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671、封印中のサラさんに
青くなっている俺に気付いたのか、サラさんがセイジさんの横から後ろに移動してきた。その間に飛んでくる魔王の魔法攻撃は全て、サラさんが同じ威力の魔法をぶつけて相殺している。すごい。
「マック。聖魔法を使えるのは、聖騎士とあなただけ。二人が頼りよ。聖剣が二本もあるんだもの。この戦いは勝ち戦ね」
俺の横に立ったサラさんは、さっきまで封印されていたとは思えないほどに生き生きとした表情を浮かべていた。
勝ち戦、なんて簡単に言うけど、皆が攻撃をしても削れるHPバーはほんの僅か。
しかも、サラさんが言うにはヴィルさんとヴィデロさんがいないんでしょ。だったらどうしてそんな風に勝ち戦なんて言えるんだろう。
しかも、ヴィデロさんは存在していないって。
考えただけでずうんと身体が重くなる。
「サラさんは、ヴィデロさんが通ってる道がどういうものか、知ってるんですか……?」
「知っているわ。ここで封印されていたからこそできたこともたくさんあるの。6年前、そして、最近、ね」
「6年前……?」
「正しくは、もうすぐ7年経つわね。一筋の光を見たのは」
一筋の光、という言葉に、ハッと顔を上げると、サラさんは魔王の方に視線を向けたまま、微笑んでいた。
「無数の歯車が点々と浮かぶ真っ黒な世界に迷い込んだのはいつだったかしら。たまに歯車が動いて、一つ一つが近付いていたり、新しい歯車が生まれたりする、不思議な場所だったの」
詠唱もなく、指一本で魔法の球一つを作ってしまうサラさんは、それを危なげなく魔王が飛ばす魔法にぶつけて行く。迫り来る魔王の剣は、セイジさんが描いたと思われる魔法陣魔法に跳ね返されている。見向きもしないから、よほどセイジさんの魔法を信じてるんだろうなとうかがわせる。横にいる俺まで守られてるのが何とも情けないけれど、話を聞きながら聖魔法で攻撃してと言われたので、聞き耳を立てつつ簡単な詠唱の魔法を飛ばす。たまに手がお留守になっちゃうけど。
「本当に歯車以外ない世界だったのよ。でもね、6年前、いきなり歯車が沢山生み出されたの。何かと思って彷徨ってみたら、一筋の光の道を見つけたのよ。光のくせに険しい道」
それってもしかして。
俺が顔をサラさんの方に向けると、サラさんはチラリと一瞬だけこっちを見た。
「危なっかしい足取りでその道を進む女性がいたから、ちょっとだけ手助けしたの。残念ながら向こうから私の姿は認識できないみたいだったけれど。彼女がその光の道の先に向かった途端、また一気に歯車が増えてなかなか壮観だったわ」
「それ、運命の歯車じゃ……」
「マック、魔法を打って。あなたの魔法とても効いてるわ」
サラさんにほらほら、と急かされて、必死で剣を握って魔法を詠唱する。話に聞き入っちゃうと集中途切れるんだよ。でもサラさんの話、めちゃくちゃ気になるんだよ!
「たまに黒いのが暴れ出すからそれを押さえつつしかその場所に行けなかったんだけれど、ある日久しぶりにその黒い場所を覗いたら、面白いことに歯車が噛み合って、回り始めていたの。沢山の歯車が噛み合っていたわ。まだまだただ浮いているだけの歯車もあったけれど、段々とそれは大きな何かになっていたの。そしてね、残り数個の歯車を残して他の物が全て噛み合った巨大な何かになった時、またしても光の道が現れたのよ」
俺はバッとサラさんの方に顔を向けた。
それ、ヴィデロさんだ。
ヴィデロさんの道だ。
「その道を、一人の青年が歩いていたの。前よりもしっかりした道だから、危なげなかったわ。でも」
「でも!? な、何かあったんですか!?」
「遠い穏やかな道と、近く険しい道が出来てね。あれはきっとあの青年の心の現れ。急くと道は険しくなるものよ。でもその青年は躊躇わずに険しい道を選んだ。泣かせられないからって。早くこの手に抱きしめたいからって。たまに黒いのが邪魔をして来たけれど、かなり力が強くなっていて、私も抑えるのがなかなか難しかったの。でも、青年は光の剣を片手にその黒いのを退けて進んでいたわ」
「魔王が……ヴィデロさんを邪魔してたのか」
「別段大変そうじゃなかったけれどね。サクサク倒してたわ。流石ね。でも道が途中で途切れていたの。黒いのが光の道を呑み込んじゃって。青年を道の向こうに行かせるのがとてもよくないっていうのがわかったみたいでね。落ちそうになる青年に手を伸ばしたら私まで落ちそうになっちゃったんだけれど、でも」
はらはらしながらサラさんの話に聞き入った俺は、またも「ほら、魔法を打って。回復魔法を前衛たちに」と促されて、ハッとなって詠唱をする。
心では早く続き、続き! と悲鳴を上げながら。ヴィデロさん大丈夫だったの!?
