これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
595 / 744
連載

678、終戦

しおりを挟む
 覇王の剣を手にした勇者は、物凄かった。

 気迫が全然違った。

 剣と一体化してるような気すらしてくるくらい、覇王の剣と波長が合ってるっぽかった。

 とうとう魔王の爪を二本切り落とし、身体に剣を叩きつける。流石に切り刻むとかは出来ないみたいだけど、頭上のHPがひたすら減ってるから一撃でとんでもないダメージを与えてるみたいだった。



 魔王の弱体化は、全然解除にならなかった。皆にボコボコにされつつ何とかやり返す魔王は、すでに威圧も何も発してはいなかった。

 もうすぐゲージがなくなる、というところで、勇者たちが追い打ちをかけ、魔法攻撃陣営も追撃する。

 俺も聖魔法をガンガン打ちまくり、ほんの少しは魔王のHPを削る手伝いをして。

 最後の力を振り絞って全体攻撃を開始した魔王を雄太たち前衛が押さえつける中、勇者が剣を振りかぶったところでそれは起きた。



 切り離された腕と爪が、宙に舞って無差別に攻撃を開始したんだ。





 腕は後ろの方で魔法攻撃をしていた人たちを無造作に斬りまくり、最初にユイが膝をついた。

 次の瞬間にはサラさんがお腹を斬られて血が吹き出し、ユーリナさんがまたしても死に戻り状態になる。

 すぐ近くにいたブレイブがすぐに蘇生薬をかけて復活させていた中、サラさんはドレインさんに回復してもらっていて。俺もユイに回復の聖魔法を唱えたら、今度は俺が斬り刻まれた。

 一瞬でなくなったHPに、やっぱり俺は防御力弱すぎるんだよな、なんて思いながら前線に視線を移せば、ヴィデロさんがこっちに駆け寄ってくるところが目に入った。

 必死で「すぐ戻るから」と伝えようとするけど、すでに口は動かず、身体は消えていく。やっぱり死に戻りの感覚って慣れないよ。





 見た事のある廃教会で復活した俺は、隣にユイがいることにちょっとだけ驚きながら、アイテムで全快にした。



「最後に死に戻っちゃったね」

「うん。他の人は大丈夫だったのかな」

「今復活してこないってことは、大丈夫だってことだよ。サラさんもちゃんとドレインさんに回復してもらってたし」

「そうだね。じゃあ戻ろうか」

「うん。戻ったらすでに終わってたりしてね」

「あはは……早く倒れて欲しかったけど、それはちょっとシャレにならない……」

「ほんとにね。ここまで頑張ったのに魔王の最後を見れないとかだったら笑えないよね」



 ニコニコとそんなことを言うユイに、何かフラグが立った気がした。

 ホントに笑えない。魔王が倒されたところが見たいじゃん。ここまで頑張ったんだし。

 ユイと共に急いでラスボス戦現場に戻ると。





 既に、魔王の姿はなかった。

 そして、黒く染まったクリアオーブが宙に浮いていて、それをセイジさんがめちゃくちゃ複雑な魔法陣でひとまとめにしていた。



「ああああ……どうして俺はこう、肝心なところで……!」



 頽れていると、ヴィデロさんとヴィルさんが走り寄って来た。

 死に戻りの復活って、タイムラグが少ないと思ったけど、こうしてみると結構経ってるよね!

 5分くらいはかかるよね!

