これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
587 / 744
連載

670、魔王戦参戦

しおりを挟む
「サラさん!」



 俺たち三人が一斉に名前を呼ぶと、サラさんは色素の薄い瞳を俺たちに向けて、口角を上げた。



「ありがとう。あなたたちのお陰で、またこの目でこの世界を見ることが出来るわ」



 掠れているけれど、しっかりした声が聞こえてくる。『蘇生薬ランクS』の効能は確か『復活後体力回復値100%』だったはず。ってことは、サラさんはある程度身体的回復もしてるってことかな。でも、魔力値は回復していないはず。

 俺は慌ててカバンからマジックハイパーポーションを取り出した。



「どこか痛いところはないですか? あの、多分魔力は回復してないから、これを飲んでください。あの……あの」



 言いたいことは結構沢山あった気がする。錬金術のこととか、セイジさんのこととか、あと、この世界を守ってくれてありがとうって。

 でもてんぱってそういうことが頭に思い浮かばない。

 サラさんはゆっくりと身体を起こすと、俺の手からマジックハイパーポーションを受け取って、一口飲んだ。



「美味しいわ……しばらくぶりに口にしたものがこんなに美味しいなんて嬉しい」



 にっこりと笑うと、優雅に一本飲み干した。でもサラさんの魔力って多分かなり多いよね。この大陸に来れるくらいってどれくらいだかわからないけど。

 あ、鑑定眼で見てみたらわかるかな。でもこっちの世界の人の場合魔物と違ってMPとかHPとか見れないんだよな。でも本調子じゃなさそうだから、まだ魔力は全然回復してないんだと思う。これ一本でだいたい2000くらい回復するはずだから、もう数本は上げた方がいいのかな。と思ってそっとさらに追加すると、サラさんは楽しそうに目を細めた。サラリと色素の薄いストレートの髪が肩から流れ落ちる。色々とボロボロ状態だけど、綺麗な人だな、と素直に感心する。



「こんなに飲んだらお腹が大洪水ね。でもありがたくいただくわ」



 サラさんはにっこり笑うと、俺の手から次々瓶を受け取って、全てを飲み干した。

 そして一言。



「ありがとう。大分回復したわ。これで向こうに参戦できるわね。行きましょう、可愛らしい薬師さんとアルの弟子さんたち」



 サラさんは俺たちのことをしっかりと認識してるみたいだった。流石。

 海里たちも驚いた顔をしたけれど、しっかりと頷くと、サラさんに手を差し出した。

 サラさんは海里のその手を取って、ひらりと立ち上がると、んーと伸びをした。



「流石に身体が固まってる気がするけど、自分の身体で動けるってほんと素敵ね。じゃあ愛しの仲間たちを援護しに行きましょうか。少し遠いけれど」

「よければ私たちがすぐさま連れて行きますよ」

「ふふ、ありがとう。楽しみね」



 サラさんはにっこりと笑うと、海里にお姫様抱っこをされた。ふわっと重さを感じさせない動きで海里に抱かれるサラさんを見ていると、俺はブレイブにお姫様抱っこをされてしまった。何で!



「何サラさんに見惚れてるんだよ。浮気か? やっぱり女性が良くなったのか?」



 ニヤニヤしながらそんなことを言うブレイブに「違うって!」と文句を言いながら暴れると、ゾッとする詠唱が聞こえてきた。



「風の聖霊よ、その自由に空駆ける優美な力を私たちに貸し与え給え。『飛翔』」



 海里がフワッと浮いて、サラさんを抱き上げたまま魔王がいる方に飛んでいった。

 青くなりながらブレイブを見上げると、ブレイブがニヤリと笑う。



「さ、行くか。マックが女性に見惚れてるところも見れたことだし」

「違うから! ただサラさんがすごく軽かったから、本当にセイジさんが軽くなる魔法陣を描いてたのか気になっただけだから!」



 ふわっと浮いたことでヒッとブレイブにくっつくと、ブレイブは耐えきれないとでも言うように肩を震わせた。



「サラさんが行っちゃってからの告白で良かったな。それ聞こえてたらセイジさん半殺しに合うよ絶対。女性はそういうの気にするからさ」

「あ……うん、ごめん。って……うわあああああ!」



 確かに、と反省したところでいきなり人体ジェットコースターがスタートしたので、構えていない無防備状態だった俺は、盛大に魔大陸に悲鳴をこだまさせたのだった……。





 前線に戻ると、魔王のHPは確かに太くて長い黒だった。今の所半分くらいまで減ってる。

 結構いい感じでHP削ってるのかな、と思ったら、主に削ってたのはユキヒラだった。他の人たちの攻撃はいまいち。やっぱり聖属性が強いのかな。闇の塊とかなんとか言ってたし。