「青年は、自力で難を逃れたわ。背中から、大きな羽根を広げて。一緒に落ちそうになった私まで助けてもらっちゃったわ。助けに行ったはずが本末転倒よね。今はもう、きっと道の先に行ってる頃ね」
「うあぁぁぁ……」
にっこりと微笑まれて、俺は思わず声を上げて泣いてしまった。短剣を持ったまま、顔を覆って、天を仰ぐ。
「ザラざん……ありがどうございまず……うぅぅ」
鼻声混じりだから濁音が凄かったけれど、サラさんは笑いもせずにそっと俺の肩に手を置いた。そして「いいの。これでおあいこよ」と離れて行った。
近くにいたブレイブが「マックどうした大丈夫か!?」と声をかけてくれたので、俺は顔をぐいぐいローブで拭いて頷いた。大丈夫。もう、大丈夫。
気合いの入った俺は、マジックハイパーポーションで減ったMPを回復すると、インベントリから『魔力増強薬マナエンハンスポーション』を取り出して飲み干した。中身がアレだってことは今は気にならな……なるけど、忘れる。そして魔王に鑑定眼を使う。
「魔王の残りHP2180045、残りMP1895601! ヴィルさんがいれば弱点とかわかりそうなのに」
鑑定眼で見えた魔王のHPMPを周りに教えると、聞こえた人たちは一様に顔を顰めた。今までと桁が違うよね。でもレベルが違い過ぎるのか、他のことはまったく読み取れなかった。結構レベル上げたのに。素材の内包魔力とか読めるようになったのに。流石別格。
「弱点は聖属性のみ。ざっと計算すると、HPバー一本が36万HPって感じね」
「お前ら恐ろしいこと言わないでよね! やる気が失せるから!」
ユーリナさんが付け足すと、ドレインさんが喚いた。確かにそれを聞くと気が遠くなりそうだよね。かといって何本も何本もHPバーがあったらその都度パワーアップしそうだからそれも嫌だけど。
聖短剣ルミエールダガールーチェを構えた俺は、次いでインベントリから聖魔法の本を取り出した。何せここはMP消費二分の一。ってことは、MP消費がすごくて使えなかった聖魔法も使えるってことだよね。使ってないのは全然覚えてないから、本読み必須。情けない。でも仕方ない。読めば魔法が出るんだからいいよね。
後ろの方のページを開いて、最大の攻撃魔法を唱える。どんな魔法かは使ったことがないからわからない。
「至高の神よ。その手に収めた剣の御力で悪に一振りの慈悲を与え給え『聖斬撃ホーリースラッシュ』!」
『オオオオオオオ!』
唱えた瞬間、MPがぐわっと減って、俺の身体の周りから、剣スキルのスラッシュみたいなものがいくつも飛び出していった。それが魔王の身体をザクザク切り刻んで消えていく。
魔王の身体はすぐにくっついたけど、悲鳴を上げさせることには成功した。
よし、と手をぐっと握りしめてインベントリからマジックハイパーポーションを取り出そうとしたところで、こっちに驚いたような顔を向けたユキヒラと目が合った。
「俺その魔法覚えてねえ! あとで教えてくれ!」
「MP馬鹿食いするけど」
「問題ねえ!」
魔法が気になったらしい。らしいなと笑いそうになりながら、俺はまたしても同じ魔法を詠唱した。
きっと今なら何があっても笑っていられる気がする。
だって、ヴィデロさんが、道の先に行ったから。
・‐・‐・‐・‐・‐・‐・
いつも読んでくださってありがとうございます。
先行していたサイトでのストックがなくなりましたので、これから不定期更新になります。2~3日で一話投稿となる予定ですので、よろしくお願いします。感想とても励みになります。お返事遅くなってすいません。
「マック。聖魔法を使えるのは、聖騎士とあなただけ。二人が頼りよ。聖剣が二本もあるんだもの。この戦いは勝ち戦ね」
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勝ち戦、なんて簡単に言うけど、皆が攻撃をしても削れるHPバーはほんの僅か。
しかも、サラさんが言うにはヴィルさんとヴィデロさんがいないんでしょ。だったらどうしてそんな風に勝ち戦なんて言えるんだろう。