 ユイも雄太たちに囲まれて、残念だったねとか言われている。



「マック! 大丈夫か! 痛いところは? おかしなところはないか?」



 ヴィデロさんがおニューの俺のアバターをつぶさに観察しながら怪我の有無を確かめている。復活すると全て元通りになるから大丈夫だよ。



「ヴィデロ、アバターなんだからそこまで慌てることないだろ」

「え、あ……ああ。そうだな」



 ヴィルさんに嗜められて、ヴィデロさんはハッとしたように俺の身体を確かめる手を止めた。

 そうこうしている間にも、クリアオーブはどこかに消えていた。



「終わったな」

「ええ。ようやく終わり」

「長かったな。ここまで来るの」

「今度こそ本当に終わりよね」



 消えていったクリアオーブの浮いていた場所に視線を向けながら、4人が感慨深げに呟いている。

 これは、邪魔しちゃダメなやつだよね。

 クラッシュも雄太たちもそれはわかってるみたいで、皆遠くから4人を見守っている。



「戻ろうか。トレに。もう魔王は出てこないでしょ」

「そうだな」

「マック、ヴィデロ、あの4人の邪魔にならないように、帰ろう」

「俺が連れてくよ。俺も、あの人たちの中にはちょっと行けないし。家で待ってるよ。皆を」



 クラッシュとヴィルさんが並んで俺たちを手招きする。

 辺境組もユイがまとめて連れ帰るらしい。

 そうだね。きっと俺たちは部外者だよね。

 俺たちはクラッシュの手を取って、ちらりと4人に視線を向けてから、トレに跳んだ。







 なぜか俺の工房で落ち着いた3人にお茶を振舞う。

 濃厚な聖水茶は、身体の中に溜まった悪い魔素を浄化してくれるかのようにすっきりとした味わいで、染み込んでいった。

 飲まず食わずで戦ってたからなあ。

 あっという間だったけど、時間にすると結構長かったんだよな、戦闘時間。

 普通のラスボスならそこまで時間はかからないはずなのに。数時間あの緊迫した中で戦ってたなんてなんとなく夢だったんじゃないかって気になってくる。



「魔王の最後ってどうだった? ドロップ品とか出た?」



 横に座るヴィデロさんにそんな質問を投げかけると、ヴィデロさんはスッと目を細めてから、俺の頭を引き寄せて額にキスをした。



「やっぱり死に戻りはダメだ。心臓に悪い」

「うん。ごめんね。油断してた」

「俺も咄嗟に反応できなかったから守り切れなかった。ごめんな」

「ヴィデロさんは前衛でしょ」

「それでもだ」

「うん。まず俺のレベルが低いからだよ。でもヴィデロさんはレベル凄いね。カンスト……」



 してるんだね、と付け加えようとして、ふと気付く。

 パーティー欄のレベル、ヴィデロさんがLv302になってた。



「え……カンストって、300じゃなかったんだ……」



 呟くと、ヴィルさんが吹き出した。



「ああ、ログインした時のレベルが300だったからな。あれは300相当の強さがあったと判断されたんだろ。正直レベルが1からだったら連れて行く気はなかったが、やはり母の言っていたことは正しかったみたいだな。こちらの経験が全て反映されるというのは」



 見ると、ヴィルさんも数レベル上がっていた。俺はドロップ品だけじゃなくて経験値まで逃してしまっていたってことか。

 悔しいな、と思って顔を上げると、そこには心配そうなヴィデロさんの顔があった。

 久しくこんな近くでゆっくりと見たことがなかった顔が。



 その顔を見ると、ドロップ品とか経験値とかどうでもよくなってくる。

 それよりも何よりも、ここにヴィデロさんがいる。



「……ヴィデロさん」

「どうした、マック」



 俺の呼びかけにすぐさま答えてくれるヴィデロさんに胸がじんわりする。



「おかえり……っていうのは変か。ええと、いらっしゃい、なのかな? それとも」

「おかえりがいい」



 そう言って俺に腕を伸ばすヴィデロさんに、嬉しくなる。

 さっき工房の前でフレンド登録した時も感じたこのじんわりした何かは、とても複雑で、この感情を言葉にして表すことはとても難しかった。

 目の前にヴィルさんとクラッシュがいるのも忘れて、俺はヴィデロさんに抱き着いた。

 なんだか気持ちが複雑すぎて泣きたくなる。



「おかえりなさい。無事でよかった」

「ああ。マックも、元気そうでよかった」



 頭の上にキスが降ってくる。元気だよ。今はすごく。だってヴィデロさんがいるから。



 



 
しおりを挟む
感想 537

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。