 俺の横に降り立ったブレイブがインカムを耳につけると、俺にもつける様に促してくる。他の人との連携を取るためだっていうけど、俺の耳、今獣人なみなんだよね。全員の言葉聞こえてるよ。

 サラさんとセイジさんが並んで会話してるのもばっちり聞こえるから。

 っていうか普通の会話してるってことは、感動の再会を見逃したのかな、俺。

 サラさんとセイジさんの感動の再会をちょっと見たかったなとがっかりしている俺に、ブレイブが声をかけてきた。



「マック、起爆剤」



 ブレイブに手を出されたので、そこに起爆剤を乗せつつ、俺も聖短剣を構える。

 ブレイブが起爆剤を打ち出したタイミングで聖魔法を飛ばすと、ちゃんと少しだけど目に見えてHPが減った。



「的がでかいと当てるのも簡単だな」



 そんなことを言いながら次々海里の愛の武器で矢を放つブレイブ滅茶苦茶かっこいいんだけど。

 魔王から放たれる闇の魔球を、矢を打った次の瞬間には盾に変えて弾いてるし。これがトップランカーか。恐ろしい。

 雄太に至っては、魔大陸産の鎧を着て、大剣を片手で扱っている。流石に二刀流にはしなかったみたいだけど、あいつ人間かな? って最近本気で思う。俺は片手剣ですら重いのは振り回せないのになんだこの差。

 前衛が雄太、海里、ユキヒラ、月都さん、ガンツさん、勇者、エミリさん。そして、その中にクラッシュも入っていて、しかも周りに全然引けを取ってないのが凄すぎる。後衛にサラさんとセイジさんが並び、ちょっと離れたところにユイ、ユーリナさん、ドレインさんが並んでて、一番後ろに俺とブレイブがいる。



「まだ足りないわ」



 ふと、サラさんが呟いた。



「足りねえ? 何が」



 怪訝な顔をしたセイジさんに、サラさんが「歯車よ」と軽く答える。



「覇王の剣と盾がこの世に顕現しているの。あれは魔王にとって致命傷を与えるわ。でも持ち主がここにいない。そして、力を増幅させてくれる人もいない」

「覇王の剣と力の増幅って、ないとだめなのか? 聖剣はあの聖騎士が持ってるけどそれだけじゃダメだってことか?」

「ええ、体力を削れるけれど、今は歯車が欠けた状態なの。呼んでこないと」

「サラはその足りないのを知ってるのか?」

「『エッジラック』と『デプスシーカー』あの人たちは鍵よ。あの人たちがこの世にいなかったら、すでにこの世界はなくなっていたわ。本当にギリギリだったの。色々歩いていたらそれが見えちゃって。時の傍観者がそこら辺を調べていた私に力を貸してくれたのよ。でも自身は傍観者だから手が出せないって」

「あのハーフエルフ……俺も力を借りちまったな。でもサラ、『デプスシーカー』は連れてこれるとしても、『幸運エッジラック』はダメだろ。魔物になる」

「それどころか今、どこにもいないわ。もちろんここにいることが一番望ましいけれど、存在しているだけで違うのよ」

「なんだよそれ」



 魔法が飛び交い、剣がぶつかり、誰かが叫び、魔王が咆哮を上げる中。俺の耳はしっかりと二人の会話を聞いていた。

 『デプスシーカー』と『エッジラック』ってヴィルさんとヴィデロさんだよね。2人とも今ここに来れないと思う。ヴィルさんはそもそもログインしてないし、ヴィデロさんはまだ現れてない。でもサラさんは何でヴィデロさんがいないことを知ってるんだろう。どこにもいないって、存在がなくなったわけじゃない、よね……。迷うときがあるって……まさかね。



「クラッシュ」



 サラさんの呼び声に、クラッシュが前衛から後ろに下がる。



「ちょっとお使いに行ってきて欲しいの」

「お使い……? 今?」

「ええ。今じゃないとだめ」

「わかりました」



 クラッシュが渋々頷くと、サラさんはよくわからない数字を並べた。

 クラッシュが頷いてそれを転移の魔法陣魔法に組み込み、どこかへ跳んだ。

 聖短剣を構えて、聖魔法を飛ばしながら、俺は内心青くなっていた。

 なんかサラさんの言葉で、身体中の力が抜けそうだよ。

 ヴィデロさん。

 ヴィデロさん。

しおりを挟む
感想 537

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。