいなのよ。私達には何の障害もないのに」
「それが魔道具なのか? ってかなんでそんな魔道具手に入れたんだよ」
「私がやったわけじゃないわ。王宮の魔道具技師のアリッサよ。彼女の腕は恐ろしいわね」
「……だから、クラッシュの魔力測定が出来たわけか……くそ」
「ほんと過保護ね。あの子、最近魔大陸に行くためにかなり頑張ってたのよ。下手したら前線に出ようとしていたから私もちょっとは焦ったけど。向こうの村に店を開くことで落ち着いてくれてよかったわ。クラッシュを商人として育ててくれたあなたのご両親にほんと感謝よ」
にこっと微笑むエミリさんに、セイジさんは苦虫をかみつぶしたような顔を向けた。
さっきの再会は、ほんとに不意打ちだったみたいだもんなあ。
「知らねえ間に、一人前の男になったもんだな、あんな小さかったのに」
「セイジに抱っこされて大喜びしてたものね、あの子。サラなんてこんな赤ちゃん私も欲しいって騒ぎだして、あなた滅茶苦茶焦ってたじゃない。誰の子が欲しいんだとか」
「忘れろ」
「忘れないわよ。あんなにあからさまなアピールに全然気付かないんだもの。夜這いかけようかなとか言ってたのよ、サラ。襲われなくてよかったわね」
天を仰いで口元を手で覆ったセイジさんに、エミリさんが楽しそうな笑い声をあげる。
しばらく絶句していたセイジさんは、ゆっくりとこっちを向いて、ジト目で俺を見た。
「今の話は忘れろ。いいか、忘れろよ」
心なしか赤くなってる顔に、俺は笑いそうになる口元を手で隠しながら、コクコク頷いた。
「んじゃちょっくらクラッシュに文句言いに行ってくる」
「行き方わかってるの?」
「ああ。ちょっと世の理を学んできたから、今は行ったことねえ場所でも跳べるぜ」
「一体獣人の村で何を学んできたのよ……。あ、じゃあ、クラッシュに渡して欲しい物があるのよ。持って行って貰えない?」
「わかった」
セイジさんが頷くなり、エミリさんはちょっと待ってて、と部屋を出ていった。
二人になると、セイジさんはこっちを振り向いた。
「なあ。マックも魔大陸に行ってみたのか? 村が浄化されてるってどういう意味だよ」
「ええと、村の中は、こっちの国と同じような状態になってる感じです。村の外に出ると体力削られるんですけど、村の中は大丈夫なので、クラッシュも一応安心していられると思います」
「なんで村限定で浄化出来たのか知ってるか?」
「あ、はい。ええと、穢れた魔素を遮断する魔道具だったかな? を村の柵の所に設置してたので、その魔道具で魔物が村に入り込まなくなったんですけど、浄化魔法を掛けたらその魔道具に反応しちゃって魔道具の効果内だけは浄化されて普通の空気っていうか魔素になりました」
「なんだその魔道具……」
「なんか、周波数? ってどう説明したらいいんだろ。俺も詳しくは知らないんですけど、魔物の発する魔素と、俺たちの身体を作る魔素では何かが違うらしくて、最初は魔物の魔素を通れないように設定してたらしいんですけど、それの思わぬ産物で、浄化された後穢れた魔素もその魔道具を通らなかった、みたいな……」
ヴィルさんがいたらうまく説明してくれるんだろうけど、と思いながら、おぼつかない説明をすると、セイジさんは低い声で唸った。
「なんで王宮の魔道具技師が仲間入りしてるんだよ」
しかめっ面のセイジさんに、心の中で、「それはアリッサさんがヴィデロさんとヴィルさんのお母さんだからです」と答えておく。きっと、アリッサさんは誰よりもこの世界を救いたいと思ってるんだと思う。最愛の人の眠る、そして、最愛の息子の暮らすこの世界を。じゃなかったら、こんな大掛かりなことするわけないし、この世界を乱すことを覚悟で俺たちを引き入れたりしないよ。
「待たせたわね。これをクラッシュに届けて欲しいのよ。あの子自分の装備には無頓着じゃない? 店番していてもおかしくないけれど、高性能の防御を誇るローブと腰巻マーロ」
「うわ……溶岩蜥蜴の皮のローブ……奮発したな」
「統括権限でたまたま入った物を買い取ったのよ。ほんと、溶岩蜥蜴に挑んでいくとか、異邦人って怖いものなしよね」
「よく溶けなかったな」
「一人死に戻りしたって朗らかに教えてくれたわ。私たちにとっては笑い事じゃないけれどね。高値で買い取ったわよ。それを売ってくれた子たちは雷雹らいひょう象の装備を身に着けてるからいらないんですって」
「雷雹象……どこにいたんだよそんなもん。なかなかお目にかかれねえぜ」
「獣人の村で暴れてたらしいのよ。嬉々として狩ってきたって」
呆れた顔をしながらも、セイジさんは装備品をエミリさんから受け取ると、んじゃ行ってくる、と魔法陣を描いた。
行先は、獣人の村に行く時と同じような数字を描いていて、もしかしてそういうのも勉強してきたのかな、なんて思いながら消えていくセイジさんを見送った。
クラッシュ、ドッキリ成功でセイジさんに怒られないといいけど。
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