しかも、ヴィデロさんは存在していないって。
考えただけでずうんと身体が重くなる。
「サラさんは、ヴィデロさんが通ってる道がどういうものか、知ってるんですか……?」
「知っているわ。ここで封印されていたからこそできたこともたくさんあるの。6年前、そして、最近、ね」
「6年前……?」
「正しくは、もうすぐ7年経つわね。一筋の光を見たのは」
一筋の光、という言葉に、ハッと顔を上げると、サラさんは魔王の方に視線を向けたまま、微笑んでいた。
「無数の歯車が点々と浮かぶ真っ黒な世界に迷い込んだのはいつだったかしら。たまに歯車が動いて、一つ一つが近付いていたり、新しい歯車が生まれたりする、不思議な場所だったの」
詠唱もなく、指一本で魔法の球一つを作ってしまうサラさんは、それを危なげなく魔王が飛ばす魔法にぶつけて行く。迫り来る魔王の剣は、セイジさんが描いたと思われる魔法陣魔法に跳ね返されている。見向きもしないから、よほどセイジさんの魔法を信じてるんだろうなとうかがわせる。横にいる俺まで守られてるのが何とも情けないけれど、話を聞きながら聖魔法で攻撃してと言われたので、聞き耳を立てつつ簡単な詠唱の魔法を飛ばす。たまに手がお留守になっちゃうけど。
「本当に歯車以外ない世界だったのよ。でもね、6年前、いきなり歯車が沢山生み出されたの。何かと思って彷徨ってみたら、一筋の光の道を見つけたのよ。光のくせに険しい道」
それってもしかして。
俺が顔をサラさんの方に向けると、サラさんはチラリと一瞬だけこっちを見た。
「危なっかしい足取りでその道を進む女性がいたから、ちょっとだけ手助けしたの。残念ながら向こうから私の姿は認識できないみたいだったけれど。彼女がその光の道の先に向かった途端、また一気に歯車が増えてなかなか壮観だったわ」
「それ、運命の歯車じゃ……」
「マック、魔法を打って。あなたの魔法とても効いてるわ」
サラさんにほらほら、と急かされて、必死で剣を握って魔法を詠唱する。話に聞き入っちゃうと集中途切れるんだよ。でもサラさんの話、めちゃくちゃ気になるんだよ!
「たまに黒いのが暴れ出すからそれを押さえつつしかその場所に行けなかったんだけれど、ある日久しぶりにその黒い場所を覗いたら、面白いことに歯車が噛み合って、回り始めていたの。沢山の歯車が噛み合っていたわ。まだまだただ浮いているだけの歯車もあったけれど、段々とそれは大きな何かになっていたの。そしてね、残り数個の歯車を残して他の物が全て噛み合った巨大な何かになった時、またしても光の道が現れたのよ」
俺はバッとサラさんの方に顔を向けた。
それ、ヴィデロさんだ。
ヴィデロさんの道だ。
「その道を、一人の青年が歩いていたの。前よりもしっかりした道だから、危なげなかったわ。でも」
「でも!? な、何かあったんですか!?」
「遠い穏やかな道と、近く険しい道が出来てね。あれはきっとあの青年の心の現れ。急くと道は険しくなるものよ。でもその青年は躊躇わずに険しい道を選んだ。泣かせられないからって。早くこの手に抱きしめたいからって。たまに黒いのが邪魔をして来たけれど、かなり力が強くなっていて、私も抑えるのがなかなか難しかったの。でも、青年は光の剣を片手にその黒いのを退けて進んでいたわ」
「魔王が……ヴィデロさんを邪魔してたのか」
「別段大変そうじゃなかったけれどね。サクサク倒してたわ。流石ね。でも道が途中で途切れていたの。黒いのが光の道を呑み込んじゃって。青年を道の向こうに行かせるのがとてもよくないっていうのがわかったみたいでね。落ちそうになる青年に手を伸ばしたら私まで落ちそうになっちゃったんだけれど、でも」
はらはらしながらサラさんの話に聞き入った俺は、またも「ほら、魔法を打って。回復魔法を前衛たちに」と促されて、ハッとなって詠唱をする。
心では早く続き、続き! と悲鳴を上げながら。ヴィデロさん大丈夫だったの!?
「青年は、自力で難を逃れたわ。背中から、大きな羽根を広げて。一緒に落ちそうになった私まで助けてもらっちゃったわ。助けに行ったはずが本末転倒よね。今はもう、きっと道の先に行ってる頃ね」
「うあぁぁぁ……」
にっこりと微笑まれて、俺は思わず声を上げて泣いてしまった。短剣を持ったまま、顔を覆って、天を仰ぐ。
「ザラざん……ありがどうございまず……うぅぅ」
鼻声混じりだから濁音が凄かったけれど、サラさんは笑いもせずにそっと俺の肩に手を置いた。そして「いいの。これでおあいこよ」と離れて行った。
近くにいたブレイブが「マックどうした大丈夫か!?」と声をかけてくれたので、俺は顔をぐいぐいローブで拭いて頷いた。大丈夫。もう、大丈夫。
気合いの入った俺は、マジックハイパーポーションで減ったMPを回復すると、インベントリから『魔力増強薬マナエンハンスポーション』を取り出して飲み干した。中身がアレだってことは今は気にならな……なるけど、忘れる。そして魔王に鑑定眼を使う。
「魔王の残りHP2180045、残りMP1895601! ヴィルさんがいれば弱点とかわかりそうなのに」
鑑定眼で見えた魔王のHPMPを周りに教えると、聞こえた人たちは一様に顔を顰めた。今までと桁が違うよね。でもレベルが違い過ぎるのか、他のことはまったく読み取れなかった。結構レベル上げたのに。素材の内包魔力とか読めるようになったのに。流石別格。
「弱点は聖属性のみ。ざっと計算すると、HPバー一本が36万HPって感じね」
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ユーリナさんが付け足すと、ドレインさんが喚いた。確かにそれを聞くと気が遠くなりそうだよね。かといって何本も何本もHPバーがあったらその都度パワーアップしそうだからそれも嫌だけど。
聖短剣ルミエールダガールーチェを構えた俺は、次いでインベントリから聖魔法の本を取り出した。何せここはMP消費二分の一。ってことは、MP消費がすごくて使えなかった聖魔法も使えるってことだよね。使ってないのは全然覚えてないから、本読み必須。情けない。でも仕方ない。読めば魔法が出るんだからいいよね。
後ろの方のページを開いて、最大の攻撃魔法を唱える。どんな魔法かは使ったことがないからわからない。
「至高の神よ。その手に収めた剣の御力で悪に一振りの慈悲を与え給え『聖斬撃ホーリースラッシュ』!」
『オオオオオオオ!』
唱えた瞬間、MPがぐわっと減って、俺の身体の周りから、剣スキルのスラッシュみたいなものがいくつも飛び出していった。それが魔王の身体をザクザク切り刻んで消えていく。
魔王の身体はすぐにくっついたけど、悲鳴を上げさせることには成功した。
よし、と手をぐっと握りしめてインベントリからマジックハイパーポーションを取り出そうとしたところで、こっちに驚いたような顔を向けたユキヒラと目が合った。
「俺その魔法覚えてねえ! あとで教えてくれ!」
「MP馬鹿食いするけど」
「問題ねえ!」
魔法が気になったらしい。らしいなと笑いそうになりながら、俺はまたしても同じ魔法を詠唱した。
きっと今なら何があっても笑っていられる気がする。
だって、ヴィデロさんが、道の先に行ったから。
・‐・‐・‐・‐・‐・‐・
いつも読んでくださってありがとうございます。
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感想 555
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。